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    エシェル

    @tiyuri8

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    エシェル

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    ヤス視点 酔っ払いロムに絡まれてるヤス
    後日ちょっと気にするし社会人は記憶なくす

    ##ヤスハチ

    酔っ払いの戯言でも気にする 左側から漂う酒臭さに一瞬顔を歪める。酒呑みに肩を組まれて絡まれるなんざ初めてだった。
    「──お前らのライブも見る度に良くなってるがなぁ、俺らは──」
     ロッカー主催のフェスの打ち上げ。参加者が大人だらけなこともあって場所は居酒屋。広い座敷部屋は酒の匂いが軽く充満していた。最初は全員正気を保っていたが、宴もたけなわになってくると大人の何人かは完全に酒に染まっていた。
     さっきから腕を回して延々と先輩バンドとしてリアルワイルド社会人としてのアドバイスやらなんやらをべろべろの状態で語りかけてくるのはロムだ。振り払おうにも力が強い。正面のヤイバに助けを求めたが諦めろの一言だけ。筋肉が暑い。地味に胸筋が当たって気になる。
    「──だけどな、お前はそこんとこはどうなんだ。」
    「え?」
     ちょっと聞いてなかった。
     最初はちゃんと耳を傾けてはいたが居酒屋にしては美味い唐揚げを食ってたせいで聞き流していた。だから、とロムが妙にキメ顔で言い直す。
    「お前にもいんだろ?自分の事だけ追っかけてくれて人生捧げてくれそうな可愛いヤツがよ……」
    「……はぁ!?」
     アラサーの社会人のおっさんと言ってはダメだが離れた歳上に唐突に恋バナを振られるとは思ってもみなくて声がひっくり返った。
     ぱっと言われた途端に思い浮かんだのが何故か喧しい幼なじみの存在だったのも含めて。
    「照れんな照れんな……で、いんだろ?」
    「まぁ……」
    「常にキラッキラした目で見てくれて、ずっと自分の事好きでいてくれると思うだろ?」
    「…………あぁ」
    「いい事だぜ、今日のライブでよく分かった!でもな」
     俺の反応にからかうようにからりと笑った後、唐突にフッとロムが声を落とした。
    「そいつがいつまでも自分を好きでいてくれるとは思い込まねぇ事だ」
    「えっ」
    「ねぇと思うだろ?でもな、あんまり冷たい態度が続くとある日唐突ににそいつは思うんだ。『あれ?なんでこんなやつの事こんな追っかけてるんだ?』ってな……」
    「はぁ」
    「100年の恋も冷める瞬間だ。それが早まるか遅まるか、そもそも冷めさせないかはヤス、お前次第なんだ。想像してみろ、そいつが急に目の前に現れなくなる。」
     そう言われて何となく、ハッチンが急に俺の歌に興味を示さなくなって、一切俺の事を追わなくなった事を思い浮かべてみる。
     …………想像できない。
     多分その時になったらなんだかんだショックを受けるだろうな、というのはわかる。
    「いいか、自分が思ってる69倍……いや、6900倍はキツイぞ」
    「……経験があんのか?」
    「ある……キラッキラに寝取……ぶんどられた事が……!」
     辛いことを思い出したのかぐぅとロムが強く拳を握った。そしてそれを流すように一気にコップに残っていた酒を呷るとそれを机に強く置いた。
    「はっ……それで、ヤスはそいつにちゃんとレスを返してるか?」
    「レス?」
     SNSだろうか。そういえば昨日の夜もうるさくてブロックした。
    「……してねぇ」
    「そこだ!それがダメだ!一切レスを返さない、向こうは段々期待をしなくなる、それで去っていく」
    「でも、たまに返してるし」
    「たまにじゃダメだ。たまに返さないなら駆け引きのスパイスにもなりうるが、たまにだけ返すだと相手は近いうちに愛想を尽かす……自分勝手なんだぜ、愛してくれる奴ってのは」
    「そんな」
    「クールキャラだろうが冷たいヤツにはなるんじゃねぇぞ。離れて欲しくなかったらな!」
     離れた席でファー!!と騒いでいる声についビクッと体を揺らす。最近は時々冷たくしすぎたかと思う時があるが、このままじゃやっぱりあいつも愛想を尽かす日が来るのだろうか。考えられない。
    「愛には愛を返すんだ!同じだけの愛をな!お前もそう思うだろ!」
    「ヤスいた!……ファ?何の話?」
    「なぁハッチン!」
    「ファ!?」
     いつの間にこっちに来たのか、とたとたとコップ片手に寄ってきたハッチンが絡まれた。話していた内容が内容なせいでなんて答えればいいか、戸惑う。顔を真っ赤にして酔っ払っているロムはついに愛がどうだとかを言い出した。困惑しているハッチンが何?と聞きたげに俺を見てくるが俺もなんて言えばいいか分からない。
     カオス。
     故に、と助け舟を出したのは俺らの会話を面白がるように聞いていたヤイバだった。
    「ファンサの話だ。ヤスのファンへのレスがたどたどしいらしくてな」
    「ファー……そういやバーンとか苦手だもんな!オレが練習台になってもいいぜ!……ヤス?」
    「……はぁぁ!?」
    「ファ?」
    「ん?」
     思わず大きく声がひっくり返った。いつの間にかロムは違うやつに絡みに行ってるしハッチンとヤイバは首を傾げていた。
    「ファンの話……?」
    「そうであろう?にしてもヤスにも熱心なファンがいるのだな。大事にするといい、ロムではないが故に!」
    「はぁ……ファンの話……」
    「?ヤス?」
     短時間で酷くどっと疲れて隣に座ったハッチンの肩に手を置いた。俺想いである意味ファン第一号。愛には愛を。
    「……唐揚げ食うか?」
    「食う!」
     ぱっと笑って唐揚げを頬張ったハッチンを横目に、もう一度大きくため息をついた。
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