そういうとこだぞお前「お前俺の事本っ当に好きだよな」
「……ファ?何いってんだ?」
呆れ半分、からかい半分で、なんなら赤面でもしやがれと軽い気持ちで言い放った言葉は予想外の形で返ってきた。
ウッソだろお前。自覚ねぇだけか?それとも本気か?
首傾げて素直に何言ってんだこいつみたいな顔をしている事に動揺したのは俺の方だった。
「いや俺の事好きだろお前」
「ファー?ファッ友情的なやつ?」
「うぜぇ違ぇよ友達じゃねぇし!そうじゃなくて!」
「んでだよ友達だろ!?それ以外にねーだろ!」
「あるだろ!」
「ファ?」
「あ?……もう一度聞くけどよ、俺の事好きだろお前は」
「別に……そーいうんじゃねーし、ヤスは……」
昼休みの屋上。チャイムが鳴った途端に俺の元に駆け込んでくる癖にこいつ俺の事がそういう意味で別に好きじゃないとか言いやがった。
せめて赤面しながらとかあからさまに動揺すればいいものを、一切、これっぽっちも顔色を変えないもんだから本気も本気で言っている。
お前が俺の事好きじゃなかったら誰を俺以上に好きになれんだよ!?
ガツンと頭と心の柔らかい所を殴られたような衝撃。ぶっちゃけショックを受けた事にショックを受けている。
考えても見ろ、俺の事が心底大好きなんだろうと感じられる程に執着されて。その事が実はそこまで満更でもなかったとして。なのにそいつに別に好きじゃねーとか言われて。
どうしよう。激しく唸る動悸を落ち着かせるために頭でもっかい整理していたら胃がムカムカしてきた。
つまり俺は俺が思っていた以上にこいつに愛着と愛情が湧きまくっていたらしい。多分恋と言っていい。
振られると同時に自覚するとは情けないことこの上ないが。
「お前、それは、ねぇだろ……」
何とか捻り出せた言葉は、それだけだった。
その後、気分が悪いねむい暑いと言ってハッチンをほっぽって保健室に来た。
ジョウ専用スペースと貸している隅っこのベットの傍らに座り込む。突然来るなりベットサイドに座ってベットに頭を突っ伏した俺にジョウが困っているのがひしひしと後頭部に感じる。
それでもしょっちゅうサボりに来る俺らに慣れているせいか、軽くため息をついてジョウが身を起こした。
「で?急にどうしたんだよ」
「……ハッチンが」
「おう」
「俺の事別に好きじゃねぇって」
「……お、おう」
「ぜってぇ俺の事好きな癖になんでだと思う」
「どうした、お前そんなハッチンのこと好きだったか」
「俺の事好きな奴がずっと傍にいたら好きになんだろ……」
絆されたんだな……と呟くジョウに、そうか俺は絆されたのかと頷く。
一日中まとわりついてきて、ライバルだ何だ言ってきて。俺の歌が歌っている姿が世界一かっけぇとかそのせいでギター本気でやってるとか言っといて!その上俺と目が合う度に心底嬉しそうにはにかんで、熱の篭った視線を送ってくるくせに!
今更好きじゃないとか勝手すぎないか。
「俺も、あいつのギターとか、歌とか、悪くねぇと思うし。だって、ハッチンが俺以外の奴とって、想像できねぇだろ。」
したくもない。
「なんつーか……意外とちゃんとハッチンのこと好きなんだなヤス……」
「意外ってなんだよ」
「だって普段ハッチンにすげぇ冷たくあしらってるしよ。ハッチンもヤスに好かれてるとか本気で思ってねぇんじゃねぇの?」
「…………あ?」
「……えっ?無自覚?」
「…………」
「オレが言えたことじゃねぇけど、そういうとこじゃねぇのか……?」
そういうとこだったらしい。ジョウが言うには好意を素直に出した方がいいと。
不器用なりにがんばれよ、と慰めてんのか励ましてんのかよくわかんねぇ言葉を背にもっかい大きなため息をついて布団に顔を沈めた。
「ヤスがさぁ、最近優しくなったと思わねー?」
「そうか?」
保健室。ジョウんとこにいつものようにサボりに来て、最近ちょっとだけ変なヤスの事をだべっていた。
「ここ一週間ぐらいだけど……殴る回数減ったし、返事してくれるし、ハチミツ食ってくれたし」
「優しいのハードル低いな」
「ちょっとな、ちょっと優しくなったんだよ!」
ただそのちょっとの変化がやけに嬉しくてつい話しながら頬が緩む。
ふぅん、とオレの話を聞いていたジョウが突然何故か不可解そうに首を傾げた。
「お前本当にヤスの事好きじゃねぇのか?」
「ファ?好きって?」
「恋愛感情的に」
「ファ〜……や、そーゆーんじゃねーかな」
ヤスの事は好きだ。それこそ、ずっと一緒に居たいぐらいには。
でも多分恋愛感情とは違うと思う。たぶん。
オレの返事が意外だったのか目を丸くするジョウにだってよ、と思いつく限りの理由を並べる。
「そーゆー好きって、守りたいとかかわいいとか思って、心臓がドキドキすんだろ?なった事ねぇけど」
「まぁ、よく聞くのはな」
「オレ、ヤスにそう思わねーもん。ヤスはかっけーし、強いし。ヤスの歌とかには興奮すっけど、いつも一緒に居る時はすげー落ち着くし。だからちげーと思うんだよ」
な?と言い切ると、ジョウが眉間に皺を寄せてと言いにくそうに声を出した。
「あ〜……例えば、ハッチンはヤスに好きなやつが出来たらどう思う?」
「どうって……ヤスが選んだ奴なら……や、オレから見てダメな奴は反対するけど……あんま嬉しくはねーかな……」
ヤスが可愛い女子と一緒に居るのを思い浮かべてちょっといらっとする。ヤスが先に彼女作ったら嫌だな、とちょっとみっともなく思う。
「……ハッチンはヤスのことをそういう意味では好きじゃねぇんだよな?」
「ファッ」
「じゃあ普通に友情的にはどうなんだよ?」
「一番好きだぜ?」
それはハッキリと胸を張って言えた。オレ以上にヤスが好きな奴なんてヤスの母ちゃん以外に居ないと思う。
「オレとヤスは一生友達でライバルでバンドメンバーだかんな!」
フン、と自慢するように触角と胸をはると何故かジョウは大きなため息をついて項垂れてしまった。
「ファ?どうしたんだ?」
「それは……よくねぇと思うぜ……ヤスが不憫に思えてきた」
「ファ〜?」
「お前ら二人とも不器用っつーか、恋愛一生赤点みてぇなやつっつーか……」
「どういう意味だよ!?」
「ハッチンは一回もう全部ヤスに話した方がいい……それが一番手っ取り早いと思うぜオレは」
「ファッ!?だから何がだよ!」
「とりあえず今言ったこと全部ヤスに話せ、オレは寝る……あー盛大な惚気だったな……」
「意味わかんねーって!ジョウ!?」
不貞腐れるように布団を被ってしまったジョウは返事もくれず揺すっても無視だった。こういう時のジョウは大体面倒臭くなって投げやりになっているから暫くは無視される。
「なんなんだよ……」
よくわかんないまま放置されてると、昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた。一応、ジョウの言ったように言ってみるべきなのか?と胸にしまったまま、じゃあな!とヤスの教室に向かうべく保健室を後にした。