この日のかわいいあなたは十歳くらいの頃から見た目の成長が格段に遅くなったし、身長は全く伸びなくなったのだが、水木さんはそれまでと変わらず誕生日を祝ってくれた。ばらばらに暮らすようになってからもその日は一緒に食事をして、誕生日を祝った。それから何がほしい?と聞く。
二十歳の誕生日には意を決していちばん欲しいものを伝えてみた。
「水木さんから大人のキスがほしいです」
あっけに取られた水木さんは無表情になり、卓の上の煙草を手に取った。一本吸い、二本吸う。吸っている煙草が短くなると、次の一本を箱から取り出し、煙草で机を軽く叩いてリズムを取った。考えごとをしている時の癖だ。トントントトン。
こんなに答えあぐねているってことはやっぱり駄目なんだろうか。好きだと伝えたことはあるけれど、当たり前に冗談だと思われた。そこで食い下がるような性格ではない自分が残念だったし、いまだに少し後悔している。果たして気持ちは伝わったんだろうか。
1939