この穴がいちばんくちゅくちゅにゅるちゅるぴちゅくちゅぴちゅくちゅん……ふはっ。
息継ぎの音と同時になまぬるい吐息が濡れた肌をなぞった。我慢していたつもりなのにうなじが大きく揺れる。同時に肩を掴む指が強まった。痛えよ馬鹿力。うなじくらいで興奮してんじゃねえ。
ぴちゅ……くちゅにゅるにゅるちゅるくちゅにゅる。
文句を言う隙もなく、鬼太郎は耳舐めを再開した。あいかわらず俺の肩を掴む指は圧が強く痛かったが、口を開くと変な声が出そうなので何も言えなかった。耳を這う舌は滑らかで、正直ちょっと気持ちがいい。体にある先端は、どこを舐めてもらっても気持ちいいらしいとは聞いていたが、本当だったようだ。こんなところを舐めるのはこいつが初めてだから少し前に身をもって知った。知りたくなかった、というのは勿体無い。思いがけない快感に驚いてはいる。簡単に虜になった自分にも。
ねろねろぬるぬるねろめろり。
いや、こいつの長い舌が悪いのかもしれない。ふつうの人間の短い舌じゃ、巻きつくようなねっとりとした感触は感じられないのかも。
ぬる。ぬるぬるくるくるくるくるくるん。
鬼太郎が俺の耳の窪みを舌先で探り出した。こいつをの腕を強く掴む自分が恥ずかしい。踏ん張らないと腰が砕けそうだ。こんなにも官能を刺激されてるなんて気づかれたくない。真っ直ぐ背を伸ばしていたいのに、気がつけば若い身体に半分寄りかかっている。鼻息も荒い気がするが、鬼太郎の方がもっと凄い。うなじにかかる鬼太郎の鼻息があたたかい。気持ちいい。なんでも刺激になるからもうやめてくれ。そこはだめだ。傷痕はだめだ。そこは本当にだめなんだ。
「……………っっぁ!」
脚も腰も背中も全部、力が入らない。下着の中も汚している気がする。どうしようもなく丸まっていく自分の背中を抱え、鬼太郎は耳の傷痕に唇を落とした。敏感になった身体が足先から耳の先まで一斉に震えた。ピリリ。
「僕は水木さんの中でこの穴がいちばん好きです」
コソコソと吹き込む声がこそばゆく気持ちよく。また身体が反応する。ピク、ピクリ。
「水木さんにしかない穴だし」
力の入らない腰に鬼太郎が腕をそえた。と思うと、足下が軽くなった。抱え上げられたんだろう。そういえば、かなり前から目蓋を閉じていたから周りのことが分からない。無意識のうちに快感に夢中になっていたことに恥じる。もう恥ずかしくて目が開けられない。
「生まれた時からずっとそばで見ていた穴だし」
ちゅ。
またそこに触れた唇が気持ちよくて、鬼太郎の首にかけた腕に力を込めた。若い幽霊族の男の首は、かたくて湿ってあたたかい。
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昔は顔を洗うのが嫌いだった。左肩の傷痕を見るのも、耳の欠けた部分を見るのも、醜くてつまらないと思っていた。時々、南方時代の夢を見るのも嫌だった。傷が無くなれば、もう夢を見ないのでは、と八つ当たりのように傷を恨んだ。
のに。
こいつにとっては生まれた時からそばにある良いものだった。そして、俺にとっても意味は変わった。もちろん、良い方にだ。