電話プルルル。
携帯端末から呼出音が流れる。
何度目かの呼出音の後に、ガチャッと切り替わったのは留守番電話だった。
(また今日も残業でもしてるのか?)
仕方がない。また少し時間をずらして掛け直そう。
そう思った矢先、今度はこちらの携帯端末から着信音が響く。
確認すると先程掛けた相手、キラからだった。
「もしもし」
『あ、アスラン。ごめんね、電話出れなくて』
「いや、大丈夫だ。それよりもまだ仕事してるのか?」
時計を見ると既に21時を超え、22時になりそうな時間だった。
『うん、でもちょうど一区切り付いたからそろそろ休もうかなって思ってたんだよ?』
「本当か?どうせ集中し過ぎて時間を忘れてたんじゃないのか?」
『うっ!ま、まぁ、いいじゃない。それよりもどうしたの?何か急な用事でも入った?』
「仕事の件じゃない。⋯キラ、今から会えないか?」
『えっ?今から?別にいいけど⋯シャワー浴びたいし、会うのもっと遅くなると思うよ?』
「いや、大丈夫だ。そろそろ到着する。シャワーは後で入ったらいいだろ?」
話しながらキラが今いるであろう一室のドアのコールを押す。
『えっ?』
短い言葉でキラが声を出したかと思ったら、バタバタと音が聞こえる。
電話越しではなく、目の前の扉のロックが解除された。
シュンっと音が聞こえ、扉が開くとキラが端末を耳に当てたまま驚いた顔をしていた。
「⋯アスラン⋯?どうして」
「お前を驚かそうと思って。⋯無理してないか?」
ピッと端末のボタンを押し、電話を終了させる。
目の前に電話相手がいるのだからもう必要なかった。
キラは呆然と耳元でプープーと音を立てている端末を持ったまま立ち竦んでいた。
まさかアスランがここへ来るなんて思っても無かったのだろう。
「お前ちゃんと寝てるか?目のした隈が出来てるぞ」
「う、え⋯あ、いや、えーと」
プープーと鳴り続ける端末のボタンを押し、キラはようやく電話を下ろす。
バツが悪いのか、目線は右上に泳いでいく。
直接会うのが久し振りで、ここ最近は電話か文章でのやり取りだった為キラの顔を見るのは久し振りだったから、尚のことキラの顔色の悪さが目につく。
「はぁー、とにかく簡単な食事を取って寝ろ」
言いながらアスランは勝手知ったるキラの自室へ入る。
「ちょ、アスラン!」
「時間も時間だからな、とりあえずこれ食べて。食べたらシャワー浴びて寝る!」
「⋯分かったよ…で?アスランは今日泊まるの?」
「あぁ、はじめからそのつもりで来た」
ガサガサと予め用意していたサンドイッチと飲み物を机の上に出しながら答える。
「もう。事前に分かってたら早く仕事切りあげてたのに」
ぶつぶつと文句を言いながら、用意された食事を食べるために椅子に座るキラ。
「どうせお前が無理するって分かってるからな。今日は抜き打ちで来たんだ」
「むぅー、分かったよ、僕の負けだよ。本当アスランはいつもいいタイミングで来るんだから」
「そろそろ会いたい頃だと思ってたよ」
キラの考えていた事を当ててやると、益々キラは頬を膨らませた。
怒っている訳ではなく、恥ずかしいのか薄ら頬が赤くなっていた。
「もう!本当になんで分かるの!?」
「何年お前と付き合ってると思ってるんだ?お前の事は大体分かるよ」
「うー⋯じゃあ、今僕が欲しい物、分かる?」
「⋯お前な、煽ってもいい事にならないぞ?」
「アスランだって欲しいって思ってる癖に」
キラの挑発にため息を吐く。
本当ならちゃんと休ませるつもりだったが期待に答えるしか無いだろう。
「分かった。その代わり後で泣き言を言うなよ?俺だってそうまで煽られたら手加減しないからな?」
「えっ!ちょ、」
「もう遅い。早くそれ食べて一緒にシャワーだな」
「えー」
「今日寝れない覚悟しとけよ?あと明日、お前休暇になってるから」
キラが逃げれないように逃げ道を塞ぐ。
キラは自分が煽った事を自覚していた為頭を抱えた。
さて、キラが寝るのが先か、気を失うのが先か。
楽しみだな。
続かない