一万一回目の正直三ツ谷はグラスについた赤いルージュを親指でさりげなく拭い、上目遣いでそっと正面の相手を見た。時刻は二十三時。僅かに白く濁った窓の向こうでは、雲がどんよりと月を覆い隠す。二十を幾許か過ぎた男女が別れ話をするにはうってつけの夜分だった。
『君ってひとりでも生きていけるよね』
なんて、言われて振られたのが数分前。
どうしても付き合って欲しい、君の気持ちが僕に向いていなくたっていい。土下座までされて情に絆されるかたちで付き合ったのが三ヶ月前だ。
煌びやかなネオンが飾る夜空とは裏腹に、三ツ谷の心には暗雲がたちこめていた。やさぐれて溜め息をついてみたり、さめざめと涙を流したり。なんてしても世界は変わらないので、平静を装い――きれずに唇の先をちょんと尖らせ――ながら、ふらふらと宛もなく歩いていた。
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