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    Asahikawa_kamo

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    Asahikawa_kamo

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    ##rf百物語

    第一本目 剣持刀也 「猫屋敷」 ──昔、まだ僕が小さかった頃の話なんですが、近所に「猫屋敷」って呼ばれている家があったんですよ。古い平屋みたいな外装で、台風が来たら根こそぎ飛んでいきそそうなほどのものだったんですね。僕が物心つく前からそこにあって、前を通るとひどい獣臭がすごくて。飼ってるとも言い難そうな野良猫たちの住処と化しているような、そんな家でした。
     勿論その家は空き家とかじゃなくて、一人のおばあさんが住んでいましたね。僕は……というか、僕の身内を含め近所の人皆あんまり交流とかない人で、家から出ているところも見たことなんてなくて。ただ時々、家の前を通る時玄関の扉が開け放たれていて、真っ直ぐ居間っぽいところにおばあさんらしき背格好の人が、曲がった腰を更に曲げるように座っているのを見たことがありました。周りにはたくさんの猫が居て、文字通り猫屋敷と言われるような雰囲気だったなと憶えています。
     それが……いつだったかな。僕が小学校に上がる前か後か、そんな頃だったと思うんですが、近所で小火騒ぎがあったんです。やんちゃしている高校生どもが人気のない駐車場で煙草を吸っていたらしくて、その後始末が不十分だったことが起因した小火でした。ただその時は深夜だったのと煙が大きく立ち昇ったのもあって、結構大事になったらしいんですけど。その時、僕の兄が母と一緒に近所を少し見て回ったそうで、その時ふと「あれ?」と思うことがあったそうで。
     件の猫屋敷の、いつもは日中時々にしか開いてない玄関扉が開いていたらしいんですよ。もしかしておばあさんも心配になって出てきたんだろうかって思って中をちらっと覗いた兄は、うわ、と声にもならない悲鳴をあげそうになったんだと。
     そこには、玄関から真っ直ぐ見える居間の中、鳴くこともなくただ静かに玄関外を見つめている沢山の猫たちと、その中でいつものように微動だにせず此方へ背を向け座っているおばあさんの姿が、あったそうです。
     流石に異様な雰囲気を感じ取った兄は、それでも一人暮らしらしいおばあさんの自宅の玄関がこんな真夜中に開いているのは不用心だと思い至ったそうで、一緒に行動していた母に声をかけたそうなんですが。母は兄の訴えに怪訝な顔をして、それから視線を猫屋敷の方へと向けて言ったそうです。

    「何言ってるのあんた? よく見なさいよ。玄関、閉まってるじゃない」

     兄ははっと玄関へと視線を向けましたが、つい一瞬前まで開いていたはずの玄関扉は始めから開いていなかったようにぴったりと閉まっていたようで。兄は深夜に眠気眼で外に出てしまったが故に、夢でも見たんじゃないかと終ぞ今の今まで思っていたそうですが。
     けれど自宅に戻るその去り際、ふと猫屋敷を振り返った兄が見た時、玄関横にあった鉄格子つきの窓の中から此方を見ていた無数の猫の目は、十数年経った今でも忘れることが出来ないそうです。

     現在は既にその家はもうなくなっていて、僕が中学に上がる頃には知らぬ間に撤去されていました。おばあさんが亡くなったからだ、または施設に預けられることになったからだ、なんてまことしやかに色んな噂が流れてはいますが、交流が無かった人なんで実際のところは本人のみぞ知る、なんでしょうけども。
     あの「猫屋敷」も今ではアスファルトで綺麗に舗装された駐車場になっていて、すぐ隣に出来た新しいアパート用として使われていますね。勿論、あんなに沢山居た野良猫たちもすっかり姿を消してしまっています。
     だけど、未だに。あの駐車場は、敷地内や前を通るとあの強い獣臭がいつも匂うんですよね。……もう、野良猫一匹たりとも、いないっていうのに。



     ────第一本目 剣持刀也 「猫屋敷」
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    Asahikawa_kamo

    DONE
    第四本目 加賀美ハヤト 「ホテルの最上階」 昔、まだライバーになる前の話をひとつ、話させてください。
     仕事の出張の折に、とある地方のビジネスホテルへ滞在したことがありまして。一泊二日程度の短いものだったんですが、いかんせん地方ということもあってホテルが少なかったようで、少し駅から離れたところに取っていただいたんですね。総務の方がせめてと最上階の部屋を抑えてくださって、チェックインしてエレベーターを降りると部屋が一部屋しかなかったんです。
     実際広くて綺麗ないいホテルでしたよ。眺めも良くて、よく手入れが行き届いているなと感じました。……ただ、少し不自然なところがいくつかありまして。
     まずひとつすぐに思ったのは、廊下の広さと部屋の広がり方がおかしいと感じたんです。私が当時泊まった部屋はエレベーターを出て真横に伸びた廊下の右突き当たりにありました。部屋の扉を開くと目の前に部屋があるわけですが、扉がある壁が扉に対して平行に伸びてるんですよね。四角形の面にある、と言えばいいでしょうか。扉の横の空間がへこんでいて、そこにまた部屋があるなら構造上理解出来るんですが、最上階はテラスなどもなかったので、不思議な形をしているなと思ったんです。
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