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    yuno_tofu

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    yuno_tofu

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    アヤの名前事情の話。内容自体は正直最後の会話だけで良いと思う。
    (突然ブラックな過去が垣間見えたり謎登場人物がいたりちょっと余計な情報も混ざってます…)

    名前「名前は?」

    誰かと出会ったのならば大抵の場合されるであろう、質問。
    それがなんとなく苦手…いや、辛い訳では無いのだがどうしても名乗るまでに一呼吸置いてしまう、もしくはただ「綾月です」とだけ答えるようになって、もう5年程だろうか。

    『ね、貴女は?お名前…なんて言うの?』

    あの日、訳も分からぬまま世界から弾き出されて辿り着いた果てなき真っ白な空間で少女にそう尋ねられ、私はすぐに答えられなかった。
    それは別に緊張していただとか警戒していたとかそういう理由ではなくて、純粋に「自分の名前だけが思い出せなかった」から。
    けれどその時の心が死んでしまっていた私はそんな異常事態に焦ることも出来ず、ただ「聞かれたから答えないと」と思って咄嗟に思いついた名前を口にした。

    綾月あやつき…ゆの、です』

    今思えば何を思ってそんな名前にしたのかと自分を笑いたくなる。だって、普通は自分の嫌いな物を名前になんてしないだろう。つまり、私は普通じゃないらしい。

    苗字は、私の誕生月の異名からだった。
    生まれたくなんて無かったのに。

    名前は、親友の命月を象徴する女神の名前からだった。
    私が全てを失ったあの日の。

    もしかしたら「この恨みだけは忘れたくない」とかそんなことを思ったのかもしれない。もしくは、自分=嫌い=…なんて方程式が成り立ったのかもしれない。
    それはもう今となってはよく覚えていないから分からないけれど、とにかく私は自分も自分の名前も嫌いだった。新しい物も、覚えてすらない元の物も。

    ─けれど、皮肉にも私に出来た新しい友達の名前は私と同じだった。

    結ぶ望みと書いて「結望ゆの」。
    彼女はその名の通り人々に希望を齎し照らしてくれるような明るい子。沢山の人に好かれ、愛される、優しい子。
    ともなれば当然私は自身に付けた「ゆの」の名前に複雑な感情を抱くことになった。

    この名前は大嫌いな女神の名前ではあるけれど、大好きな友達の名前でもある。なんなら女神様だって八つ当たりされているだけの被害者だ。私の守りたかった人が…親友が、私の目の前で自ら命を絶ったのは、私のせいであって居るかも分からない女神様のせいではない。
    だから、疎むことが出来ない。

    けれど同時に「この名前は結望ちゃんにこそ相応しい物であって、私には眩しすぎる」なんてことも思った。

    『…ほら、私もここに住むなら同じ名前はややこしいでしょ?』

    色々あって居候することになった時、私は心配そうな顔をする結望ちゃんにそんなことを言ってから、村の人達に「綾月とお呼び下さい」と頼んだ。
    他に出来た新しい友達や弟になってくれた「彼」には「ゆの」と呼んで貰っていたけれど、それも「彼」を失ったことをきっかけに「やっぱり私にこの名前は」なんて思って友達に呼ばないよう頼んだどころか、一度「その名前で呼ばないでっ!」なんて泣きながら怒鳴ってしまった。

    そうして私は2年程、好きでもない苗字を名乗り続けた。
    いや、一時期は「彼」の名前の一部を組み込んだ名前…「ノア」とも名乗った。どちらにせよ、どれも「私の名前」とは思えなかった。

    だから新しく出会った人…リアに、「いつも白い布の面を付けてるから」なんて理由で「白面」と呼ばれても特になんとも思わなかったし、「彼」の面影を持つハウルに「ノア」と呼ばれる度に心を刺す痛みも「私には当然の報いだ」と耐え続けていた。
    …これからもずっと、そうだと思っていた。

    『本名は綾月ゆの…です。とは言っても両方自分で付けた名前ですが…』

    『ふーん…。じゃぁ…アヤ、か』

    『……え?…渾名?』

    『そ。不満か?』

    出会って4ヶ月程経ってから初めてリアに名前を明かした後、リアはそう言って私に「文句あんのか」とでも言いたげなジト目を向けた。けれど私はそれどころじゃなくて、ただ溢れそうな涙を抑えるのに必死だった。

    リアは面倒臭がりだし、人の名前を覚えるのが苦手。
    だから「ハウル」も略して「ハル」と呼ぶし、「アヤ」だって「綾月」をただ略しただけだ。それは分かってる。
    でも、それでも私にとっては「初めて名前を貰った」という感覚がして、どうしようもなく嬉しかった。

    それからは気づけば結望ちゃんもハウルも私を「アヤ」と呼んでくれるようになったし、みんなのお陰で3年経つ頃には誕生日嫌いもだいぶ克服された。「ゆの」と呼ばれることにむず痒さや「私の名前じゃない」という感覚はまだあるけれど、事情を話しても呼び方を変えてくれなかった師匠のお陰(せい)で慣れたというか、少し諦めがついた。
    それでもやっぱり「アヤ」と呼ばれる方が慣れているし、何より私を名前で呼び続けた何人か以外に「ゆの」と呼ばれても「結望ちゃんのことを呼んでいる」と誤解してしまうから、自己紹介の時はやっぱり「綾月」とだけ名乗ることが多いのだけれど。



    「ねぇアヤちゃん。どうして村の外の人にも苗字しか名乗らないの?」

    「え、だって私「ゆの」なんて呼ばれても反応出来ませんよ?例外はまぁ…いるけど」

    「な、なんだかごめんね?」

    「結望ちゃんは悪くないです。というか、アヤと呼ばれるの好きですから」

    「じゃぁ「アヤって呼んで下さい!」て付け加えた方が良いんじゃない?」

    「…初対面でいきなり渾名呼びをお願い出来るほど私にコミュ力あると思う?」

    「こみゅ、力…?」

    「……私が人見知りってこと」

    「…なるほど!」

    「うーん、良い返事」

    そう言うと結望ちゃんは「えへへ」と笑った。
    勿論私は人見知りなことをとても良い笑顔で納得されて苦笑いするしかない状況なのだけれど、まぁこの天真爛漫さ…あと天然ぷりが結望ちゃんの可愛くて大好きな所だから良いってことにしておこう。
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