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    yuno_tofu

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    yuno_tofu

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    寝れないハルさんのお留守番

    「2日ほど用事で城を空けることになった」

    「え。ふつ、か……」

    最初、アッシュからそう聞いた時には少し驚いただけで、本当に大きな不安なんかは無かった。

    アッシュに拾われて、早2週間。
    慣れない環境にも慣れない距離感にも、ある程度は慣れてきたどころか既に心地良さもあって、つくづく自分の順応性の高さ……もしくは能天気さに苦笑いをする。
    次第に甘えることに対する焦りなんかも減って来て、とことん自分は甘えたで、そして孤独が耐えられない事を自覚した。

    「(1人でご飯食べるの……久しぶりだな)」

    そう、自覚してしまった。
    父さんが亡くなる前から父子家庭として哀れまれ続け人には甘えられず、とにかくしっかりしなければと必死だった。父さんを亡くしてからは、尚更同情の目が耐えられず必死に生きていた。それが今では、温かさと受け入れられた安心感で……すっかり歩みを遅めてしまった。ずっと、孤独から逃げ続けていたのに。

    「……明日には、帰ってくるし」

    1人切りの部屋で、小さく呟く。
    大丈夫、アッシュは明日帰ってくる。だから何も問題は無い。それは、分かっている。
    けれど時間が経てば経つほど、いつもの声と温かさがしないだけで妙に落ち着かなかった。──まるで昔に戻ったかのようで。

    「っ……」

    思わず苦い顔をして、けれど何とか自分を誤魔化そうと本に没頭する。そうすれば簡単に時間は過ぎてくれた。……出来ることなら、このままずっと過ぎて欲しかった。

    突然視界から本が消え、ハッとして隣を見ればエマが俺の読んでいた本を本棚に仕舞いに行く所だった。そして貰った懐中時計で時間を確認すれば、夜の7時前。いつもの、晩御飯の時間。

    「はぁ……」

    大きく溜息を吐いて、1人で厨房へと向かう。
    果たしてこの道はこんなにも広くて寂しかっただろうかという疑問がふと湧いたが、すぐに考えない事にした。

    「(子供じゃないんだから)」

    確かに背は同年代の中で低い方だけれど、父さんがまだ元気だった頃に数日留守番したこともあるし、そもそもこれでも一応成人寸前な訳で。……魔界の成人年齢が何歳かはまだ知らないけれど。
    だがともあれ、あと丁度1ヶ月もすれば18歳になるのだし、だからこんな所で寂しがるのもおかしな話だと小さく自分を笑った。

    ──そもそも、いつまた孤独に戻るかも分からないのに。

    「……今日は、いっか」

    一度悪い方に考え出せば止まらないことは、よく知っている。けれど、考えを止める方法は自分を騙すこと以外に知らないまま。気づけば料理を作ることもままならず、まるで少し前に戻ったかのように食欲も湧かない。そんな俺を見兼ねたのか、エマが追加の料理を作って持ってきてくれたが、それも結局はあまり味が分からなかった。

    それでも、それでも一度寝てスッキリして明日になれば。そうすれば。

    そんな甘い見通しさえも、翌朝には牙を剥いて来る。

    「あと2日は、帰れない……」

    なんとか眠れはしたし、もしかすれば早く帰ってくるかもしれないと少し期待していた。しかしそんな願いはいつの間にか机に置かれていた書き置きによって砕け散り、今日を含めればまだあと3日も孤独であることが重くのしかかる。

    最初は、寂しさ。
    次に、落ち着かなさ。
    そして、これが永遠に続くのでは無いのかという不安。

    ずっとずっと心の奥底で考えていた事がふっと顔を覗かせ、焦燥を駆り立てる。

    いつか、もしももっと知識が多い良い人間や魔術師と出会ったら。
    いつか、もしも用済みだと思われてしまったら。
    いつか、もしも嫌われてしまったら。

    アッシュを信じられない訳じゃない。
    けれどどうしてもそれが、怖くて怖くて仕方なかった。そしてその未来を否定する術を持たないから、いつでも離れられる距離感でいたかった。
    もうこれ以上失う経験をするくらいなら、孤独の方がマシだと……思っていた。

    「(あぁ、嫌だ……な)」

    気づけば、心はそんな言葉を吐く。
    まだ出会ってたった2週間で、種族も全然違って、けれどそれでも貰った温かさがあまりにも離れ難い物に変わっていて、これ以上迷惑をかけたくないという気持ちはあるのに、あるというのに、今はただ会いたくて仕方なかった。大丈夫だと、言って欲しかった。多少甘えるだけならまだしも、甘えてばかりの自分はとてつもなく嫌になるというのに。

    「(また独りは……嫌だ…)」

    心の中で、小さく呟く。
    もう随分と、余裕は無かった。夜も、眠れる訳が無かった。最初の頃の、寝る時も起きた時も傍に居てくれた数日が、今では堪らなく恋しかった。

    『同室でも問題ないならここに移らないか?』

    ふと、前に言ってくれた言葉を思い出す。
    あの時は遠慮が勝り断ってしまったけれど、今は。もしも今でも、有効なら……。

    「っ……」

    静かにベッドを抜け出し、いつもに比べて随分と暗い廊下を不安な気持ちになりながら歩く。そして前に一度案内して貰った時にだけ入った部屋の前で立ち止まり、そっと扉を開けた。……勿論中には誰もいない。けれど少しだけ寂しさが紛れるような気がして。

    「……」

    黙ってベッドに近づき、ついでに近くの椅子に掛けられていたセーターベストを握っては広すぎるベッドに沈み込む。

    ──少しだけ、今だけは。

    そんな密かな願いが許されるかは分からない。でも、もし許されるなら。もし帰ってきてくれるのなら。……もう少しだけ、甘えても許してくれるだろうか。
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