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    o_juju_Pd3fJ

    @o_juju_Pd3fJ

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    ついの棲家⑥午後になると脹相は仕事に戻ってしまった。
    悠仁はリビングに件の資料を持って来て眺めている。

    俺は脹相が好きだ。
    でも心中してまで独り占めしたいとは思わない。兄として兄弟を支えて来た背中を見ていたし、そういう姿を尊敬している。脹相は弟達が大好きだから囲まれていると心底幸せそうなのだ。それを壊してまで手に入れたいだろうか?
    何故俺だけ女の傷が見えるんだろう。そもそもなんで傷があるんだろう。大方兄の執着の賜物だろうが、それが助けを求めるように見えるのは。
    俺が、外の子だから?

    「分からん、俺馬鹿だもんな!先のこと考えよ!まずは脹相を自由にしてやらねえと」

    悠仁はこの家、土地自体を手放すことを脹相に提案した。蔵のものは全て売却し家は壊し、土地は売る。その金で仕送りや学費を払い終え、別の場所にこの家程ではなくとも新しい家を買って兄弟達が帰れる場所をつくる。

    「兄貴達のお母さんの思い出とか、俺もなんだかんだ過ごしてきた場所を無くすのは寂しいけど、どのみち俺らの代で潰すなら思い切るのもいいかなって」

    夕飯時に脹相に提案すると、少し考え込んでしまった。

    「蔵のものを整理するとなると数年は掛かりそうだな……やはりその間、悠仁だけでも別居させたい」

    悠仁は落胆する。脹相は心配性が過ぎる。自分は脹相が好きだと自覚があるけれど、だからって無理やりどうこうしたいとは思わない。兄の呪いにかかっているのは自分で、自分だけが気を付けていたらいいのだと悠仁は考えていたのだから。
    悠仁は脹相の鼻上の傷を指差す。

    「脹相、そういう事言う度に傷から血が流れてるんよ。なんか引き止めてるみたい……放っておけねえよ」
    「血が流れる?初めて聞いたな」
    「初めて言ったもん……兄の呪いに関しては大丈夫だって」
    「ダメだ、分からないだろ?人の気持ちなど小さな事でコントロールが効かなくなるんだ」
    「そう思ってたら大丈夫だろ?」
    「……いや、でもダメだ、無理心中なんて……考えたくもない……」
    「脹相……そんなことさせないよ」

    せっかく前向きな話になって来たと思ったのに、堂々巡りになって来たな、と悠仁はため息をつく。このままだとまた喧嘩になりそうだ。

    「……消防学校に行けたらさ、寮生活らしいんだ一年ちょいくらい、かな?俺お前を一人にしたくないから休みの日は戻るつもりだけど……だから……脹相?血が……」

    脹相は悠仁の話の途中から目を見開いて、傷からダラダラと血を流していた。

    「脹相……大丈夫か……まさか……」

    悠仁は、兄の呪いにかかっているのは自分だと思っていたが、どうやら違うかもしれない。
    脹相は言っていたじゃないか、悠仁が知らなくていいこと、と知られたくないことがあると……なんで気付かなかったんだ。
    知らなくていいことはこの家の歴史で、知られたくないことは脹相の気持ちだ。
    脹相は血が流れていると言われた自分の顔を両手で覆い、立ち上がると自分の部屋に駆けて行ってしまった。

    「脹相?入るよ」

    悠仁は脹相を追いかけて、脹相の自室の襖を開けた。脹相はタオルケットにくるまってベッドで横になっている。

    「来ないでくれ」
    「嫌だね。お前一人にするとろくな事考えないもん」

    悠仁はベッドに近付く。そっとタオルケットに触れるとビクリと脹相の身体が震えた。

    「来るなと言っただろう」

    脹相が悠仁の手を退けようと体を起こすと、目の前に髪の長い着物の女が立っていた。鼻上の傷から血を流して。

    ー兄さん、なんで私を拒絶するの?

    「」

    ー兄さん、兄さん……兄さんも、私と同じ気持ちだって言ってくれたじゃない……兄さん……

    「……そう、脹相?」

    悠仁の呼びかけに我に返ると、目の前の女は消えて心配そうな末弟の顔があった。悠仁、と呟くと思い切り抱き締められる。いつの間にこんなに力強くなったのだろう。うちに来たばかりのころは、人懐っこくて大きな猫目をキラキラさせた好奇心の強い可愛い子供だった。その境遇を不憫に思って特別に可愛がっていたけれど、いつの間にか本当に特別になってしまった。他の弟達と等しく、この家から離してやろうと思ったのに。
    脹相は悠仁の体を縋るように抱き返した。

    「……悠仁……行かないでくれ……何処にも」
    「うん、俺は脹相のところに戻るよ」
    「俺は兄失格だ」
    「俺も弟失格かな、抜いちゃったし」
    「抜いた?」

    体を離すと、悠仁は照れくさそうに笑っていた。そういう意味だよ、と悠仁は優しく手の指を絡めてきてくれた。
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