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    69asuna18

    ドカメン:宗雨
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    69asuna18

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    ドカメン:宗雲×雨竜
    バレンタインのお話

    愛していると聞かせて折り入って相談があるのですが。と、雨竜から連絡があった時は驚きのあまり瞬きを繰り返した。確かに、同級生だし、どちらかと言えば話もしやすいし。二人揃ってお母さんみたいだと皆に揶揄われたこともある。けれど、こんなに丁寧に、伺う様に真剣に。相談と持ちかけられたのは深水もはじめての事で、これはただ事ではないと、僅か背筋が伸びた気がした。

    「お菓子作りを教えてほしい…の?」

    深水と蒲生の家にやってきた雨竜は、至極真剣な顔で。てっきり高塔エンタープライズやに関わるような重要な案件だと思っていた深水は、その可愛らしい相談に首を傾げた。自分でも変だと思ったのか、雨竜は僅か頬を染め視線を逸らす、が。小さく頷いてその質問に答えてくれた。

    「高塔戴天に頼めば、良い料理人くらい紹介してもらえるだろう」

    居合わせた蒲生の言葉に、雨竜は申し訳無さそうに深く俯く。

    「蒲生くん、なにか理由があるから此処に来てくれたんだよ、そう言う言い方は…」

    「仮面ライダー屋の事もある。暇というわけではないだろう」

    「……でも…」

    「お忙しいのは分かっています。……でも深水さんじゃないと駄目なんです……難しいというのでしたら、仮面ライダー屋への依頼という形でも構いません」

    俯いたまま、矢継ぎ早に話す。その言い方があまりに必死で。けれどその表情は何処か、悲しそうに見えた。

    「理由を聞かせてもらえる?」

    尋ねると、言わなければ駄目なのかと言わんばかり眉間の皺が深くなる。言いたくない理由もあるのは分かるが、どうしてここまで自分に固執するのかがどうしても気になった。しばらく様子を伺っていると意を決したのか、深くため息をついて雨竜は口を開いた。

    「………バレンタインに、贈り物をしたくて…。その、相手が…深水さんと、一緒に料理をした事があると、伺ったので……好みの味とか、分かるかなと思ったんです…」

    全てを話し終えると、恥ずかしそうにさっきよりも頬が染まっているのが見えた。なんと返事をすればよいのか考えている間、沈黙に耐えられなかったのか、雨竜は出された茶を啜る。それでも居た堪れなくなったのか「やっぱり、ご迷惑ですよね」と腰を上げた。

    「あ、いや、違うんだよ!なんて返事したら良いかなって思っただけで!」

    テーブルについた手を握り立ち去るのを阻止する。蒲生も「そう言う理由があるなら、はじめからちゃんと言えばいいんだ」と本人はフォローのつもりだろう、ぶっきらぼうに話す。まさか、あの真面目な高塔雨竜が、人の為にバレンタインに菓子を作りたいだなんて。二人ともそんな相談だと思っていなかったのだ。

    「…すみません」

    「謝らないで。僕で良ければ手伝うよ」

    深水が立ち上がろうとしていた雨竜を阻止した手を離して、握手を求めるように差し出すと、雨竜は腰を下ろしてその手をぎゅっと強く握る。「よろしくお願いします」そう言うと、雨竜は深く頭を下げた。


    「果物が好きなんです。でも果物を使ったチョコレートって思いつかなくて」

    バレンタインに送るならチョコレートが良いだろうと話していた最中、相手の好きな食べ物はないのか尋ねると、雨竜はそう返事をした。一緒に料理をした人って誰だろうと考えていた深水は、果物が好きという言葉で合点がいった。きっと贈る相手は、宗雲さんだと。けれど、仲良くしている姿など見た事がない。元々関わり合う事が少ないのだから見たことがなくても仕方は無いが。
    戴天さんと宗雲さんがあまり仲良くないようだと仮面カフェで聞いた事があるから、てっきり雨竜とも関わっていないのだと思っていた。
    でも、その人の事を話す雨竜の顔は、今まで見た事がないくらい、穏やかで。なんというか、年相応に見えた。

    「いつも贈り物ばかりしてくださるので、お返し…というわけではないんですが……」

    「うん、頑張ろうね」

    深水が提案したのは、オランジットだった。オレンジのコンフィにチョコレートを薄くかけたもの。これならもし練習する時間が少なくてもコンフィは市販のものもあるし、甘いものが苦手ならチョコレートの種類を変えたらいい。そう伝えると「せっかく教えて頂くので、頑張ります」と、雨竜は息を巻いた。




    ***



    コンフィは、時間がかかるからと深水は一緒にたくさん作る事を提案した。その後いろんなチョコレートと合わせて、試してみたら良いと。いろいろ試して味見もしてもらったし、梱包も沢山調べて綺麗に包んで。あとは、渡すだけ。だが。それが一番ハードルが高かった。
    渡すなら、直接行くべきだと思ったが、何しろ宗雲の職場は未成年は入れない。それに今日はバレンタイン。いつもより多くの女性が店の前で待っているのがすぐに分かった。こんな中で、宗雲に声をかけるなんて出来そうにないし、迷惑をかけるだけ。呼び出すにしたって忙しいに決まっている。そう思うと雨竜は足が竦んで動けなくなっていた。
    それに加えて。開店を待っている女性たちの手にも同じような紙袋や、プレゼントがある事に気がついた。しかも、どの贈り物も見てすぐにわかる高級品や有名店のものばかり。飾り気のない自分のそれとは比にならないくらいおしゃれで素敵な物。値段なんかで区別するような人でないのはよく知っているが、雨竜の自信を失わせるには十分だった。
    遠くから、いらっしゃいませ、お待たせ致しました。と宗雲の声が聞こえる。振り返って。他の人に笑っている所を見たら悲しみが溢れ出してしまいそうな気がして、雨竜は黙ってその場から立ち去る事しか出来なかった。


    「あ…!高塔くん」

    買い物の帰り道、紙袋を持って歩く雨竜の姿に、深水は声をかけた。今からチョコレートを渡しに行くのかと思い、頑張ってね。なんて言おうと思っていたが、その表情は驚くほど暗く、言葉は引っ込んでしまう。

    「どうしたの?」

    「……いえ…」

    そう尋ねるとより一層悲しそうに淀んでしまった。カサッと音を立て、背中に隠されてしまった紙袋が悲しげで。じゃあね、と離れたほうが良いのかと思いながら、今は一人にしては行けないような気がした深水は、雨竜の空いている手を握る。

    「ちょっとお茶しに行こう?」

    「…え、いや……」

    否定されるのは分かっていたが、深水は僕に付き合ってと。ぐいっと引っ張って仮面カフェへと歩き出した。
    店につき、席に座っても、雨竜は俯いたまま。温かいものを飲んだら気持ちが落ち着くと思うんだ。と話しても、小さく「そうですね」と苦笑されてしまった。

    「要らないって言われちゃった?」

    そう聞いて、はじめて顔が上がる。ブルブルと激しく首を振り慌てて口を開いた。

    「そんな事言いませんっ!」

    「じゃぁ、どうして?」

    そんなに泣きそうなの?そこまでは聞けなかったが、じっと見つめると悲しそうに眉が下がっていく。唇をきゅっと噛んで、どう話そうか迷っているのか、瞬きを繰り返した。どれくらい待っただろう。テーブルに運ばれたココアをこくっと一口飲んで、雨竜は口を開いた。

    「僕が、傷付くのが嫌だったから。…臆病だったから、渡せなかったんです。…はじめから考えたらわかる事だったのに。渡す方法を考えてなかった、僕の計画性のなさのせいです」

    一度話すと次々に言葉が溢れる。その勢いのよさに、深水は驚き息をのむ。一頻り話した雨竜はまたココアを一口、口にして。

    「お時間を取らせたのに申し訳ありません」
     
    今度はひどく静かに紡いで深く頭を下げた。

    「……嫌じゃなければ、僕から渡そうか?」

    そう提案してみるも、雨竜は首を横へ振る。深水から渡すとなると、贈る相手を伝えなくてはならない。それが気になるのもあるんだろうが、もう渡さなくて良いと諦めてしまっているようだった。雨竜はしばらく考え込むと、小さく息を吐き出し言葉を紡ぐ。

    「……エージェントさんへ、渡す事にします。……いつもお世話になってますから…」

    「え…!?だめだよ?せっかく頑張ったのに」

    「いえ、いいんです」

    雨竜は残ったココアをぐいと飲み干すと、ごちそうさまでした。と慌ただしく席を立ってVIPルームから出ていった。それと入れ違うように、今度はエージェントが入ってくる。

    「深水くん!深水くんの分、雨竜くんが払うって言って出ていったけど、何か聞いてる?」

    「……ううん、でも、高塔くんなら、…そうしするよね。……チョコレートも貰った?」

    「え?うん…お世話になってるからって…でも…」

    なんだか様子がおかしかったような気がすると表情が語っている。

    「それ、他の人に贈るつもりだったんだけど、あげられなかったみたいなんだ」

    伝えると合点がいったのか、エージェントはやっぱり、なんだか変だったから。と納得していた。

    「頑張って、作ってたから渡してあげたいんだけど、相手が……」

    「それなら、多分、宗雲さんだと思います。…前にも、私が言付かった事があるんです」

    「やっぱり。…フルーツが好きで、前に僕と料理した事がある人って言ってたから…でも、秘密にしたいみたいだし……そしたら、エージェントさんから渡してもらってもいいですか?」

    「もちろん」

    二つ返事で受け入れてくれて、深水はホッと胸をなでおろした。




    ***




    「…失礼します……っ、あ、ぇ、…こんにちわ」

    エージェントから呼び出された雨竜は、VIPルームに入るように促された。よくある事で何も気に留めていなかったが、入るとそこには宗雲が座っていた。
    バレンタインからしばらくたっても、あの日の事はなんとなく思い出したくなくて、頭によぎるたび、ため息が漏れていた。漸くその気持ちも薄れてきたのに、まさか目の前に宗雲が現れるとは思ってもおらず、雨竜は顔を顰めた。

    「来てもらって悪いな」

    「え?僕は、エージェントさんから…」

    「俺が頼んだんだ」

    「そうですか…どうかされたんですか?」

    首を傾げると、手招きされて、横に座るように促される。促されるまま、彼の横へと腰を下ろすと、そこへ腕が回された。

    「ありがとう。チョコレート。美味かった」

    「へ…?」

    「エージェントから言付かった」

    なんの事だと眉間に皺が寄る。すると、脇から見覚えのある紙袋が見える。中の箱のリボンも解かれて、すこし食べたようなあとがある。
    エージェントや、深水に気を使われ、相手まで悟られてしまったのかと恥ずかしく思う。けれど、贈りたい相手に届いたのはまぁ良いかと、思わず笑みが漏れた、なのに。

    「本当に美味しかった、どこの店のだ?今度一緒に…」

    なんて、言われるものだから、カッと頭に血が登った。

    「買ったんじゃありません!…僕が、深水さんと、……練習、して…ッ…」

    そこまで話して自分の声も唇も、小さく震えていた事に気がついた。視界が滲んで、隣に座っていた宗雲の顔もよく見えない。けれど驚いているのだろう、小さくすまないと紡いだのが聞こえて、口を噤む。腰に回された宗雲の腕が半ば強引に雨竜の体を抱き寄せ、両の腕で包む。肩口に頭を埋められて、そのまま頭を撫でられて。耳元で、泣かないでくれと言われて。そこではじめて視界が歪んで見えた理由が分かった。
    どれくらい時がたったのか分からないけれど、呼吸も気持ちも落ち着いてきた頃。強く抱きしめられる感覚に胸が跳ねている事に気がついた。

    「わざわざ、作ってくれたのか?俺のために?」

    「…はい」

    返事をすると機嫌良さそうに。ふふふと笑う声がする。

    「深水と練習して?」

    「はい。…兄さんとか、味見してもらって、大丈夫って思って…」

    「……………先に、戴天が食べたのか?」

    「……?…はい…僕ではお酒にあうかは分からなくて…」

    声色が変わったのを不思議に思って顔をあげると、
    なんとも言い難い複雑な表情をしている。どうしたのだろうとじっと眺めていると、視線に気がついたのか、誤魔化すように苦笑された。

    「……独り占めしたかった。あと出来れば、一番に、食べたかった…。たとえ試作品でもな。…それだけのことだ」

    まるで、猫がするみたいにスリスリと頬を寄せられ、それがマーキングでもされているみたいで愛おしかった。

    「僕も同じ事が嫌だったのに……気が付きませんでした、すみません」

    そう言われたらそうだなと、表情と声色の理由に納得したのと同時に、雨竜の口から思っていた事がポツリと漏れた。
    自分だって、自分だけが良いと、嫉妬したのに。本命の人より先にいろんな人に食べさせたと言うのは良くなかったと反省する。

    「同じこと?」

    「あ、いえ………」

    「俺には話してくれないのか」

    漏れた言葉を拾われて。優しい瞳で見つめられ。しまったと思うが時はすでに遅い。顎を掬われて、じっと見つめられたら、言わないわけにはいかない。

    「……バレンタインの日…お店にたくさん人が来ていたでしょう…皆さん素敵な贈り物ばかりでしたから……僕のなんて…と思って……」

    視線から逃れるように、俯いて。先程と同じ様に肩口に擦り寄る。控えめな声で話しているせいか、言葉を聞き漏らさないように宗雲は耳を寄せて。僕のなんて。という言葉を否定するように、ぎゅっと強く抱きしめた。

    「……あれは、仕事の一環だ。気持ちはたしかに嬉しいが…あくまで仕事だ。それ以上の気持ちはない」

    耳元で、言い聞かせるように。優しい声が鼓膜を振るわせる。唇が触れそうな距離で、吐息で髪が揺れるのがわかる。きちんと説明をしてくれているのに、跳ねる心臓の音のほうが煩くて、半分も理解できていない気がする。それでも、自分の気持ちを大切にされているのは分かる。

    「そう、ですか」

    熱を帯びた頬を隠そうと、肩口に顔を埋めるが宗雲の手にそれを阻まれた。大きな手が顎を捉えて上を向くように促される。

    「目を瞑ってくれるか」

    意味もわからぬまま。兎に角言うとおりにしておこうと、雨竜は瞳を閉じた。砂糖に漬けられた甘いオレンジとほろ苦いチョコレートのにおいがほのかに香る。なぜだろうと思っていると、ちゅっと微かに音がして。唇がそこへ触れていたのだと理解した。驚き固まっているとそこへもう一度唇が触れる。

    「お返しはこれで足りるか?…返事と言ったほうが良いか?」

    紡がれた、言葉の意味が理解出来ない。

    「へん、じ?」

    「……バレンタインだろう、てっきり…そういう事かと」

    そういう事。バレンタインにチョコレートを送る意味、は。自分はいつものお礼のつもりで。でも、たしかに本来なら好意を伝える手段で。

    「あ、え、いや…」

    違う。とは言えない、好きだから贈りたいと思った。でも、まさか口付けてくれるなんて。そういう意味で好いていると伝えてもらえるだなんて思ってもみなかった。

    「俺はそういうつもりだ。覚えていてくれたら嬉しい」

    初めて感じた唇の触れた感覚と。遠回しに伝えられた好意に、心臓がバクバクと跳ねた。さっき、他の人には仕事以上の気持ちはない、そう言った。

    「返事が欲しいわけじゃない。俺の気持ちだけ知っていてくれ」

    そしたら、これにはきちんと好意が、備わっていると、そういう意味と取っていいのだろうか。返事出来ずにいると宗雲は少しだけ寂しそうに笑う。自分も同じ気持ちだと、大きな声で言いたいのに。家族であった過去や、今の兄や仕事の事や、全ての記憶がはっきりしない現状が口を噤ませた。

    「そんな顔するな」

    もう一度近づいてきた唇は、今度は優しく眉間に触れて。顔が見えなくなるように強く強く抱きしめられた。いつかきちんと、返事が出来るまで。少しだけ待ってほしいと思いながら、雨竜は宗雲を抱きしめて。ぎゅっと強く、彼のスーツを握った。
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