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    2020leapDAY

    @2020leapDAY

    おこじょのポイピク。父水以外のものとか、おまけ等の何かしらパス付けたいものがたまに上がります。父水じゃないものが混じっているので固定の方はお気をつけください!警告はしましたよ!

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    2020leapDAY

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    おこじょの隠れ性癖その2父父。Xの企画参加の為に書いたも企画に沿ってるかかなり微妙…!幸せ軸攻め父(ゲゲ郎)×不幸せ軸受け父(男表記)のイチャコラ導入部まで。その内Rパートが作成されます(尻たたき)

    マヨイガ誰にも言えない秘密を一つ、抱えている

    とある山奥に残る朽ちた神社の社。境内と呼べるようなものは残っておらず、ただただ荒れた土地に朽ちて崩れた石積みの階段が残っている。元は立派な社だったのだろう。石段は十段ほどあり高さも広さもなかなかの物なのだが、建物自体はほぼ崩れて原型を留めておらず、朽ちて腐った木の上にも草や小樹が蔓延っており、実質何かの形が見て取れるのはその残された階段だけだ。

    季節は秋。虫の声を風情と宣うのは都会の人間位なもので、人里離れ、手入れの為されていない山奥では、虫の声などただの騒音だ。しかし今この瞬間、その音は聞こえない。ただそこだけが取り残された様に奇妙な静寂が漂っている。

    満月の夜である。
    銀の髪に赤い目、牙を持つ幽霊族の男が一人、そこにぽつりと座っている。何をするともなく月を見上げるその片手に握られているのは酒を入れた徳利だ。偶にとぷんと其れを揺らしながら愛でるというでもなく、只々その目をギョロリと剥きながら月を眺めている。

    「……来たかの」

    ざわ、と風が森の木々を揺らした。肌寒い季節に吹く風は容赦無く体温を奪う筈だが男は着流し一つで気に留める様子もない。枯れた葉がひらりと何処からともなく飛んで来る。ひらひらと次々に風に乗る。視界を覆うほどの枯れ葉向こうに、また一つ気配が現れる。紅葉と呼べる程のものではない。茶色く枯れて朽ちた葉が舞う中、がさりと草をかき分ける音が響いた。がさり、がさり、がさり、カラン
    音が石段に足を掛けるとそれは木を石に打ち付ける硬質な音に変わる。カラン、カランと静寂に響く。下駄の音だ。
    程なくして音の正体が姿を表す。

    銀の髪、赤い目。
    「待たせたかの」
    喋る口には白い牙。青い着流し。
    更夜の月の下。同じ顔をした男が二人。

    「待っておったよ」
    「そうか」

    先に待っていた男は徳利を掲げてまぁ座れと嬉しげに微笑む。後から来た男は馳走になると微笑みながら、何処かその顔は憂いげだ。
    「今日はな、水木に勧められた酒を持って来たぞ。人間の仕込んだ酒じゃ」
    酒の入った器を受け取りながら人間、と後から来た男が呟いた。戸惑う様な。哀しむような。そして僅かに憎悪を含んだ。
    「お主は相変わらずじゃの」
    「お主の様な極楽とんびには成れんだけじゃ」
    自分の酒器に酒を注ぎながら先に居た男がケケ、と笑う。
    「その男に教えを乞うて居る割によう言いおる。まぁ然う邪険にせずに味わってみよ。中々の物じゃぞ」
    コツ、と軽く酒器を当てて盃を交わす。一人は終始楽しげで、一人は終始やや忌々しげ。全く同じ顔でも表情が違えば別人の様である。
    事実、この二人は別人だった。姿形が全く同じ双子が別人で有るように、この二人も又、肉体も魂さえも同じ形をしていても、その有り様は全くの別人だった。

    「さて、今宵はどこまで教えようか」
    酒を持って来た男が美味いと呟いて早速一杯目を乾かすのを、後から来た男は厭々舐めるように飲みながら睨めつける。
    「別に何処から話しても良かろう。当てもない話じゃ」
    「まぁそうじゃの。では今日は水木の話でもするか。あれはな……」
    男が語りだすのをもう一人の男がじっと見つめている。

    その目線に僅かな羨望を乗せながら。

    ***
    事は1年ほど前に遡る。

    マヨイガ、という妖怪が居る。
    元々は山中で道を失った人間が、人気の無い、しかしながら温かい食事や衣服が整えられた家に迷い込むという逸話だ。その正体は実は家自体が妖怪というオチなのだが、ある日、とあるマヨイガから一件の依頼がゲゲ郎に舞い込んだ。

    曰く、自分には兄弟岩ならぬ兄弟マヨイガがおり、昔は『この神社の物を何か一つ持ち帰ると幸福になる』という逸話を持った立派な神社の形をしたマヨイガだったと。しかしいつしかその様な非科学的な事を信じる人間も少なくなり、山中深くに存在した立地もあって迷い込む人間も一人また一人と減って行き、滔々此度朽ち果てたとのこと。
    移動できない特性柄、永らく会ってこそいなかったがそこは矢張り兄弟。形見として何でも良い、なにか一つ、その朽ちたマヨイガから何かを持ち帰って貰えないかと依頼されたのが発端だった。
    お礼に何か一つ依頼したマヨイガから持ち帰って良いとのことで、岩子が新しいフライパンを欲しがっていたためゲゲ郎はフライパンを片手に一人、その朽ちたマヨイガにやってきた。大して手間のかかる依頼でも無かったし、マヨイガの特性上人を惑わせる結界が残っている可能性もあり、いつもは一緒に居る鬼太郎や水木にも声を掛けずに出掛けたのだ。

    そうしてサテ何を持ち帰ったものかとフライパンを弄びながら思案して居た所にこの男が迷い込んで来た。矢張り結界が残っていたらしい。
    迷い込んできた時男は泥で汚れきってズタボロになった服を着ていた。目は虚ろで暗く、そのクセ明らかに自分と同一の生き物が目の前に居るという状況に二人揃って混乱に陥った。しかも一人は襤褸切れを着て警戒も顕に、一人は呑気にフライパンを抱えていると云う状況も更に混乱を加速した。
    無言で見つめ合う事数刻。其れは何じゃと口を開いた男にゲゲ郎はコレはフライパンじゃと返した。
    そのやり取りも相当間抜けだったが、現れた男は苛立たしげにそうにそうではない、そんなも物を何に使うと問う。岩子への土産じゃと答えれば生きて居るのかと再び問われる。必然、男の生い立ちを聞くこととなった。

    自分の生い立ちを尋ねるという世にも奇妙な状況だった。

    別の世界から迷い込んだ自分は、聞けば岩子は死んでおり、水木を知らぬと言う。どうやらあの村に水木が現れなかった世界から訪れたらしい。岩子はと尋ねれば、そもそも岩子を娶っておらぬと言う。幼き頃父母を、祖父を、祖先を焼かれ、狩られ、一人で生き延びて来たと。そうして哭倉村に囚われ、無理矢理番わされたのが岩子だと。
    時貞死亡の一瞬の隙に二人で逃げ出したが、血を取られすぎた岩子は死に、後に鬼太郎だけが残されたという。水木の存在は知らぬと。その様な経緯であれば知らぬも不思議では無い。哭倉村の結界は恐らく復活した時貞が維持しているのだろう。祖先を助けに行きたいが、鬼太郎もまだまだ小さく動けないと。どうやら時空も少しずれているらしい。
    水木曰く此方の世界で哭倉村の事件があったのが昭和31年だったと言うから、おそらく33年か4年頃の男の世界と時空と繋がったのか。

    奇妙なこともあるものだとしか言いようがなかった。

    マヨイガが朽ちたことにより結界に綻びが生じたのだろう。でなければこんな奇妙なことにはなるまい。其方はと男は問うた。此方の世界はどうなっているのだと。必然の質問でもあったが、困った質問でもあった。

    まずゲゲ郎は時空がずれていることを説明した。此方では鬼太郎も育っており、それから70年が経過した令和と呼ばれる時代であること。自分は一度肉体を失っており、今でこそこの姿だがここまでの経緯が非常に長いものになること。全て語る必要もあるまいとそっけなくもう一人の自分を突き放せば、何故かその男は必死に言葉を紡ぐ。教えて呉れと。何故岩子が生きているのか。一緒に住んでいるのか。水木とは何者かと。

    後から思えば、恐らくこの男は、自分は、寂しかったのだろう。
    状況から考えれば話し相手もまともにおらず、岩子や水木と出会えた喜びや、共に暮らす至福の日々も知らず、着物は汚れ、野山で食料を漁り、出会ったときは履物もなく素足であった。

    鬼太郎はいたが、独りぼっちだったのだろう。かつてのゲゲ郎がそうだった様に。
    幼少期のゲゲ郎がそのまま大きくなっただけの寂しい男だ。

    結界を出て此方の案内が出来れば簡単だったが、流石にそうは行くまい。下手に時空までズレている存在を連れ出して何か起これば事だ。かと言ってあまり長々と家を空ける訳にも行かない。フライパンも置きに帰りたい。
    そこでゲゲ郎は約束を交わすことにした。ひと月に一度、満月の夜。もう一度ここに来いと。酒でも呑みながら話してやろうと。
    綻びた結界が朽ち果てるまでの期間、いついつまでかも分からぬ約束。それでも男にとっては自分以外唯一言葉を交わせる仲間という縁。
    其れがよりにもよって自分自身で無くとも良かろうにと思いながらも、他に居ないのだから仕方あるまいとゲゲ郎は軽い気持ちで約束を交わした。

    そうして1年ほど。2度目に会った時は序に着流しと下駄を渡してやった。3度目の時は鬼太郎の服を。4度目以降は余った酒を。奇妙な関係は思いの外長く続き、今や毎月の恒例の行事となっている。
    岩子や水木や鬼太郎に何となく言い出せず、何故かやや後ろめたい気持ちを抱えながら、ゲゲ郎と男は今日も酒を交わす。

    姿形こそ自分そのままであったが、性格はまるで違った。寧ろ嘗てはそうだったなとゲゲ郎は幾度と無く苦笑する事になる。臆病で、人を憎み、愛を知らぬ。そのクセ酷く寂しがり屋で、泣き虫で、騙され易い。これは今でもそうかも知れないが。
    可愛い人と岩子はよくゲゲ郎を評したが、少しその気持ちが分かってしまった。どうにも鬼太郎の扱いにも困って居る様で、愛してやれば良かろうにと謂えば愛など知らぬと突っ撥ねる。だが鬼太郎の名を呼ぶ時の瞳には慈愛があった。

    上手く愛せぬ、と漏らす事があった。愛し方など知らぬと。岩子に出会わず、水木に救われなければ自分もそうだったのだろう。其れを有り有りと見せ付けられるのは面白くもあり、どこか庇護欲に駆られた。

    なので専ら話題は愛のことばかりだ。愛すこと、愛されること。自分自身とそんな話ばかりする。奇妙以外の感想が出てこない。
    それも幾度目か。そろそろ此方の生い立ちも語り尽くした。結界の限界も有るだろう。どこかで終わりにしなくてはならないと互いに薄々感じている。

    「……と云う訳でな。その時の水木はそれはもう、美しいやら格好いいやら」
    「そんな人間が居るものか、嘘吐きめ…」
    「嘘ではない。なに、其方にも愛する者が現れる。何よりお主は鬼太郎を愛して居るじゃろう。愛し方などどうにでもなるものよ」
    「気楽に言いおる。本当にお主は儂か?その様にのんべんだらりと…」
    「丸くなったと云って欲しいのぅ」
    実際そうだ。刺された棘を刺されたそのままに振り翳し、全てを拒み、恐れ、震えていた。その棘を岩子が大事にしながら、溶かしてくれた。じくつく傷を水木が癒やして、鬼太郎への愛で新しい皮膚を張り、そうして今のゲゲ郎が居る。
    「まぁ何もかも苛立たしいのは分かるがな。儂もそうじゃった。其れをそんな風にしていても仕方有るまいと云われて納得出来るか。出来んじゃろ。幽霊族のクセに儂は一等頑固者じゃ」
    「頑固者は認めるがの……」
    「じゃから、鬼太郎を愛せ。幽霊族は丈夫じゃ。多少の事でどうにかなったりはせん。大事に思って、大事にしてやろうと努めればそれで十分じゃよ」
    「………」
    男が声も無く項垂れる。言葉を探している様だ。
    もう一度顔を上げた時。

    嗚呼とゲゲ郎は思った。

    そうか、嘗ては。岩子に出会う前は、こんなさもしい顔をしていたのかと。
    羨望と呼ぶにもまだ足りない。その視線に映るのは嫉妬の炎だ。恨めしい、妬ましいと。

    思わず手が出た。良く岩子が、水木がやってくれたように頬に手を当てる。触れた体温はどこまでも自分と同じで、そのクセ熱を持ったように熱く感じる。
    「そんな顔をするでない」
    無性に掻き抱いてやりたい衝動に駆られて思わず気が付けばその身を寄せていた。勢いのまま抱き寄せた体は大きいが弱々しく震えている。
    アッ、勢いのままにやってしもうた、どうしたものかと思いつつ、何だかそのまま離れるのも間抜けで、とりあえず背中を軽く叩けば、途端男が決壊した。
    ポロポロと声もなく咽び泣く。そうじゃったなぁとまたゲゲ郎は苦笑を漏らした。涙もろいクセに、涙を見せるまいと必死だった。自分が弱いと認めたく無い一心で涙を堪えた。泣けば良い。泣いて、悲しかったと、寂しかったと認めて仕舞えばまだ楽だっただろうに、どうにも嘗ては意地が勝った。

    少し落ちついた所で体を離してみれば、ぐずつく様子はどうにも小動物の様で、岩子と水木のせいで色々開発されてしまった自分としてはどうにも甘やかしたくなる。兎の様じゃ。岩子の気持ちが分かってしまう。
    「す、すまぬ」
    しょんもりとしながら、心無し髪まで萎々とさせつつ、項垂れる首筋が赤く染まっている。

    うーむとゲゲ郎は心の中で独り言ちた。同じ顔の筈なんじゃが。何と言うかこう、ムラっとくる。

    なので、その赤く染まった項に一つ、柔らかな雪の様な口付けを落とした。

    「っ」
    首筋という急所に触れたことにだろう。男が反応してざわりと髪を伸ばそうとする。一方ゲゲ郎は余裕のどこ吹く風だ。どうせ攻撃するまい。自分なら出来ない。相手の意図が理解出来ないならば反射で叩きのめす事もできない半端者だ。案の定髪はゲゲ郎に到達すること無く威嚇するだけだった。それ見たことか。
    「そう恨めしいと募るでない。此処には儂しかおらん。此処ではお主の手を取れるのも、慰めてやれるのも、口付けて愛を与えられるのも儂だけじゃ。それは流石にお主も本意ではなかろ」
    「な、にを」

    「そんな物欲しそうな目をしとっても此処じゃあ儂しかおらんぞ、と謂う事じゃ」

    分かったら鬼太郎の所へお帰りと、これにて仕舞いというつもりだった。元々いつまでも続ける理由も無い。
    其れが。どういうことか。

    「出来もしないことをよく言う」
    予想の斜め上方向に煽り出した自分をキョトンと見つめてしまう。

    「大体お主、聞いておれば与えられてばかりでは無いか。偉そうに話すからてっきり勘違いしたわ。与えられたものを少し返した位で愛し方なぞどうとでもなるなどと、知った口を聞くでない」
    「ム」
    真っ赤になりながら突然今迄になく喋り出し、しどろもどろと手振り身振りを加えながら怒涛の勢いで言葉を紡ぐ様は挙動不審と言って差し支えない。わたわたと目をぐるぐるさせている様をふむ、とゲゲ郎は顎に手をやって呑気に観察する。

    コレは。
    若しや照れておるのか。あんな戯れの様な口付け一つで。

    「嗚呼残念じゃ。幸せそうに呑気な顔をして居るが、考え無しなだけではないか。此方は真剣に悩んでおるのに、阿呆らしい」
    髪を戻してやれやれと両手を上げてみせる。然して男は。

    「其れでも愛し方を知っていると謂うならば、見せてみよ。……出来もせぬ癖に、説教など」
    耳から顔から項から、雪に咲く紅い華の様に真っ赤に染めて。

    おやまぁとゲゲ郎は口角を釣り上げた。これは、知らない自分だ。確かに意地を張る相手すら居なかったのでこの様な状況になるなど無かった訳だが。舌を使うわけでもない、口付け一つでこんな初な小娘の様に真っ赤になりながら煽るとは。

    どうにも唆るではないか。

    「………」
    口の端が上がるのが抑えられない。嗜虐心と庇護欲が綯い交ぜになってムラムラする。
    この男を。愛を知らぬ己を。柔らかな愛で組み敷いて、蕩かして、満たして、溢れさせてやるのは、どんなに愉快だろうと。
    「な、何じゃ。黙りこくって。さては図星じゃろう、御為ごかしを言うでないわ。これだから信用ならんっ……っ」
    目を白黒させる男の腰を抱き寄せ、ゲゲ郎は今度こそその唇に唇を重ねた。くすくすと笑いながら啄む様に唇を吸い、一気に口腔内に長い舌を差し入れて蹂躙する。同じ体温が重なってなんとも言えぬ心地良さが、これはこれで堪らない。
    「んんっっ……っふ、ぅん……ッッッ!」
    全身を引いて逃げようとするが食生活の所為だろう、ゲゲ郎より男の方が僅かに非力だ。息も声も堪えてぎゅうと全力で目を瞑りながら、無意識にだろう舌を絡ませてくる男の頭をそっと撫でる。ちらと顔を覗いてやれば軽く舌を吸ってやる度に眦をふる、と震わせる様など本当に堪らない。
    同じ顔、なんじゃけどな。

    散々貪り尽くして、やっとひとまず満足して口を離してやると、殆ど息を堪えっぱなしだったろう男が事態が理解できぬという顔でかひゅ、と慌てて息を吸った。
    「なに、を」
    ゼィ、と荒れる呼吸を隠しもしない。無防備じゃなぁとゲゲ郎は零れる笑みを抑えられず、くふくふと笑いながら男の顎に手をやり、くぃと軽く上げさせた。わずかな怯えと、色の乗った瞳がゲゲ郎を見つめる。
    「煽るのぅ。……気が変わった、お主、次の満月にもう一度だけここに来るが良い」
    耳元に口を寄せ、少し低い声でわざとらしくゆっくりと。
    「儂と賭けじゃ。その時までお主と儂の縁があれば、愛し方を教えてやろう」
    じっくりとな、と囁き、耳を食み、ひょいと男を離してその場を後にする。朽ちたマヨイガの結界。いつまで繋がるはゲゲ郎とて知らない。縁が無ければそれまでだ。だが縁が繋がるのならば。

    愛を教えてやろう。与えられた愛で、ぐずぐずに溶けて、溢れて、形を失うまで。

    な、と口をはくはくさせている男を振り返りもせず、土産じゃ、取っていけと徳利ごと酒を置き去りにしてゲゲ郎はその場を立ち去る。
    カランと音を立てて階段を後にすれば、さわりと吹く風が舞い戻ってきた。さて今宵も見事な満月だ。
    荷物も減って軽くなった体をカランコロンと軽快にゲタを鳴らしながら。普段なら一足飛びに山を下りてしまう所を、今宵は虫の音に合わせて小さく鼻歌など歌いながら、ゲゲ郎は至極ゆっくり歩いて下ってゆく。

    その一か月後。

    「……なんじゃこれは」
    さて訪れた山奥の階段である。さて賭けの結果や如何にと、どちらに転んでも面白いのぅと嘯きながら訪れたゲゲ郎は、現れた景色にぽかんと呆気に取られ、思わず傾いた肩から次縹の着流しがずるりとずれた。
    階段しかなかったはずの境内に、何故か本宮と思しき建物がちょこんと出現している。さほど広くはないが、当然の様に本尊などは存在せず、ほぼ空っぽの、而して割と小ぎれいな作りの建物が突如出現していた。
    唖然と見ていれば、先に到着していたのだろう男がひょいと顔を出す。
    「……来てみたら、こうなってたんじゃが」
    「……応」
    何か知っているかと尋ねられ、ゲゲ郎は小首を傾げた。知る訳が無い。知る訳は無いが。
    とぷりと揺れた徳利が音を立てて、嗚呼もしやとゲゲ郎は頭を抱えた。
    ゲゲ郎も、男も、腐っても幽霊族の皇族の末裔である。それが二人で酒を酌み交わす事それなりの回数。考えてみれば、妖力を得たマヨイガが復活しても、不思議は無い。
    「……コレの所為かのぅ」
    酒を掲げれば嗚呼と男も首肯した。
    「まぁ……そうか、有り得ん話では無いか」
    互いに何となくやらかした気分になり、絶妙な沈黙が漂う。
    一度切り。互いにその気持ちで訪れたのだろう。最後の一度、縁が繋がれば一度だけ戯れてみても良いと思っていたのが、何やら突然お膳立てされてしまって戸惑いが隠せない。境内には暖かな風が吹いており、ゲゲ郎達を歓迎している様がありありと見て取れる。

    何となく、これで仕舞いと言い出しにくい雰囲気になってしまった。どうしたものか。
    酒を持ったまま立ちすくむゲゲ郎に先にゲタを脱いで上がっていたのだろう、男が裸足のままで歩み寄る。
    「まぁ、飲むか」
    仕方無いと、苦笑しながら手を引く表情は流石に自分そっくりだ。
    「そうじゃな」
    引かれるままに同じく苦笑を漏らしながら建物に上がろうとしたゲゲ郎が、自分の腕を掴む男の手に目を落として。
    ———おや
    僅かに赤く染まる手首に、ぱ、と目線を上げると項もほんのり桜色に染まっている。男は振り返らない。
    見えない顔色を想像してニヤリと笑みを浮かべたゲゲ郎は大人しく引かれるままに建物に足を踏み入れる。


    さて、今宵はどこまで教えようか。


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