「違うだろう」
強く顎を掴まれる。布越しの生暖かい体温が嫌にリアルだった。頬の肉が引き攣るような痛みを訴える。人外の腕力で持ち上げられて爪先が浮く。息を詰めて視線を合わせようとするが叶わない。
「…わかってるよ」
かすれた笑い声に乗せてそう言えば、拘束する力が少し緩んだ。
「ごめんって先生。ていうかさ、凡人は片手で人を浮かせられないよ?」
「…それもそうか。悪かった」
「形だけの謝罪はいらない」
そうか、と鍾離が大人しく引き下がり、その腕から解放されたタルタリヤは首に手を添え軽く咳をした。けほ、けほ、と何度か咳き込んでいると再び鍾離の腕が伸びてくる。反射で構えようとするが、ここで下手に振り払うと痛い目を見るのは過去の経験から学習済みだ。その場にぴたりと停止したまま鍾離の手を受け入れる。
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