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    aoaoao_777

    @aoaoao_777

    腐った創作をしています

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    aoaoao_777

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    進捗なので誤字脱字日本語のおかしさは見逃してください。

    同心ホークス×太夫荼毘の遊郭パロ。
    陰間茶屋と遊郭がごっちゃになっているような感じ。雰囲気で見てください🙇‍♀️
    女の人→遊女 男の人→若衆って感じで呼び名を変えてます。

    遊郭パロホ荼前編(?)「あァ〜……ばり行きとうなか!!」

     鷹見啓悟は花街の道の真ん中でそう呟いた。
     今日は同じ奉行仲間の連中と宴会の予定だった。上司のひとりが意気揚々と宴会の計画を立てる!と言ったが、今日に至るまで何処で何をするのかを啓悟は知らなかった。今朝出勤した時に伝えられた場所に仕事が終わり次第行ってみると、なんとそこは男女が春を売る​───花街だった。計画したそいつが生粋の助平であったことを危惧するべきだった……と啓悟はげんなりした。
     見世の格子部屋に座る女は華やかに着飾り、男は今日はどんな女を買おうかと見るからに鼻の下を伸ばしながら吟味している。啓悟はそんな男女を横目で見ながら奉行仲間から伝えられた場所へと歩を進めた。

    「おぉ〜!鷹見!こっちだ、こっち!!」
    「おぉ〜鷹見!じゃないですよ。なんで花街で宴会するんですか……」
    「いいじゃねェか!綺麗どころと飯が食えるなんて、二重の意味で美味いじゃねぇか!!」
    「食う、の意味が違うでしょうよ……」
    「お?乗り気じゃねェのか?」
    「当たり前です、そんなんに興味無いですもん。」
    「……ははぁ〜?さては鷹見……童貞だな?」
    「ブフォッ!……ち、違いますよ!!」
    「まァちと遅いが……気にするな!!今日捨てりゃいいだろ?」

     鷹見啓悟、齢18。女も男も知らずに仕事一筋に生きてきた。言い当てられてしまい思わず噎せる啓悟。そんな啓悟をニヤニヤと眺めていた上司は、「他の奴等もう来てるし、行くぞ〜」と見世の中に入って行く。
     宴会には数人の遊女や若衆と思われる男女と、見知った同僚達がいた。啓悟は極力遊女に接触しないよう、同僚達の座る端の席に座った。同僚達は隣に座った遊女や若衆と楽しげに会話している。その誰もがただの男と女の顔をしており、皮の下にある欲望を隠そうともしていない。

    (鼻の下伸ばしてまァ……そげん良いもんかね。)

     啓悟は目の前にあった焼き鳥に手を伸ばし、肉の無くなった串を行儀悪く口に咥えたまま思う。
     そんな周囲を白けた気持ちで見ていると、ふと、自分と同じように誰の相手もしておらず、手持ち無沙汰に手元の酒を煽っている青年がいた。何より啓悟の目を引いたのが、その青年は新雪を思わせるような純白の髪をしていた。
     青年は紺色の緩い着流しを着てつまらなそうに時折酒を口元に運んでいた。白髪から覗く気怠そうに伏せられた瞳は鮮やかな蒼色(そうしょく)で、青年の容姿は浮世離れした何とも不思議で魅力的なものだった。あれは火傷だろうか、古傷で引きつった肌が大きく顔にあり、まだらに肌の色を変えていた。
     不意にパチッと青年と目が合ってしまい、啓悟は無視をする訳にもいかず、とりあえずへらりと笑顔を浮かべながら小さく手を振ってみる。それに対し青年は眉を顰めながらふい、と視線を逸らし啓悟を無視した。

    (うっわ……お客さん無視する?こいつ絶対性格悪かろ……)

     青年の着ている着流しは質が良さそうで、この場でお客の相手をせず自由な振る舞いを許されているという事はこの見世の相当なやり手の若衆なのだろうか。啓悟を鼻にもかけない彼の振る舞いに啓悟は内心悪態を付く。
     酒も回り、それなりの時間が経った頃合に宴会は終わりを迎えた。宴会中、気付いたら何人かの者が席からいなくなっており、どうしたのかと周りの者に聞いてみると、「お前〜……決まってんだろ!今頃しっぽりしけこんでんだよ。」と下品な言葉が返ってきて、それもまた啓悟をげんなりとさせた。何人かが抜けた場ではあるが、珍しい事にこの宴会を提案した助平な上司は最後の最後まで席に残っていた。珍しい事もあるもんだ、と啓悟は思いながら帰るために席を立とうとすると件の上司に呼び止められた。

    「ちょ、おい!鷹見!!」
    「あ、お疲れ様で〜す。お気に入りの子居なかったんスか?最後まで席に居るなんて。」
    「俺は今日お前の為に最後まで居てやったんだよ。」
    「はぁ……?」
     
     啓悟は頭に疑問符を浮かべる。何かこの上司と約束などあったか?と思い返してみるが、そんな予定は確かに無かった。
     上司はニヤニヤと笑いながら啓悟の背を叩き、「俺見てたぜ〜?」と言ってくる。

    「お前、あの荼毘太夫と見つめ合ってたろ?」
    「……はァ!?見つめ合ってないっスよ!!」
    「照れるな照れるな。あいつは上玉だからなァ〜」
    「……ていうか、太夫、って……。失礼ですけど、あの人結構傷痕とかも酷いのに太夫なんスか……?」
    「あァ、そうだぜ。見た目こそ酷ェ痕があるが、ここらの若衆じゃ珍しく教養もあって話が上手い。しかもあの毛色と目だ。それこそあの痕さえ無ければ国が傾く程のモンだったろうなァ〜」
    「はぁ……」

     啓悟はあまり興味が持てず曖昧な返事を返した。
     しかし、上司は気にした様子も無く、酒によって上機嫌な態度で啓悟にとんでもない提案をする。

    「お前が荼毘の事気に入ったみたいだったから、ここの楼主に口利きして荼毘との部屋とっといたぜ!!」
    「……はァッ!?」

     啓悟は今度は曖昧では無い「はぁ」の二文字を吐き出した。

    「ちょ、先輩!?俺まじでそんなんする気ないっスよ!!」
    「まぁまぁ、これも社会経験だ。俺の奢りだから気にすんな。」

     そこまで言われてしまっては啓悟も我儘は言えない。見世や上司の顔を立てるという意味もあって断れなくなってしまった。啓悟は気付かれないよう小さくため息を付く。
     しかし、あんなに無愛想で啓悟の事を歯牙にもかけなかった太夫がそんな依頼を受けるだろうか?そんな疑問が啓悟に浮かんだ。

    「じゃあこの後は俺は別の見世行くが、お前は楽しんで来いよ〜?」
    「……はい。」
    「荼毘の部屋まではあいつの禿(かむろ)が案内してくれっから、そいつに付いてけ。」

     じゃあな!と言いながら上司は去っていった。
     そしてしばらく宴会場前の廊下で啓悟が待っていると、「貴方が荼毘くんのお客さんですね!ご案内します〜!」と若い金髪の幼女が話しかけてきた。結いたふたつのお団子髪と八重歯が特徴的な禿は、部屋へと行くすがら、「お客さんは荼毘くんの事がタイプなんですか?」「荼毘くん優しいから、お客さんもすぐ虜になると思いますよ〜!」とくふくふ笑いながら話しかけてきた。そういう事に乗り気では無い啓悟は禿に曖昧な返事をしていると、禿の足が止まり、「ここです!」と言い放った。

    「荼毘くん、先程の宴会のお客さんです!」
    「……入れ。」

     禿が元気良く声をかけると、襖の中から先程から話題に出ていた太夫のものだろう、男の声がした。存外滑らかで綺麗な低音で思わず啓悟はどきっと胸が高鳴ってしまう。

    (いや、緊張してるだけやろ……男の声に、そんな……)

     スッ……と小さい音を立てて開かれた襖。
     部屋の中には先程宴会場で見た白髪の青年が胡座をかいて座っていた。そのせいで着流しは太ももの際どい所まで肌蹴ており、同じ性別の男の脚であるのに、その白く艶かしい足に啓悟は見てはいけないものを見てしまったようで、思わず目を逸らす。

    「では、ごゆっくりぃ〜!」

     最後まで元気な声をあげながら金髪の禿は部屋から出て行った。部屋に取り残された啓悟はどうしていいか分からず視線を彷徨わせながら部屋の入口で突っ立っていた。

    「座れば?」
    「……失礼シマス。」

     そんな啓悟に呆れたような視線を向けながら荼毘は啓悟に座るよう促す。どうしていいか分からなかったので正直助かった啓悟は、そのまま用意されていた座布団に正座で座る。
     対する荼毘は部屋で煙管をくゆらせていたようで、長い指で持った煙管を口元に持っていき、ふぅ……とゆっくり白い煙を吐いていた。そんな姿もとても様になっていて、啓悟は思わずぼんやりと見蕩れてしまう。

    「……で?」
    「っ、えっ?」
    「いつまで座ってんだ?お前は。」

     そう言いながら荼毘は啓悟の顔へ向けて白い煙をふぅ、と吹きかける。当然吹きかけられた啓悟は煙で噎せ、目にもしみたようで少し涙が出た。げほげほと咳き込み、返事もままならない啓悟に荼毘は目を細め口元に笑みを浮かべる。

    (こいつ、ほんなこつ性格悪かね……!?)

     啓悟は眉を顰めてそう思った。

    「……悪いけど、上司の顔立てるために来ただけで俺は寝る気無いよ。てか、太夫ってそんなに簡単に客と寝ないんじゃないの?」
    「そうか、なら帰れ。」

     スパッと言い切られた言葉に啓悟は思わずカチンとくる。

    「……いくら太夫だからって仕事受けたお客にそんな言い方無いんじゃない?」
    「知るか。やる気ねェんだろ?なら帰れ。俺だって忙しい。」
    「っかぁ〜、可愛くねぇ。」

     啓悟は身を正していた己に馬鹿らしくなり、座布団の上で行儀悪く胡座をかいて頬杖を付く。あからさまに不貞腐れた様子の啓悟に気を良くしたのか、荼毘は鼻で笑いながらまた煙管を唇に付け、白い煙を吐き出す。

    「……なァ、」
    「あ?」
    「なんで俺からの……俺の上司からの依頼受けたの?」

     上司に言われた時から気になっていた疑問を荼毘へぶつける。相手なんて選り取りみどりだろう太夫が、たかが宴会場で目が合っただけの言葉も交じわしていない自分をわざわざ選ぶとは到底思えなかった。

    「理由……理由ねェ……」
    「……」
    「お前があまりにも童貞臭かったから。」
    「はァッ!?!?」

     啓悟があまりな返答に目を見開いて驚くと、そんな啓悟に驚いたのか荼毘は目を丸くした後に面白いものを見るかのようにくつくつと笑った。

    「なんっ……!?なんそれ!?」
    「初めてだぜ。あんな場で呑気に手ぇ振られたの……どうだ?当たりかァ?」
    「……ッ、別に、なんでも良かろ。」
    「くくっ、そうか。」

     悔しさと恥ずかしさに顔を赤く染め顔を背ける啓悟を僅かに肩を揺らして眺める荼毘。

    「分かりやすくて面白いなァお前、気に入った。」
    「そりゃどーもッ!!」
    「筆下ろしならいつでもしてやるからまた来いよ。なんなら今すぐでもいいぜ?」
    「やらんわ!!」

     荼毘の生々しい物言いに啓悟は思わず勢いよく立ち上がり、もう部屋から出ようと荼毘に背を向ける。

    「まァいつでも来いってのは本心だぜ。ここは退屈だからなァ……何処へも行けやしねぇ。」
    「……抱きはしないけど、たまに遊びに行くくらいならしてあげてもいいよ。」
    「俺が抱いてやってもいいんだけどな?」
    「健、全、に!!遊びに行くだけだから!!」

     大声で言い返した啓悟にまたもくつくつと笑う荼毘。完全に己で遊ばれてしまっている。啓悟は眉を顰めつつも今度こそ部屋を去ろうと襖を開ける。すると荼毘から、「またな。」と声をかけられそれに小さく、「……うん。」と返事をした。
     ここの若衆である彼へ「また来る」と言ったのは、彼の境遇に同情した気持ちが無いとは言えない。でも、あの宴会場で見たつまらなそうな顔よりも、会話の中で見せた笑顔をまた見たいと思ったのは確かだった。
     啓悟はここへ来る時よりも軽やかな足取りで花街を歩いた。



















    「鷹見〜!昨日はどうだった!?」

     翌朝、いつも通り奉行所へ出勤すると、昨日啓悟と荼毘を引き合わせた上司がニヤニヤしながら啓悟を出迎えた。

    「……どうもしないッスよ。言ったでしょ?俺何もしないですよ、って。」
    「ちぇっ、な〜んだつまんねぇな……あ、でもイイ仲にはなったんだって?」
    「ブッ!!……げほっ、イイ仲って……そんなんじゃないッスよ。ただの友達です。ていうかなんであんたがそんな事知ってるんですか?」
    「ま、俺ァあそこの常連客だからなぁ〜楼主が教えてくれたのよ!」
    「そっすか……」

     どうやら昨日の事は荼毘から楼主へ伝わり、そして上司へと伝わったようだ。恐らくその辺りは荼毘が気を回して報告しといてくれたのだろう。太夫が満足した客、という事で見世も上司の面子も保たれた事に啓悟はそっと胸を撫で下ろす。……しかし、意外だ。自由奔放に見えて啓悟の事や周りの事もちゃんと見えている。どうにも荼毘の事がいまいち掴めない。
     
    「……あ、そうだ先輩。先輩なら詳しいと思うんですけど、遊女や若衆への差し入れとかって何が喜ばれるんですかね?俺いまいちそういうの詳しくなくって。」
    「お、そうだな〜……女なら綺麗な菓子とか簪とかが喜ばれるが、荼毘はどうだろうな?いまいちそういう交流の話を聞いた事がねぇ。」
    「そうなんですか……」
    「でも意外だったなァ?荼毘は依頼を受けた客と寝るのを拒まない事で有名だったから、てっきりお前と寝たもんだと思ってたぜ。」
    「あぁ、なんかそんな感じでしたね……しかしなんでなんすかね?太夫なら無理に寝なくても良いでしょうに。」
    「……そこがなぁ、あまりいい噂を聞かねぇんだよ。」

     上司が途端に顔を曇らせる。気になった啓悟は「噂?」と話題を催促するように問いかける。

    「あいつの顔の火傷、ありゃぁ……事故じゃねぇそうだ。」
    「……え?」
    「実は今の楼主は代替わりしていてな。荼毘を拾ったのは先代の楼主だそうだ。……だから、荼毘の当時を知るやつァ居ねぇ。しかし、楼主が代替わりしたての頃、荼毘の跳ねっ返りは相当ひどかったそうだ。ちょうどその頃に火傷も出来たんだろうと思われる傷の具合だったらしい。」
    「……」
    「最初の頃なんか、見世の誰もを嫌って寄せ付け無かったそうだ。その頃なんか酷いもんだ。荼毘は相手の顔も見ずに誰でも客をとった。周りからは生来の阿婆擦れだとも言われていた。……でも今の楼主はそんな風には見えなかったらしい。口ではどんなに甘い言葉を吐いても、目だけはどこまでいっても憎悪に燃えているような激しい感情を灯していた。そんなあいつと時間をかけてゆっくりと今の関係を築いたらしい。……だが、今でも誰もあいつの芯に触れる奴は居ねぇ。」

     珍しく真剣な眼差しで語る上司の言葉を啓悟は黙って聞いていた。暫くしてふ……っと表情を和らげ、いつもの快活な笑い顔に戻った上司は「喋りすぎたな。」
    と言い、啓悟の肩を大きな手のひらで豪快にバンバンと叩く。

    「いッて!!」
    「俺も詳しいことは知らねぇし、所詮人から聞いた話だ。あまり色眼鏡で見てやるなよ。」
    「……分かってますよ。」
    「がはは!!ほんじゃま、今日も仕事頑張るぞ鷹見!!」

     助平な上司だが、この人は本当に人の事を良く見ている。だからこそ上司として、人間として尊敬している。
     啓悟は去りゆく上司の背を見つめ、やがて彼の背中を追いかけんと歩を進めた。



















    2
     ​────あれから暫くして。
     仕事がある程度落ち着いた啓悟は、あの日以来行ってなかった花街へと足を向けていた。結局、荼毘への土産は巷で流行の小説を持っていく事にした。彼が何が好きかは分からないが、物語なら退屈している時なら暇つぶしに丁度良いだろうと思ったからだ。
     荼毘のいる見世が見えてくると、見世の前の通りが騒がしく、賑わっている事に気付いた。

    (……?なんだ……?……ッ、!!)

     啓悟は疑問から一拍してから気付いた。
     なんと、見世の格子部屋には太夫である荼毘が座っていたのだ。道行く者は滅多に見られない太夫の姿に足を止め、しげしげと眺め、中には下品な言葉を投げかける者もいた。
     啓悟はそんな輩に不快になりながら、横目で睨みつけ、見世の受付へと進む。

    「あの〜……荼毘、太夫と会いたいんですけど、今日他のお客さんとの予定でも入ってます?」
    「あぁ、鷹見さんですね。貴方の上司の方からお話を伺ってます。私がここの楼主でございます。」
    「……あぁ!楼主さん!!すみません、どうも……!!」
    「ふふ、荼毘太夫からも話を伺ってますよ。なんとも面白い青年だと。」
    「……ははっ」
    「大丈夫ですよ。荼毘太夫は​────」

    「遅せぇぞ。」

     途端、啓悟の背後からあの日聞いた滑らかな低音の声がした。
     勢いよくバッ!と振り返ると、ニヤニヤした顔の荼毘が先日の着流しとは別の、白地に銀の刺繍が所々施されたものを緩く着て立っていた。

    「お、前……」
    「せっかく啓悟が来るって聞いたから見世先で待ってたのに、お前スルーして受付に行くんだもんなァ……悲しいぜ俺は。」
    「俺のせいじゃなくね?ていうか、なんで俺が来るって知ってんの……?」
    「お前の上司がお前がソワソワしてっからそろそろ行くだろう、って教えてくれたぜ。」
    「先輩ぃ……!!」

     啓悟はあの笑顔がトレードマークの上司の顔を思い浮かべ、頭を抱え項垂れた。
     対する荼毘はニヤニヤと笑い、楼主もにこやかに啓悟の事を見ていた。

    「荼毘太夫、お客様をご案内してさしあげなさい。」
    「はいはい、分かったよ。」

     楼主と何回か受け答えをした荼毘は、啓悟の腕をグイッと引っ張り歩いて行く。
     訪れた部屋はこの前と同じ部屋で、二人分の座布団と小さい机。そして襖の開け放たれた隣の部屋にはひとつ分の布団が敷かれていた。

    「……ていうかお前、太夫なんだからあまり格子部屋に来ちゃいけないんじゃないの?」
    「来ちゃ行けないなんて決まりはねぇよ。ちょっと騒がしくなるだけだろ?」
    「それが問題なんじゃん……」

     しれっとそう言う荼毘に啓悟ははぁ……とため息を零す。しかし、荼毘はそんな啓悟を気にせず、啓悟が手に持っている荷物に興味を示した。

    「何それ?」
    「あぁ……これはお前への土産。退屈だ、って言ってたから本でも読めば少しは紛れるかなって。」
    「ふぅん……」

     荼毘はぺらぺらと本を捲り、中身を軽く見ているようだった。

    「……あ!本だけだと不便だよな……今度来る時はなんか良い感じの栞も持ってくるよ。」
    「……おう。」

     ぱたん、と本を閉じた荼毘は机の引き出しへと本を閉まった。存外、本を扱う荼毘の手は丁寧で、自分の贈り物を大切にされているようで何だか心がふわふわと落ち着かなくなる。
     啓悟は何だかいたたまれなくなり、そっと目を逸らした。

    「……俺が本読めねぇとは思わなかったのか?」
    「え?あっ、もしかしてそうだったの?ごめん、俺そこまで気が回らんかった。別の持ってくるよ。」
    「いや読めるけど。」
    「はぁ!?もう、なんだよ……」
    「……ここに来る客のほとんどは俺が読み書き出来ねぇもんだと思って来るからなァ。」
    「へ?……あぁ、確かに見世の子の生い立ちとかを考えたらほとんどがそうなのかも……?」
    「くくっ、あまり想像ついて無さそうだな。」
    「申し訳ないけど俺にはあまり分からないよ。」

     荼毘から話された内容に啓悟は苦笑いしながら頭を搔く。荼毘への贈り物に対して想像力の働かなかった自分を恥じたが、荼毘は機嫌が良さそうに微笑みを浮かべていた。

    「ありがとう。」
    「……へっ!?あぁ、どういたしまして……?」
    「ふはっ、お前本当に面白ぇな。こんな見世の若衆に対して贈り物とか、どういたしまして、とか。」
    「なんだよ、当たり前の事だろ。」
    「……当たり前、か。」

     ぽとりと落とされた荼毘の言葉。
     伏せた瞳は暗く淀み、先程まで機嫌良さげに浮かべていた微笑みは、今は何かを嘲るような引き攣った笑顔に変わっていた。

    「……荼毘。」
    「……」
    「お前って好きな物とかある?」
    「……は?」

     啓悟からの唐突な問いに荼毘は目を丸くする。

    「俺さ、お前のこと全然知らないし、今日お土産持ってくるのも結構悩んだんだよね〜。だから好きな物とか知れたら持ってきてやれるし、俺も悩まなくて済む。お前も嬉しい。よくない?」
    「好きな物……」
    「そ、好きな物。」

     荼毘はもう一度「好きな物……」と小さく言葉にした後、まるで迷子の幼子のように目をうろうろさせ、言葉を詰まらせていた。それが好きな物が沢山ありすぎて答えられないのか、それとも、好きな物が分からないのか啓悟には判断出来なかったが、やがてはく、と言葉になりきれなかった空気を吐き出した後に荼毘は小さく答えた。

    「蕎麦、が好きだった。」
    「……そっか。じゃあ次来る時は蕎麦を一緒に食べよう。」
    「……うん。」
    「甘いものとかは?巷じゃ結構洒落た菓子とかがあるんだけど。」
    「食った事ない。」
    「まじで!?じゃあまた今度持ってくるわ。逆に嫌いなものとかはある?」
    「……生臭いもんは嫌だ。」
    「じゃあ寿司とか刺身は無理だね。分かった。」

     荼毘の言葉に啓悟は笑って頷く。
     
    「ていうか食いもんばっか持ってきても仕方ないよね〜!他に欲しいもんはある?」
    「あ?だから知らねぇんだよ。何があるか、なんて。」
    「それもそっか……じゃあ俺が面白そうだな〜って思ったものを適当に持ってくるよ。」
    「つまんなかったら?」
    「えっ!?うーん……また別のを持ってくるよ……?」
    「……くはっ」
    「あ、お前またからかったろ。」
    「本当にお前面白ぇな。」

     くすくすと二人で笑いあった。
     彼のどこか影のある表情を今はただ、見ないふりをした。
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