Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    alcxdeepred

    @alcxdeepred

    支部 https://www.pixiv.net/users/45027521
    🌊箱 https://wavebox.me/wave/b44eoscwz9pncqpa/
    何かありましたらどうぞ〜。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🍎 🌈 📻
    POIPOI 18

    alcxdeepred

    ☆quiet follow

    夜食を作る🦌🌈
    🍙さんへ。
    もしかするとちょいちょい推敲するかもしれません…!
    料理のチョイスとか調理時間とか諸々適当です…!雰囲気を楽しんでいただけますと幸いです;;
    🦌🌈というか、かなり+よりな感じになっちゃいました🥺

    夜ふかしは厨房にて。 深夜。明かりが落とされた真っ暗なラウンジのソファに、ぐったりと身を預ける地獄のプリンセスこと、チャーリー・モーニングスターの姿があった。壁には色とりどりのペンで書かれたいくつものメモ紙がピンで留められ、その傍にあるテーブルの上にはホテルの運営に関する書類が乱雑に置かれており、床にも数枚書類が散らばっていた。そんな無数にある紙たちを横目に、疲労を溜め込んだような顔をしたチャーリーがゆっくりと深い溜息を吐き出した。

     今後のホテルの運営について。どうすれば罪人達がこのホテルに興味を持ってくれるのか。もっと良い宣伝方法は無いのか。探せばきっと、自分に出来ることが沢山ある筈なのに。ぐるぐると思考を巡らせてみたものの良い案は一向に浮かんできてはくれず、かれこれ数時間は経過している状況である。数時間前までやる気に満ち溢れていた姿は何処へやら、今じゃすっかり消え失せていた。

     艷やかな金色を両手でぐしゃぐしゃに掻き混ぜ、そのまま頭を抱えていた時。チャーリーの腹の虫が切なく鳴り響いた。
    「はぁ〜、お腹ぺこぺこ……眠気より空腹が勝っててこれじゃ眠れないわ」
     とはいえ、時刻は深夜。絶賛夜ふかし中である。この時間に食べてしまうのはやや抵抗はあるが、空腹を我慢したまま眠りにつける自信はない。それなら軽く腹に入れる程度に食事をとろうと考えたチャーリーは凭れていたソファからよろめきつつ身を起こすと、空腹を訴え続けるお腹を擦りながら、ひとり厨房へと向かうのだった。

     誰に咎められる訳でもないが、こっそりと厨房に足を踏み入れたチャーリーは厨房の灯りを点けると早速冷蔵庫の中身を確認し、そこにある材料や腹の空き具合、簡単に調理出来るものを考えた結果、スープを作ることに決めた。
    (あ……そうだ、以前アラスターが作ってくれたスープ! あれがいいわ! 初めて作るから時間はかかってしまうかも知れないけど、何だか無性に食べたい気分なのよね。こんな時間にアラスターを起こして作ってもらう訳にもいかないし、レシピなら教えて貰ったのを覚えているから、試してみようかしら)
     スープに使う食材は運良く全て揃っていた為、チャーリーは冷蔵庫の中からそれらを取り出して材料をひとつずつまな板に転がし、包丁を握る。まずは野菜から、リズミカルにトントントン、と包丁とまな板が音を奏で始める。
     そうして鼻歌をうたいながらうきうきで食材を切っていると、どこからともなく現れた赤い悪魔が突然視界に入り込んだ。
    《何をしているんです?》
    「わぁっ!?」
     驚きのあまり、手元が狂い変な方向に野菜を切ってしまうチャーリー。危なく食材に添えていた自身の指を切るところであった。危なっかしい彼女の手元に気づいた赤い悪魔は、自分がその原因だというのにやれやれと肩を竦めながら《料理中、よそ見はいけませんよチャーリー?》なんてこぼしていたがチャーリーは気にせず、りんごの形をした目を瞬かせた。
    「アラスター? もう、びっくりしたじゃない。貴方っていつも音もなく現れるから心臓に悪いわ! でもそういう、お茶目な所っていうのかしら? 貴方らしくて良い部分でもあると思うわ。ってそんな話はいいのよ。お腹が空いて眠れそうになかったから夜食を作っていたところなの。アラスターこそどうしたの? もしかして、貴方もお腹が空いて此処に?」
    《いいえ? 廊下を歩いていたら厨房から灯りが漏れていたので、気になって覗きに来ただけです》
    「なんだ、そうだったのね」
    《でもそうですね……アナタの手料理には興味があります。傍で見ていても?》
    「勿論! 夜食を作るだけだし、別に面白いことはなにもないと思うけれど。それでも良ければどうぞ?」
     突然厨房に現れたのはラジオデーモンこと、アラスターだった。ホテルのオーナーであるチャーリーを支えるマネージャーとしてホテルの運営に携わっている彼だが、常に飄々とした態度と腹の底を読ませない笑みを浮かべる彼は謎に包まれている存在だ。彼はチャーリーのやる事なす事を大方否定せず、隣で愉しそうに眺めながらも協力的な姿を見せていた。残虐な一面もあり更生なんて極めて困難な彼なのだが、チャーリーとの相性は思いの外良く。歌やダンスは勿論のこと、たまに笑いのツボや、食の好みなんかも似ていたのだ。そしてアラスターは料理が得意なこともあり、よくチャーリーやホテルの面々に手料理を振る舞っていた。彼の好物であるジャンバラヤの他に、スープや肉料理、デザートまで作れてしまう。チャーリーはアラスターほど料理が得意な方ではなかったが、簡単なものならレシピを見ずとも作れるといった感じだ。たまに豪快な手法を用いるため、厨房から焦げ臭い匂いを漂わせることもあるが、すぐにヴァギーが対処してくれるので大事に至らず済んでいた。
     でも折角この場に居るのなら、料理上手なマネージャーに手伝いをお願いしたいところである。チャーリーは自分よりもずっと上にあるアラスターの顔を見上げ、こてんと小首を傾げてみせた。
    「アラスターさえ良ければ、手伝ってくれないかしら……?」
    《ほう、私に手伝ってほしいと? まあいいでしょう。確かに、見ているだけではつまらないですし。料理は作る方が楽しいですからね! 一緒に作りましょうか、マイディア》
    「ふふ、ありがとうアラスター。凄く助かるわ」
    《ああ、そうだ。忘れ物ですよチャーリー》
    「?」
     アラスターがすっと右手を持ち上げ、パチンと指を鳴らしてみせると、ぽん。というどこか可愛らしい効果音と共にチャーリーの身体にエプロンが着せられる。同じく、アラスターもエプロンを身に着けていた。
    「わぁ! ありがとうアラスター!」
    《どういたしまして。それでは料理を始めましょうか。それで、何を作ろうとしているんです?》
    「この間貴方が作ってくれたガンボスープを作ってみたいの。あの時レシピも教えてくれたでしょう? だから早速試してみようと思ってね!」
    《! やはり私達は食の好みが似ているんでしょうねぇ、気に入ってもらえて何よりです。では食材を切って炒める工程はアナタに任せて、私はブラウンルーを作りますよ》
    「えぇ、わかったわ!」
     チャーリーは元気よく返事をすると、アラスターの指示通り残りの野菜を切っていく。玉ねぎ、ピーマン、パプリカ、セロリ。うぶ毛を取り除いたオクラも切り、お次は鶏肉やウインナーを切っていく。トントントン。チャーリーの奏でる包丁の心地良い音が静かな厨房に響き渡る。その隣で材料を手に戻ってきたアラスターがコンロに火をつけフライパンを温めていた。バターをフライパンに放り込めば、辺りはたちまちバターの香ばしい匂いがふわりと香り、食欲を刺激される。薄力粉も加え、アラスターは慣れた手つきでかき混ぜていく。バターの焼けるいい香りに鼻腔を擽られたチャーリーの腹が、また切なく鳴いていた。
     食材を全て切り終えたチャーリーはフライパン片手にアラスターの隣に並び、空いているコンロに火をつけた。オリーブオイルを熱したフライパンに切った食材をぱらぱらと投入し炒めていくと、フライパンの中で油と食材がぱちぱち、じゅわじゅわと良い音を奏で始める。チャーリーは焦がさぬよう慎重に炒めながら、ブラウンルーを作っているアラスターをちらりと見上げた。
     初めは広い厨房にひとりぼっちだったが、今は二人で仲良く肩を並べて料理をしているのだから、チャーリーは楽しくて仕方がなかった。やはりひとりぼっちは寂しい。料理をするのも、料理を食べるのも、誰かと一緒の方が嬉しいし楽しいに決まっている。偶然にも、アラスターが厨房を覗いてくれて良かったと心から喜び、胸を弾ませながら調理するチャーリー。隣にいるアラスターも、心做しか愉しそうに手元のフライパンに視線を落としていた。

    《こちらはもう良さそうです。そっちはどうですか?》
    「えぇ! 良い感じに焼けてるわ」
    《オーケー! では鍋に移しますよ》
     フライパンを覗き混んだアラスターがにっこり笑ってサムズアップしてみせる。そして鍋類の置かれている棚から深鍋を取り出しコンロへと置いた。チャーリーはそこに炒めた具材とブラウンルーを投入し、水を少しずつ加えながら混ぜていく。
    「うーん、火力がちょっと弱いかしら……?」
     何だか先程よりも火力が弱くなったように感じたチャーリーが身体を横に傾け、コンロの火を確認する。そこで、チャーリーはあることを思いつく。
    「大丈夫、ちょっとだけ。軽ーくやれば何とかなる、はず……えいっ」
    《!》
     チャーリーは不安げに何やらぶつぶつと呟いたかと思えば、人差し指をコンロに向けた。すると、形の良い黒い爪の先の空気が微かに揺れ、次の瞬間そこから炎が放たれた。穏やかな炎が、勢いを極限まで抑えてコンロに点される。チャーリーにしてはかなり加減したのだろう。急にパイロキネシスを披露されきょとんとするアラスター。コンロに点された炎が一瞬ブワッと大きく燃え上がり、鍋を飲み込むだけに留まらず火柱が近くにいた二人の前髪を掠めたものだから、ほんのちょっぴり毛先が焦げてしまった二人がゆっくりと顔を見合わせ、耐えかねた笑い声が厨房中に響き渡った。
    「あはははっ! アラスター、貴方っ、毛先がちりちりに……フフッ、だめ、ツボっちゃうっ、あははは!」
    《ニャハッ、ニャハハハハ! アナタこそ折角の美しい髪が焦げてしまってますよチャーリー!》
    「ふー、笑い過ぎてお腹が捩れちゃうわ。でも上手くいって良かった! これをやるとたまに鍋ごと全部焦がしちゃうんだけど。鍋の中は無事みたいだから、成功よね」
    《おやおや! アナタはいつもこんなエキサイティングな料理をしてるんですか?》
    「まさか! たま〜にしか使わないわ! 料理を初めたての頃は炎を使えば便利かなと思って、炎で直接食材を焼いてみたりしてたのよ。ほら、早くお肉を焼きたい時なんかにちょっと、こう、私の炎で炙ってみたり? まあ失敗も多いけど……兎に角使いようによっては便利なのよ! そういえば、ヴァギーとクレームブリュレを作った時はいい感じに表面を炎で炙ったわ……! それはもう完璧な仕上がりで、最高に美味しく出来たんだから」
     そう言って、自慢げに恋人との思い出を織り交ぜながら料理の成功エピソードを語るチャーリーは、笑い過ぎた所為で目尻に浮かんだ涙を指の背で拭う。弱まっていた火力はチャーリーのお陰で無事本来の火力を取り戻しており、火加減は安定していた。チャーリーが鍋の中を木べらでかき混ぜながら微笑ましい思い出話を続ける中、アラスターは至極つまらないといった顔で話を聞き流し、不機嫌そうに口元を歪めていることにチャーリーは気づいていない。チャーリーの視線は鍋の中に注がれたまま、絶えず語り続ける。
    《あとは任せても大丈夫ですね》
    「え? ああ、そうね。あとはトマト缶や調味料を加えて煮込めば完成だし大丈夫よ。手伝ってくれてありがとうアラスター」
    《これくらいお安い御用ですよ。じゃあ私は他にやることが出来たのでそちらはお任せします》
     とりあえず頷いてみたものの、正直アラスターが何をしようとしているのか気になって仕方がない。だが鍋から目を離すわけにはいかないので、引き続き鍋の中をかき混ぜながら次に投入する材料を準備していく。
     そうしてチャーリーがスープを作っている間、後ろではアラスターが調理器具を出したり冷蔵庫やオーブンを行ったり来たりしている。時折、チャーリーがそちらに向かって気になると言わんばかりの視線を投げるが、アラスターと目が合うことはない。
    「ねぇ、アラスターは何をしてるの?」
    《何でしょうね〜? 出来上がってからのお楽しみです》
     といった具合にはぐらかされてしまい、チャーリーはむっと頬を膨らませながらスープ作りに専念するのだった。


     それから数十分が経った頃、厨房内にはぐつぐつとスープの煮える音と、トマトベースの食欲をそそる良い香りがたちこめていた。
    「出来た……! 見てちょうだいアラスター! スープが完成したの! 貴方と私で作った初めての料理よ!」
     早く見てほしい、一緒に食べて味の感想をもらいたい、その一心でバタバタと忙しなくスープ皿とスプーンを用意し盛り付けていくチャーリー。一方アラスターはというと、冷蔵庫の中に何かを仕舞ってからチャーリーの元にやってきた。鍋に顔を寄せると、嗅ぎなれた香りを楽しむかのように、すんと息を吸い込む。それに合わせて、ふさふさの毛に覆われた耳がぴくぴくと揺れていた。
    《ん〜、香りだけでも分かりますよ。良く出来ましたねチャーリー》
    「褒めてくれるのは嬉しいけれど、まだ食べてないでしょ? ほら、貴方も座って! 一緒に食べましょう」
     チャーリーは厨房のテーブルにスープの盛られた皿とスプーンを二つ並べてから、厨房内の端に避けてあったカウンターチェアを運びそれらも並べていく。すべてのセッティングが完了し、あとは料理にありつくのみ。先に席についたチャーリーが待ちきれないとばかりにアラスターへ座るよう促す。その姿がまるで、おやつを待ちきれない子どものように見えたアラスターは小さく微笑んだ。姫君のあどけない様子に少々悪戯心が芽生えた赤い悪魔は、勿体ぶった動作でゆるりと歩を進めながら席についてみせる。
    《そうでした。アナタ、お腹が空いてずっと腹の虫が鳴いていたんでしたね! お待たせしてすみませ〜ん!》
     すらりと伸びた長い脚を組み、テーブルに肘をついてチャーリーの顔を覗き込むアラスターがニタニタと悪戯な笑みを浮かべる。まさか聞かれているとは思っていなかったチャーリーはその言葉を聞いて、顔を真っ赤に染め上げた。
    「えっ……やだ! お腹の音聞こえてたの!?」
    《はい♪》
    「うう〜〜っ……もういいわ食べましょう! スープが冷めちゃうわ!」
    「ハハハ! そうですね。では頂きましょうか」
     二人はスプーンを手に取り、まずはスープだけを掬って口に運んだ。酸味やスパイス、それから旨味とコクをぎゅっと閉じ込めたような深い味わいのスープがチャーリーのお腹を満たしていく。
    「あ……美味しい……! アラスターが作ってくれたのと同じね!」
    《これはこれは。初めてなのに美味しく出来ましたねチャーリー! アナタは料理のセンスもあるようだ。大変素晴らしい出来です》
    「アラスターが手伝ってくれたお陰よ。私一人じゃこんなに上手く作れなかったわ……!」
    《謙遜することはありませんよ。アナタに料理のセンスがあるのは事実なんですから。ですが、また作りたくなった時は是非とも私を呼んでください。二人で料理を作るというのも、悪くないでしょう?》
    「ええ、勿論大歓迎よ! 一緒に料理が出来るなんて嬉しいわ! そうだ、今度皆で料理をするのも良いわね。あ〜〜、でも鹿の死骸を厨房に持ち込むのは無しよ?」
    《おや、それは残念です。今度良い“食材”が手に入ったら振る舞って差し上げようと思っていたのに》

     アラスターとチャーリーは他愛もない会話を交わしながら、初めて二人で作り上げたスープをゆっくりと味わってく。具沢山なこともあり、すっかりお腹が満たされたチャーリーは満足そうに微笑んだ。
    「はー、美味しかった! まだスープが残っているからあとでヴァギー達にも食べさせたいわ」
     空腹が満たされ上機嫌な姫君は、カウンターチェアに座りながらくるくると回っていた。
     あとは食器を片付けて、歯磨きを済ませたらベッドに入ろう。脳内で次の行動を整理し、椅子からおりようとしたところで、どこからか香ってきた甘い匂いがチャーリーの鼻腔を擽り、思わずぴたりと動きを止める。
     コトリ。テーブルの上に何かが置かれた。チャーリーの手元にあったスープの皿はいつの間にか消えており、代わりに目の前に現れたのは白いココット皿。どうやら甘い香りの正体はこれのようだ。表面が黄色くて、バニラの香りが感じられるこれは一見、プリンのようにも見えるが。もしかして──。
    「クレームブリュレ?」
    《その通り!》
    「でも、いつの間に……あ! さっきこれを作っていたのね!」
    《えぇ、味は保証しますよ》
    「わざわざデザートを作ってくれていたなんて……嬉しい。ありがとうアル! でも、どうしてクレームブリュレだったの?」
    《……どうせなら、アナタの好きなものを作りたいと思いましてね! それに今夜は二人で料理を作る、そういう話だったでしょう? ですから、これはまだ完成していないんですよ》
    「?」
     完成していない、というのは一体どういうことなのか。チャーリーが思案する前に、アラスターはクレームブリュレの表面にカソナードを振りかけた。そこでチャーリーは気づいたのだ。クレームブリュレを仕上げる為の、最後の工程を。
    《ではパティシエール、仕上げをお願いしても?》
    「ふふっ、任せて!」
     チャーリーは自信満々な様子で指先をカソナードに向け、脳内にバーナーを思い浮かべる。一点集中をする意識で指先にパイロキネシスの炎を集め、慎重にカソナードを炙っていく。カソナードの焦げる香ばしい匂いが漂い、炙られてぶくぶくと弾けるそれがこんがりといい焼色に変わっていった。ココット皿を丸焦げにすることなく、上手にキャラメリゼすることが出来たチャーリーはレッドコーラル色の瞳をこれでもかと輝かせながらアラスターを見上げた。
    《どうぞ、召し上がれ》
     そう言ってアラスターはチャーリーの頭をぽんぽんと撫でてから、デザート用のスプーンを手渡す。二人で作り上げたクレームブリュレを前に、咥内に溢れ出す唾液をごくりと飲み込むチャーリー。先程自身がキャラメリゼした部分にそっとスプーンを沈めれば、キャラメリゼがパリッと割れる様がなんとも楽しい。カリカリな部分と一緒に、なめらかでクリーミーなカスタードクリームをスプーンに乗せて食べると、程よい甘さとほろ苦いキャラメリゼが口いっぱいに広がった。食感の違いが味わえるのもクレームブリュレの魅力のひとつだろう。舌が喜ぶとはまさにこのこと。あまりの美味しさにチャーリーは頬を抑え、うっとりと目を閉じながら幸せを噛み締めた。
    《お味はいかがです、マイディア?》
    「ん〜〜っ、美味しい……! とっても最高だわアラスター!! デザートまでこんなに美味しいものが作れちゃうなんて、貴方天才よ! パティシエの才能もあるんじゃないかしら!? ほら貴方も食べてみてっ」
    《っ、》
     感動や喜びを全身で表現してくれるチャーリーのご満悦な様子は見ていて飽きないどころか、そんな彼女の姿を好ましいとすら感じていたアラスターだが、興奮気味にクレームブリュレを乗せたスプーンを差し出してくるチャーリーの行動に、どこか居心地の悪そうな面持ちでふっと視線を逸した。
    《チャーリー。それはアナタの為に作ったものですから、アナタが食べてください》
    「こんなに美味しいものを食べないだなんて勿体ないわ」
    《私が甘いものをあまり好んでいないことは知っているでしょう?》
    「貴方の苦手な甘さじゃないと思うの。だから、ね。一口だけでも食べてみない? 折角二人で作り上げたデザートなんですもの……アナタにも味わってもらいたい」
    《……ひと口だけですよ》
    「ありがとうアルっ! はい、あ〜ん!」
     チャーリーは待ってましたと言わんばかりに張り切ってスプーンを差し出す。大きな口をしているくせに、随分と控えめに開かれたアラスターの口の中にクレームブリュレを届けたチャーリーは、優しくスプーンを引き抜いてじっと彼の反応を窺う。アラスターは咥内に広がる甘みとほろ苦さを舌の上で転がすようにゆっくりと味わい、こくりと嚥下した。その表情を見るに渋い顔はしていないので、きっと苦手な甘さではなかったのだろうと察したチャーリーはすぐさま味の感想を訊いた。
    「どう? 美味しいでしょ?」
    《美味しいのは当然ですよ。何せ私が作ったんですから。仕上げは優秀なパティシエールに頼みましたしね?》
    「ふふっ、ええそうよ! これなら私達でお店を出せちゃうかも」
    《でしたらメニューにジャンバラヤは外せませんね》
    「いいわね! じゃあ貴方がジャンバラヤを作る横で私はパイナップルピザを焼くわ」
    《グッドアイディア〜! 流石はマイディア、良いチョイスです! 味見は任せてください》
    「もう、そう言っておいて全部食べちゃうじゃないの?」
    《ニャハッ! その時はまた作ってくださいね♪》
    「あはは。これじゃあ私達がお店を出すのはまだまだ先の話ね」
    《それまで一緒に料理の腕を磨くのはどうです?》
    「あら、じゃあアルにみっちり鍛えてもらおうかしら!」
     二人の楽しそうな笑い声によって、深夜の厨房は一気に賑やかな空間へと様変わりする。お喋りは常に楽しい。いつかの赤い悪魔が言っていたように、二人は仲良く肩を揺らしながら会話を続ける。波長が合う二人にとって、この空間はとても心地良いものなのかも知れない。

    「そうね! じゃあ早速だけど、明日一緒にパイナップルピザを作るのはどうかしら?」
    《いいですねぇ〜! 食べたい気分だったんですよ。では材料も買いに行かなくてはなりませんね》
    「あ、パイナップル以外のトッピング買わなくっちゃね。私達以外、皆パイナップルピザが苦手みたいだから、他の種類も作りましょ? 折角ピザを焼くなら皆にも食べさせたいから! ふふふっ、楽しみだわ!」
     次なる料理の計画を立てながら笑い合う二人の間に、穏やかでゆったりとした時間が流れていく。チャーリーは嬉しそうに頬を緩めながら、クレームブリュレを堪能していた。そこには数時間前までラウンジのソファで項垂れていたチャーリーの姿はなく、美味しい料理でお腹も心も満たされたチャーリーの幸せそうな姿があった。
     姫君がクレームブリュレに夢中なっている中、お気に入りのマグカップにコーヒーを淹れていたアラスターが隣に戻ってくる。
    「ん〜、最っ高! 疲れなんて吹き飛んじゃうくらい美味しいわ! 作ってくれてありがとう、アル」
     何度も感謝と称賛を口にしながら食べ進める姫君は、今にもこの場をダンスホールにして踊り始めそうなくらいご機嫌だ。そんな彼女の喜ぶ顔を眺めながら、アラスターは湯気の立つマグカップにそっと口をつける。彼女を見ていると、どうにも調子が狂わされる。己のペースを乱されるのは酷く不快だが、良い意味で心地良いと感じる時もあった。今回の場合は無論、後者である。
     自身の口元が今、ひどく緩んでしまっていることは何となく分かっていた。だからマグカップを傾けることで口元が隠せていると思っていたアラスターであったが、どうやら隠しきれていなかったらしい。
     デザートに注がれていたはずのチャーリーの瞳が、いつの間にかアラスターへと向けられ、長い睫毛に縁取られた目が驚きに見開かれていた。
    「!……アル。貴方ってそんな優しい表情も出来るのね……?」
    《っ……》
     ジジッ──調子の狂ったノイズ音が小さく響いた。アラスターは気づいていなかったのだ。口元だけでなく、彼女を見つめる自身の眼差しが、指摘されてしまう程優しいものであったということに。
    《チャーリー、おかわりは如何です? 食べるのでしたら持ってきますが》
     ラジオのチャンネルを切り替えるみたいに、パッと話題をデザートへと切り替えたアラスターはマグカップをテーブルに置き、チャーリーの返答を待った。
    「え! えっと、いや、流石にこれ以上食べるのは。でも……ゔ〜〜ん。──やっぱり、もう一つ食べてもいいかしら……?」
    《勿論ですよ、マイディア》
     アラスターはこれでもかと口角を吊り上げ目を細めると、チャーリーの柔らかな金色に手を伸ばす。艷やかな髪に指を通し、指の隙間をさらりと流れていくその感触を楽しんだ後、そっと頭を撫でてからマグカップを片手に冷蔵庫に向かうのだった。
     普段からアラスターのスキンシップを多く受けている故、身体に触れられたり、頭を撫でられ慣れているチャーリーが先程のようなスキンシップに驚くことはない。あれがアラスターの通常運転なのだ。ただ、今日のアラスターの触れ方は、いつもとは少し違っているように感じた。チャーリーは撫でられた頭にそっと触れながら、冷蔵庫からクレームブリュレを取り出しているアラスターをじっと見つめた。
    (今日のアル、なんだかとっても優しい気がする……特別機嫌が良いのかしら)
     チャーリーはひっそりと口の内で呟く。視線の先、クレームブリュレとおかわりのコーヒーを用意しているビジネスパートナーを眺めながら、どこか柔らかな雰囲気を感じさせる彼の様子に、チャーリーは自然と笑みがこぼれていた。
     夜食をとるだけのつもりが、随分と長い夜ふかしになっていた。だがこういう時間も悪くない。そう思えるくらい、有意義な夜ふかしになっていた。
     二人はカウンターチェアに腰掛け、他愛もない会話や時に笑い声を交えながら、時間を忘れるくらいゆったりとしたひと時を過ごした。

     そんな二人だけの密やかで楽しいひと時は、チャーリーが大きな欠伸をこぼすまで続いたのだとか──。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    alcxdeepred

    DONE夜食を作る🦌🌈
    🍙さんへ。
    もしかするとちょいちょい推敲するかもしれません…!
    料理のチョイスとか調理時間とか諸々適当です…!雰囲気を楽しんでいただけますと幸いです;;
    🦌🌈というか、かなり+よりな感じになっちゃいました🥺
    夜ふかしは厨房にて。 深夜。明かりが落とされた真っ暗なラウンジのソファに、ぐったりと身を預ける地獄のプリンセスこと、チャーリー・モーニングスターの姿があった。壁には色とりどりのペンで書かれたいくつものメモ紙がピンで留められ、その傍にあるテーブルの上にはホテルの運営に関する書類が乱雑に置かれており、床にも数枚書類が散らばっていた。そんな無数にある紙たちを横目に、疲労を溜め込んだような顔をしたチャーリーがゆっくりと深い溜息を吐き出した。

     今後のホテルの運営について。どうすれば罪人達がこのホテルに興味を持ってくれるのか。もっと良い宣伝方法は無いのか。探せばきっと、自分に出来ることが沢山ある筈なのに。ぐるぐると思考を巡らせてみたものの良い案は一向に浮かんできてはくれず、かれこれ数時間は経過している状況である。数時間前までやる気に満ち溢れていた姿は何処へやら、今じゃすっかり消え失せていた。
    10311

    recommended works

    かほる(輝海)

    DONE逆転裁判
    成歩堂龍一×綾里真宵
    ダルマヨ。完全恋人設定。

    ナルマヨが好きなかほるさんには「さよならの前に覚えておきたい」で始まり、「ほら、朝が来たよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以上でお願いします。
    #書き出しと終わり #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/801664
    サヨナラの前に覚えておきたいことがあった。キミと過ごした時間と、その思い出。そして、その肌の温もりと匂い。ぼくはもう、誰かをこんなに愛することなんてないと思っていたから、心に刻みつけておきたかったんだ。でも、「お別れの前に、最後の『ふれあい』を……」なんてお願いするのは、男としてどうかと思ったし、実際そんな余裕もなかった。みぬきを養子として迎える手続きに、自分の弁護士資格の手続き。マスコミ対策も苦労した。
     あの頃、真宵ちゃんは何度かぼくに連絡をくれていてた。でも、タイミングが合わず、折り返しを掛けることも忘れ、少し疎遠になっていた時期もあった。ちゃんとゆっくり話をできたのは、全ての手続きが終わった後だったように思う。真宵ちゃんは、泣けないぼくの代わりに泣いてくれた。だから、ぼくは真宵ちゃんに「あの日の真実」と、今は姿が見えない黒幕について、ありのままを話したんだ。
     これで全てが終わったと思った。ぼくは表舞台を離れ、地道にぼくの道を行く。真宵ちゃんは、家元として堂々と陽の当たる道を歩いていく。だから、ここでお別れだと……。でも、実際は想像していたものと全く正反対の反応だった。
    『よか 1359