アラチャ「やめて、アラスター」
それはまさに悲痛な叫びであった。かたかたと震える己の身体を抱き、必死に絞り出された声がアラスターの耳を撫でる。アラスターにはその怯えきった声がまるで甘い囁きのように思えて、胸が高鳴るのを感じていた。怒った声も、泣いた声も、笑い声も、優しい声も。そして、自分の名を呼ぶ声も。チャーリーから紡がれる声は美しい響きとなってアラスターを愉しませた。こんなにも心地よいと感じたのは初めてだったのだ。生前にも様々な人間と出会い、個性的なものからありふれたものまで色んな声音を聴いてきたが、どれもチャーリーの足元にも及ばぬものであった。自分が今まで手にかけてきた者達の浴びるように聞いてきた断末魔、恐怖に染まった震える声、必死に命乞いをする醜い声。どれも遠い昔に聴いていた日常の音達だ。
懐かしい記憶の奥底を覗き込んでいると、耳心地のよい声がアラスターを現実へと引き戻した。
「アラスター。……ねぇ、お願いだからもうこんなことはやめて」
甘やかな響きに思わずうっとりしてしまう。ああ、どうして彼女という存在はこんなにも自分を狂わせるのだろうか。アラスターは無意識に笑みを深める。
チャーリーの大きな瞳からひとつ、またひとつと雫がこぼれ落ちていく。それが勿体ないと感じたアラスターはチャーリーの頬に手を添えて、ぽろぽろと頬を伝う雫を舌で掬った。彼女の涙が己の舌を濡らし、唾液と共に喉の奥へと流れていく。その感覚だけで目眩がしそうな程興奮を覚える自分はもう、彼女という存在に堕ちているのだろう。