犬も食わぬ イソ弁でお世話になって、自分を大切にしない先生のやり方が見てられなくて袂を分かち、そんな自分に弁護士を依頼したあの人をどうしても救いたくて独立までした。それから秘めた想いを告白して、渋る先生に脳みそをフル回転させながらひとつひとつ断る選択肢を論破していったのだが、最終的にはストレートに好きだと、そう伝え続けるのが先生の弱いところを擽ったらしい。
晴れて恋人になった今、困りごとが増えてしまった。先生が可愛くて仕方がない、それに自分の嫉妬深さにも驚いている。もともと先生は職業柄もあるけれど常に冷静で、心情を顔に出すことも滅多にない人だ。
「九条先生、隣いいですか?」
「はい、どうぞ」
九条先生がテントを張って生活している屋上で、座ってブラサンに手遊びしている先生の隣へと、スーツが汚れるのも気にせずに両膝を立てて座りこんだ。膝が触れあう近さに九条先生はなにか言いたげな視線を…そっと逸らした。以前ならば適切な距離というものはもちろんあったが恋人になった関係性で、普段は多忙で恋人らしい時間を持つのすら難しいときたらここぞといったタイミングを逃すつもりはない。
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