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    iguchi69

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    ジョ双SSチャレンジ 3/7

    長めのマフラー/こたつ/プレゼントトン、トンと苛立ち紛れにダイニングテーブルを叩くリズムは不気味なほど一定で、双循というミューモンに染み付いた音楽センスの堅実さを感じさせる。ああ見えて彼のドラムはバンド全体のサウンドを支える屋台骨として優秀なのだ。身勝手で傍若無人そのものの人となりからは想像も付かないだろう。

    いつもは逸る気持ちに走りがちなジョウのベースを本来のペースに引き戻すそれが、今は全ての物を突き放すように寂しく奏でられている。つまんねぇ意地張るなよ。そう言ったが最後彼の巻いている長いマフラーで首を絞められてしまいそうだから、ジョウは声にはしなかった。番茶を啜り暖を取る。
    「あったけぇ……」
    思わず出た感嘆めいたため息に揺らぐことのなかった爪音が早くなる。ワシは寒いんじゃ、どうにかせえと訴えているのは明白だ。ならばこちらに来ればいいものを。実に無意味でつまらない意地をめんどくさがるよりも愛らしいと思ってしまうのは恋人の欲目に違いなかった。

    一人暮らしのジョウのアパートにこたつ机がやってきたのは先々週のことである。愛用のお薬用ゼリーの懸賞として当たったものだ。特賞のワイファファ旅行には負けるものの、3等のこれも悪くはない。

    まだコタツ布団は買ってねぇんだけどな。そう漏らしたのが先週。もはや恒例となった週末のライブMCでほんの世間話として出した話題だ。その時、まだMIDICITYは秋と冬の狭間にあった。稼働させるのは息の白くなってからで良いと思っていたのである。そしてプレゼントボックスにこれが入っていたのが2日前だ。

    『来週から寒くなるそうです。暖かくしてくださいね♡』
    手書きのメッセージが添えられたそれはいかにも高級そうなラッピングがされていた。バンドマンとしての応援以上の意図を感じるなという方が無理だ。DOKONJOFINGERが活動を始めてから半年以上が経つ。近頃はこういったファンも目立ってきていた。今はまだ手を焼くほどではないから、これといって対処はしていない。後輩たちに悪影響が及ぶようになれば考えるだろうけど。
    加えて、こういった物品の支援が単純に助かるという事実もある。口に入れるものならともかく、どこからどう見ても市販のこたつ布団の1枚程度を私生活に介入させるくらい何だというのだ。

    それでも、お前は気に入らないんだな。
    室内にも関わらずコートもマフラーも脱がず、そっぽを向いている双循の不機嫌の理由は『明日、一緒にこたつ布団を見に行こうという約束が反故になったから』と『ジョウの部屋の暖房が壊れていて温まるには忌まわしいこたつに入る以外にないから』であろう。機能していれば最後、常夏と見紛うほどの温度で酷使される空調と来月の電気代が無事だったことにジョウは微かな安堵を抱いている。といっても、折角部屋にいる恋人と距離があるのはそれ以上に寂しいものだ。

    「おい双循、お前も来いよ」
    「結構じゃ」
    「あったかいぜ」
    「いらん」
    言葉では拒否する癖に、かといって踵を返して出ては行かない。その執着が可愛くてたまらなかった。ジョウは決心する。仕方ない。もともと覚悟していた出費だ。棚から落ちたぼた餅が食えないくらい汚かったと思うしかないだろう。

    「……じゃ、あっちの布団あっためといてやるから」
    「…………」
    こたつから足を出すと室内とはいえ冬の気温に身震いした。光沢のあるグレージュのコタツ布団は肌触りも極上で、不死鳥族の特性も考慮してか防火加工まで施されている。心底惜しいが、縄張り意識の高い犬の機嫌を取る為には諦めるしかない。新しく買い直すものはきっと安価で燃え易い量販品だ。尾の炎が燃えないよう、オレを興奮させるようなことをするなと言い聞かせなければいけないと考えると今から頭が痛い。
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