六年生対五年生ザザザッ━━━━━━
草を蹴る音が微かに聴こえる。本来は物音を立てるなんて御法度、でもそんな事言っている余裕も無い。後ろを振り向きつつ少年二人は走る。
「大変だ!一大事だ!大惨事だ!」
「黙って走れ、転ぶぞ」
これから、長い長い戦いが始まろうとしていた。
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「平和だな〜」
「平和だね〜」
のほほん、とした顔で教室の長机に伸びる生徒達が居た。忍術学園の五年生だ。彼等の悩みの種とも言える六年生の先輩方は皆実習だかで出払っている。つまり今は彼等が頂点なのである。一部だけ髪色の違う、頬の絆創膏が特徴的な五年ろ組獅宗大和はばたんっとその場に倒れた。
「堀土錬弦一郎先輩のクソデカボイスが聴こえないとこんなに平和なんだなぁ」
「おい、その言い方はあまりにも……他に声がでかい生徒に失礼じゃ無いか?」
「え、弦一郎先輩じゃないんだ、そこ」
特徴的なアホ毛のある五年ろ組百瀬桃玄、同じく特徴的な黒いアホ毛と両側に黒い毛のある五年ろ組根住透火が話す。大和は確かに!お前も声でかいもんな!と桃玄に言うと叩かれていた。とても平和なろ組の光景である。すると、こんこんと控え目な戸を叩く音が聴こた。視線をやれば、そこにはつんとした顔で立っている五年生の姿が。短い前髪と、黒と赤い髪、後ろの毛を団子にしている生徒。
「五年い組の卯佐擬泖人、どうしたんだ?」
「ん…」
根住の問に答えるように卯佐擬は視線を送る。その先に居たのは右目を前髪で隠している、卯佐擬と同じ保健委員会の猿喰千景が居た。猿喰はえっえっ…?と少し吃りながら卯佐擬の方へ近づく。卯佐擬は余り喋らない生徒な為、五年生全員に伝わる矢羽音で会話をし始めた。『負傷者数名、保険委員会全員集合』と。猿喰が負傷者…?と首を傾げた。こんな平和な日に、下級生が喧嘩でもしたのだろうか。
「ねぇそれって、先生達が騒がしくしているのに関係あるの?」
「五年い組志摩宗一郎、五年は組の黒金真も。どうしたんだ二人して」
長い髪と耳飾り、泣きぼくろが特徴の五年い組志摩宗一郎と黒と金の美しい髪を持つ五年は組黒金真。二人は卯佐擬の後ろに立ってにっこりと笑っていた。わらわらと桃玄や大和達もそちらに集まって行く。
「ろ組も何故か自習になったんだろ?私達もなんだ」
「六年生が居ないなら、普通は実習が増えるよねぇ」
「これは何かあったな、と私は思った」
「そして面白い事があるぞ、と思った」
「「だから来ちゃった」」
二人は仲良くいえーい、と笑っている。根住は欠伸をしながら卯佐擬を見やる。卯佐擬は特に気にしていなさそうに二人を見ていた。あぁ、これ保険委員会じゃなくても許される案件だ。それを察したのか二人も卯佐擬に問う。
「ねぇねぇ、その保険委員会の集まり、私達も参加しちゃダメ?」
「邪魔はしないからさ」
「おい、なんか嫌な絡み方みたいになってるぞお前ら」
「あ、えと…う、卯佐擬くん……大丈夫、なの?」
猿喰がそう聞くと卯佐擬はこて、と首を傾げる。
『俺にその権限は無い。聞くなら保険委員会委員長代理、五年は組櫛田辰巳に聞いて』
「あぁ、今六年生が居ないから櫛田が保険委員会委員長代理なんだ」
「櫛田なら許してくれるよきっと!行こ行こ!」
「あぁ!待ってよぉ」
『押さないで』
「ちょ、待てよ!俺も行く!」
「眠くなってきた……」
「おーい根住ここで寝落ちすんな、行くぞ行くぞ〜」
こうして五年生達はぞろぞろと廊下に並び、保険委員会の集まりにちゃっかり参加する事になったのだった。
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「あれ、随分と保険委員が増えたねぇ」
櫛田は保健室の戸を開けた卯佐擬の後ろを見て、穏やかな笑みでそう言った。遊びに来たよ、と言おうとして黒金は口を閉じる。どうやら思っていた以上に保健室は深刻だったらしい。櫛田はごめんね〜と軽く謝る。
「今、先輩方が怪我をして帰って来ててさ。余り大声上げたりしないでね?」
「どうしたのこれ……」
「うーん、毒を盛られたのかな…暫く安静にしていれば大丈夫。死ぬ程度じゃない」
死ぬ程度じゃない、とは多分五年生に言ったのではなく六年生に向けての言葉だった。保健室は数名の六年生が息を荒くし横たわっている。下級生があわあわと走り回っているのを見た卯佐擬が下級生の持っていた水の入った桶をひょいっと取ると、一緒に奥へ入って行った。慌てて猿喰もそれに続く。保険委員はそのまま保険委員の仕事をするつもりらしい。櫛田はとりあえず入口で寝落ちしている根住を中に入れると叩いて起こした。今は君の寝る場所無いよ、と。それはもうべしべしと。周りの面々も入口近くに座ると総出でべしべしと叩いた。根住が目を擦りながら何とか起床すると、んで?と宗一郎が声を掛けた。これはどういう状況なの?と。
「さぁねぇ。朝方、実習に行っていた筈の先輩方がこうして怪我を負って帰ってきたんだ」
「でも、全員じゃぁないよね?」
「そうなんだよね。多分実習中に負傷した先輩方のみ戻ってきたのかなって」
「じゃあまだ実習は続いてるって事なんだ」
「多分だけどね」
「それにしても、六年生の先輩方がここまで…毒でやられるなんて。相手は相当の手練って事?」
「いやぁどうだろう」
そもそも、いくら忍術学園六年生と言えども忍術学園を出てしまえばまだ忍者の卵である。こうなるのは仕方の無い事な気もするのだが。何より、櫛田には一つ引っかかっている事があった。毒とは千差万別、造り手によって様々だ。同じ毒を作れるのは、作り方を見て同じ様に作ったか、そもそも同じ人物が作ったかである。
「どういう事?」
「忍術学園に解毒剤があるのが不思議って話」
「あー、つまり?」
「この毒は誰かのを悪用されたのかもしれない。そう考えると……」
「……まだ、向こうに六年生の先輩方が捕虜として捕らえられている可能性があるって事?」
「可能性だけどね」
「保険委員会五年生、集合」
がら、と保健室の戸を開けたのはもしゃもしゃとしている髪の毛が特徴の五年は組宇流迂未だった。宇流迂がそう声を掛けると、ふと入口から顔を覗き込めば保険委員会じゃない面々の姿が。なんで居るんだよ、と呆れ気味に問えば宗一郎と黒金がにっこりと笑った。
「「面白そうだったから」」
「はぁ……まぁいいや、探す手間が省けたし。皆、学園長先生がお呼びだ」
「え〜何だろう」
「まぁ十中八九今回の件だろうね」
「取り敢えず全員集合な」
「ちょっと待ってて、引き継ぎして来るから」
ぱたぱたと櫛田が下級生の元へ駆けて行く。未だ眠そうにしている根住を宇流迂もべしべしと叩いた。周りも手持ち無沙汰だったのでべしべしと叩く。
「なんで皆して叩くの…」
「寝るからだよ」
「寝るからだね」
「寝ちゃうからだねぇ」
「あ、櫛田。引き継ぎ終わった?」
「うん。お待たせ」
櫛田と猿喰、卯佐擬が戻ってくると全員で保健室を後にする。宇流迂が歩きながら軽く状況説明をしだした。曰く、六年生の実習内容はとある城…キンダ城の潜入と調査。キンダ城とは余り忍術学園と関わりの無かった城だが最近少しずつ勢力を増してきていると噂を聞く。何も問題無ければ直ぐに終わる実習だった筈なのだが、夜中に実習中の六年生が伝達の為戻って来たらしい。その後朝方に現在の保健室に居る六年生が戻って来たと言う事だ。
「事務員の月霞さんが受付したらしいけど、まだ一部の六年生が戻って来てないって」
宇流迂が学園長室の前に座る。根住達も同様に座り、宇流迂が声を掛けた。中から入室の許可を頂き戸を開ける。そこには既に何名かの五年生が待っていた。あ、と五年は組爾都玄善が声を漏らした。お前ら何処に居たんだよと小さく問えば、宗一郎はにっこりと笑うだけだった。てか何で醤油瓶持って来てるの?とは思ったが言わなかった。学園長が軽く咳払いをする。全員が姿勢を正した。
「もう知っている者も居ると思うが、実習中の六年生が負傷して戻って来た。まだ実習先に一部の六年生が残っている。五年生の諸君は実習先に居る六年生の援護と救助、そして全員での帰還を命ずる」
「学園長先生、質問宜しいでしょうか?」
手を挙げたのは藍色の髪が特徴的な五年い組の佐伯瑠璃之助だ。瑠璃之助は手を下ろす。
「何故我々五年生が向かうのでしょうか?六年生が負傷している、まだ戻って来ない者がいる……この様な状況の場合、先生方が向かうのが正しいと思うのですが」
「それは我々から説明する」
瑠璃之助の質問に対し、そう答えたのは黒と緑の髪色で片目の隠れている六年生と髪を下に結んでいる六年生の二人。六年ろ組辻鈴丸と六年い組三重野靖だった。どうやら彼等は夜中に伝達をしに来た二人のようだ。特に外傷は見当たらず、毒に犯されている様子も無い。二人は実習内容を説明し出した。
要約するとこうだった。まず六年生はキンダ城の監視と警戒に当たる班、中に侵入そして調査する班に分かれていた。調査班は侵入自体は問題無かったが、予定の時間に戻って来なかったと言う。この場合を想定していた六年生は第二班、第三班を調査に向かわせた。しかし、彼等は負傷して戻ってきた。彼等曰く先に調査に入っていた者達が裏切った、と。その内容からするにキンダ城には催眠術を操る者がおりその術により一部の六年生が敵側に渡ってしまった……それを二人は学園長に報告。また負傷者達を帰還させた、という事らしい。
「あぁ、成程。だからなのか」
「何が?」
「毒だよ。何故医務室に解毒剤があったのかなと思っていたんだけど、催眠術により操られた六年生の一人に、六年は組の月宮白羽丸先輩が居るとしたら理解出来る」
「その通りで、中には月宮も居る」
三重野が頷いた。成程成程、と櫛田は一人納得している。はーい、と大和が手を挙げた。なら尚更、先生方が行くべきなんじゃないのかと。
「いや、この場合は五年が行くのが正解だよ。もし相手の術者が相当なやり手だったら、最悪の場合先生方も催眠術に掛かる可能性がある…」
「まだ催眠術ってのは余り聞かない、珍しいものだからな」
「先輩方も先生方も催眠術に掛かってしまった状態で忍術学園に奇襲されたら、無傷では済まないよね」
つまりは最終兵器教師軍は学園を守る為に残るべき、という事だろう。
「作戦は各々考えてくれて構わない。キンダ城の場所は分かるか?」
「はい」
「なら宇流迂はキンダ城への行き方を六年生と確認する様に。六年生は現在キンダ城に居る生徒の情報等を五年生に伝える事。明朝までに出発する様に。以上」
学園長のその言葉で解散となった。
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五年生は取り敢えずキンダ城について纏めようと部屋に集まる事にした。と言っても、全員が行く訳では無い。それこそ、上級生の居なくなった学園は狙われる可能性もある為数人編成で行く事となった。宇流迂は辻と三重野と共に別室でキンダ城への行き方等を話し合っている。
「で、取り敢えず…何か意見ある者挙手!」
「はい」
「はいどうぞ」
手を挙げたのは五年は組の牙奴嘉右衛門。彼はもしゃもしゃの髪を掻きながら気まずそうに言う。
「毒…月宮先輩と当たりたくないから辞退したいです」
「ダメです」
「えーーーーん」
即却下されていた。
「まぁ、なるべく月宮先輩とは当たらないようにしないとなぁ。あの人めんど…厄介だし」
「根住、今面倒って言った?」
「最後までは言ってない」
「厄介と言えば……あと戻って来てない六年生。多分、この人達が催眠術に掛かってるって事だよな…」
各々が顔を見合わせる。やりにくいよなぁ、が正直な感想だ。何せ六年生、一年とは言え強さは雲泥の差。こっちは何とか協力して複数人で勝つしかない。
「取り敢えず、六年ろ組の堀土錬弦一郎先輩は本当に侮れないから気を付けよう」
「同じくろ組の平化石之助先輩。あの人は火器を扱わせると厄介」
「は組の月宮白羽丸先輩は、 一人だったら何とかなるけど…誰かと組まれると厄介」
「火器と言えば同じくは組の天津大五郎先輩も厄介だよ」
『…い組とろ組の稘先輩達も、大変かも』
うーん、と全員が首を傾げる。まぁ、うん、あれだな。
「「「「「い組の四井守馬先輩は殴れば何とかなるだろう!!!!」」」」」
先輩を舐めきっている五年生達である。
「いやいや、ちゃんと作戦考えないとだろ」
「あ、宇流迂おかえり」
そう言い部屋に入ってきたのは先程まで辻と三重野から引き継ぎを受けていた宇流迂だった。宇流迂は空いている所に座ると、取り敢えず、と辻と三重野から引き継いだ内容を伝えた。
一、現在催眠術に掛かっていると思われるのは堀土錬弦一郎、平化石之助、月宮白羽丸、天津大五郎、稘仁兎、稘仁杜、四井守馬の七人。
二、状況を見るに催眠術に掛かっていても考える事や得意な事は出来るようで、白羽丸は得意の霞扇で六年生達に毒を盛ったと考えられる。
三、キンダ城の何処に誰が居るのかは不明。
四、キンダ城自体の戦力はそれ程強くは無い為少人数でも問題は無い。正し催眠術を扱える者が不明な為二人一組で行動する方が良い。
「って感じだった。どう思う?」
「うーん、まぁ取り敢えずは二人一組で中に入る班と警戒する班の少人数で行くのが妥当かな」
「じゃあ中に入る班四組に周りの警戒班一組で分かれるとして…」
「よーし、そうと決まれば…はいくじ引き!」
本当に、先輩を舐めきっている五年生達である。
「中に入る班は根住、卯佐擬、獅宗、牙奴、黒金、志摩、櫛田。んで俺、宇流迂の八人で行く事に決定だな」
「佐伯、玄善は周りの警戒班だな」
「うん。取り敢えずこの面々は残って、他の皆は各々委員会の下級生への指示出しや保険委員会の手伝いって感じかな?」
「そうだね。猿喰、悪いんだけど後宜しくね」
「わ、分かった」
因みに櫛田は幸運児すぎる為代理で別の者が引いた。選ばれなかった五年生達は各々部屋を出て行く。選ばれてしまった面々はさてどうしたものかと頭を抱えた。ぶっちゃけ選ばれたくなかった。だってとてつもなく面倒くさい。まぁ警戒班の佐伯と玄善はまだマシな方なのだが。
「後は二人一組になろう」
「先輩方曰く、行動が確認されているのは霞扇を使った白羽丸先輩、四井先輩、平化先輩、弦一郎先輩だそうだ。他の先輩方は姿を確認できていない」
「じゃあこの四人はほぼ確実に催眠術に掛かっているという事か」
「取り敢えずこの四人と当たる事を想定しておこう」
二人一組はある程度バランスを考えて組む事にした。組み合わせはこうなった。
根住と大和。根住は身軽さと柔軟性で大和の援護をする事になる。
牙奴と黒金。接近戦は牙奴中心として黒金が中距離で援護をする事になる。
卯佐擬と宗一郎。音に敏感な卯佐擬が宗一郎の援護をする事になる。
宇流迂と櫛田。一人で判断する事が苦手な宇流迂が櫛田の援護をする事になる。
ある程度バランスは取れているだろう。
「後は……誰があの人を引くか……」
「こればっかりは何処に居るのか分からないから完全な運だよ…」
「嫌だなぁ……」
「「「「「「「平化先輩とだけは当たりたくない!」」」」」」」
最悪ちぎっては投げちぎっては投げと振り回されて終わる。五年生達は平化をなんだと思っているのだろうか。
『……取り敢えず、武器や持ち物の確認して出発の準備した方がいいと思う』
卯佐擬が矢羽音でそう伝える。まぁそれもそうだなと各々が立ち上がった。
明朝、五年生達はキンダ城に向かった。
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「あそこがキンダ城か」
五年生達は近くの茂みに身を潜めている。少し先に見える普通の城のように見えるのがキンダ城だ。根住がうつらうつらと船を漕いでいるのを卯佐擬と宇流迂がべしべしと叩いて起こしている。佐伯と玄善が図面を地面に描く。城は四方から侵入出来るようになっている。何処に誰がいるのか分からない以上四方から四班それぞれ侵入するのが妥当だろう。佐伯と玄善は全体が見えるこの場所で待機となる。
「先輩方を引っ張ってここに戻ってこいよ」
「まぁ何とかなるだろ」
「ぐぅ……」
「寝るな寝るな寝るな!」
「不安要素多いね〜」
根住を叩き起し、四班それぞれが別々の道から城へ向かって行った。
牙奴、黒金━━━━━東
数刻後。
はぁ、はぁ……と荒い息が漏れる。何とか息を整えようとするも、そんな余裕は無い。黒金は即その場を飛び退いた。黒金が居た場所に無数の手裏剣が突き刺さる。牙奴が黒金に近付こうとするも同様に手裏剣で道を塞がれる。くそ、と心の中で悪態をついた。今、黒金と牙奴の目の前には二人の六年生、六年い組稘仁兎と六年ろ組稘仁杜の姿があった。この二人がとんでもなく厄介で苦戦している。
「どうするこれ!?近付けないぞ!」
「分かってるってば、あんまり大きい声出すのは駄目だよ」
っと、と黒金が短刀を持ち直し駆け出す。黒金の前には稘仁杜。仁杜は苦無を両手に持ち黒金の短刀を受け流した。ギギギッと金属の摺れる嫌な音が響く。黒金は隙を見て何とか牙奴と合流するか相手を変えるかしたかった。しかし仁杜はそれを分かっているのか上手い事立ち回り近付けさせない。接近戦はそんなに得意じゃないんだよな、と黒金は内心焦っていた。距離を取ろうとしても詰められてしまう。それは牙奴も同様だった。牙奴の前には稘仁兎の姿。仁兎は鎖鎌を振り回している為牙奴は迂闊に近づけない。接近戦に持ち込みたいが上手い事間合いを取られる。仁兎が鎖鎌を投げ付ける。それを避けるも、引っ張られた鎖鎌の軌道が読めない。あぶなっ、と牙奴はよろけた。
「流石双子、息がピッタリですね本当に」
厄介すぎる。どうしたものか…と黒金は考えていた。いや、作戦はある。あるのだが、牙奴が察してくれるかどうか……ちらりと牙奴を見やれば、理解しているのかいないのか分から無いが頷かれた。大丈夫、だって俺達同室だもん。
「行くよ!」
「うん!」
黒金と牙奴がお互い駆け出した。無理矢理にでも合流するつもりだろう。仁兎と仁杜は即座に二人の間に入り込み立ちはだかる。大丈夫、きっと何とかなる。黒金はそのまま駆ける。仁兎が鎖鎌を投げた。牙奴はそれを飛び上がって避ける。黒金は駆け抜ける勢いのまま仁杜と仁兎の足の間に滑り込み滑走した。牙奴が仁杜の前に着地する。黒金が仁兎の前に立ち上がった。形成逆転である。
「っしゃ行くぞ!」
「今のうちに叩き込む」
黒金が間合いを詰め短刀を振るう。仁兎は鎖鎌でそれを受け止め黒金の腹に一発蹴りを入れる。すんでのところで避けたので直撃は逃れたが、けほ、と咳き込む。仁杜が立ち位置を変えようと振り向くが牙奴がそうさせない。牙奴の拳を避け苦無で反撃するが接近戦の得意な牙奴はそれを手刀で叩き落とした。仁杜の一瞬の隙に牙奴は再度拳を握るが流石六年生、即座にもう片方の手に持つ苦無で牙奴を攻撃する。それを拳で殴り軌道をずらして、もう片方の拳で腹を狙うが仁杜が空いている手でそれを受け止める。足を払う様に蹴られ、牙奴は掴まれた手を基点にぐるりと視界が回転した。そのまま地面に叩き付けられる。黒金が仁兎に向かい駆ける。仁兎が鎖鎌の鎖で黒金の足を引っ掛け黒金は体勢を崩した。起き上がろうとするも首元に鎖鎌が当たる。牙奴も同様に起き上がろうとするも首元に苦無が当たった。勝敗が決まる。
「……参りました、って言ったら聞いてくれますかね?」
「ちくしょう〜!悔しい!」
仁兎と仁杜、それぞれが微かに手に力を入れた。そして━━━━━━━
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宇流迂、櫛田━━━━西
「わー、こう来たかぁ」
「流石というか何と言うか…」
櫛田と宇流迂は塀からひょっこりと顔を覗かせていた。二人の見る先には六年い組四井守馬の姿がある。堂々と仁王立ちしている所は本当に催眠術を掛けられているのか不安になるくらい普段と違和感が無かった。と言うか催眠術解けてるだろこれ、何か分からんけど仁王立ちしとくかみたいな感じだろこれ。
「どうする?」
「え、えぇ…戦いたくないけど、一応催眠術掛かってるか解けてるのか確認はしたいし……うーん……どうしよう…」
「じゃあ仕掛けるか」
「えっ」
「おーい!四井先輩ー!そこで何しているんですかー!」
「いやいやいやいやいや!何してるの!?」
「何って……声掛けた」
「なんで!?」
「お前らを待っているんだ!早く降りてこんか!」
「いや答えるんかい!」
櫛田と宇流迂は塀から降りる。四井はその様子を見て刀を抜く。うわーこれどっちなんだろう。気配でバレたから待ってたのか、本当に催眠術解けて仁王立ちしてたのか分からない。櫛田は鉄で出来ている大幣を取り出した。宇流迂も鉄拳を取り出し握り締め、四井が刀を構える。━━━━ふと櫛田が何かに気づいたのか宇流迂の腕を掴み駆け出し、近くの茂みへ逃げ出す。四井がそれを追う事は無かった。何が起こったのか理解出来ていない宇流迂が櫛田を見ると、櫛田は先程まで居た場所を見つめていた。同じくそちらを見れば、微かに霧のようなものが見える。もしかしてこれは……
「毒だね。凄く薄くされていたけど気付けて良かった、幸運だ」
「毒って事は……白羽丸先輩も居るって事?」
「多分ね。あのまま四井先輩と対面すると風下で毒が回っていたと思う」
「じゃああそこで四井先輩が仁王立ちしてたのは、俺達を風下に誘導する為って事だったのか」
やっぱり四井先輩も催眠術には掛かっているのだろう。兎に角このまま隠れているわけにもいかない。宇流迂は再度鉄拳を握り締めた。宇流迂が何とか接近戦で四井を足止めし、櫛田に白羽丸の対応をして貰うのが一番だろう。宇流迂の考えと同じなのか櫛田も大幣を持ち直した。たんっと二人で茂みから飛び出し、四井に向かって走り出す。四井が刀を振るった。それを櫛田が大幣で受け流すと懐に入り込み宇流迂が顎を狙う。四井がすんでのところで仰け反り飛び退いた。すかさず宇流迂が距離を詰める。兎に角間合いを詰める事だけを考えていた。そもそも宇流迂は接近戦の方が得意で、四井も接近戦の方が得意だろう。純粋な能力差では劣ってしまうが刀を振るった隙を上手く突けばまだ勝機はある。宇流迂がもう一度鉄拳で四井を殴ろうとするが、何処からか棒手裏剣が飛んで地面に突き刺さる。宇流迂の動きが一瞬止まったのを見逃さず四井が刀を振り下ろした。
「っく!!」
キィンッ、と鉄拳で刀を殴り軌道をずらす。櫛田は棒手裏剣が飛んできた方向を見極め手裏剣を投げた。近くの木に複数刺さると、木の上から白羽丸が飛び出してくる。四井が一旦距離を取ると、四井の隣に白羽丸が着地した。
「気合い入れてくぞ。白羽丸先輩はどんな武器でも扱えるから厄介だ」
「お手柔らかにお願いしますねぇ先輩方」
宇流迂が動き出す。四井が刀を振るおうと腕を上げたが、地面に手を付き刀を持つ手を蹴り上げる。四井の手から刀が離れた隙に体勢を立て直し殴り掛かるが、四井が後方に飛び退いた。そして白羽丸が突然目の前に現れ、宇流迂の前に粉を振り掛ける。目潰しだ。宇流迂の視界が潰れ、一旦下がる。櫛田が宇流迂の前に立ち大丈夫?と声を掛けた。
「痛ぇ……」
「暫く涙で流さないとだね」
「悪い」
その間何とか守らなければと櫛田が大幣を構える。ふと、白羽丸が静かに指を指した。何だ、と思った時には身体から力が抜ける。櫛田も宇流迂も何が起こったのか理解出来ず跪いた。
「風向きが変わったんだ。そこ、風下」
「くそ……さっきよりも薄い毒で…」
さっき櫛田にバレたからなのか、もっと薄い、しかし効力の高い毒を使用したのだろう。流石にお手上げだ。
四井が飛ばされた刀を手に取り、櫛田と宇流迂に近づく。刀を構え、そして━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
卯佐擬、宗一郎━━━南
とっ、と塀を乗り越える。宗一郎が着地し、卯佐擬も続いて着地した。広場のように広い空間を見渡すが、特に誰かの姿は見当たらない。宗一郎は息を吐いて卯佐擬を見やった。卯佐擬とは余り話した事が無い…と言うより卯佐擬は文字通り話す様な子では無いから連携が取れるか少々不安な所はあるが、まぁ何とかなるだろう。寸鉄を握り締め宗一郎は立ち上がった。卯佐擬も袋槍を持ち直す。今は穂先を事前に棒に付けている状態だ。ふと、卯佐擬が顔を上げた。何かに気づいたのか卯佐擬は勢い良く宗一郎に飛び付き横方向へ突き飛ばす。
「なっ、」
に━━━、言う前に先程まで居た場所に複数の焙烙火矢を見つける。焙烙火矢は間も無く爆発し、卯佐擬が覆い被さるように宗一郎を守った。爆風が収まり、卯佐擬がむくりと起き上がる。宗一郎は少し唖然とそれを見てしまったが、慌ててお礼を伝えた。卯佐擬はふるふると頭を振り気にするなと意志を示すと、ある方向を見つめた。宗一郎もその方向を見やる。げ、と声が漏れた。
「平化先輩……」
先程まで誰も居なかったのに彼はそこに立って居た。一番当たりたくなかった、六年ろ組平化石之助。火器を得意とする六年生で力も強い。筋力が余り無く純粋な力では宗一郎は勝つ事が出来ない。しかし、ある意味では当たって正解かもしれない。本当は怪力の櫛田の元に当たって欲しかったが、こちらには櫛田程では無いが力が強い卯佐擬が居る。卯佐擬が上手く立ち回れるように自分が動けば何とか勝機はあるだろう。卯佐擬も平化の姿を見て立ち上がり、袋槍を構えた。問題は、平化は火器全般が得意と言う点。どうにかして接近戦で行かないとこちらもキツい。
「……平化先輩、どうしたんですか?私達のこと分かりますか?可愛い可愛い後輩ですよ?」
「…………」
「…やっぱり操られてるのかな」
『来る。構えて』
「分かってる、よっ!」
宗一郎は寸鉄を持ち直し駆け出した。声を掛けても特に反応の無かった平化は案の定操られているのだろう。宗一郎が駆け出す瞬間にはまた焙烙火矢を投げていた。それを蹴り上げ後方に飛ばす。爆風に後押しされ姿勢を低くし平化の懐へ滑り込む。寸鉄を的確に急所に当てようとし━━━━━すんでのところで宗一郎は平化の肩を掴み飛び上がった。平化の手が空を掠める。しかし逆の手で肩に着いていた手を掴まれ、やば、と思った瞬間には壁に叩きつけられていた。っ!と宗一郎が衝撃に顔を歪める。慌てて顔を上げれば目の前には焙烙火矢。それを卯佐擬が的確に蹴り返した。焙烙火矢は平化の後方で爆発する。平化は駆け出すと手裏剣を取り出し卯佐擬に投げ付ける。きぃん、と卯佐擬がそれを袋槍で弾くと平化に胸倉を掴まれ放り投げられた。卯佐擬は空中で宗一郎と平化の間の空間に狙いを定め懐から取り出した手裏剣を投げ、宗一郎に掴みかかろうとしていた平化の動きを一瞬止めた。その隙に宗一郎は平化から距離をとる。隣に卯佐擬が着地した。
「きっついね〜」
『大丈夫?』
「平気。でも流石に痛いね」
『殴られないだけマシ』
「それはそうだ」
平化が駆け出した。宗一郎と卯佐擬も駆け出そうするが足元に手裏剣が突き刺さった。それを避ける為双方が逆方向に飛び退く。飛び退いた先には焙烙火矢。何個持ってんだこの人は!━━━━焙烙火矢が目の前で爆発する。どうやらこれは煙を出すのが目的だったらしく、あまり衝撃は無かった。卯佐擬が目を見開く。煙から伸びてきたのは平化の拳だ。平化の重い拳を袋槍で防ごうとするも、袋槍の柄がバギッと折れ卯佐擬に直撃した。げほっ、と卯佐擬が嘔吐くが平化は即胸倉を掴み卯佐擬を壁に叩きつけた。壁が崩れる。
「卯佐擬!」
宗一郎が呼ぶが返答がない。卯佐擬はぐったりと倒れ込んでいる。流石に直撃したら耐えられまい。平化が宗一郎の方を向いた。宗一郎は息を飲む。何とか平化と卯佐擬を離して卯佐擬の安否を確認しなければならない。宗一郎は懐から焙烙火矢を取り出すとそれを平化の方へ投げる。平化が飛び退くが、焙烙火矢が爆発した。衝撃は無い。しかし突然の閃光に平化の視界が潰される。宗一郎は目を瞑りながら平化の元に駆け抜ける。閃光が収まったが暫く平化は目を開ける事が出来ない。その隙に宗一郎は縄で平化を縛った。平化が縄で動けなくなった所で、宗一郎が卯佐擬に駆け寄り、肩を揺するが卯佐擬は目を開けない。
「卯佐擬、卯佐擬しっかり!」
「…………」
「卯佐擬!」
ゆらり…と宗一郎と卯佐擬に掛かる影。宗一郎が顔を上げた。少し離れた所にちぎれた縄が見える。平化が、拳を振り上げる。宗一郎がしまった、と思っても時すでに遅い。平化の拳が宗一郎に襲い掛かる。宗一郎は目を瞑り衝撃に耐えようとした。
「っ…!」
━━━━━ゴッッッッ!!!
鈍い音が響くも宗一郎に痛みは無かった。目を開ければ、地面に沈む平化の姿。そして顔を上げれば平化を殴ったのだろう卯佐擬の姿。え、こいつ、もしかして先輩を本気で殴った……??
「う、卯佐擬…?」
「…………きゅぅ」
ぱたん、と卯佐擬が宗一郎に倒れ込んだ。慌てて抱き抱える。卯佐擬は気絶してしまったらしい。え、えぇ……と宗一郎は混乱した。いや、櫛田程じゃないにしても、先輩を殴って沈めるとか、怖すぎる。でも助かった。宗一郎が息を吐き体の力を抜く。取り敢えず終わったみたいで良かった。卯佐擬が動けるようになったら他の皆の所に行かないと……宗一郎は卯佐擬の方を見ていたから気付かなかった。
━━━━ゆらり、と平化が立ち上がっている事に。
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根住、大和━━━━━北
キンッと金属のぶつかり合う音が響く。根住は飛んでくる棒手裏剣を苦無で打ち返していた。大和が隙を見て万力鎖をぶん投げる。万力鎖を避ける為相手は体勢を崩すが、体勢を崩しつつも棒手裏剣を打ち込んで来る。大和がそれを避け、根住の隣にすとっと着地した。相手…六年ろ組堀土錬弦一郎は音も無く着地し、静かに二人を見つめた。弦一郎が姿勢を低くし走り出す。弦一郎は身軽な為移動速度が速い。弦一郎は取り出した苦無で地面を削り、根住に向かい砂をかけ目潰しをする。根住が避ける為後ろに飛び退けた。砂をかけた動きを利用して弦一郎が回し蹴りを繰り出す。大和がまた万力鎖を投げようとし……根住に首根っこを掴まれ横に引っ張られた。
「ぐぇっ」
「ごめん!」
二人の居た場所に焙烙火矢が放り込まれる。爆発と同時に弦一郎はたんっと飛び上がり無駄に空中で回転して着地した。隣には六年は組の天津大五郎の姿が。弦一郎が距離を詰めて、大五郎が火器で攻撃を繰り出す。正直物凄くやりずらい。本当は接近戦の得意な大和に弦一郎を当てたい所だが、身軽な弦一郎に翻弄される未来が見える。だからこの場合は逆の方が良いだろう。
「俺が弦一郎先輩を引き付けるから、大和は大五郎先輩を先に潰して欲しい」
「分かった!」
っしゃ!と大和が駆け出した。弦一郎が棒手裏剣を投げるがそれを上手い事避けて大五郎の元へと駆け抜ける。弦一郎が苦無を持ち迎え撃とうとするのを根住が横から襲う。大和が根住の背を踏み台にし飛び上がった。万力鎖を振り回し大五郎へと投げる。大五郎はその体型からは想像も出来ないくらい即座にそれを避けて焙烙火矢を投げた。あぶねっ、と大和がそれを空中で蹴り上げ後方へ飛ばす。
「そう言えばこの人、動ける方のデブだった!」
「こら!失礼な事言うな!」
根住が慌てて大和に向かい叫んだ。その隙に弦一郎が苦無で根住の首を的確に狙う。何とか横に避け上体を傾けつつも弦一郎の足を払う様に蹴る。身体の柔らかい根住だから出来る体勢だった。しかし弦一郎は軽々とそれを飛び避けるとそのまま根住の頭を蹴り飛ばした。弦一郎も身軽さを武器に戦ってるだけあって中々攻撃が当たらない。一発が軽いだけまだマシだ。ぐらぐらする頭を抑えつつしゃがんでいた根住が顔を上げれば目の前には手裏剣。慌てて仰け反るように上体を倒す。ゴチンッと地面に頭をぶつけ、完全に目の前が揺れた。大和が根住の方を見て助けに行こうと大五郎に向かって走っていたのを方向転換する。万力鎖を投げ弦一郎が根住に近付けない様にし、目を回している根住を抱える。駆け出そうとするも目の前には焙烙火矢。くそ、と後方に飛ぶが間に合わず爆発に巻き込まれた。
「いってー!」
「おぇ…死ぬかと思った…」
「頼むからそのまま寝るなんて事するなよ」
「分かってる。ありがと」
「おう」
弦一郎が大五郎の横に戻る。大五郎は何処から持ってきたのか背丈程の大きなカラクリに手を掛けた。大和がすげぇ何あれ!すげぇ!と目を輝かせている。根住の顔が引き攣った。いやあれ、どう見ても、危ないヤツ……。大五郎がカラクリについている棒を引くと、ガコンッとカラクリが動きだし━━━━━そして焙烙火矢が大量に飛んできた。根住は大和を引っ張り逃げ出す。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「すげぇ!!かっけぇ!!」
「走れバカァ!!!!」
無数の焙烙火矢の爆発が連鎖する。なんで洗脳されてんのにそんな大層なカラクリ作ってんだあの人は!と根住が内心叫んでいると、逃げた先に弦一郎が居た。弦一郎が何かの糸を引く。途端、根住と大和の足元から大きな網が出現し、二人は見事に捕まってしまった。
「あー……負けですかねこれ」
「なーなー、あのカラクリもっかい見たいー!」
「はぁ……」
二人の前に大五郎も立つ。弦一郎が苦無を持ち、そして━━━━━━
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六年生対五年生━━━終
「えーーっと、質問宜しいでしょうか?」
「何だ?」
「何で卯佐擬と宗一郎以外は縛られているのでしょう…?」
「そりゃぁお前ら落第組だからだ」
「もう一つ質問宜しいでしょうか?」
「何だ?」
「……アンタら催眠術だ何だはどうしたんだぁぁあ!?」
宇流迂が叫ぶ。質問に答えていた弦一郎はわっはっはと豪快に笑った。因みに、今は上記の通り卯佐擬と宗一郎以外の五年生が縄で縛られて一箇所にまとめられている。六年生は皆あっけらかんとしていた。あの白羽丸ですらくすくすと笑っている。
「あぁ、催眠術な!あれは嘘だ!悪いな!」
「悪いで済まされる事じゃないだろ!?」
「そうか?」
ネタばらしをするとこうだった。そもそもキンダ城城主は学園長と仲が良く、今回学園長の突然の思いつきの六年生対五年生がしたいという要望に応える為場所の提供をした。催眠術だ何だは全て設定であり、六年生達は寧ろ正気で戦っていたと言う事だ。そら四井先輩が仁王立ちしているわけだよ……と宇流迂が肩を竦めた。どうやら勝敗は六年生が決める事のようで、今回は卯佐擬が平化を殴り一度沈めたから卯佐擬と宗一郎は合格……らしい。
「じゃあつまり?俺達はただ学園長先生とアンタらの遊びに振り回されたと…」
「大五郎先輩のカラクリめっちゃ凄かった!」
「ふっ、分かってるじゃないか…」
「そこ少し黙って」
「ぐぅ……」
「根住は寝るな!」
「仁杜も勝ったんだな!いえーい!」
「いえーい。危なかったけどね」
そこでふと、櫛田が白羽丸に質問した。
「あれ、じゃあ学園に戻ってきた先輩方は?」
「あぁ……あいつらは信憑性高める為に犠牲になった」
「申し訳ないなって思ってるよ…」
「面白かったな!クジで毒を浴びる奴決めるの!めちゃくちゃだった!」
「アンタらもクジなんかい…」
と言うかこの大掛かりな悪戯の為に本当に毒を浴びた先輩方、ご愁傷様すぎる……!
「しかし卯佐擬!お前平化を殴ったとは流石だな!よしよしよし!」
「………」
「宗一郎くんも良い動きしてたって聞いたよ。凄いねっ」
「ありがとうございます〜」
「平化やられてんの笑えるな!」
「はー!?そもそもこっちは二対一のハンデ背負ってたんですー!」
「負け惜しみか!」
「殴る」
「こらそこ!武士たるもの正々堂々勝負しろ!」
「「俺(私)は武士じゃない!!」」
「煩いぞ貴様ら」
六年生はあんなに動いたのにとても元気だ。やはり一年とは言え力の差は雲泥の差という事なのだろう。はぁぁ…と宇流迂は溜息をつく。取り敢えず、先輩方が無事で良かった。と言うか先輩に対して普通に殴った卯佐擬ちょっと怖いと思った。すると、仁兎と仁杜が五年生達を解放していく。
「え?終わりっすか?」
「うん?何言っているんだ?」
「は?」
にやり、と六年生達が笑った。それはもう、楽しそうに。
「まだここに来てない五年生達が居るだろう?……という訳で!六年生対五年生第二弾!今度はお前達もこっち側だからな!」
多分この先輩達は馬鹿なんだと思う。
「えー!面白そう!やったー参加参加!」
「俺またあのカラクリ見たいっす!」
「毒は勘弁ですけど、俺もそのカラクリ見てみたい」
「ぐぅ…すぴ……」
「あはは、参加出来るとは幸運だなぁ」
「次は仕掛ける側かぁ。楽しそう」
「……」
多分この五年生達も馬鹿なんだと思う。
こうして忍術学園一大事件、六年生対五年生の話は幕を閉じた。他の五年生達が巻き込まれたのかはまた別のお話。
因みに、第二弾一番最初の被害者は佐伯と玄善だったりするのだが、それもまた別のお話。
━━━━━━━━━━━━━━━終わり