無題(燐ひめ) ここを好きに使っていい、お付きは気に入った奴を引き抜いていい。
そう言って天城は出て行った。
「好きに使っていい」
あの場所に自身を売ってから、自由にできるものはなかった。だから突然手にしたそれは、手に余る。
彼が住む城の、いわゆる大奥に越してきてから季節が一つ進もうとしていた。
「めるめるー今夜もよろしくな」
いつものように呼び出されてやることといえば、宴席や個人的な場での舞や歌。もちろんそれは大切にしてきた自分の一部で、認めてもらえることは嬉しいことではあるけれど。
「それだけでいいのでしょうか」
横たわる要にそっと話しかける。
街にいる頃主治医であった巽が出入りしやすいこと、城の喧騒から離れていることから選ばれた外れに位置する離れ。池の上を吹き渡る、涼しい風が2人の髪をなぜていた。
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