ひとつは全てを学ぶため 料理番を任され数ヶ月も経つと、誰がどれくらいの量を食べるのか大体把握が出来てきた。大食漢が多い中、ダントツで食べるのがボスだ。
長盆を手に、わらわらと食堂へ集まって来た仲間たちをすり抜け、出来上がった料理を一番にボスの前に並べる。山盛りの肉に紛れてコッソリ野菜を忍ばせてあるのは秘密だ。
「お、今日も美味そうだな!」
最後の皿を置き終わると、上機嫌に頭をグシャグシャ掻き混ぜられる。
「わっ、ど、どうも」
乱れた前髪の隙間から顔を盗み見ると、鮮やかな瞳と視線がかち合い慌てて目を逸らした。ただ目があっただけなのに、ドクドクと心臓が高鳴る。
てめえの好きなのものはなんだよ。
昨日そう問われ、真っ先に浮かんだのは目の前のボスその人だった。パッと浮かばないなどと誤魔化したが、一度自覚してしまった感情に蓋は出来ない。
憧れ、とか、尊敬、なんて言葉だけじゃ足りない。ボスに対してそれ以上の気持ちを抱いている事に気付いてしまってから、まともに顔を見られないのだ。
「そういや、呪文考えたのか?」
「あっ、えっと、一応…」
「どんなんだ。それでシュガー作ってみろ」
頬の熱さを感じながら、長盆を小脇へ追いやりおずおずと両手で受け皿を作った。
「…アドノディス・オムニス」
掌へ柔らかな光が生まれ、その光が次第に輪郭を強め均等な八芒星を形取る。自分でも驚くほど上手く作れた。
「へえ…いいじゃねえか」
ボスはそう言って目を細めると、シュガーを摘んで口へ放り込んだ。味もまぁまぁだと褒められ嬉しくなる。
込めた意味には気付かれただろうか。
「励めよ、小せえの」
「…っす」
バシッと強めに背を叩かれ、下がるよう促される。
アドノポテンスム。ボスが使う古い言葉。それと同じ言葉から選んだ呪文。いつか一人前と認めてもらえるように、ボスの役に立てるように、願いを込めた。
俺は、もっと、あんたを知りたい。