let's買い出し! 長袖では汗が滲むほど暑い昼が終わり、ゆっくりと気温が落ち着き始める夕暮れ時。赤く染まった夕暮れ時の空は、昼と違い視界に入りやすい分、余計に眩しさを感じさせた。
「もう夕暮れ…少し急ぎましょうか」
「そうですね」
大きな買い物袋を片手に、陽の光を避けるように日陰に沿って進む榊の後ろを篠宮がついていく。
開花宣言がなされて早数週間。その前に偶々顔を合わせた際、なんやかんやで集まって花見をしようと言う話にはなった。しかし参段が二人、壱段が一人、挙句所属も異なる面子は中々休みが合わず、桜が散るギリギリとなってしまった。
「すみません、俺のせいで気を遣わせてしまって」
「俺たちの休みが簡単に合うわけないでしょう。日程に関して何か言うなら、調整した水無瀬さんにしてください」
「あ、いや、そっちではなくて…」
アルビノ体質を気遣われ夜開催になったことに対しての謝罪だったのだが、寧ろそっちの謝罪の方が不要だと呆れ声で返事される。
「他は知りませんが、俺たちは花より団子派なので気にされても困ります」
「そう、ですか」
また気を遣わせてしまった、とは思わなかった。今手に持っている袋の中身を見れば、それが事実だと直ぐに分かったからだ。
◇◆◇◆◇
ほんの十分ほど前。買い出しを任された榊と篠宮はスーパーの惣菜コーナーに居た。どれを買っていこうか、と相談を口にする前に、篠宮が片端から買い物カゴへと商品を突っ込んでいく。
カゴの半分を埋めてもまだ追加していく様子に、六人分とはいえ流石に買いすぎては?と聞けば、さも当然のように一人分だと返され、一瞬訳が分からなかった。
「ウチのが食べる分です。気になるものがあったら適当にカゴ入れてください。カードで支払うので」
「えっ、あ、はい…。あの、いつもこれだけの量を…?」
「普段は抑えてます。種類を食べたがるのと、量はいくらでも入るので、残ったらアイツが全部食べます」
山ほど積まれていく惣菜たちにポカンと開いた口を塞げない。
一通りを取ってさっさと足を進める篠宮に慌てて着いていけば、今度はお酒コーナー。
「どれ飲みます?アイツ逸話系以外ならワクなので、こっちも残っても処理には困りませんが」
「俺は下戸なので、これで…篠宮さんは?」
「ザルです。好みは特に。他は…まぁ、適当にビールと日本酒でいいか」
躊躇なくビールを箱買いする姿に、篠宮がなぜクーラーボックスを持っていたのかを理解した榊だった。
◇◆◇◆◇
(そういえば、支払いを任せてしまった…)
カードで支払うからとレジを任せてしまったが、これでは奢られる形になってしまう。
「あの、代金後で支払いますね」
「? 九割ウチの分なので要らないです」
「えっい、いや、そんな訳には!」
焦る榊に律儀だな、と思う。思うだけで言いくるめる算段は立てない。そもそも本気で代金を受け取るつもりがないのだから当然だ。寧ろ下戸の榊に酒の入った一番重たい袋を持たせてしまって少し申し訳ない気持ちすら湧いているのに、これ以上されたらたまったものじゃないとすら思う。
一方榊も焦る。あんなにも長いレシートは見たことがない。総額はかなりのものだろう。ただでさえ大量の荷物を一人で運ぼうするのを止め、なんとか一番重たいものを一つ受け取れたばかりだ。
同段位とはいえ年下に奢られるのは流石にまずいと、口下手でも必死に言葉を尽くす。だがそれを聞くつもりが一切ない篠宮は、どんどん右から左へ聞き流していった。
「もうすぐ合流しますよ」
「篠宮さん」
滅多に聞けない榊の大声を珍しがることもせず、篠宮は面倒くさいと思った本心を隠すように歩みのスピードを早め、前を歩いていた榊を追い越し更に進む。
とっくに見えなくなった陽に変わり街灯が照らす道の下、彼らの宴がもうすぐ始まる。