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    ran_1z

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    ran_1z

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    冠雪漫画の補足ネタ、のつもりが詰んだ。

    #冠雪小話
    crownSnow
    #刀神
    knifeGod

    桜の下の待ち人「此方に居たんですね、冠者様」
    「お迎えにあがりましたよ」

    満開の桜の木の下に佇む尋ね人を見つけて声をかける。
    山は一面、桜色に覆われ正しく圧巻の景色で。
    「……雪鶴、」
    ゆっくりとこちらを振り向き私を視界にとらえて口を開いたのは、私が今1番に会いたかったお方。低く、落ち着いた声が私の名を呼ぶ。
    「えぇ、冠者様。」
    「ぬしは、何処に?」

    「私ですか?…帰郷、と言うのでしょうか。」
    私が生まれてすぐ奉納されたあの場所を、私が守れなかったあの場所を、故郷と呼んでも許されるのかは分からないけれど。自身の原点であるその地を訪れたのは……、今の私なら、故郷の冬を終わらせられるのではないかと思ったから。でも結局は、私の力など無くても故郷は冬を終え、既に春を迎える準備をしていた。故郷を雪崩が襲ったのはもう200年以上も前のことで、その場所はもう集落も何も無くなっていて、小さな祠と雪の下で春を待つ蕾達があるだけだった。勿論とうの昔に長すぎた冬を終え、幾度と春を迎えていることだって分かってた。それだけ、時間は経ちすぎてしまっていたから。
    もうこれは私だけの問題であり、いつまでもその後悔に囚われているのは私だけと思い知らされただけだった。……それでも、確かに意味のある時間だったと思う。自己満足の旅であったとしても。

    「…私が守れなかったあの土地にも、少し遅めに春が来そうです。私が留まってしまえば、春がもっと遅れてしまうかなと思って…春を待たずに帰って来ました」
    雪解けの故郷を訪れ、私はそこに確かに春の陽気を感じたのだ。もうきっと、大丈夫。

    そして帰って来るなり、慌ただしい天照本部。桜山騒動の話を聞き、冠者様と萬鬼様も居なくなっていたので身一つで迎えに来てみれば、彼等は彼等で私が行方不明になったと捜しに来ていたというのだから、おかしな話だと思う。しかしそれがどうしても嬉しくて、…もしかしたら今の私の表情にも隠しきれない気持ちが漏れてしまっているかも。
    そういえば、先程私を見た時の冠者様の瞳に安堵の色が見えたのも、その所為だったのかと今になって気づく。

    …ふふ、なんて愛しいお方なのでしょう。

    ふわりと、春の風が頬を撫でる。
    北にある私の故郷はまだ少し冷たさの残る風だったけれど、こちらはもうすっかり春が来ていたみたい。冠者様のくすんだ色の紫がかった銀の髪に、桜の色が溶けてとても綺麗。その表情はいつもと変わらないのに、何処かやわらかくて、温かくて、冠者様もちゃんと春を感じているように思えた。

    不意に冠者様がこちらに手を伸ばして、私の髪についた桜の花弁を掬う。ふと感じた彼の熱が心地よい温度で、その手に吸い寄せられるように頬を寄せてみる。

    「冠者様、…心配、させてしまいましたね。
    探してくれてありがとうございます」
    「…構わぬ。ぬしが迎えに来てくれたからな。」

    私の事を案じてくれる冠者様の手が、慈しむ様に頬を撫でいく。私にはその表情がどこか優しい笑みを含んでいる様に感じて、つられるように私も口角が上がってしまう。

    故郷から帰り、一番に会いたかった冠者様。私が見たこと、感じたことを一緒に共有させて欲しかった。いつも私が独り善がりにその日の出来事や感じたことを話して、それに冠者様は相槌を打ちながら聞いてくれる。それだけだけど、冠者様はしっかり私の考えを受け止めて一緒に考えてくれる、それに私がこれまでどれだけ救われてきたことか。
    私がずっと思い悩んでいた、この自身の熱のこともそう。雪に埋もれ熱を奪う事しか出来ない、冷たい私の温度もちゃんと感じ取ってくれる冠者様。こんな私でもあたたかいと、まるで人の子みたいだと、冠者様が言ってくれたから。その声色も表情もいつもと変わらないのに、…あたたかったから。私も、彼自信が分かりづらいと気にするその表情の温度をもっと感じたいと思った。不器用だけど真っ直ぐな貴方の温もりを、誰よりも、見つけていきたい。
    同じものを見て、お互い違う感情を抱いても良い、ただ貴方がどう感じて私がどう思ったか共有したい。
    それだけで心は満たされるものだと、貴方に教えてもらったから。

    「冠者様と、この景色を見ることが出来て良かった。」

    向かい合う、冠者様の深紅の瞳に映る自分の表情が余りにも幸せそうに微笑んでいるものだから、少し恥ずかしい気持ちにもなって。顔に熱が集まってしまっているかも。

    「…またこの次も、これからも…、」

    何をして欲しいとか多くは望まないから
    ただ、願わくばまた、

    「このあたたかい景色を、貴方様と見たいと…。」

    この望みすら、傲慢なのかもしれないけれど。
    …そう願って止まないのです。
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