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    owtonafe

    @owtonafe
    元気に推しを推したい小心者

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    owtonafe

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    進捗 今回は入学からのことを書いてます
    言葉はまだ全然整えてません🙇‍♀️

    原稿の最初の方アッシュの毎日は目まぐるしかった。
    授業は真剣に聞いて、わからないことはすべて書き留めた。
    教室に残って唸りながら復習をしていると、新任の教師はたびたび助言をしてくれた。
    そのうちにいつの間にか同級生も声を掛けてくれるようになった。

    一日も早く学校生活に慣れようと、アッシュは当番も精一杯取り組んだ。
    食事当番などは授業よりもよっぽど気が楽だったので、
    夢中で働いていると食堂で働く人々とはすぐに親しくなれた。
    人懐っこく真面目なアッシュにたいていの人は好意的だった。

    訓練場の端で邪魔にならないようにとこっそり鍛錬に励んでいた時には、
    「精が出るな」と王子から声を掛けられ、心臓が飛び出そうになりながらも
    アッシュは嬉しくてとびきり大きな声で返事をした。

    アッシュは騎士を目指しているからと、槍術と馬術に力を入れたいと教師に申し出た。
    弓だけは覚えがあったのでまあまあ使えたが、そのほかはてんで素人だった。
    教師はアッシュの要望を聞いて指導内容を考えてくれたし、厩舎の当番もアッシュに多く回してくれた。
    当番では別の生徒と組んで仕事をするので、アッシュはついでに自分の不得意についてを相談することができた。
    特にイングリットはアッシュの志にとても関心し、馬の世話を一通り丁寧に教えてくれた。
    それから学級で馬術が一番優れているのはシルヴァンだろうということも教えてくれた。
    彼は教え方も上手で、子供のころにイングリットもコツを教わったのだという。

    大樹の節も3週間が過ぎたが、アッシュはシルヴァンとはまだ挨拶以外の会話をしたことがなかった。
    シルヴァンは授業以外では教室にも訓練場にもめったに居なかったし、
    その姿を見かけたとしても、たいてい誰かと一緒にいたからだ。
    アッシュが耳にした噂では、シルヴァンは夜な夜な遊び歩いているだとか、
    女性をとっかえひっかえしているだとかで、たいそう素行の悪い人物だそうだ。
    たしかに堅物には見えないが、初めて彼を見たときの鋭い視線を思い出すと、
    アッシュにはその話が全て額面通りだとはどうしても思えなかった。


    ある日の夜、多くの生徒は夕食を取っているであろう時間で、書庫にはほとんど人がいなかった。
    アッシュは勉強でわからないことがあれば、すぐに誰かに尋ねたり本で調べたりしていて、
    その日も授業でやったところよりも少し簡単な算術の復習をしたくて本を探していた。
    アッシュが精いっぱい背伸びをして棚の上の方の本に手を伸ばしていたところに、
    後ろから「これか?」という声とともに大きな手が本を指さした。
    「そうです、あ?」
    アッシュが振り返ると、シルヴァンが易々と必要な本を掴んで渡してくれた。
    「ありがとうございます!えっと、シルヴァン……」
    「よく名前を覚えてたな、アッシュ」
    「もちろんです、みんな覚えましたよ」
    アッシュは誇らしげに答えて、シルヴァンは苦笑した。
    初日に石像のように緊張しながら挨拶をしにきたアッシュの姿はまだ記憶に新しかったので、
    なかなか適応力の高い奴だなとシルヴァンは感心した。
    「全然届いてなかったから、次からはあれ使った方がいいぜ」
    そう言ってシルヴァンは通路の奥にある踏み台を指示した。
    もう少しで手が届くと思っていたアッシュは、少し恥ずかしくなった。
    「全然でしたか?」
    「全然だったな」
    アッシュは肩を落としながら、思わずはぁと声が漏れた。
    自分は明らかに背格好が足りないなと感じていたが、目前に立つシルヴァンは実際に自分より一回り大きい。
    「でかくなりたいんなら、飯はちゃんと食いに行けよ」
    シルヴァンは落ち込んでいるアッシュの肩をぽんと叩くと、さっさと書庫を後にした。
    アッシュも夕食の時間が過ぎてしまいそうなことを思い出して、慌てて借りる本を抱きかかえた。

    食堂に飛び込んだアッシュは、シルヴァンもいるだろうかときょろきょろと見回したがそこに彼は居なかった。
    書庫で会ったシルヴァンも何か本を手にしていたようだし、自室で読書でもしているのだろうか。
    良くない噂ばかりだが、もしかすると本当は隠れて真面目な人なのかもしれない。
    アッシュはそんなことを考えながら急いで食事をとったのだった。


    そうしてまだ肌寒い大樹の節の終わりに、アッシュははじめてシルヴァンと厩舎の当番になった。
    早起きしてそわそわしながら着替え、朝露を足早に踏みしめて厩舎に辿りついた。
    噂に聞いていたとおり、シルヴァンは時間通りには現れなかった。
    アッシュは少しがっかりして、仕方なく一人で掃除を始めた。
    なんでも器用にできて、人に教えるのも上手な人だと聞いていたから勝手に期待していたが、
    不真面目で遊び歩いているという話もどうやら本当なのかもしれない。

    アッシュはせっせと掃除をしていたが、不慣れな様子を馬たちに見抜かれて
    鼻で小突かれたりフードを引っ張られたりしていた。
    ちょうどそこへシルヴァンが悠長にやってきた。
    「ずいぶん馬鹿にされてんなあ」
    着崩した制服と眠たそうな顔で現れてそんなことを言われ、アッシュは腹が立った。
    今朝までこの男に期待していたことの方がよほど馬鹿らしく思えた。
    「おはようございます、時間もずいぶん過ぎてますけどね」
    予想外に辛辣な返事をされて、シルヴァンは驚いた。
    そう話したこともない身分違いの相手にはっきりと物を言うなんて、度胸があって面白いじゃないか。
    「悪い悪い、おはよう」
    シルヴァンは謝りながら小走りで水桶を手に取った。
    「こっから挽回するからさ、許してくれよ」
    調子の良いことを言う甘ったるい顔にアッシュはどきりとした。
    そんな風に人を誘惑しそうな顔をする人間には、今まで出会ったことがない。
    これが遊び人というものなのかと感心しているうちに、シルヴァンは手際よく残りの仕事を片付けていった。

    最後に馬たちにブラシをかけながら、アッシュは思いきって気になっていたことを切り出した。
    「シルヴァン、君はとても馬術に長けていると聞きました」
    シルヴァンは首をかしげて「どうかな」と答えた。
    「僕、あまり馬術が得意ではなくて……良ければなにかコツを教えてほしいんです」
    アッシュは手を止めて、隣で作業をしているシルヴァンの顔を伺った。
    こいつは適応力も度胸もあって、その上強かで人懐っこい奴だなとシルヴァンは思った。
    「俺が真面目に教えてくれるって思って聞いてる?」
    シルヴァンは手を止めずに苦笑いをしながら応えた。
    なんだか嫌な言い方だなあと思ったがアッシュはひるまず頷いた。
    「はい」
    そっかあとシルヴァンは呟いてアッシュの方を見た。
    新芽のようなきらきらとした緑の瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめていた
    「そうだなあ」
    シルヴァンは少し困った様子で頭を掻いた。
    「まあ、馬になめられなくなったら教えてやるよ」
    すんなり承諾してもらえるとは思っていなかったので、アッシュはその返事には納得できた。
    シルヴァンが来てからも、相変わらずアッシュは馬に白目を剥かれたり、
    髪を齧られたりしていたので、返す言葉も思いつかなかった。
    「技術も大事だが、そもそも背中に乗せてもらうんだぜ?信頼されてなきゃ話にならない。」
    「それはどうしたら」
    「自分で考えろよ」
    シルヴァンは手入れを終えた馬の首をとんとんと叩いた。
    馬はシルヴァンの頭に鼻先を摺り寄せ、それがアッシュにはお礼を言っているように見えた。
    信頼されるという、シルヴァンの言っていることの意味はすぐにわかった。
    「それからもう少し筋肉もつけてこい」
    道具を片付け、シルヴァンは制服の汚れを払いながら付け加えた。
    アッシュは小さくため息をついた。
    それが必要なのはわかっているがそう簡単なことではない。
    「はあ、わかりました」
    シルヴァンは微笑んで、浮かない顔をするアッシュの肩を叩いた。
    「ひ弱そうな奴には命預けたくないだろ?」
    確かにそれはその通りだ。アッシュははっとした。
    今の自分を信頼して乗せてくれる馬などきっといないだろう。
    アッシュは先ほどまで世話をしていた馬たちをぐるりと見渡した。
    「それじゃあな、ご苦労さん」
    シルヴァンはゆるゆると手を振ると、現れた時と同じくらい怠そうに厩舎を出て行った。
    「あ!ありがとうございました!」
    アッシュは慌ててお礼を言ったが、去っていく背中に届いたかはわからなかった。

    なんだかんだ言いつつ、シルヴァンは今の自分に必要なことを教えてくれた。
    騎乗するということは「馬の命を預かる」ことだ。
    アッシュは技術を憶えることに一生懸命で、そんなことは考えてもいなかった。
    シルヴァンの言う通り、馬たちから信頼されるようにまずは不手際なく世話を頑張らなくては。
    馬たちがどういう性質の生き物なのかもよく勉強しなくてはならない。
    それらをしっかり達成すれば、シルヴァンはきっと次のことを教えてくれるだろう。
    そうしていつのまにか、アッシュはまた彼に期待をしているのだった。
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