Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    owtonafe

    @owtonafe
    元気に推しを推したい小心者

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍩 🏆 💘 👍
    POIPOI 106

    owtonafe

    ☆quiet follow

    新刊の一部分です〜応援してくださーい🥹

    新刊の途中③その日の報せは、アッシュの人生で最悪のものだった。
    この先の人生でもこれ以上に最悪な出来事はないと確信できた。
    アッシュが通りすぎると、周囲の人はあからさまに距離を置いて、ちらちらとアッシュの様子を伺った。
    生徒たちの視線も冷たかったが、教会の大人たちの視線は一層刺々しく、端から見ていたシルヴァンでさえ肩が重くなった。
    周りの混乱も猜疑心もよくわかるが、アッシュは本当になにも知らないのだと、つい口を出しそうにもなる。
    どんな事情があったか知らないが、これは流石にひどい。
    シルヴァンはロナート卿の人柄を疑った。
    (つい先週だってあんたに手紙を書いてたんだぜ?)

    アッシュはすぐに尋問され、「何も知らない」と項垂れるアッシュを教会は信じた。
    重苦しい空気の部屋から解放される時に「くれぐれもおかしな真似はしないように」と釘を刺された。
    アッシュは「はい」と答えながら、おかしな真似とはいったい何なのか考えを巡らせていた。
    養父を助けようとすることはおかしい真似か?考え直してほしいと説得することは?

    大司教が反乱の鎮圧を課題として命じたことも、シルヴァンは本当に胸糞が悪いと感じた。
    ついこの間初めて戦場に立った生徒たちに、民兵の相手をさせるのは最悪の趣味だ。

    無理に出撃しなくてもよいと言う教師の提案にアッシュは首を振った。
    起きていることを自分の目で確かめたいといって、弱弱しく弓を握った。
    霧の深い戦場では、皆が無意識にアッシュを守るように戦っていた。


    ガスパールからの帰り道、マグドレド街道の眺望は清々しく美しかったが、
    生徒たちの足取りは重く、みんな口数も少なかった。
    つい数節前にアッシュはここを通ったばかりだ。
    あの時は本当に希望で胸がいっぱいだった。
    しっかりやりなさいという養父の言葉を胸に刻みながら、
    あなたのような立派な人になりますと誓いながら、この道を通ったのだ。

    ガスパールの民衆に向けてもアッシュは真っ直ぐに弓を向けた。
    きっとアッシュはそんなことで褒められたくないだろうから黙っていたが、
    お前は立派だったよ、とシルヴァンは心の中でアッシュを労った。


    士官学校に戻ってからも、大司教の暗殺計画のおかげで、アッシュは依然として教会の人間からは冷たい目を向けられていた。
    あちこちから、教会に背くなんて「愚か者」だと聞こえてきて耳をふさぎたくなった。
    気持ちのやり場がなくて、仕方なく大聖堂で祈っていたが、誰に何を祈っているのかはちっともわからない。
    頭に浮かぶのは後悔ばかりで、もしもこうだったならと、ずっと自分の責任を探していた。

    いつもと変わらず書庫に立ち寄ったが、今はどの本の背表紙も魅力的には見えない。
    アッシュは何も考えずに次はこれを読むと決めてあった本を手に取り、
    読み進められるかはわからないが、いつも通りに貸し出し手続きをした。
    書庫を出たところの廊下は橙に染まっていた。
    窓から外を覗くと、燃えるような夕焼けが遠くに広がっていた。

    まるで自分の身体の一部のように大切な人を、訳のわからない理由で失った、
    そんな子供の姿をシルヴァンは何度も見てきた。
    みんな気丈に物わかりのいいように振舞って、悲しさを懸命に押し込めていた。
    ちょうど目前で夕焼けに目を奪われているアッシュも同じだ。
    書庫に用があったが、涙を堪えているようなアッシュのほうがよほど気になった。

    アッシュが寂寥感に目頭が熱くなった時、ふいにフードを被せられた。
    傍に人がいたことも気づかないほどぼんやりしていた。
    シルヴァンは側に居ようかと申し出て、アッシュは既に胸がぎゅうぎゅうに苦しくて「大丈夫」と言えなかった。

    その日、アッシュの部屋でシルヴァンはただ彼の話を聞いていた。
    幼少のころの話、両親を亡くしてから養子に取ってもらえるまでの話、ガスパールの屋敷での話。
    騎士を目指そうと思った話、士官学校に入ることになったの話。
    それから今回のことで心の整理がつかないという話。
    シルヴァンは相槌を付きながらずっと黙って話を聞いていた。
    励ましも助言も消して言わないように気を付けていた。
    おそらくアッシュはそんなもの散々聞き飽きただろうから。
    そしてそういう心配の言葉も同情の視線もありがたいと感謝しつつ、
    無意識に、心のどこかでは煩わしいと感じるものだとシルヴァンは思っていた。
    本当につらい目にあった人間にとって必要なものは、長い時間と、気持ちを吐き出す先だ。

    散々話したアッシュは、つまらない話を聞かせたと言って謝ったが、
    シルヴァンはそんなことはないと快く微笑んで、その頭を撫でてやった。


    それから数日特に気に留めてアッシュのことを見ていると、
    以前と変わらずに意欲的に行動しているようだった。
    未だ周囲からは良くない視線を向けられたりもしていたが、
    腐らずに真っ直ぐで在ろうとする姿は、シルヴァンにとっては特別な性質に見えた。
    しかしいくら気丈で立ち直りが早くても、力を抜くのが下手くそじゃあいずれ潰れてしまうだろう。
    アッシュは上手くやっているが、彼の今後を一緒に考えるような間柄の人間は此処にはいない。
    それが気がかりだった。

    ある朝、アッシュは厩舎の当番だったので、少し早く起きて部屋を出た。
    身体は重たかった。ガスパールから戻って以来ずっとそうだ。
    とぼとぼと歩いて厩舎に辿り着くと、そこにはシルヴァンが先に居て水を運んでいた。
    「よお、おはよう」
    シルヴァンは今まで時間に遅れてきたことしかなかったので、アッシュは驚いた。
    「本当にシルヴァンですか?」
    寝ぼけているのかなとアッシュは目をこすりながら尋ねると、シルヴァンは口を尖らせた。
    「なんだよ、失礼だな」
    「だって、シルヴァンがこんな朝早くから働いてるわけない……」
    「そういうこと言ってると、このあとお礼を言いづらくなるぞアッシュ」
    シルヴァンが指した厩舎の中を見ると、仕事はほとんど片付いていた。
    うわあとアッシュが感心して声をあげると、シルヴァンは得意げに肩を竦めて笑った。
    「空いた時間でのんびり好きなことでもしろよ」
    アッシュは「のんびり」と呟いて項垂れた。
    「最近だめなんです……」
    「だめって?」
    「勉強や訓練でもとにかく何かしていないと、ずっと考え事をしちゃって」
    疲れた様子でアッシュはのろのろと水桶を片付け始めた。
    それで、講義も訓練もはりきって取り組んでいたのだろうか。
    余計な事を考えたくなくて何かに打ち込むというのはシルヴァンも理解できる。

    「シルヴァン……僕は見限られたんでしょうか」
    アッシュが弱弱しくぽつりと言った。
    桶を重ねて、そのまま深いため息をついてアッシュは顔を伏せた。
    「殿下も言ってただろ、巻き込みたくなかったからだって。俺もそう思う」
    敗北を覚悟しても蜂起せざるを得ない理由があるなら、自分も大切な人を遠ざけるだろうとシルヴァンは考えた。
    つまりアッシュが士官学校に入学したことも、ロナート卿の蜂起を後押ししたのではないか。
    ガスパールに居れば一緒に反逆者扱いになるが、その時に教会側の士官学校にいるなら別の後ろ盾も得られるだろう、
    (だとしても早すぎだ)
    早く成果を手紙に書けるようにと、そう言って日々努力していたのに、
    それを一番届けたい相手は居なくなってしまったのだ。
    短い期間だが彼の努力を知っているシルヴァンは、さすがに胸が痛んだ。
    「でも、もし僕がもっと頼れる……相談できるような人間だったら?」
    アッシュは吐き出すように話した。ぶつけても仕方のないもしもの話を、矢継ぎ早に続けた。
    「君みたいに、僕が賢かったら?あの場で考え直してもらえるよう説得だってできたかもしれない……!」
    「その程度の覚悟であんな戦いするもんかよ!」
    シルヴァンはアッシュの無意味な後悔を一蹴した。
    自分の無力さを認めたくないのはわかるが、なにも取り戻せはしない。
    アッシュが何をどうしたって無理だったのだ。
    苦しそうな顔をしたアッシュの髪を、シルヴァンは落ち着かせるように撫でた。
    アッシュは肩で息をしながら考え込んだ。

    しばらくしてシルヴァンはアッシュの目を覗き込んで言った。
    「卿は、ここにいる方がお前の夢が叶うって、そう考えたんだろ」
    アッシュは唇を噛んで、涙が出そうなのを堪えた。
    自分が邪魔だったからではなく、役に立たないからではなく。
    「それだけだ、きっと」
    シルヴァンはもう一度言い聞かせた。
    アッシュはまた黙り込んだ。

    それが本当かは知りようがないが、一番マシな救いだ。
    シルヴァンの返事は優しいなとアッシュは思った。
    そして、自分は誰にも答えのわからない問いを子供のようにぶつけて、
    こうして慰めてもらいたがっているんだとも思った。
    そんなことではいけない、どんな出来事が起きたとしても、
    自分の気持ちに折り合いをつけられるようにならなくては。
    (僕は僕の夢を叶えるためにここに来たんだ)

    「じゃあ僕は、自分のやるべきことをやらないといけませんね」
    アッシュは自分に言い聞かせるように呟いて、ぐいっと顔を上げた。
    それはまた無理をしているように見えて、シルヴァンには苦しい姿だった。
    「それはそうだが、ほどほどに……」
    「そうだ、シルヴァン!」
    突然アッシュは声色を変えてシルヴァンを見上げた。
    「この子!いつも練習させてもらうんですけど、最近はからかわれなくなったんです!」
    アッシュは奥の馬房にいる小柄な灰色の馬の元へと駆け寄った。
    灰色の馬は挨拶としてアッシュの胸元に鼻を摺り寄せ、それからおとなしくしていた。
    「へえ、進歩したな」
    得意げなアッシュの顔を見て、シルヴァンは嬉しかった。
    ここ一節、そんな表情は見たことがなかった。
    「丁寧に挨拶しながら世話をしていたら、僕がおかしな奴じゃないってわかってくれたみたいで」
    アッシュは嬉しそうに灰色の馬のたてがみを梳きながら、
    どうやって心を開いてもらったのかをシルヴァンに話した。
    「これで、馬術を教えてもらえますか?シルヴァン」
    アッシュは期待に満ちた目でシルヴァンを見つめた。
    その瞬間に、自分はアッシュからとても信頼されていること、
    そしてアッシュを喜ばせることができることをシルヴァンは自覚した。
    年少で不器用な彼をついつい気遣っただけで、どうやら程々にたらしこんでしまったらしい。
    「もちろんだ」
    シルヴァンも灰色の馬の首元をとんとんと撫でながら答えた。
    「ただし、お前がもっと元気な時にな」
    シルヴァンが付け加えた言葉にアッシュは首を傾げてから思い出した。
    そういえば「もっと筋肉をつけるように」とも言われていたのだった。
    「お前もともと細かったのに更に痩せただろ、まあ無理もないが……」
    シルヴァンは無遠慮にアッシュの腰回りを手で測った。
    確かに、近頃のアッシュはすっかり食欲が湧かなくなって
    それでも食べなくてはとなんとか最低限の食事をとっていたところだ。
    「まずはたくさん飯を食って、よく眠ることだぜ」
    そんなところまで見抜かれていて、自分はまだまだ子供なのだなあとアッシュは恥ずかしくなった。
    シルヴァンは腕組みをして屈みこむと、アッシュの顔の真正面で言った。
    「訓練だなんだはその後だ、いいか、順番を間違えるなよアッシュ」
    その言葉は暖かくて、アッシュは心がすうっと楽になった。
    まるで養父や義兄がかけてくれる言葉のようだった。
    「はい!」
    アッシュは元気よく返事をすると、目を細めて泣きそうな顔で笑った。
    一人で頑張らなくてはと決意していたのに、こうやって手を貸してくれる誰かがいる。
    そう思うと氷のようになっていた胸が温かくなった。
    「……おい、急に元気にならなくていいんだぞ、ほんとに大丈夫か?」
    「はい、君がいてくれたら……なんだか頑張れそうな気がしてきちゃって」
    えへへとアッシュは涙目を誤魔化して目をこすった。
    灰色の馬も同調するように、機嫌よく鼻を鳴らした。

    シルヴァンは思いがけず照れくさい言葉を言われてどきりとした。
    裏表のない好意の言葉をどう受け止めてよいのか。
    得意の茶番でそういう台詞を人から引き出すことはシルヴァンにとっては容易いが、
    意図せず自然に言われることには慣れていなかった。
    こんな風に素直で人懐こければ、きっと彼の両親もロナート卿も義理の兄も、
    よほどアッシュのことが可愛かったに違いない。
    実際にシルヴァンも彼のことを可愛く思い、世話を焼きたい気持ちになっていた。
    きっとアッシュも無自覚の人たらしなのだろう。

    「お前は偉いな、アッシュ」
    シルヴァンはにっこりと笑って、何の含みもなくアッシュを褒めた。
    「自分のやるべきことをやるってのは凄いことだぜ?」
    どうしても色々なしがらみを無視することができないシルヴァンは、
    一心にやるべきことに打ち込もうとするアッシュが羨ましかった。
    「そうでしょうか……」
    アッシュは少し考え込んでから、突然シルヴァンを見上げてその袖を掴んだ。
    「君だって!本当はとても優しくて真面目で偉いのに!」
    「偉いのに?」
    シルヴァンは驚いてその言葉の続きを尋ねた。
    「なのに遊び歩いて、悪く言われて……不本意じゃないんですか」
    思いもしなかったことを言われてシルヴァンはじっとアッシュの顔を見下ろした。
    あれだけ良くない噂ばかりが流れているというのに、
    アッシュは自分が見ている目の前のシルヴァンの姿を一番信じているのだ。
    なんて素直で危ういのだろう。
    「俺のこと買いかぶりすぎじゃないか?」
    本当はシルヴァンは、周りの評判を気にせずに自分を評価してくれたことが嬉しかったが、
    あまりにもアッシュが危なっかしくて、皮肉な返事しか口を出なかった。
    「不本意もなにも、火のない所に煙は立たないもんさ」
    シルヴァンは不服そうな顔のアッシュの頭をぽんぽんと撫でた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺☺🏇💞💞💞💞🌋😭😭💞💞💞💞💞💞💞☺☺☺☺👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    Lemon

    DONE🎏お誕生日おめでとうございます。
    現パロ鯉月の小説。全年齢。

    初めて現パロを書きました。
    いとはじイベント参加記念の小説です。
    どうしても12月23日の早いうちにアップしたかった(🎏ちゃんの誕生日を当日に思いっきり祝いたい)のでイベント前ですがアップします。
    お誕生日おめでとう!!!
    あなたの恋人がSEX以外に考えているたくさんのこと。鯉登音之進さんと月島基さんとが恋人としてお付き合いを始めたのは、夏の終わりのことでした。
    一回りほどある年齢の差、鹿児島と新潟という出身地の違い、暮らしている地域も異なり、バイトをせずに親の仕送りで生活を送っている大学生と、配送業のドライバーで生活を立てている社会人の間に、出会う接点など一つもなさそうなものですが、鯉登さんは月島さんをどこかで見初めたらしく、朝一番の飲食店への配送を終え、トラックを戻して営業所から出てきた月島さんに向かって、こう言い放ちました。


    「好きだ、月島。私と付き合ってほしい。」


    初対面の人間に何を言ってるんだ、と、月島さんの口は呆れたように少し開きました。目の前に立つ青年は、すらりと背が高く、浅黒い肌が健康的で、つややかな黒髪が夏の高い空のてっぺんに昇ったお日様からの日差しを受けて輝いています。その豊かな黒髪がさらりと流れる前髪の下にはびっくりするくらいに美しく整った小さな顔があり、ただ立っているだけでーーたとえ排ガスで煤けた営業所の壁や運動靴とカートのタイヤの跡だらけの地面が背景であってもーーまるで美術館に飾られる一枚の絵のような気品に満ちておりました。姿形が美しいのはもちろん、意志の強そうな瞳が人目を惹きつけ、特徴的な眉毛ですら魅力に変えてしまう青年でした。
    17926