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    豆@創作垢

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    豆@創作垢

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    生まれてから国を出るまで

    #ハンナ
    hannah.
    #キャラストーリー
    characterStory

    ハンナの生い立ち① 魔界の人間たちが住む国で生まれる。名前はハンナ。クラーク家に生まれた一人娘であった。
     クラーク家といえば、この国では建国当初から続く名家であった。ハンナが生まれた家系はその分家ではあったが、両親はこの街で知らない者はいないというほど、有名な魔導師であった。
     しかし両親は、その血筋には縛られず、平凡な幸せを送って欲しいとの願いこめ、この国では珍しくもない、よくある名前を娘につけた。祖父母をはじめ、親戚は口を揃えて、大魔導師だった何代目の名前だとか、かつて魔界大戦で名を馳せた名雄の名だとかをつけろと言ってきたが、ハンナの両親は自らの娘に重すぎる期待をかけるのを嫌った。

     そんな両親の願いを知ってか知らずか、ハンナは両親の魔法の才を受け継がなかった。いや、正確には魔力は備えていてもそれを使うことができなかった。

     魔界の人間は物心つく前から魔力を扱うことができる。誰にも教わらず、獣が歩くことを覚えるように魔力を使う。これは魔法とは違い、主に自分の身を守る時に無意識下で起こる。例えば、怪我をした時に痛みを軽減したり、ベットから転げ落ちた時に衝撃を弱めたりというようにだ。怪我を治す、衝撃をなくすなどは、理論構築した魔法を覚えないとできない。
     これは一種の危機管理能力であり、生まれて後、1歳までには必ず備わるものだ。この機能は、自身が危機に面した時現れる。人々はこれを"魔力の発現"と呼んだ。
     魔力の発現が起こるきっかけは人それぞれであり、頭をぶつけたというような些細なことから、うっかり熱湯を被ってしまったというそれなりに大きな事故まで色々ある。

     ハンナはこの"魔力の発現"が1歳を過ぎても起こらなかった。魔力を全く持たない人間もごくごく稀なケースで存在はしている。心配した両親は国一番の癒者(いしゃ)にハンナを診てもらった。

    「生まれ持った魔力量を発現前にはかることはできませんが、確実に魔力はもってるようです。人よりも遅いだけかもしれない。もうしばし待ってあげてください」

     その言葉に両親は安心した。しかし、5歳になってもハンナは魔力を使う素振りを一切見せなかった。
     私たちが気づいていないだけかもしれない。そう思った両親は魔法を教えたが、魔力の扱いを理解していないハンナに魔法は使えなかった。
     5歳になったハンナを同じ癒者に診せたが、「こんなケースは今までみたことがない」と慰者もお手上げだった。

    「"魔力の発現"は何か危機を感じ取った時に無意識下で起こります。そういった環境に意図的に置いてみてはいかがでしょうか?」

     両親は慰者が最後に出した提案を良しとしなかった。愛する我が子をあえて危険な目に合わせるなどあり得ないと。

     ハンナはその話を両親が親戚に話しているのを盗み聞いた。そして自ら試してみようと思った。周りの子どもたちが当たり前にできることができないのが悔しかったし、自分にも魔力があるのなら使ってみたいという好奇心もあった。

     火に手を近づけてみたり、針の先をつついてみたり、近所の気性の激しい魔犬に小石を投げてみたり、色々試してみたがだめだった。危ない、と感じた時には身を引いてしまうのだ。
     物心つく頃にはハンナは魔力とは別の危機管理能力を身につけてしまっていた。「危ないことはしない、危ないものには近づかない」という能力だ。

     他の子どもに当たり前にある魔力を扱えないハンナは、両親注意深く守られ育てられていた。危ないもの、近づいてはいけないもの、触ってはいけないもの、細かく教えられながら育った。それがかえって魔力による危機回避の機会を奪ったのかもしれない。

     7歳になる頃には他とは違う自分を受け入れていた。友だちと比べて悲しくなることあったし、馬鹿にされることもあった。心ない親戚は期待を裏切られたような目でハンナを見た。
     それでも彼女はのびのびと育った。それはひとえに両親の愛があったからだ。
    「お前は人より弱い子かもしれない。でも、だからこそ弱い者の気持ちが分かるんだよ。」
     魔力が扱えなくとも、魔法が使えなくとも、自分を誇りだと言ってくれる両親がいたからこそ、ハンナはまっすぐに育つことができた。ハンナは幸せだった。

    ーーーーあの事件が起きるまでは。

     ハンナの7歳の誕生日を祝って半年が過ぎた頃、父と母が数日出張することになり、ハンナは同じ街に住む叔父叔母のもとに預けられることになった。
     叔父叔母はハンナの両親ほど長けた才があったわけではなく、街の外れでひっそりと暮らしていた。ハンナはこの穏やかな叔父叔母が大好きだった。子どもに恵まれなかった叔父叔母も、ハンナを我が子のように可愛がっていた。

     楽しいお泊りの日々もあっという間に過ぎ、その日は夜に両親が迎えに来てくれることになっていた。
     ハンナは屋敷の庭で遊び、叔父は庭園の世話をしていた。穏やかな昼下がりだった。
     ふと顔を上げたハンナの目に、真っ白でふわふわのしっぽのようなものが目に入った。それは生け垣の外にいるようだった。それを一目見たいと思ったハンナは、屋敷の門から生け垣の外を見ようと顔を出した。叔父が草木の手入れをしていて、わずかに目を離した時のことだった。

     ハンナはぐいっと腕を捕まれ、門の外、庭の中から見えない位置へ引きずり込まれた。何が起きたのか理解できず、声も出なかった。
     両手を捕まれ地面にうつ伏せにされ、口に布のようなものを巻かれた。そこで我に返った。ハンナは必死に抵抗した。身をよじり立ち上がろうとしたが体はびくともしなかった。

    「大人しくしろ。そうすりゃ痛い目には合わねぇよ」
     取り押さえている誰かとは別の方向から声がした。喉元にひやりとした感触がした。
    「お前が魔力を使えないのはわかっている。金が手に入れば家に返してやるよ」
     気づけば後ろ手に縛られ、引きずられるようにして運ばれている。

     この時、ハンナは今までにないほどの恐怖と危機を感じた。その恐怖と危機感が限界を超えた時、ハンナは無意識に自分の身を守ろうとした。

     "魔力の発現"である。

     それは、赤ん坊の時から力の扱いを覚える普通の子どもとは、全く違うものだった。力の暴走といっても良かった。

     ハンナの声にならない叫びと共に周囲の全てが消し飛んだ。あたりは一瞬真っ白になり、再び視界が開けた頃には以前の光景とは全く違う景色が広がっていた。更地だった。ハンナの足元には、先刻まで人だったものの手首だけがぽとりと落とされていた。

     ハンナの力の暴走とも言える"魔力の発現"は街を半壊させた。叔父叔母の屋敷が街外れでなれば、街がなくなってもおかしくないほどの力であった。彼女はきちんと両親の力を受け継いでいた。後に調べたところ、偉大な魔導師になれるだけの魔力量、素質があることが分かった。

     人よりも生まれ持った魔力量が多かった、そして、人よりも数年魔力の発現が遅かった、ということを除けばいたって平凡な少女は、その小さな肩に背負いきれないほどの罪を背負うこととなった。

     彼女の記憶を魔法で解析し、社会的には何の罪にも問われなかったが、失った多くの生命は戻らない。ハンナは自分のやったことを理解していた。長年知りたかった魔力を扱う感触も、両親の慰めの言葉も、ハンナには何の感情も与えなかった。叔父叔母の優しい顔、いきいきと仕事をする街の人たち、美しく咲いた草花が思い浮かんでは、それを奪った自らの罪の重さにおし潰されそうになった。

     クラーク家はこの国では有名過ぎた。分家だろうと、クラーク家の子どもが街を半壊させたことは国中に広がっていた。
     ハンナの両親は考えた。ハンナがここに住み続けるのは彼女にとってつらすぎる。どこか遠い国、人間がいない国、強い魔力を持っていても悪目立ちしない国へと行こう。

     両親はクラーク家とは縁を切り、フォスターと姓を変えた。こうして、ハンナ・フォスターは生まれ育った国を離れ、遠い遠い異国の地でその物語を始めるのであったーーー。


     
     
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