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    natsume_genko

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    natsume_genko

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    ②共通ルート

    ②共通ルート

    ★:KP情報
    ◎:読み上げ描写
    △:描写とは別に渡すべきPL情報(探索場所、必要な技能の提示など)

    ---

    >006.クライン生命保険相互会社特別電車へ

    ★HO1とHO2はアルトとホタルに連れられて、彼らのボスである翠の拠点を訪れる。
     翠は特別な電車を拠点にしている。これはクライン生命保険相互会社による特別製で、世界に存在するすべての駅に停車でき、所有者の好きに内部を拡張、改造できる。移動型秘密基地みたいな。通常、この電車は許可されていない者には視認すらできない。おかげで幽霊電車の都市伝説を発生させた。


    ◎アルトとホタルは、HO1とHO2を連れて、最寄り駅に足を踏み入れた。
     見るからに統一性のない、異質な団体である一行を、周囲の人々は怪訝そうに窺っているかもしれない。
     アルトとホタルはICカードもなく、改札を通る。本来、厳しく咎められるべきその違反行為を、しかし機械も駅員も止めはしなかった。

     △≪目星≫
     偶然その光景を目にしてしまった老人が、アルトたちを二度見したあと、自分も素通りできるか試そうとして機械に捕まっていた。まもなく、駅員がその老人を連れていく流れを見つける。



    ◎「きみたちもはやくおいでよ。大丈夫だから」
     
     HO1とHO2が意を決して歩みを進めれば、機械にも駅員にも止められることはない。
     慣れ親しんでいるはずの駅構内で、非日常に足を踏み入れた気がしたかもしれない。

     ★道中、アルトやホタルに話しかけることもできていい。
     PCの質問に、二人が知っている範疇で(KPが答えたい範囲で)応じて構わない。



    ◎「こっちだよ」

     アルトはホームへ向かう道とは真逆の、非常口のドアを押し開けた。
     彼はHO3を抱えたまま、その中へ身を滑らせた。ホタルもためらいなく続いていった。
     
     入ってすぐの、通路の脇にある階段には「工事中につき立ち入り禁止」の札がかけられていた。
     二人はそれを事もなげに無視して、階段を下っていく。
     
     
     PCが「いいんですか!?」など反応した場合◎「俺たちはいいの~。きみたちも無垢な駅員に見つかるまえに来たほうがいいよ。ここ、普通は入っちゃダメだから」

     ★クライン生命保険相互会社の電車のために特別に、全国の駅に内密で設置されているホームへ向かっている。このホームについては鉄道会社の上層部しか知らない。各駅の駅長も存在は認知しているが、職務上関わることを許されていない。

     △≪目星≫や≪アイデア≫
     自分たち以外の人影もない階段は、常日頃から頻繫に使われているようには思えなかった。
     にもかかわらず、照明は一つも切れておらず、隅にも埃が積もっていない。
     まるで賓客のために用意された道だと感じる。



    ◎足音を響かせながら数分下っていくと、やがて開けた場所に出た。
     地下鉄のホームだ。
     まず目に付く、よく知るそれと違うところは、自分たち以外人っ子ひとりいないこと。
     異様なほどの静けさは、奇妙な不気味さを演出しているようだった。
     
     △≪目星≫
     電光掲示板にも、電車の到着予定などは表示されていない。



    ◎「ああ、やっと来た」

     アルトのくたびれたような溜め息の直後、ホームに一両編成の電車が滑り込んできた。
     左右に設置された窓はスモークガラスなのか、外から中が窺えない、奇異な電車だ。
     
     △≪知識≫
     自分の知る電車のいずれにも該当しないつくりをしていると分かる。
     
     △≪オカルト≫
     この駅にではたびたび幽霊電車の目撃情報が上がっていたことを思い出した。



    ◎電車は無言のまま、ホームに通じるドアを開けた。
     入れ、と促されているように感じる。
     アルトとホタルはHO3を連れて、さっさと乗り込んでしまう。



    ◎電車に入ると、思っていた内部構造とまるで異なることに強い驚きがあるだろう。
     真っ先に想起したのは、ホテルの類だったかもしれない。
     たった一両の体積にはとても収まるはずのない、広い面積。
     HO1とHO2の向かって右側には、どこかの部屋に通じているらしいドアが無数に立ち並んでいる。
     ドアの群れと反対側には、ステンドグラスがはめ込まれていた。
     HO1とHO2、そしてHO1に付き添う真守が完全に乗り込むと、ドアは静かに閉まっていった。
     一瞬、わずかな揺れが起こる。
     この電車が、動き出したのだ。





    ◎瀟洒な装飾が施された通路のどこにも、アルトとホタルの姿がないと気づく。
     ふいに近くのドアが開いた。
     そこから出てきたアルトは、依然ホタルを連れていたが、もうHO3を抱えてはいなかった。

     「ボスの用意ができたらまた呼ぶよ。それまでは好きに遊んでいていいよ」
     
     アルトとホタルは、HO1とHO2を置いて奥へ去っていく。





    △探索箇所 HO3の部屋 / 資料室
     ★他にも部屋はある(食堂や浴場、翠や聖、アルトやホタルの私室など)。しかし、日常生活に必要な場所は探索の必要がないので、利用したければできるぐらい。双子の私室は鍵がかかっていて、現時点では入れない。
     ゲーム的には、HO3との合流を速やかに果たしてほしいところ。





    >007-a.HO3の部屋

    ★お待たせしましたHO3PL。ようやくゲームに参加できます。
     HO3は導入の出来事で記憶障害を起こしており、自分が何者だったのか、どんな人間だったのか、家族や友人、もちろん真守を連れ出した理由など、まったく覚えていない。
     HO3PLそのままといっていいでしょう。いいでしょうじゃないが?
     HO3には「過去の自分を知る」必要があるだろう。



    ◎誰かの部屋のようだった。
     本棚、机など一般的なものが目に付く中、天体望遠鏡が異彩を放っているかもしれない。
     ベッドは質量を感じさせる膨らみ方をしている。近寄ってみれば、そこでHO3が穏やかな寝息を立てていた。声をかければ、起きてしまうだろうか。
     ★HO3は既に導入の傷を完治させている。



    ◎HO3が目を覚ませば、すぐに自分の異変に気付くだろう。
     言葉は、わかる。人間としての所作も問題ない。
     しかし、自分についての記憶が、ほとんど思い出せないのだ。
     かろうじて名前だけは口にできた。だが、自分にどんな家族や友人がいたのか、自分は何が好きで、何が嫌いだったのか……そういったことがまるで分からないのだ。
     
     △HO3のみ≪SANC≫0/1





    △探索箇所 本棚 / 天体望遠鏡 / 机


     >>本棚
     ◎HO1やHO2が使っているような学問の教科書、資格の参考書のほかにも、多くの書籍が詰まっている。

     △≪図書館≫
     なかでも星や宇宙に関する本が多いようだ。「星に名前を付けられること」や「ブラックナイト衛星」について調べていた節が見受けられる。
     
     ・ブラックナイト衛星
     極軌道の近くで地球を周回しているとされる存在。一説ではおよそ13000年前から存在し、地球外生命体に由来するとも考えられている。

     ・星に名前をつけるには?
     新しい彗星や小惑星を発見して名付けられる。
     正式なものではないが、現在なら、約10ドルで購入することもできるらしい。
     ★情報まとめ②に該当する
     
     
     △≪知識/2≫か≪経理≫、≪オカルト≫など
     クライン生命保険相互会社について特集している雑誌がある。
     クライン生命保険相互会社はアメリカのニューヨークに本部があり、世界各地に支部があるようだ。社員になれるのは、ごく一握りの優秀な人材のみとされている。不定期に入社試験が行われているようだが、その場所や日時は一切不明らしい。



     >>天体望遠鏡
     ◎埃が積もっている。ずいぶん長い間使われていないようだ。
     
     △≪目星≫か、望遠鏡を覗き込んでみるなどの宣言
     鏡筒内部に傷がある。これではとてもじゃないが空など見えないだろう。
     ★情報まとめ③に該当する。これはHO3がグロースを観測した際に倒してしまったときの傷である。
     
     △≪知識≫か、≪図書館≫や≪コンピューター≫
     この天体望遠鏡はおよそ十年前に発売された商品のようだ。当時の値段は驚くほど高価である。
     ★情報まとめ④に該当する。HO3の誕生日に双子が買い与えたもの。



     >>机
     ◎日記がポツンと置かれている。開けるなら、すぐに読めるだろう。
     
     △日記を読む宣言
     だいたい十年前から始まっている。かいつまんで読んでいくだろう。
     
     ×月×日
     誕生日プレゼントに、お兄ちゃんたちから望遠鏡と日記をもらった!
     この日記はせいお兄ちゃんの魔法がかかっているから、ずーっといっぱい書けるから買い替えなくていいらしい。ふしぎ。
     でも個人的には、すいお兄ちゃんがくれた望遠鏡のほうがうれしかったな。
     もうすぐ観測日和だし、新しい星を見つけてお兄ちゃんたちを驚かせてやろう!
     
     ×月×日
     昨日は天体観測に行ったのに、途中で寝てしまったらしい。
     気付いたらお兄ちゃんたちに心配そうに見られていた。
     寝落ちしちゃったのは仕方ないけど、望遠鏡を割っちゃったのが悔しい。
     すいお兄ちゃんはまた新しいのを買ってくれるって言ってたけど、そうじゃないんだよな。
     
     ×月×日
     お兄ちゃんたちが遊んでくれなくなった。なんか忙しいんだって。
     最近はエーユージョーセーシステム? とかいうのを二人で作ってるみたい。
     なんでそんなの作るのって聞いたら、HO3のためだよ、ってせいお兄ちゃんが言った。
     ならそんなの作るより遊んでくれたらいいのに。プラネタリウムとか行こうよ。
     
     ×月×日
     せいお兄ちゃんがいなくなった。
     すいお兄ちゃんは何も教えてくれない。
     おまえは何も知らなくていい、ってそんなわけないじゃん。家族なのに。
     
     ×月×日
     すいお兄ちゃんから、家から出ないように言われた。
     学校も行かなくていいんだって。欲しいものはぜんぶ取り寄せてくれるらしい。
     せいお兄ちゃんって言ったらものすごく顔をしかめられた。まだ仲直りは無理っぽい。
     
    (……文体に変化が著しい。数年が経過したようだ)
     
     ×月×日
     アルトという男性と、ホタルという女の子がうちにやってきた。
     二人は翠兄さんの実験の協力者らしい。
     相変わらず、こっちには何も教えてくれない。別にいいけど。
     
     ×月×日
     もしかして、翠兄さんはなにか恐ろしいことをしているんじゃないだろうか。
     そんな気がしてならない。
     アルトが、(文字が滲んでいて読めない)なんて言ったせいだ。
     
     ×月×日
     みんなに内緒で研究室に忍び込んだ。後悔した。二度と入りたくない。
     あんなものが外にはありふれているらしい。
     なら翠兄さんの言う通り、外なんて行かなくていいのかも。
     
     ×月×日
     研究室を覗いた日から、おかしな夢を見るようになった。
     夢の中では、いつも同じ二人組と話をしている。
     見たことのないひとたちだけど、名前は分かる。
     真守と、HO2だ。
     二人は翠兄さんの仲間? 協力者? 知り合い? らしい。
     HO2はぜんぜん喋ってくれないから分からないけど、真守は「HO3と同い年の 弟/妹 がいた」って教えてくれた。名前はHO1っていうらしい。もし会えたら友達になれたのかな。でも無理か。その子、もう死んじゃったらしいから。
     
     ×月×日
     翠兄さんに夢の話をした。
     HO2のことは知らないって笑ってたけど、HO1と真守の話をしたら顔色が変わった。
     なんでそいつらを知ってるんだ、って言われた。なんでって言われても、夢だよ。
     
     ×月×日
     もう一度、研究室に入って確かめた。
     間違いない。やっぱりあの怖いものは真守と同じ顔をしている。
     HO2は見つからなかった。ちょっと安心した。HO2はここに来ないといいな。
     
     ×月×日
     兄さんたちの部屋を調べた。
     知りたくなかったことがいっぱい出てきた。
     どうしよう。
     
     ×月×日
     いろいろ考えたけど、自分にも責任があるのは間違いない。
     だったら、やれることはしなくちゃいけない。
     まず、真守を家族のところに返してあげないと。

     日記はここで終わっている。
     ★情報まとめ⑤に該当する。





    >007-b.資料室

    ★≪図書館≫の成功回数で出る情報量が変わる仕様。
     成功数以下の情報も出す(たとえば成功数3なら、1と2の「ネメシスについて」と「星の並びについて」も提示情報に含む)。成功数6を達成すればすべての情報が出る。
     ただネメシスについての情報だけは必ず出そう。
     また、資料室の走り書きはほとんど翠による筆跡である。


    ◎その部屋は紙類の置き場として使われているようだ。
     壁は棚でぎっしり埋めてあり、その棚はファイルやらまとめることを放棄されたバラバラの紙やらを、みっちりと詰め込まれている。利用者の導線として確保してある導線すら資料棚が形作っている様相のため、ひとのための部屋というより、紙の王国といった印象を受けるかもしれない。
     この中から必要な情報を探すのはなかなか難儀しそうである。
     
     △PC3名にそれぞれ2回ずつ≪図書館≫。
     成功数1:ネメシスについて
     成功数2:星の並びについて
     成功数3:クライン生命保険相互会社の社則冊子について
     成功数4:首輪付き被験者の条件について
     成功数5:クライン生命保険相互会社特製電車について
     成功数6:アルトとホタルについて
     
     
     >>ネメシスについて
     ネメシスとは、存在が提唱されている仮設上の矮星。約2700万年周期で頻繫に発生する大量絶滅を説明するために、太陽から約1.5光年離れたオールトの雲よりも遠い距離を周回しているとされる。しかし2011年にNASAの科学者によってこのような天体が存在する確証はないとされている。
     ★情報まとめ⑥に該当する。
     
      >>>△ネメシスについて追加で≪天文学≫
      ネメシス仮説について想起する。
      太陽の周りを公転する未発見の伴星があり、この伴星が周期的にオールトの雲を乱し、その結果として内太陽系に飛来する彗星の数を大幅に増加させ、地球への天体衝突につながったとされている。この仮説が後にネメシス仮説、または死の星仮説として知られるようになった。
      しかし、2010年と2013年には絶滅率が増加する信号の証拠を発見したと研究者から発表されたにもかかわらず、ネメシスが太陽から非常に離れているため、2700万年周期に観測される絶滅率のピークはネメシスの存在と矛盾しているとされた。
       ★情報まとめ⑦に該当する。

      >>>△ネメシスについて追加で≪オカルト≫、≪歴史≫
      ギリシャ神話の女神。不当に対する義憤、とくに人間の高慢に対する神の怒りと、神罰としての擬人化と解釈されている。
       ★情報まとめ⑧に該当する。


     >>星の並びについて
     誰かのメモのようだ。乱雑に書きなぐったような荒々しい字で綴られている。
     「星の並びに異常を感じる。天文台に問い合わせる機会を偶然得た。十年前から事実そうであると回答を得た。(最悪だ、と書いたあとに殴り消した痕跡がある)」
     「星辰の調べと、近年の災害が符号し始めている。遡れば、聖による八年前の大火災すらその内に含まれる可能性が高い。おそらく七年前の僕の契約もそうだろう。人間の足掻きなど、盤上のそれに過ぎぬということか? (最悪だ、と書いたあとに殴り消した痕跡がまたある)」
     「符丁の解読を進める。符号が真実であるのなら、未来さえここにあるはずだ」
     ★情報まとめ⑨に該当する。これは翠の筆跡である。


     >>クライン生命保険相互会社の社則冊子について
     クライン生命保険相互会社の社則冊子を見つける。
     「階級に相応しい待遇を与える」、「エージェントは偉大なる種族の利益を第一に、偉大なる種族の隠匿を第二に行動すること」など書かれた中に「タイムパラドックスを引き起こしかねない行動は禁ずる」とある。
     
      >>>タイムパラドックスについて追加で≪知識≫
      タイムトラベルなどで過去の歴史を改変することによって生じる逆説の総称。タイムマシンを利用して過去の世界に行き、自分の父親となる人物を殺す親殺しのパラドックスなどが例として有名。
     
      >>>タイムパラドックスについて≪目星≫
      「タイムパラドックスを引き起こしかねない行動は禁ずる」の隅に「可能」「ビッグバンの可能性」「多元宇宙論?」と小さい走り書きを見つける。
      ★これは聖の筆跡である。


     >>首輪付き被験者の条件について
     研究資料らしいファイルを見つける。表紙には「被験者リスト」とある。
     以下、被験者の名前がリストとして並んでいる。その中に真守とアルトの名前を見つけた。
     
      >>>ファイルに追加で≪目星≫
      最後のページに「First, it must be near death. Second, the metaphysical tolerance is high. Third, the wedge connecting it to the world is infinitesimally small.」と記したメモが挟まれている。
      ★これは翠の筆跡である。
      
      >>>メモに追加で≪英語≫
      翻訳するなら「第一に、死に近い状態であること。第二に、形而上学耐数が高いこと。第三に、世界と繋がる楔が限りなく少ないこと」だろうか。


     >>クライン生命保険相互会社特製電車について
     取扱説明書を見つける。表紙に描かれている電車は、いま乗っているこの電車と同じだ。
     「A45以上の者に与える待遇のひとつである。
     オーナーの意のままに改造可能。世界中を走行可能。感知遮断能力は適宜確認すること」「注意! 高度20kmまで!」とある。

      >>>高度20kmについて追加で≪知識≫
      高度20kmは成層圏だ。飛行機が飛ぶのはおおよそ高度10kmほどなので、そのさらに上である。……この電車、飛ぶのか?


     >>アルトとホタルについて
     新聞記事のスクラップブックを見つける。八年前の殺人事件の記事のようだ。見出しは「三刀屋邸、両親殺害」とある。
     事件は×月×日に××県××市にて発生。血の繋がらない養子だった兄が、父母を殺害したとして逮捕されている。唯一、父母の実子である妹は無事だったらしい。
     被疑者は「二面アルト(17)」とある。生存者である妹の氏名は公開されていない。
     ★情報まとめ⑩に該当する。
     
      >>二面アルトについて追加で≪図書館≫か≪コンピューター≫
      この事件の裁判で、二面アルトには死刑が言い渡されていると分かる。





    008.研究室で翠と会う

    ★呼び出しがかかり、探索者たちは翠のいる研究室へ向かう。
     翠はHO3の記憶障害を既に把握している。
     HO3が他のPCたちと行動を共にすることも、刺激の一環の経過観察として渋々許してくれる。
     翠の目的は「HO3を守ること」と「世界を守ること」だが、前者についてはHO3のプレッシャーになってはいけないと口に出すことはない。
     探索者たちには翠の指示の下、次の行動を決めてもらう。


    ◎車内に男性の声でアナウンスがかかる。

    「HO1、HO2、HO3。研究室に来い」

     それだけ告げて、ぶつりと切れてしまう。


    ◎通路に出ると、ホタルが待っている。

    「イエロー。ボスはこっち」

     ついと持ち上がった彼女の腕の方向にあるドアが、どうやら研究室らしい。
     そこへ入れば「それじゃあ」と彼女は去っていった。


    ◎絵に描いたような研究室だ。
     怪しげな音を出し続けている、よく分からない機械がいくつも立ち並んでいる。そこから伸びる管は絡み合って床で大海と化していた。
     管の先にある、ゴポゴポと気泡が不規則に生まれている液体の詰まったカプセルの群れに、とくに目を奪われるだろう。カプセルの数はおおよそ二十。一つのカプセルに、一人ずつ、裸の人間が入っている。いずれも生気を感じさせない佇まいで、液体に揺蕩いながら瞑目していた。これではまるで、ひとが実験動物のようだ。
     
     △≪SANC≫ 0/1d3
     
     △≪目星≫
     ひとつだけ、人間が入っていない空のカプセルがある。識別タグらしい部分には「M」とある。


    ◎カプセルの森の奥で、ひとりの生者がファイルをめくっている。
     白衣の男性だった。彼はこちらを一瞥し、改めて手元の紙面から顔を上げた。

    「HO1……面倒なことをしてくれた」
    「今回の無許可ハンドラー契約について、言い分があれば聞こう」
    「今後の命令については、それからとする」


     Q.ハンドラーって?
     「首輪付きを現世に留める要石だ。犬における、リードを持つ飼い主のようなものと考えろ。これはいまを生きている人間である必要があり……何の因果か、いまはHO1がそうだ」
     
     Q.なんでHO1がハンドラーになっちゃったの?
     「僕に聞くな。こっちが聞きたい。……フン。むりに理屈をこじつけるなら血縁関係からの相性適正じゃないか。とはいえ、血縁だけでなれるものでもない。HO1の虚数耐数も相応に高いんだろう」
     
     Q.首輪付きって?
     「英雄醸成システムによって生み出した対虚数兵器の呼称だ。ティンダロス……といってもおまえらには分からないか。時空を行き来できる虚数生物のエッセンスを取り込んだ都合上、単独で置いておくと時空因果関係の虚数事案に吞み込まれかねないので、要石としてハンドラーが必要になっている」
     
     Q.英雄醸成システムって?
     「九年前に僕と……いや、僕が開発した対虚数機構だ。人間に虚数因子を混合し、対虚数兵器にする。人型汎用生物兵器とでも捉えろ」
     
     Q.契約に許可がいるの?
     「当たり前だ。僕が作った兵器だぞ。すべからく僕が管理し、判断しなくてはいけない。それをおまえは勝手に……」とHO1を見る。
     
     Q.HO3が記憶喪失なんですけど?
     「……知っている。その様子を見るに、残念ながら現実らしい」
     
     Q.HO3の記憶って戻るの?
     「いまは何とも言えない。外部刺激を受ければ、あるいは……。……とにかくいまは経過観察を続ける。治療のためにも無茶はするな、HO3」
     
     Q.HO3の兄なんですよね?
     「見れば分かるだろう」
     
     Q.アルトとホタルって?
     「どちらも僕の部下だ。アルトが首輪付き、ホタルがそのハンドラーだ」
     
     Q.アルトって死刑になったんじゃ……?
     「死刑囚だったのを、僕が英雄醸成システムの被検体として買い取った。いまは僕のものだ」
     
     Q.ホタルは?
     「あれは自分からこの電車に来たんだ。アルトと一緒にいられるなら何でもするというから、試しにハンドラー契約を結ばせたところ、成功したから停留許可を出している」
     
     Q.聖って?
     「…………不快なので、そいつについては答えない。重要事項でもないし、後にしろ」
     
     Q.クライン生命保険相互会社って?
     「僕の所属組織だ。いろいろと融通がきくので、昔から籍を置いている」


    ◎パン、と翠が手を叩いた。

    「本題に入る。HO1、おまえにはハンドラーとして、その首輪付きと共に僕の部下として動いてもらう。HO2、おまえもだ」
    「おまえたちに拒否権はない。……正確には拒否してもいいが、そうなったときは殺す」


     Q.なんで!?
     「生身の対虚数工作員がアルトとホタルだけでは不足していた。その折に、HO1がハンドラーになった。偶然だが、使えるものは使う。おまえも、実の兄を見捨てたくはないだろう」
     
     Q.……本当にHO1の実兄なんですか?
     「そうだ。僕はすべての首輪付きと、その遺族を記憶しているからな。疑うなら、あとでDNA鑑定でもしてやる」
     
     Q.HO2的にも異論あるんですけど!
     「『イエス、ボス』以外の返事は自殺希望とみなす。いいな、HO2?」
     
     Q.HO3的にも物申したいんですけど!
     「おまえは黙っていろ」



    ◎「……どうせ、何もしなければ世界は滅ぶ」

    「僕の目的は、死の星からこの世界を救うことだ。おまえたちにはその手伝いをしてもらう」

    「おまえたちも気付いているだろう。昨今の災害、その質と数は異常だ。これが続けば、遠からず人類は滅びる。だがこれすら前触れに過ぎない。いよいよ死の星が迫ったとき、ルルイエの主が目覚める。そうなれば人類どころか、世界が破滅する」

    「ルルイエの主の目覚めを防ぐ。これが第一目標だ」

    「忌々しいことに、死の星の接近に厄介な奴らも気付き始めた。ルルイエの主を信奉する有象無象が活気を取り戻し始めている」

    「おまえたちには、NWI──奴らの鼻っ柱を挫いてもらう」


     Q.死の星って?
     「ネメシス。僕はそう呼んでいるが、天文学の奴らは別の名で呼んでいたな」
     ★翠は極力神の名前を口にしたがらない。別の名について言及しても「覚えていない」と誤魔化す。

     Q.ルルイエの主って?
     「世界を滅ぼす神、としか言いようがない」

     Q.NWIって?
     「ニュー・ワールド・インダストリー。表向きはただの多国籍企業だが、上層部は銀の黄昏教団の息がかかった奴らしかいない。奴らの日本進出を阻むのは、僕の仕事の一つでもある」
     
     Q.銀の黄昏教団って?
     「息の長い魔術カルト団体だ。何度か壊滅しているが、そのたび何年後かに復活している」


    ◎「大きく分けてやるべきことは二つ。一つはNWIの日本支部建設の阻止。一つはルルイエの盤の奪取だ。おまえたちにはこのどちらかを担当してもらう」

    「できる方を選べ。残った方はアルトとホタルにやらせる」

     Q.翠は働かないの?
     「僕が実働部隊になったら星辰を読み解く者がいなくなる。おまえが代わってくれるのか? 未来の切れ端を掴み損ねたらすべて台無しにする役を?」
     
     Q.ルルイエの盤って?
     「いまは三つに分かたれている、ルルイエの座標を示す魔術道具だ。その三つの破片のうち、一つをNWIの大谷口キャンサーが入手したらしい。奴はこれを持って、明日日本にやってくる。おそらく他の仲間と合流するつもりなんだろう」


    ◎「任務の詳しい設計は、割り振ったあとに説明する。いまは選べ」





    >009-a.NWI日本支部建設の阻止

    ◎「現在建設中のNWIビルに潜入、破壊工作をしてもらう。爆破解体は知っているな?」

     △≪知識≫
     爆破解体とは、大型の建築物を爆薬を用いて解体することである。


    ◎「設置場所は僕が計算して指示する。おまえたちはそこに爆弾を置いたあと、脱出すればいい。ただし、ビルのどこかに建設に関する契約書類があるはずだ。後顧の憂いを絶つために、それを奪うのを忘れるな」


    ◎「質問がなければ明朝のミーティングまで解散とする」





    >009-b.ルルイエの盤奪取

    ◎「明日のバベッジ・インコーポレイテッド主催の晩餐会に、ルルイエの盤の欠片を所持している大谷口キャンサーがやってくる。彼からそれを奪え。相手も抵抗するだろうから手段は選ばなくていい」

     △≪知識≫
     バベッジ・インコーポレイテッドとは、世界でも名高いIT企業だ。かの企業の製品は、日本でも数多く流通している。


    ◎「晩餐会のマナーは知っているな? 知らなければ今夜中に調べておけ」


    ◎「質問がなければ明朝のミーティングまで解散とする」





    010.電車での夜

    ★翠は探索者に任務を言い渡すと研究室を去っていく。
     研究室を調べたあとは、自由行動とする。PLのやりたいことをやらせよう。


    ◎「話は以上だ。おまえたちの部屋はアルトに用意させておく」

     翠はさっさと研究室を出ていった。


    △探索箇所:資料 / 測定器


     >>資料
     ◎英雄醸成システムについての研究資料のようだ。
     開発者欄には「翠、聖」と並んでいる。
     
     「英雄醸成システムとは、ティンダロスの混血種を人為的に生み出し、かつ制御可能な人型汎用虚数兵器として改造状態に置くための虚数機構である。この兵器を『首輪付き』と呼称する。これにより、死の星およびその影響下たる現状を打破するのが最重要課題である。
     首輪付きになる適正を持つ者は多くない。死に近い状態であること。虚数耐数が高いこと。世界と繋がる楔が限りなく少ないこと。この三項目は、とくに必須といっていい。以上の条件を満たすものは囚人、とくに死刑囚に多くいると分かった。買収を検討する。
     首輪付きを制御下に置く要石たる生身の存在を『ハンドラー』と命名した。ハンドラーは契約下の首輪付きに対し、強制執行令(ハンドラー・コマンド)をはじめとした、あらゆる命令を優先的に実行させることができる」
     
     「実験経過観察:首輪付きの製造は安定してきた。しかしハンドラーはなかなか適正者が見つからない。こちらは個々の首輪付きそれぞれとの相性問題が強い」
     
     「実験経過観察:契約させた首輪付きとハンドラーには、外部からは観測できない、特殊な結びつきが発生しているようだ。ハンドラーには知る由もない、首輪付きの記憶を夢に見たという報告がハンドラーからあがった。実験には無関係だが、仮想問題としては興味深い。この特殊な結びつきを『契約因果』と呼称する」
     
     「実験経過観察:契約因果の疑似測定に成功。高い確率で、首輪付きもハンドラーの記憶を覗き見ている(首輪付きには感情機能を削ぎ落としたので、別の実験を行われないと確認できない)。
      またこの契約因果は首輪付きの大本──ティンダロスの能力に関係している可能性が高いことも分かった。多元宇宙論を前提仮説とするなら、世界線の可能性を手繰り寄せ、ハンドラーを新しい首輪付きにすることも可能かもしれない。だがもしこの可能性が実現するなら、そのときは新しいハンドラー契約が必要になるだろう」

     「実験経過観察:契約因果を疑似利用し、強制執行令(ハンドラー・コマンド)の実装に成功。ハンドラーにかかる負担は大きいが、首輪付きの能力を一時的、かつ限定的に底上げできる。対虚数戦において有用な道具となるだろう」

     「実験経過観察:怪物の条件を再定義する。一つ、言葉を喋ってはいけない。一つ、正体不明でなければならない。一つ、不死身でなければならない。条件を達成するごとに虚数数値の上昇を確認した。あちらの連中に近づくほど兵器としては有用になるようだ」
     
     「実験経過観察:実戦投入。深きものの撃退に成功。首輪付きの性能は想定以上だ」
     
      >>>資料に追加で≪目星≫
      「質、量ともに不足」という走り書きを見つける。
      ★これは聖の残したものである。そのため、資料室のメモ(翠の筆跡)とは違う。


     >>測定器
     ◎「虚数耐性測定器」とラベルが貼られている双眼鏡。スピーカーらしきものが取り付けてあること以外、特に変わったところはない。
     ★これを使ってそれぞれを覗き込むのであれば、HO1は「1d50+50」、HO2は「1d50」、HO3は「測定不能」と人工音声が流れる。HO1はまだ首輪付き化していないので運命力が高め(あとで首輪付きになる必要もあるし)。HO2は一周目で首輪付き化しているので固定値はなし。HO3はそもそもグロースの澪標なので、あるとかないとかいうレベルではない。





    011.夜に見るそれぞれの夢

    ★HOごとに異なる夢を見る。これは夢なので、干渉することはできない。
     HO1は真守の一周目の記憶を、HO2とHO3は自身の一周目の記憶を垣間見る。



    HO1◎泣いている。誰かの死を悼んでいる。
     涙が次から次へと湧いて出る。ひどく悲しくてやりきれない。人目も憚らず慟哭した。
     周囲の人々が痛ましそうに、こちらから目を背けた。
     皆、真っ黒な服装。
     線香の香りが鼻孔をくすぐる。
     誰かの葬式のようだった。
     遺体が収まっている棺を覗いたとき、何を思うだろう。
     HO1が瞑目し、息絶えている姿を目にしたときに、何を感じただろう。
     なんであれ、まず、疑問がある。
     自分はいま、誰の目を通して世界を見ているのか?
     ★これは一周目の、真守の記憶である。一周目ではHO1が死んでいるため、その葬式が行われた。真守は首輪付きになっているため、ティンダロスの猟犬らしく時空の縛りを受けずに記憶を引き出せる。


    HO2◎燃えている。
     空が、地上が、世界すべてが、燃えている。
     そういえば、負けたのだった。
     できるだけのことを尽くし、足搔き切った末に、負けたのだ。
     何が足りなかったのかも分からない。
     どうすればよかったのかも分からない。
     最初から勝ち目なんて、なかったのかもしれない。
     それに対し、何を思うこともない。
     まるで感情という機能が備わっていないように。
     瀕死の自分と、その傍らでいままさに息絶えようとしている男を、他人事のように観測している。
     男の顔に見覚えがある。真守だ。目隠しをしていないが、間違いない。
     真守が自分の方に手を伸ばし、告げた。
     「HO1を助けてやってくれ」
     ★これは一周目の、HO2自身の記憶である。世界のつじつま合わせによりHO2は忘れているが、HO2だけは一周目も二周目も同一人物であるため、過去の記憶を思い出している形となる。



    HO3◎自分の部屋で、誰かと話している。
     目の前にいる人間は二人。
     ひとりは真守。もう一人は目隠しをしているHO2だ。
     真守は目隠しをしておらず、よく変わる表情と愉快な話術で楽しませてくれている。
     HO2は喋ってくれないが、自分たちはいろいろな話を、たくさんしている。
     二人は大きな災害に巻き込まれて死にかけたこと。
     それは翠のせいだったと昨日分かったこと。
     だけど翠には翠の事情があることも分かった、と真守は恨む気もないらしかった。
     話の終わりに、真守はいつも同じことを言う。
     「おれにも、おまえと同じ年の 弟/妹 がいるんだ。仲良くなってほしかったな」
     ★これは一周目のHO3の記憶である。HO3はグロースの澪標として、無意識下でのみ限定的な次元跳躍を可能にしている。なおこれはグロースの接近に引きずられているだけともいう。





    012.翌朝

    ★準備ターン。探索者のやりたいことをやってから、選んだ仕事に行ってもらう。
     探索者が望むならアルトやホタルに会うこともできる。



    ◎昨日言い渡された任務に向かう必要がある。
     用意を済ませたら、研究室にいる翠に会いに行くべきだろう。





    013-a.日本支部建設の阻止

    ★移動の最中に翠との作戦ミーティング。
     指示された場所に忍び込み、契約書類を回収して、爆弾を置いてくるだけの簡単な作業。
     ここは深きものが警備を担当しているため、その排除に戦闘することもあるだろう。
     また、一親子が契約書類の回収および破壊工作のために別口で潜入している。



    ◎「来たか。それでは本日の行動方針を確認する」


    ◎「第一目標、対象建築物NWIビルの爆破解体。第二目標、契約書類の回収。どちらもビル内部に潜入しての工作活動となる」

     「建物は十階建ての構造で、NWIが借り受けるのは六階フロアだ。契約書類はこの六階で現時点で唯一完成している部屋に置かれているから、そこまでは迷わずに済むだろう。だが内部には深きもの──NWIの手先が警備として巡回している。見つかった場合、荒事になる覚悟をしておけ」
     
     「次に、爆弾の設置場所を示す。三階、四階、五階にひとつずつ設置しろ。場所は適当でいい。こちらである程度調整できるように作っておいた」


    ◎「以上だ。質問がなければ電車を降りろ。任務対象地には既に到着している」


    ◎電車を降りると、二つの驚きがあるだろう。
     一つは、本当に対象地の近くに到着していること。
     もう一つは、電車が線路もない場所を滑走し、あまつさえここに停車していたという事実だ。

     Q.線路なくても走れるの!?
     「? この電車は偉大なる種族の特別製だぞ。望めばどこにでも行ける。制限はあるがな」
     
     Q.一般人に目撃されたりしないの?
     「この電車は、基本的には僕が指定した者の目にしか映らない。……たまに虚数耐性が高い者がいるのか、不可視装甲が破られて幽霊電車とか噂されているが……まあ誤差だ」


    ◎「終わったら呼べ。回収に来る」
     そう言い残し、翠は電車と共に去っていった。
     一両編成の電車は空気の線路で加速し、あっという間に空へと上っていって、見えなくなった。


    ◎指定されたNWIビルは、話通り、まだ建設中の様子だ。
     立入禁止の看板とロープを無視して立ち入れば、むき出しの鉄骨の森が出迎える。
     エレベーターはまだ設置されていないようだ。
     上の階を目指すには、階段で行くしかないだろう。
     
     △目的地に向かうには≪DEX*5≫、あるいは≪忍び歩き≫や≪隠れる≫を3回
      ★失敗しても移動できるが、巡回している深きもの1d3体と戦闘になる。
       戦闘になったときは、一親子の登場を前倒し、助太刀に入る。



    ★爆弾の設置描写は好きにしていい。



    ◎指定された契約書類の場所──六階はたしかに部屋がまだ一つしかなかった。
     迷わずそこに立ち入れば、二つの人影が目に入るだろう。
     一人は若い女性、もう一人は彼女よりずっと年上の男性だ。
     道中で見かけた怪しげな警備員とはまったく異なる雰囲気で、数枚の書類を握っている。
     二人はこちらの存在に気付くと、驚いた顔を見せた。

     △≪目星≫
      彼らの持っている書類こそ、自分たちが探している契約書類ではないか。



    ★探索者に争う意思があってもなくても、一親子との戦闘はない。
     二人は聖から契約書類の回収だけを命じられているので、それを済ませたいまは撤退するだけなのだ。探索者から一方的に襲い掛かられても、さっさと窓から飛び出して逃げてしまう。
     探索者がコミュニケーションを取りたいようであれば、穏便に行える。



    ◎話しかければ、二人は顔を見合わせたあと、おずおずと女性の方から口を開いた。
     
     「は、はじめまして。あたしは一 つづきといいます。いまはえっと……聖さんのお手伝いで、不法侵入させてもらっています。こっちは一 はじめ。あたしの父親です」
     
     Q.不法侵入?
     「ここに入ったの、無許可なんで……で、でもそっちだってそうですよね? だから警察とかは呼ばないでおきましょうね。ねっ」
     
     Q.聖さん?
     「あたしの恩人のお医者さんで、父の上司でもあるひとです。いまは世界を救うために活動されていて、あたしたちはそのお手伝いをしています」
     
     Q.お手伝いで不法侵入を……?
     「……う。怪しいのは分かってますけど……でも、聖さんの目的は正しいものです。あたしはそう信じています」
     
     Q.聖さんの目的?
     「家族のために、世界を救うんだって。そう言ってました。家族が最初にあって、世界を救うのはついでなんだそうです」
     
     Q.その聖さんってHO3の家族では?
     「え……ええええ!? そうなんですか!? す、すごい。え、えと、あたしはお兄さんに助けられた患者です。本当にありがとうございます!」とHO3に握手を求めてくる。



    ◎ふいに男性が「もういいだろ」と頭をかいた。

     「用事は済ませたんだ。そろそろあの男とも合流しなきゃならん」
     
     「ちょっとお父さん! 聖さんをあの男なんて呼ばないで!」
     
     「……その聖さんを待たせたくねえだろ、って話だ」
     
     「う……それは、そうかも。えと、それじゃあ皆さん、お先に失礼します!」



    ◎玄関から外に出るように、あまりにも気軽に、二人は六階の窓から身を投げ出した。
     慌ててその行方を確認すれば、男性を抱えた女性が悠々と地面に着地し、そのままどこかへと走っていくのが見える。
     もし二人を見失わずに追いかけるのであれば、階段を使うのではなく、彼らに倣って飛び降りなければならないだろう。ただし無策で落ちれば、相応の致命傷は免れないはずだ。



    ★HO1が真守に着地を頼むなら、PC全員を抱え上げる形での着地が可能。
     まあHO3が落ちても復活できますが(※復活時に自分の異常な再生力に気付いて、SANC 1/1d4が発生する)。
     なお安全重視で階段を使って降りても、そこに聖は待っている。





    >014-a.聖との邂逅

    ★探索者と聖の初対面となる。
     聖は探索者に協力してもらえることを願っており、その勧誘を行う。
     聖は翠よりも温和に接する。翠より秘密主義もひどくないので、いろいろ教えてくれる。
     聖は翠よりずっと大胆なので、神の名前を口にすることも憚らない。
     ただし彼も翠同様、HO3を救うことが目的であるため、グロースの接近がHO3のせいであるとは気づかれないように振る舞う。


    ◎ビルから出て、二人が向かった方向へと走る。
     残されていた足跡を辿ったにもかかわらず、あの二人の姿はなかった。
     代わりに、別の人影がひとつ。
     黄色いコートを羽織った彼は、読みかけの本を閉じ、穏やかな微笑をもって出迎えた。
     その顔立ちに、息を呑む者もいたかもしれない。
     
     「はじめまして。私は聖。翠の双子の片割れで、HO3の兄の一人だ」
     
     そう口を開いた男は、あまりにも翠に瓜二つだった。
     
     Q,どうしてここに?
     「きみたちと話したいと思って、待っていたんだ。ああ、つづきさんとはじめさんには、先に帰ってもらったよ。立ち話に付き合わせるのも悪いからね」
     
     Q.話したいことがあるの?
     「たくさんあるよ。翠の計画じゃネメシスを退けることはできないとか、そこの首輪付きが巻き込まれた災害は、翠のせいだ、とかね」と真守を一瞥する。
     
     Q.どうしてそんなことを知っているの?
     「星辰の符牒を読み解けるのは翠だけじゃない。私もある程度可能なんだ。あとはまあ、いろいろ調べるつてもあるからね」


    ◎「翠の指示に従っているということは、きみたちも世界を救う目的に同意しているんだろう? だから提案があるんだ。翠ではなく、私に乗り換えないか?」

     聖はあまりにも当然のように、手を差し出した。



     ★探索者たちがこの場でその手を取る場合、暫定Aルートへ



    ◎「もちろん、いまここで決めなくても構わない。今日はいろいろ疲れただろうからね。気が変わったら、鏡に向かって私を呼んでくれ。もちろん、翠に見つからないように」



    ◎ふいに、身体が揺らいだ。
     突然の地震だった。
     一瞬の衝撃に身を持ち崩しかけたとき、背後からの轟音に連続して驚かされるだろう。
     振り返れば、先程立ち去ったNWIビルに、大きなものが突き刺さっていた。
     上からではなく、下から。
     ぬめりを帯びて蠢くそれは、槍というにはあまりにも柔軟で、凶暴だった。
     巨大な触手。
     それが、ビルを穿ち、瓦礫の山へと変貌させた。
     設置した爆弾が効果を発揮したのかもしれないが、あの触手以上だったとは思えない。
     触手はビルを壊したあと、ずずず……と地下へと沈んでいき、すぐに見えなくなってしまった。
     
     △≪SANC≫0/1d3
     
     はたと振り返れば、聖の姿は消えていた。

     ★聖と別れた場合、暫定Bルートへ





    >013-b.ルルイエの盤奪取

    ★移動の最中に翠との作戦ミーティング。
     晩餐会に忍び込み、大谷口キャンサーからルルイエの盤を奪取する任務。
     会場には何も知らない一般人も多く出席している。彼らを巻き込むのは望ましくない。
     バベッジ・インコーポレイテッドに在籍している聖も出席している──というか、このパーティー自体、ルルイエの盤を奪う舞台として彼がセッティングしたものである。



    ◎「来たか。それでは本日の行動方針を確認する」


    ◎「第一目標は、大谷口キャンサーからルルイエの盤を奪取。第二目標は、一般人の安全確保となる」

    ◎「この晩餐会は表向き複数企業の社員顔合わせ会として用意されている。目標対象の大谷口キャンサーはNWI特別役員として仲間と合流すべく出席しているが、他の出席者はほとんどが一般人だ。巻き込むのはクラインの理念に反するため、彼らの安全は度外視できない」


    ◎「だがルルイエの盤を穏便に奪取できるとも思えない。大谷口キャンサーは間違いなく抵抗するだろう。その場合、いかにして一般人の安全を確保するかは現場判断に委ねる」


    ◎「大谷口キャンサーの特徴だが、常に顔をバスタオルで覆っている奴だ。たしか、なんとかいうロックバンドのグッズだったはずだが……まあ、バスタオル人間とでも覚えておけばいい。そんな不審者は二人といないはずだからな」


    ◎「会場には、受付で僕の名前を出せば入れるはずだ。適当に名代でも名乗っておけ。バベッジには特許関係で相応の貸しを作ってある。無下に追い返されはしないだろう」


    ◎「以上だ。質問がなければ電車を降りろ。任務対象地には既に到着している」


    ◎電車を降りると、二つの驚きがあるだろう。
     一つは、本当に対象地の近くに到着していること。
     もう一つは、電車が線路もない場所を滑走し、あまつさえここに停車していたという事実だ。

     Q.線路なくても走れるの!?
     「? この電車は偉大なる種族の特別製だぞ。望めばどこにでも行ける。制限はあるがな」
     
     Q.一般人に目撃されたりしないの?
     「この電車は、基本的には僕が指定した者の目にしか映らない。……たまに虚数耐性が高い者がいるのか、不可視装甲が破られて幽霊電車とか噂されているが……まあ誤差だ」


    ◎「終わったら呼べ。回収に来る」
     そう言い残し、翠は電車と共に去っていった。
     一両編成の電車は空気の線路で加速し、あっという間に空へと上っていって、見えなくなった。


    ◎晩餐会はバベッジ・インコーポレイテッドが所有するホテルの最上階で開かれている。
     エレベーターでその階に辿り着けば、大勢の人間が生み出す活気に圧倒されるかもしれない。
     無数の陰謀と策略が交差する、華やかかつ物々しい雰囲気が伝わってくるだろう。
     受付では正装した女性が招待客を滑らかに捌いている。まもなく彼女はこちらへ向き合った。


    ◎「ようこそ、いらっしゃいませ。招待状はお持ちですか?」


    ◎「……え。翠さまの……? ええ、本当ならば……丁重におもてなし致しますが……」彼女が躊躇いがちに訝しんでいるのが分かるだろう。「翠さまとの関係を証明するものはお持ちですか?」
     ★当然、そんなものはない。HO3が保険証などで「家族です! 同じ苗字です!」と主張しても、「その類はいくらでも偽造できますので……」と信じてもらえない。



    ★探索者たちが窮しているタイミングで、聖が現れる。



    ◎「やあ、きみたちか。いったいどうしたの?」
     親しげに声をかけてきた男の顔立ちに、驚くかもしれない。
     黄色いコートを羽織ったその男は、あまりにも翠と瓜二つだったからだ。



    ◎彼は受付に向き直ると、穏やかに微笑んだ。

     「通してあげてくれないかな。私の知り合いと、家族なんだ」
     
     途端、受付の顔色が変わった。
     
     「し、失礼いたしました! 聖さまの関係者とはつゆ知らず……!」
     
     「いいよいいよ。事前に連絡していなかった私が悪い」
     
     ぺこぺこと頭を下げる受付に手を振って、聖と呼ばれたその男は会場内へと消えていった。
     ★聖に追いつくことはできない。探索者が受付に彼について尋ねるのであれば、「五年前に特別顧問としてバベッジ・インコーポレイテッドに入社された聖さまです。……お知り合いなんですよね?」とまたも怪しまれかねない空気になる。


    ◎広い会場内は大勢の招待客でごった返していた。
     華やかな料理や観葉植物が無数に用意されており、その匂いが鼻孔を甘く誘惑してくる。
     目標がいくら目立つ特徴を持っているとはいえ、この中から探し出せるかどうか、わずかな不安が芽生えた者もいただろう。
     
     △≪目星≫
     会場の片隅に、バスタオルで頭部を覆っている男を見つける。その手にはエレキギターが握られている。

     △≪知識≫、あるいは≪音楽≫系技能
     男の顔を隠しているバスタオルは、美形で有名なビジュアルロックバンドのグッズだ。



    ★大谷口キャンサーとの接触、およびルルイエの盤の奪取方法は好きにしていい。
     探索者がどれだけうまく盗もうと、大谷口キャンサーは奪われたことに気付いて、取り返しに来るからだ。



    ◎およそ50kgほどの純金の破片を手に入れて安堵したとき、猛然と追いかけてくる大谷口キャンサーに気づくだろう。その勢いたるや、綻び落ちていくバスタオルを直そうともしない猪突ぶりである。
     そのバスタオルが完全に床に落ちたとき、周囲一帯は彼の正体に悲鳴をあげた。
     カニ。
     数百匹にも及ぶ、無数の小さなカニである。
     それが、かさかさかさ、と大谷口キャンサーの全身を這い回っていた。
     ……しかし、すぐにこの認識は正しくないと思い直すだろう。
     無数のカニがひとの全身を這い回っている、のではなくて。
     無数のカニの群体こそが、大谷口キャンサーという個体なのだ。
     
     △≪SANC≫ 1d3/2d6



    ◎大谷口キャンサーの正体によって、会場は大混乱に陥ろうとしていた。
     その予兆たる悲鳴が、ふいに途絶える。
     ……いや、違う。
     ひとの声だけではない。足音も、衣擦れも、息遣いすらも。
     会場の音という音すべてが消えた。
     咄嗟に状況を把握しようと、周囲を見回せば、すぐに異変に気付くだろう。
     世界が、完全に静止している。
     いままさに悲鳴をあげようとしていた女性は大口を開けたまま。
     何事かと振り返ろうとしていた男性は足を交差させた奇妙な体勢のまま。
     混乱に流されて床に落ちようとしていた皿は、机と地面の間の空中で。
     自分たちと、大谷口キャンサー以外のすべてが。
     ぴたり、と止まっているのだ。
     
     △≪SANC≫ 0/1



    ◎「きみたちも、一般人を巻き込みたくない。そうだね」
     
     気がつけば、隣にあの聖とかいう男が立っていた。
     彼は場の緊張感に似つかわしくない、柔和な笑みを浮かべている。
     
     「一般人の安全は私が確保しよう。心置きなく戦うといい」
     ★場の異常な静止は、聖が停滞キューブにて引き起こしている。彼が停滞キューブを作動させている間、一般人や会場の道具が動くことはないし、傷つくこともない。時間を止めているので。



    ★大谷口キャンサーとの戦闘になる。
     聖も探索者たちの味方として参加する。というのも、聖は戦闘の隙に探索者たちからルルイエの盤をかすめ取るからだ。






    >014-b.聖との会話

    ★戦闘終了後、聖は探索者たちに話しかけてくる。



    ◎「改めてはじめまして。私は聖。翠の双子の片割れで、HO3の兄の一人だ」
     
     そう口を開いた男の手には、いつの間に掠め取ったのか、ルルイエの盤が掴まれていた。
     
     「せっかくこうして会えたんだ。落ち着いて話がしたいな」
     
     Q,ルルイエの盤返せよ!
     「それはできない。私の目的も、今回はコレなんだ」
     
     Q.ルルイエの盤なんか何に使うの?
     「ルルイエの座標特定に使うんだよ。……といっても、よく分からないよね。まあコンパスみたいなものだと思ってくれたらいいよ」
     
     Q.聖の目的って?
     「クトゥルフの打倒。ひいては世界平和だね」
     
     Q.クトゥルフって?
     「翠が聞いてないのかな? ルルイエの主だよ。いまは眠っているが、ひとたび目を覚ませば世界を滅ぼす大災害さ」
     
     Q.話したいことがあるの?
     「たくさんあるよ。翠の計画じゃネメシスを退けることはできないとか、そこの首輪付きが巻き込まれた災害は、翠のせいだ、とかね」と真守を一瞥する。
     
     Q.どうしてそんなことを知っているの?
     「星辰の符牒を読み解けるのは翠だけじゃない。私もある程度可能なんだ。あとはまあ、いろいろ調べるつてもあるからね」


    ◎「翠の指示に従っているということは、きみたちも世界を救う目的に同意しているんだろう? だから提案があるんだ。翠ではなく、私に乗り換えないか?」

     聖はあまりにも当然のように、手を差し出した。



     ★探索者たちがこの場でその手を取る場合、暫定Aルートへ



    ◎「もちろん、いまここで決めなくても構わない。今日はいろいろ疲れただろうからね。気が変わったら、鏡に向かって私を呼んでくれ。もちろん、翠に見つからないように」

     聖が指を鳴らした。
     途端、世界に混乱が舞い戻った。
     大勢の招待客は我先にと駆け出そうとして、大谷口キャンサーがどこにもいなくなっていることに気づく、首を傾げ始める。
     ざわめく会場から消えたのは、たった二人。
     大谷口キャンサーと、聖だけ。
     それに気付いているのは、探索者たちだけだった。



     ★聖と別れた場合、暫定Bルートへ
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