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    masasi9991

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    ホワイトウイングイベント後のジクイア

    ##ジクイア

    鍛冶屋の冥利は


     式典で見た華やかな衣装が目に残っている。オーダーメイドのタキシードにマント、シルクハットに手袋、靴まで全部がジークさんの上品で凛とした雰囲気にぴったりだった。見た目で人は測れないとは言うけど……まるでジークさんの心の美しさに合わせて誂えたようにも見えた。上品さ、美しさもそうだし、何よりその柔らかな印象は、ジークさんの優しさを表しているように思えた。
     そうだ、ジークさんは強くてかっこいい。だけじゃなくて、とても優しい。そんな内面の美しさを衣装によって表現することができるなんて。ちょっと変な話かもしれないけど、そのことに関しておれはなるほど、と強く感銘を受けた。
     衣装は裁縫師の仕事だ。鍛冶屋のおれが衣装作りのことを考えるのは邪道かもしれない、と思いつつ。気付けば、例えばマーケットで鍛冶に使う鉱物を買い求めているときなんかにも、あの瞼に残った美しいジークさんの姿に似合うなにかについて考えている。
     鍛冶で作るならゴールドの細工品とか、貴石を使ってみるのもいいかもしれない。武器や防具を作るときの応用で考えてみる。良い装備は洗練された見た目の美しさも必要だ、というのがおれの持論でもあるから、そんなに本来とかけ離れた発想でもないはずだ。
     だけど、ジークさんに見合う素材って、結構難しいな。まだ鍛冶屋としても独り立ちできてないおれの収入で買えるものに限られてるわけだし。こういうときはいっそ採掘師の知り合いに相談して、自分で採取しに行くという手もアリか。
     なんて考えてた頃に、ジークさんが久しぶりに工房にやってきた。
    「お久しぶりです! 仕事の依頼ですか?」
     開口一番にそんなことを言ってしまったが、よく考えなくても仕事の依頼以外でジークさんが工房を訪れることなんてほとんどない。一応、個人的なお付き合い……つまり、いわゆる恋人同士という間柄だけど、ジークさんはおれの仕事の邪魔になるようなことは絶対にしないから。
     だから久しぶりに工房に顔を出したのも、鍛冶の依頼以外に目的はないはずだ。というのはわかっていながらも、おれの方が全然関係ないことを考えてしまっていた。
     ジークさんの衣装に似合う細工品、まだ作れてなかったって。言いそうになってしまったけど、言わない。喉の奥で飲み込んだ。
    「ああ、もちろん。いつものように、彼の手入れをお願いしたい」
     彼、というのは……ジークさんの愛用する氷の剣、ナイツオブブルーのことだ。いつもは腰に刺したその剣を、今日のジークさんは美しい桐箱に入れて持ってきた。
     工房の机に置かれたそれは、相変わらず気高く強靭な刀身を輝かせている。
     しかしちょっとこれは、様子がおかしいような。
    「少し機嫌が悪そうですね。いえ、ジークさんのことではないです! この剣が、です」
    「不機嫌?」
    「はい。武器も使われないでいると錆びやすくなってしまいます。特に彼は強い冷気を纏っているので、ジークさんのような同じ属性の使い手の力を浴びるのが一番なんでしょうね」
    「なるほど。実は式典の間、偶然にも別な剣を扱っていたのだ」
    「そうでしたよね。おれも見てました」
     それどころか式典の後もずっと目に焼き付いて離れない、ぐらいだ。そこまでは言いきれなくて、一人で照れる。
    「その後の片付けなどにも忙しく、手入れを怠ってしまったというのもあるのだ。ひと目見ただけでそこまで見抜くとは、やはりあなたは頼りになる」
    「そんな、おれなんてまだまだ」
    「もしかしたらこの剣に一番精通しているのは、あなたなのかもしれないな」
    「そんな風に言われると鍛冶屋冥利に尽きます」
     そう、返事をしながら、胸が熱くなる。照れてしまって熱くなるのとは、少し違う。誇らしい――そんな気持ちで。
    「でも、おれは二番目ですよ。この剣にとっての一番は、やっぱりジークさんですから」
     そろそろ仕事に取り掛かろうと、剣を持ち上げて、目を細めて刀身をじっと見つめる。刃こぼれなんて一つも起きるはずがないブルーの刃の向こうで、ジークさんが柔らかに微笑んでいるのが目に入った。
     そうだ、ジークさんに一番似合うものって、これだ。通りで、マーケットなんかで探してても見つからないはずだ。

    (了)
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