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    支部に上げているAt the airportで削ったシーン3つ

    At the airport削ったシーン〈空港での一幕〉 
    「今日はカメラを持った人がやけに多いね」
    ライオスはカウンターに肘をつきながら言った。
    最早恒例となった光景に、チルチャックは仕事の手を止めずにちらりと横目で見るに留める。
    「なんでも、貨物エリアの方に珍しい機体が来てるらしい。どうやって嗅ぎ付けてくるんだか、いつの間にか集まる」
    「さっき展望デッキに行ったら、すごい人だかりだった」
    俺にはどれが何だか分からなかったけど、とライオスは退屈そうに呟くと、こちらに視線を向け、じっと作業を眺めはじめた。当初は煩わしかった視線にも慣れたもので、今では自然と受け止められる。
    仕事が一段落すると、チルチャックは隅に置かれていたラップトップを持ってカウンターに置いた。
    いくつか操作をして目当てのウェブサイトを開くと、ライオスに向けて置きなおす。
    「ほら、見てみろ」
    「……世界地図の上に黄色い点が蠢いてる」
    「この黄色いのが全部航空機だ。今飛んでたり、空港にいる世界中のやつが見られる」
    チルチャックは今いる空港までマップを拡大させる。
    「お前がさっき見てきたのが、多分ここに映ってるやつ」
    マウスポインタ―で示しながら言うと、ライオスは目を瞬かせた。
    「こんなものがあるとは、知らなかったな」
    「連中もこれを見てここに来たのかもしれない。行先も出るしな」
    「君も普段見てるの?」
    「俺は興味ない」
    「ふーん」
    ライオスは手を伸ばしタッチパッドを操作すると、空港に駐機している飛行機のいくつかをクリックする。
    「これだ」
    「何が」
    「俺が今から乗る便」
    「だから何だよ」
    「せっかくだから確認しておいて」
    ライオスは視線をラップトップから店の奥の壁掛け時計に向けた後、チルチャックの目を覗き込んだ。
    「そろそろ行くよ。フライト時間は一時間くらいだから」
    手を振りながら去っていくライオスを片手を上げて見送ると、画面に目を向ける。
    国内線の飛行機の出発地と到着地、そして各々の予定時間が記載されていた。
    「誰が見るかよ」
    チルチャックは左手の腕時計を確認しながら呟き、ラップトップを持ち上げる。
    先程まで使用していた机の上にラップトップを置くと、作業を再開した。
    作業を終えて思い出したように顔を上げると、男の乗った飛行機は画面上で緑色の軌跡を描いていた。


    〈家での一幕〉
    換気扇のスイッチを入れると、たばこに火をつける。
    キッチンカウンターに凭れかかりながら、ポストに入っていたピザ屋のチラシをぼんやりと眺めた。
    ここ最近は自炊ばかりで、少し疲れてきたところだ。そろそろテイクアウトかデリバリーに頼ってもいい頃だろう。
    期間限定、と書かれた見ているだけで胃が重くなりそうなピザの写真から目を逸らすようにチラシをカウンターに置くと、煙を吐き出す。
    「どうしていつも換気扇の下でたばこを吸うんだ?」
    ソファーに寝転がって本を読んでいたライオスが声を掛けてくる。少し距離があって見え辛いが、手に持っているのは本棚にしまい込んでいた大衆小説だ。何年も前に気まぐれに買って、半ばで読むのを止めてしまったことを思い出す。
    「どうしてだと思う」
    「うーん、ベッドに臭いが付くのが嫌とか?」
    「そんなことを気にするように見えるか?」
    「見えない」
    聞いてきたわりにそこまでの興味はなかったらしく、ライオスは再び本に視線を戻す。
    「うちにはお子様がいるからな」
    「……俺のこと?」
    不満そうな声にチルチャックは思わず笑い声を上げた。
    「はじめの頃、顔を顰めてただろ」
    「そんなことない」
    チルチャックが灰皿に灰を落としながら思い出したように笑うと、ライオスは本を閉じてキッチンまでやってきた。そして、隣でチルチャックがたばこを吸う様子をじっと観察する。
    「眉間に皺が寄ってるぞ」
    「……寄ってない」
    「苦手なら苦手なままでいいだろ」
    「……煙が得意じゃないだけだ」
    「はいはい」
    チルチャックは換気扇のスイッチを“弱”から“強”に切り替えると、隣で不満げな顔をして眉間に皺を寄せたままの男を見上げる。
    無理に合わせなくたって、程々に折り合いをつけていけばいい。変なところで頑固でどうしようもないやつだ。
    チルチャックはキッチンカウンターに置いたばかりのピザのチラシを左手で取ると、ライオスに手渡す。
    「食いたいやつ、選んどけよ」
    気が逸れたのかチラシを隅から読み始める男を横目に、チルチャックはまたたばこを咥えた。


    〈ライオスと空港で別れてから〉
    第三ターミナルから車がある立体駐車場までは少し距離があった。
    暖かかった室内とは違い、外の通路は冷たい風が吹いていて、チルチャックは身を震わせる。
    いつも帰る時間には大勢の往来があるが、流石にこの時間は少なかった。
    上着のポケットに両手を入れ、背を丸めて歩く。吐き出す息は白く、立ち上っては消えていった。
    駐車場に着く頃には体はすっかり冷え切っており、急いで車に乗り込むとエンジンを掛ける。
    暖気運転も何もしていない車では、エアコンから吐き出される風は冷たいばかりだ。
    チルチャックはエアコンをオフにすると、気を紛らわせようとポケットからたばこの箱を取り出した。
    しかし、箱を開けてみれば中身は空っぽだった。
    助手席に箱を放り大きくため息を吐くと、ハンドルに凭れかかる。
    数十秒か数分か、どれだけそうしていたかわからないが、すぐ横を通った車のライトに照らされて、はっと正気に戻った。
    いつまでもここにいても仕方がない。チルチャックは明日の仕事の予定を考えながら、車を発進させると家路についた。

    自宅に着くと、上着を掛けて荷物を定位置に置いた。
    酷く疲れていて、ソファーに座ろうとしたが、そこにはぐちゃぐちゃのブランケットが置かれたままだった。
    いつも通り畳もうとしてブランケットを手に取ったがやめる。今夜も、これからも使う人間はいない。
    どうしようもなく不安になって、チルチャックは思考から追い出すようにブランケットをソファーの端に寄せようとしたが、結局座れるスペースを確保しただけに過ぎなかった。
    座ったはいいが、結局落ち着かずたばこを探そうとしたとき、ソファーの前のリビングテーブルにたばこが置かれたままであることに気が付いて、思わず手に取る。
    ライオスが間違えて買ってきたたばこだ。
    薄いフィルムの包みを剥がすと、中身を一本取り出し、火をつける。
    まるで自分好みじゃない、甘ったるいたばこ。
    胃がむかむかするような甘ったるいそれが、今はただ愛おしかった。

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