役に立たない番犬の飼い方「あの、その、好きです……!」
その男は真っ赤な顔で俺を見上げた。幼い顔立ちはハーフフットの特徴そのものだったが、十四、五といったところだろうか。最近組合でよく見かける顔だった。過去に幾つか仕事を当てがってやった気もする。明るくて素直で好青年だと評判の男だった。少なくともこんな面持ちは見たことがない。
「あの、あなたにずっと憧れていました! いつも一生懸命俺たちのためにがんばってくださる姿がすごいなって思ってて。それで、いつのまにか好きになっていました!」
上擦った声が嫌でも嘘ではないと伝えてくる。若い頃は女から何度か声を掛けられはしたものの、最近はそういうものとはとんと縁遠くなっていた。目の前の青年は小刻みに震えている。それなのにこっちを真っ直ぐ射る視線だけは力強く、思わず顔を背けた。優しそうな目元に、仲間とよく笑う姿は酒場でもたまに見かけた。きっと気のいい奴なんだろう。素直で、真っ直ぐで、眩しい。
「……いや、その」
口を開きかけた時、ふわりと嗅いだことのある男の香りがした。土と草が混じった香りだ。
「どうしたんだ?」
ぎゅっと肩を寄せられて腕の中に収められる。
「おい、ライオス! やめろって!」
ジタバタと暴れてみても、トールマンのおまけに鍛えている奴の力になんか敵うわけがなかった。
「あの、俺」
「うん?」
そろりと頭上を見上げてみると、いつも通りの柔和な笑みが目の前の男を見つめていた。
「チルチャックさんが好きです」
「なるほど、そうだよな。チルはいい奴なんだ。口は悪いが面倒見がいいし、いつもよく周りを見てる」
間髪入れずにライオスは大きな身振り手振りをつけながら、彼に話して聞かせる。昔のちょっとした話から最近のものまでそれはそれは楽しそうに。おいと肘で太もも辺りを小突いてみたが、逞しい筋肉に僅かな攻撃は吸収されていくのみだった。
「あなたみたいなチルチャックさんの素晴らしい所を知っているご友人に会えて俺、嬉しいです!」
青年が目を輝かせてそう発すると、ライオスはまたにっこり人好きのする笑みを浮かべた。
「俺も恋人の素敵な所を伝えることができて嬉しいよ」
「え」
たっぷり空白を置き、組合の青年はポカンと口を開ける。俺は頭を抱えた。こうなるような気はしていたのだ。
「君がチルチャックのことを好きなのはわかった」
屈んだライオスが青年とぴたりと視線を合わせる。一瞬伏せられた睫毛がきらきらと太陽の光を受けて煌めいた。
「でも君には諦めてもらわなくちゃ困る」
そっと肩を寄せられたのには気付いたが、今更払い落とす気にもなれなかった。背中越しの心音が煩くて可笑しかったからかもしれない。
「そんな、だって。あなたさっき俺が告白してもにこにこ笑ってたじゃないですか」
うーんとライオスは唸って、再びふりゃりと笑った。
「君がチルチャックの素敵な所をたくさん見つけてくれて嬉しかったんだ」
青年はもう何も言わなかった。思わずため息が零れる。後ろの恋人よりこいつの方がよっぽどまともなのは確かだ。
「まあそういうことだから。悪いな」
軽く手を挙げると青年は大きな目に薄らと水膜を張った目で俺を見つめる。そしてからりとした声で「こんなの、叶いっこないじゃないですか」と笑った。
青年の小さな足音が遠ざかっていくのを眺める。鎧を纏っていない太ももを、今度こそぐいぐいと肘で押してやる。
「勝手なことしやがって」
的な感じでつづくといいね。