⚠️カの夢「神様、呪っておきますね」原作軸?
夜もとうに更けたころ、ふと目が覚めた。穏やかな寝息を途切れさせないように気をつけそっとベッドを降りる。いつのまに眠ってしまったのだろう。身につけた覚えのないパジャマにきちんと留められたボタン。数時間前の出来事がたちまち頬を熱くさせ、意味もなくパタパタと頬を仰いだ。何を思い出しているのだろう、恥ずかしすぎる。私を見下ろしていた真っ直ぐな青い瞳も今は閉じてしまっているというのに。
気分を変えたくて窓際のカーテンをそっと引く。細く窓を開けるとすっかり冷たくなった風が舞い込み、熱した頬が心地良い。空には星がパラパラと散らばり瞬いている。明日はきっと晴れなんだろう。
「何してるんですか」
ずっと遠いところに浮かぶ光を数えていたら、掠れた声がすぐ近くで聞こえた。振り向く前に柔い温度が肩に掛けられる。ずっしりと不機嫌そうな重さも一緒に。
「まだ夜中ですよ」
嗜めるような、確認するようなどちらにも振り切れない声色がおかしくて笑ってしまう。どうやら相当眠いらしい。
「あはは。そうだよ、まだ夜中」
毛布越しの体温が普段よりも高い気がする。そんなに眠いのならこちらのことなど放っておけばいいのに、それをしないのがこのカブルーという恋人なのだった。
「星をね、見てた」
ん、とかうーんとか謎の呻き声が背中を伝う。
「星だけなら窓を開けなくていいじゃないですか」
寝起きだというのに的を得た答えが返ってきて嫌になる。
「それはほら、気分?」
「……そうですか」
伸びてきた腕がたちまち私の全身ごとぎゅっと抱きしめる。まるで大きなぬいぐるみにでもなった気分だ。
「俺……あんたが数百年後星になったら毎日だって空を見上げますよ」
珍しくとろとろと囁かれる言葉に吹き出してしまった。この男は時々とんでもないことを真面目に口にする。
「残念ながら星になれそうな徳は積んでないかな」
そう返すと不服そうにカブルーは唸る。どうやら納得していないらしい。こっそりと表情を窺った。うつらうつらと首が船を漕いでいて、目がほとんど開いていない。夢と現実の間にいそうなくせに、私を羽交締めにしている力は少しも緩まず口元が綻んだのが自分でわかった。
再び星を見上げる。煌々と濃紺で輝く眩さはどちらかと言えば背後の男に近しいところがあるのではないかと思う。
「そうですか、じゃあ」
耳元で軽いリップ音がした。この会話に続きがあったことに驚いたし、残念ながらこの男の一挙一動は心臓に悪い。当たり前のように唇が重なって一瞬で離れていく。
「あんたが星になれないなんておかしいので、神様呪っておきますね」
急にクリアになった声がとんでもない言葉を告げて絶句した。さっきの唇を名残惜しいと思っていた気分が全て吹っ飛ぶ。嘘だろ、この男規模がでかすぎる。
手遊びのように手のひらにするりと撫でられる。やわやわと触れる温度は、飽きもせず指先を撫でたり握ったり忙しそうだ。ふと視線を上げると私を覗き込んだ双眼はすっかりいつもの姿を取り戻している。この男、もしかしてとっくに起きてる……? 色んな意味で二の句が継げないままの私をカブルーはただじっと眺めているだけだった。月明かりの中で蒼い瞳がバカみたいに美しく瞬く。
「カブルー君、ちょっと一旦寝ましょうか」
しっかり冷めたはずの頬が再び熱を持ちはじめているのがわかった。こんなキザったらしい言葉に惑わされるも、とんでもなく重い愛が悪くない気がするのも全部ぜんぶ夜のせいだ。
従順な恋人の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやると、そっと手が引っ込む。二人でベッドに沈み込む。射抜かれそうな両目を隠すと愉しそうな笑い声が溢れたので、明日の朝食当番は彼に押し付けてやろうと心に決めた。