⚠️チの夢『今から勘違いしますね』
酒場で盛り上がっているライオス一行。最初の方こそ良かったが、話は段々と下世話な方に傾き始めた。年齢のわりに初心なライオスに、チルチャックが絡み始める。やれどんな娘がいいのかだとか、今までの恋愛経験の話とか。ライオスはライオスで酔っているので魔物の話なんかを始めてしまい、噛み合わない二人は同じ所で楽しそうに笑っている。
放っておこうというマルシルの提案に頷いて端のテーブルに避難したところで、上機嫌なチルチャックの声が聞こえてきた。
「俺の好きなタイプはな……」
普段は絶対こんなこと自分から話さないだろうし、話すそぶりも見せないくせに、チルチャックはどうやらかなり酔っ払っているようだった。
いやでも拾ってしまう言葉に頬が熱くなる。だってそれは、自分のことのように聞こえてしまったから。なぜだか気まずそうなマルシルの笑みに耐えられず、店の外に出てみる。喧騒が全部遠いなと思っていると下方から名前を呼ぶ声がした。
「こんなところでなにしてんだ?」
「酔い覚ましだよ。まあ誰かさんよりは酔ってないけどね」
皮肉を告げてみると、チルチャックは言い返しもせずに「そうかよ」と言うだけ。
とりあえず釘は刺しておくかと思って、「ああいうのはやめなよ」とだけ言ってやる。
「なにが」
さっぱりわからないというようなジェスチャーをするチルチャックを睨むと、わざとらしく怯える。
「ああいう場で好きなタイプなんて言うの良くないと思う」
「ああ、そんなこと」
「あんなの、私にだって当てはまるしさ。他に心当たりのある人が勘違いしちゃってチルチャックが危ない目にあったらどうするの」
「……そこまでは自覚あるんだな」
私には聞こえない声でチルチャックが何か呟いて、頭の下でいつものように手を組んだ。
「それで? お前さんは勘違いしたわけ?」
「は?」
さっきまでまでのことがまるで嘘みたいに、真っ直ぐな瞳が射る。
喧騒の中で聞いたチルチャックの言葉を思い出す。髪の色、背の高さ、性格の長所から欠点までいくつもの情報が頭の中を駆け巡る。
「なあ、お前は〝勘違い〟したくねえの?」
意地の悪さを孕んだ声が色香を纏って囁かれる。それはトールマンにも聞こえるほどの声量で、どうやら都合よく聞こえなかったことにはさせてくれないらしい。
見上げた瞳は言葉とは裏腹に隠しきれない熱を乗せていて。そんなのずるいと思いながら、返事を口にする。
「〝勘違い〟させてよ」
すると夜闇の中でもわかるほどチルチャックが顔を真っ赤に染めたから、とんでもなく幸せな気分になった。