同じ部署に勤める浮奇・ヴィオレタという女性は、社内でもとても有名な人だった。
男の俺からみても上手だとわかる完璧なメイクが映える美しい顔は、正直許されるのなら何時間でも見ていられる。
150半ば程の比較的小柄な身長に、出るところは出ている抜群のスタイル。真っ白で滑らかな肌はどんな色合いの服を着ていても映えるし、ふんわりとした柔らかそうな髪は毎日アレンジされている。個人的には、アップスタイルにされていると細い首筋や鎖骨が見えていいと思っている。
閑話休題。
日々注目を集める彼女と、個人的にお近付きになりたいという者は男女問わず多く存在しているものの、未だお誘いに成功した人は少ないという。ただ付き合いが悪いということもなく、大人数での飲み会などにはすんなりと首を縦に振ってくれるので、その際は皆ここぞとばかりに話しかけチャンスを狙っている。
かく言う俺も彼女と個人的にお近付きになりたいという一人で、休みの日に何の目的もなくぶらつく最中、人通りを避けるように道端へ寄りスマートフォン片手に一人佇む彼女を見つけた時は反射的に其方へ足を向けていた。
「こんにちは」
「……ああ、こんにちは」
勢いで声を掛けたが、迷惑そうにされたり気持ち悪がられたらどうしよう…なんて心配を他所に、俺の声に操作していた端末から視線をあげ、顔見知りである事を確認した途端ふんわりとした可愛らしい笑みと共に挨拶を返された事に一気にテンションが上がる。
「ひとりで買い物でもしてたの?」
「ええ、まぁ。でももう帰ろうかなって…家でお留守番してる犬が寂しがってるし」
「へぇ、犬飼ってるんだ?俺も好きだけどペットNGで飼えないから羨ましいなぁ…かわいい?」
「とっても。……見に来ます?」
真っ赤なリップで艷めく唇から投げられた不意の問いに、大きく心臓が跳ねる。
彼女は羨ましがる俺への親切心や社交辞令でこう言っているだけだと自分に言い聞かせるけれど、正直期待してしまうのは仕方がないと思う。こんな美人に家に誘われて、下心を抱かない男がいたらお目にかかりたい。
この邪な思いを悟られないように深呼吸をし、いいの?と問おうとした矢先。
「わん」
とやたらいい声の鳴き声がしたと思えば、突如彼女の背後に現れた長身の男。その男は彼女のタイトスカートに覆われた腰に両手を掛け寄り添い、訳も分からず驚きに固まる俺をじっと見つめながら身を屈め、見せ付けるかの如くふわふわの彼女の髪に頬擦りをする。
「あれ、スハ。どうしたの。あと少しで帰るって連絡したでしょ?」
「待ちきれなくて迎えに来ちゃった。マテが出来なくてごめんね?…どーもぉ、浮奇のかわいい犬でーす」
大して驚いた様子もない彼女からの問いににこやかに答えたイケメンが、僅かな間の後再び此方を見つめおどけた様に言った言葉の圧に、オレは瞬時に全てを悟った。