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    setsuen98

    @setsuen98

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    setsuen98

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    🌊🔮♀。お弁当をもって花見に行く話。

    #suuki

     小さな公園の片隅。テーブルセットが設置された東屋を借りて、浮奇特製の料理がぎっしりと詰められたランチボックスを次々と広げていく。春野菜のラペ、デビルドエッグス、シュリンプスキャンピ、ピーナッツバターとジェリーのサンド、カルビチム、ケランマリ、キンパなどなど、料理の国籍を問わず浮奇が作りたいもの、食べたいもの、またはスハに食べさせたいものが所狭しと並んでいて、視覚と嗅覚から食欲を刺激してくる。
     スハの目の前にはごちそう。そして、隣には美人な恋人。しみじみと幸せを噛み締めていたが、今日の目的は“浮奇を癒すこと”だ。自分が癒されていてどうする、とふるふる首を振るスハを見て、怪訝そうに小さく首を傾げる姿すら可愛くて、ついデレ、と相貌を崩した。

     浮奇のストレス発散方法の一つに、大量の料理を作ることがある。その事にスハが気がついたのは、同棲を始めて半年ほど経った頃のことだった。確か、その時はクライアントとのトラブルが重なったことが原因だったと思う。
     日常会話の中でほんの些細な愚痴程度は軽く口にすることがあるけれど、大きな悩みやトラブルほど内に秘めてしまうタイプの浮奇は、そういった時に何かしらの行動でストレスを発散させる。定番とも言える買い物だったり、美容関係だったり、はたまたひたすら映画やゲームをしてグダグダと過ごしたり…あと、スハとずっとベッドの中で過ごす事もその一つ。やらしい意味ではなく、食べ物や飲み物も寝室に持ち込んで、ひたすら寝まくって、お腹が空いたら何かつまんで飲んで、また寝る。…浮奇からのお誘いがあればたまにやらしい事も含まれるが、ストレス値が限界に達している時は睡眠欲の方が勝りがちらしい。スハとしては浮奇の寝顔を存分に眺められることが幸せで、一緒に過ごせるだけで大満足なのだが。
     そんな浮奇が、昨日の仕事終わりに両手いっぱいの食材を買い込んできた。ここ最近何となく疲れているなとは思っていて、一度大丈夫かと尋ねた際に苦笑と共に「やばくなったら色々作り出すと思うから、いっぱい食べてね」と返されてはいたが、思ったよりも早いタイミングに今回は相当ストレスが溜まっているんだろうなとスハの中で心配の色が濃くなる。
     翌日、買い込んだ食材を余すこと無く使わんと、朝から張り切った様子で次々と作り上げられていく料理が盛られた皿達をダイニングテーブルに避難させながら、何気なく開かれたカーテンの外を見たスハが思いつくまま口にした「気分転換に公園で食べない?」という誘いにより、急遽料理と皿から詰め直しピクニックへ出かけることになった。

     二人が訪れたのは小さめ且つ遊具も大してないような公園で、散歩に来ている子連れのママさんたちがちらほらいる程度だった。ただこの公園を選んだのは花壇が目的で、こう言ってはなんだか、色とりどりのチューリップが咲き誇り、その先に梅や杏子まで咲くその一角は寂しい公園には似つかわしく無いとも言えるようなちょっとしたものだった。それ故に、近所の人や通り掛かりにこの光景を見た人はこの季節になると訪れるようになる、知る人ぞ知る、といった隠れ花見スポットになっている。
    スハと浮奇にとってもここは毎年訪れる場所になっており、今年もこうして二人で来ることができた事に喜びを感じつつ、ランチタイムの準備に勤しむ。
     スハがランチボックスの蓋やバッグを邪魔にならない位置に避けていく間に、浮奇が取り皿に各料理をバランスよく取り分け、それぞれの前に置いていく。取り分けですら丁寧に、少量ずつでも美しく盛ってくれる繊細さもスハが愛する浮奇の美徳だった。
    「冷静に見るとさすがに作りすぎたかも…残していいからね」
    「そう?二人だし、今すっごくお腹空いてるから、きっとこれくらい食べきっちゃうんじゃないかな」
     テーブルの上に並んだ品々を眺めながら苦笑を浮かべる浮奇と対照的に、楽しみで堪らないとでもいうようににこにことするスハだが、目の前に置かれた箸にすら手をつける事なく浮奇の方を見ている。その様が“待て”を指示されているわんこのようで、ついおかしそうに笑いながら「食べよっか」と浮奇が口にするなり表情を明るくし「잘 먹겠습니다 いただきまーす!」と声音を弾ませ箸を手に取る。
    僅かにどれから食べようかと視線を巡らせたのちラペを大きく開いた口に運び入れるスハを横目に、シャクシャクという音に耳を傾けながらハードセルツァーの缶を傾ける浮奇のリップで潤った唇から、はー…と至福のため息が溢れた。手料理をじっくりと味わうように繰り返された咀嚼を終え嚥下するなり「おいしー…これ、何で味付けしてるの?さっぱりしてて、野菜の風味も立ってて、いくらでも食べられちゃいそう」と丁寧に感想を伝えペロリと取り分けた分を食べてしまうスハに自然と頬も緩む。
    「…なんか力抜けた。最近余裕なさすぎて、景色楽しむなんて久々な感じする」
     さらに一口煽りひとりごちる様な小さな声に、口に放り込んだキンパをお腹に収めたスハがどこか遠慮がちに、反応を探るように言葉を紡ぐ。
    「ねぇ、浮奇。一生懸命な姿も格好良いけど、たまには愚痴ってくれてもいいんだからね?無理に言えなんてことは無いけど、話すことでちょっとスッキリすることってあると思うし…」
    「ん…苛々しながら暴言吐いてる恋人を頻繁に見るのなんて嫌でしょ」
    「そんなにストレス溜まってるなら、尚更吐き出さなきゃ。浮奇は怒ってる顔も綺麗だから、そんな顔見られるのも私は役得だし…あ、不謹慎?これって失言?」
    わざとらしくハッとした顔をして見せるスハに空気が漏れ出すような笑いが溢れる。同時に胸中に燻っていた嫌な思いも抜け出していったように感じ、細くため息を続けるとさらに全身の力が抜けていく。
    「じゃあ、今度からイラつく事があったら聞いてもらおうかな」
    「まかせて。その時は浮奇が好きなスイーツ買ってくるから。嫌なものは吐き出して、お腹は美味しい物で満たして、気持ちよく眠っちゃおう?」
    「気持ち良く?」
    「そう、気持ちよく…って、変な意味じゃ無いからね!?」
     もう酔ってるの!?と怒ったように缶を取り上げようとするスハの手を躱し、腕を引くと同時に間に割り込むように上体を前のめりにすればブラウスを押し上げる胸に指先が触れる寸前で急ブレーキが掛かる。触っても良いのに、とにやにや告げれば「はぁ!?昼間!外!」と焦ったような返答に益々笑いが止まらなくなり、ごきげんに缶を傾ける手も進む。
    「昼間じゃなくて、外じゃなかったら触ってたってこと?」
    「んっ…!っぐ…ご飯食べてる時に変なこと言わないでくれる!?変な所に入りかけたんだけど!」
     綺麗に焼き目のついたケランマリが大きな口に一口で吸い込まれていったタイミングで、浮奇がわざと少し間を置いて蒸し返すように問えば、思った通りの大きな反応が帰ってくることに満足そうに声を上げて笑う。
    綺麗な恋人にいいように遊ばれていることに悔しさもありながら、それ以上にスハの中で安堵が勝り、それ以上咎めることもなく、大きなため息をひとつだけ。悩みの種が消えたわけではないものの、この一時だけでも憂いが晴れ、恋人が心の底から青空に声を響かせるほど笑ってくれたのなら、今日のスハの目的は大方達成できたと言っても良い。
     あっという間にアルコールを一本空けた浮奇の手が次なる缶へと伸びていくのを横目で伺うスハの目の前を、ひらりと舞う蝶のように白く柔らかな何かが風に乗っていくと、かつて野球で鍛えられた動体視力と反射神経から咄嗟に手が伸びる。が、短く整えられた爪先を弄ぶ様に掠め更に舞い上がるそれを「待って、」と浮奇の声が追う頃には、箸と皿を置いたスハが駆け出していた。
    「浮奇は待ってて!取ってくるから!」
     刹那振り返りかけられた言葉に浮奇が答える間も無く、軽やかにその背中が遠ざかる。長身に見合ったリーチの長い足と持ち前の運動神経であっという間に舞い踊るペーパータオルへと追いつくと、地面を踏み抜く右足に重心を乗せ緩く膝を曲げたのち、振り上げた腕の力と共に軽やかに跳び上がり、今度こそ逃すことなくしっかりと捕らえ着地する。砂の上を靴裏が滑り僅かにバランスを崩すも、転ぶことなく体勢を整え再び浮奇の方を向くスハの表情は得意気そのもので、これ見よがしに獲物をひらひらと揺らしながらたったったっと足取り軽く東屋まで戻る。
    「ひひ、見ててくれた?ナイスキャッチだったでしょ」
    「運動神経いいのは知ってたけど、ジャンプがすごく綺麗でびっくりした。…取ってきてくれてありがとう」
    「どういたしまして。最後がちょっと決まらなかったけど、転んで格好悪いことにならなくてよかったー」
     軽く息を整えながら隣に腰を下ろすスハの頭に手を伸ばし、風で乱された黒茶の髪に指を通す。昨夜浮奇の手で丁寧にドライヤーをかけられたおかげか、絡れる事なくすんなりと解けていく髪を何度も梳いては指腹で頭皮を撫でると、小さく身震いをしたスハが視線を手元に落としペーパータオルをくしゃくしゃと弄びながら「あー…浮奇に撫でられると気持ちよくてぶるってしちゃう」と照れ臭そうに笑う姿に、湧き上がる欲求のまま両手でスハの頭を抱え込むようにして自らの胸に押しつけ、そのまま手ずから整えたばかりの髪をわしゃわしゃと掻き乱す。
    「んわ、わ…!浮奇…!?」
    「スハは本当にかわいいね」
     はぁ、と大きくため息をつく浮奇の腕から逃れようともがけば一層腕が絡みつき、どちらかが動く度ブラウス越しに柔らかな感触が鼻や頰に触れどうして良いかわからずスハの身体がびくりと身体が竦んでしまう。そんな反応すら酔いが回ってごきげんな浮奇の気分を上げるスパイスになり、両頬を手のひらで包み込みリップ音を鳴らし恋人の額に口付け次いで唇にもキスをしようとした所で首を振って逃げられてしまうと、駆けた後よりも大きく息を乱しくしゃくしゃになった髪を整えつつ長椅子の上で後ずさって行く恋人を面白くない顔で見つめる。
    「…逃げた。キス嫌なの?」
    「昼間!外!さっきも言ったでしょ!?」
    「もう誰もいないのに」
    「いつ誰が通るかわからないからだめ!」
     少し子供っぽく唇を尖らせ「いじわる、」と呟く浮奇の口から再び余計な言葉が出てこないように咄嗟にジェリーサンドを手に取り口元に差し出せば、じとりとした目線を向けながらも素直に齧り付き、そのままスハの手から小さめにカットされたそれを食べ進めるうち、ブルーベリーとピーナッツバターの甘さに溶かされるように拗ねていた浮奇の表情も蕩けていく。そんな様子に暫し出方を伺っていたスハの警戒が解け手が再び箸を取り食事を再開するなりほんの少しそちらへと寄り、ハードセルツァーを楽しみながら時折あれが食べたい、次はこれがいいと強請れば、自分の口に運ぶときよりも少ない量を餌付けのように与えられ、お礼の言葉を返す度スハが嬉しそうに笑みと共に一言二言答える。普段ならば大したことはない些細とも言えることすら幸せのしずくとなって、疲弊して枯渇した浮奇の心に落ち、じっくりと満たしていく。
     テーブルを埋め尽くすほど並んだ料理は時間をかけ大半がスハのお腹の中に収まり、綺麗に空になったボックスひとまとめにしてバッグに仕舞うと、来るときは嵩張り重かった荷物がコンパクトに軽く収まってしまう。
    「いっぱい食べてくれてありがとう。荷物も、私の苛々もスッキリした」
    「んーん、こちらこそ、いつも美味しいもの食べさせてくれてありがとね。…お腹いっぱいになったら、眠たくなってきちゃった」
     そう言ってくぁ、と大きな口を開けてあくびをするスハの目元にじわりと涙が滲む。それを指の背で拭いながら隣を窺うと、俯き気味に口元を手で覆いあくびを噛み殺し顔を上げた浮奇と視線がぶつかり、目を瞬かせたのちほぼ同時にくしゃりと顔を歪め笑い、どちらからともなく手を取り合い立ち上がる。
    「スハのがうつっちゃった」
    「ふふ、お昼寝タイム?」
    「いいね。起きたら一緒にお風呂入ってくれる?」
    「ぉあ…」
    「あと眠る時にたくさんキスしようね」
     当たり前のように鞄を全て引き取るスハの顔を覗き込んで甘えた声で強請れば、動揺から瞬きの回数が目に見えて多くなる。それでも逃すことなく返事を促す浮奇の熱視線に負け照れ隠しに首を落とし項垂れるように返された首肯に、表情をぱっと明るくすると同時片腕にぎゅっと抱きつき、二の腕に軽くこめかみをすり寄せ嬉しさを体現する浮奇は世界一可愛い、と幸せを噛み締めながら鞄を肩に掛け直し、ゆっくりと二人並んで帰路につく。
    「ウーピーパイも作ったから、夜のデザートにしようね」
    「やったー、デザートだ!…ところでウーピーパイってなに?知らないかも」
    「んふふ、やったー、わーい、ってお菓子」
    「え?わぁーい…?」
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    setsuen98

    DONE🌊🔮♀。大学生×社会人。
    過去あげた大学生×社会人のシリーズですが、これだけでも読めます。ですが良ければそちらも読んでみてください。
     先週のデートの際スハがそわそわとしながら手渡してくれた箱の中に収まっていたのは、うっかり指を引っ掛けでもしたら千切れてしまいそうなほど華奢なシルバーチョーカー。
    チャームも何も無いシンプルなデザインながら、フリルのような繊細な動きのあるチェーンはそれだけで上品に存在感を放ち、どんな服装にもマッチするセンスの良い品だが、箱を開けて真っ先に浮かんだ言葉は「誰と選んだの?」だった。ファッションやアクセサリーにそれほど興味がないスハが選ぶとしたら、シンプルなものだとしても何かしらの石やモチーフがついた無難とも言えるネックレスを選ぶはず。彼が一人で選ぶには、デザインが洗練されすぎていた。
     流石にスハのセンスじゃないでしょ、なんてそのまま問うなんてことはせず、オブラートに包んで包んで、それはもう遠回しに訊けば大学の友人達と出かけた際ショップについて来てもらいアドバイスをもらったのだと言うが、「その時に教えてもらったんだけど、チョーカーって“傍にいてほしい”って意味があるんだって」と伏し目がちに照れながら口にしたスハに、そのメンバーの中に女がいたことを確信して問おうとした矢先に続けられた「あと、彼氏がいますって印になるって聞いて……着けてくれる…?」と、私よりも背が高いにも関わらず器用に上目遣いで見つめてくる年下彼氏の可愛さにやられて、もういいか、という気になってしまいイチャイチャタイムに突入した、というのがその時のハイライト。
    3139

    setsuen98

    DONE🌊🔮。芸能人×メイクさんパロ。
    まだ付き合ってない二人です。
     大きな鏡に写る自分の顔を見れば、あまりに不格好な表情に苦笑が溢れる。無意識に眉間に力が入り平素に比べ険しい目元に反して、口元はスタンプを押したようにわずかに口角が上がったまま。デビュー当時から、基本的にいつでも笑顔で、と口酸っぱく言われ続けた教えに忠実に従う自分の表情筋が今は恨めしい。
     デビューしてから駆け抜けてきたこの数年、自分なりに努力を積み重ねてきたおかげか、歌だけではなくテレビ出演や演技など、様々な仕事をもらえるようになった。有難いことに熱心に推してくれるファンもつき、かつて夢見た姿に少しずつではあるが近づけている。それなのにどうにも自分は欲深いようで、同じ事務所の後輩たちがデビューするなり順調すぎるほどのスピードでテレビやステージなど華々しい活躍を見せる度、劣等感と羨望が溢れどうしようもない気持ちに苛まれ、手のひらに爪が食い込むほどに握りしめそうになるのを堪えてすごい!と手を打ち鳴らす。そんな自分の姿が滑稽で醜くて、後輩たちに合わせる顔もなくなって、思考が自己嫌悪で埋め尽くされる。そんな気鬱が続く時がたまにあり、今まさにそんな気持ちを抱えながら雑誌撮影のためにメイクルームに入れば鏡に映るのはこの様。思わず項垂れ、少しでも胸中がすっきりしないかと大きく長く息を吐く。
    3790

    setsuen98

    MOURNING🦁👟みたいな何か。付き合ってません。
     ほぼ満席状態の店内。二人掛けのテーブルにルカと向かい合って座ってから、なんとも言えない無言の時間が過ぎていく。と言っても実際には大した時間は経っていないけど、黙り込んだまま相手が口火を切るのをただ待つ時間は何倍にも長く感じられる。だからと言って、いつもの快活とした姿とは異なり神妙な顔でテーブルを見つめるルカに「話って何?」なんて無遠慮に本題へ切り込むことなんて出来なくて、手持ち無沙汰にカップに口をつけブラックコーヒーをちびちびと啜るしか出来ず、日差しが降り注ぐ外をいい天気だなぁ…なんて現実逃避まがいに眺めていた。
     「シュウに相談したいことがある」と改まって連絡がきた時は、一体何事かと身構えてしまった。まさかルカの身に何か深刻な問題でも起きているのかと心配になり即座に了承の返信を打てば、カフェでお茶でもしながら聞いて欲しいとの思いのほかゆったりとした回答に、勝手な杞憂だったのかと胸を撫で下ろしたのが数日前のこと。ただ実際に顔を合わせてみるとこんな風に一切読めない様子で、大きな問題でないことを願う最中、突然ルカが顔を上げ僕の方を見つめたかと思えば、また直ぐに視線を落とし何度か口をモゴモゴとさせてようやく口を開いた。
    1583

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    setsuen98

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     デビューしてから駆け抜けてきたこの数年、自分なりに努力を積み重ねてきたおかげか、歌だけではなくテレビ出演や演技など、様々な仕事をもらえるようになった。有難いことに熱心に推してくれるファンもつき、かつて夢見た姿に少しずつではあるが近づけている。それなのにどうにも自分は欲深いようで、同じ事務所の後輩たちがデビューするなり順調すぎるほどのスピードでテレビやステージなど華々しい活躍を見せる度、劣等感と羨望が溢れどうしようもない気持ちに苛まれ、手のひらに爪が食い込むほどに握りしめそうになるのを堪えてすごい!と手を打ち鳴らす。そんな自分の姿が滑稽で醜くて、後輩たちに合わせる顔もなくなって、思考が自己嫌悪で埋め尽くされる。そんな気鬱が続く時がたまにあり、今まさにそんな気持ちを抱えながら雑誌撮影のためにメイクルームに入れば鏡に映るのはこの様。思わず項垂れ、少しでも胸中がすっきりしないかと大きく長く息を吐く。
    3790

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    DONE🌊🔮♀。大学生×社会人。
    過去あげた大学生×社会人のシリーズですが、これだけでも読めます。ですが良ければそちらも読んでみてください。
     先週のデートの際スハがそわそわとしながら手渡してくれた箱の中に収まっていたのは、うっかり指を引っ掛けでもしたら千切れてしまいそうなほど華奢なシルバーチョーカー。
    チャームも何も無いシンプルなデザインながら、フリルのような繊細な動きのあるチェーンはそれだけで上品に存在感を放ち、どんな服装にもマッチするセンスの良い品だが、箱を開けて真っ先に浮かんだ言葉は「誰と選んだの?」だった。ファッションやアクセサリーにそれほど興味がないスハが選ぶとしたら、シンプルなものだとしても何かしらの石やモチーフがついた無難とも言えるネックレスを選ぶはず。彼が一人で選ぶには、デザインが洗練されすぎていた。
     流石にスハのセンスじゃないでしょ、なんてそのまま問うなんてことはせず、オブラートに包んで包んで、それはもう遠回しに訊けば大学の友人達と出かけた際ショップについて来てもらいアドバイスをもらったのだと言うが、「その時に教えてもらったんだけど、チョーカーって“傍にいてほしい”って意味があるんだって」と伏し目がちに照れながら口にしたスハに、そのメンバーの中に女がいたことを確信して問おうとした矢先に続けられた「あと、彼氏がいますって印になるって聞いて……着けてくれる…?」と、私よりも背が高いにも関わらず器用に上目遣いで見つめてくる年下彼氏の可愛さにやられて、もういいか、という気になってしまいイチャイチャタイムに突入した、というのがその時のハイライト。
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