十二月某日、東京は大寒波に襲われていた。最低気温は零度を下回り、最高気温は一桁前半という近年稀に見る寒さ。降雪によって電車は止まり、社会活動は微かに不活発になる。いい事がないですね、冬というものは。パフォーマンスも落ちるんですよね、手指が冷えて作業のひとつもままならない。しかも東京の風って冷たいし強いし乾いてるしで最悪なんですよね、おかげで風が吹くと耳が冷えて頭痛がする。この歳と風貌で耳当てをする訳にもいきませんし、対策の仕様がない所も腹立たしい。そんな私の苛立ちとは裏腹に千晴くんは元気そうだ。この寒さの中機敏に走るなんて、若さが為せる技でしょうか。彼が向かった路地裏の奥へ歩みを進める。コツコツと硬質な靴の音が反響した。
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