因習村二十五年に一度、神無月の十三日に破瓜の神子を捧げよ
村にはいくつかの言い伝えがあるが、とりわけこの村で要とされる掟は神子にまつわるものだった。二十五年に一度だけ執り行われる儀式にて、神子は吹き荒ぶ海へと身を投げその生涯を終えることで村を水難から救う神聖な存在とされてきた。神子といえば聞こえは良いが、要するに生け贄である。ひよ里はその掟のために今日まで村人に育てられてきた人身御供であった。齢は今年で破瓜となる。八朔生まれのひよ里は破瓜となって数ヶ月後、掟の通りその身を村の土着神に捧げることを幼い頃より約束されていた。
ひよ里には身寄りがなかった。五つの頃に漁猟の際の水難事故で両親を亡くし、それから食糧に住処など、あらゆる局面で村人に支えられながらなんとかここまで生きてきた。村人としては来たるその日に捧げる生贄に死なれては困るという後ろ暗い思惑があったが、ひよ里が今日まで生きながらえてこられたのもまたその思惑のおかげでもあった。
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