卒制が燃えた(仮)「何やねん、これは」
ひよ里は消し炭の前で立ちすくんだ。ここ半年の作業の成果が、真っ黒焦げの残骸と化していたのである。
これがただの課題であればまだなんとか正気を保てたのかもしれないが、燃えたのはよりにもよって大学4年間の集大成・卒業制作。
ゼミの講師に助言を貰いながら試行錯誤の日々を重ねたこの半年。何度もやり直しをくらったデザインがやっと確定し、方眼紙に慎重に図面を描き、遠く離れた新宿東急ハンズや果ては新木場の木材売り場まで材料を調達し、来る日も来る日も工房に籠って木材をカットし、防塵マスクを被りベルトサンダーで木屑を撒き散らしながら形を整え、就職活動も後回しに寝る間も惜しんで打ち込んできた。
その結果がこれである。
図面上ではうまく稼働するかわからない部分は根気強く試作品を作り、やっとほどよい形を探り当てた。比較的余裕を持って進めることができ、あとはやすりがけと塗装だけという段階まで来ていたのに。
どうか何かの間違いであってくれ。
①ウチの作品は誰かが別の場所に移動している
②代わりここには違うモノが置かれていて、この炭はその残骸なんやとあまりに望み薄な思考を巡らせていると、近くにいた同学科のクラスメイトが声をかけてくる。
「昨日の夕方、一年生がすぐそこでバーベキューしてたんだって。それで、終わった後花火したらウォーカーに燃え移っちゃったみたいで……」
聞けば下級生が悪ノリで放った大量のねずみ花火が原因らしい。幸い学部棟や工房にまで火が及ぶことはなかったようだが、屋外に放置されていたひよ里の作品がピンポイントで燃えてしまったのだと。