炬燵「炬燵欲しいなあ。……ねぇ、この世界に炬燵ってないの?」
秋学期の締めくくり、そしてウィンターホリデーまであと少しという頃。
いつものように食堂の定食を食べながら、ぽつりとぼやいたのがはじまりだった。
「こたつ?なんだそれ。」
「はじめて聞いたな」
「こっちに来てから暖炉しか見てないから……もしやと思って。」
「暖炉が出てくるってことは防寒に関するものなのか?」
「異世界の防寒アイテム、ちょっと気になるかな」
エースとデュースは聞き慣れない言葉に反応し、隣のテーブルに座っていたジャックとエペルも好奇心で話に混ざっていく。
「どんなものかって言われると…なんて言えばいいんだろう?一度入ると抜け出したくなくなるんだ。多分グリムは絶対好き」
「俺様が好き?!どんなものなんだゾ?!!」
「ますます分からなくなってないか?」
「うーん、見た目は机に布がついてるとしか言いようがないんだよなぁ」
「机に布って聞くとテーブルクロスのイメージだな」
「あ〜でもそうじゃないだよなぁ!語彙力がなくて悔しい……」
炬燵を知らない人にどうやって話せばイメージ通りに伝わるのか。
見た目の難易度は易しいはずなのに、あの良さは実際に体験しないと伝わらないのだろう。
頭をくしゃくしゃかきながら考えたが、リンゴーンと鐘が鳴ったことで思考を一時停止する。
「俺は先に行くぞ」
「俺たち次は体力育成じゃん!やばい、急ぐぞ」
「ほら、ぼーっとしてないで!ほらほら!」
よくよく考えてみればここには火の妖精達がいるのだ。
魔力さえあればエアコンよりも快適に冷暖房の調整が可能なわけで、家内で使うアイテムとして「妖精たちよりも性能的に下位互換となるものを作ろう」という発想になるわけがないことに気がついたのは、背中を押されながら教室に着いたときだった。
「よし、作ろう」
ないものは自分で作るしかない。そうと決まれば行動あるのみとオンボロ寮の裏山から木材を運び込むことにした。
はじめてオンボロ寮に来た頃はどうしようかと路頭に迷っていたが、あの頃に比べれば魔法の工具のお陰で利便性はぐんとあがっていた。しかし、今回のケースは材料の用意、つまり魔法で生成できないヒーターを別途事前に用意する必要性があるのではないかという点だ。いくら魔法が使えない自分でも使える魔導具とはいえ、ヒーターの仕組みや電気のようにエネルギー供給を考慮しなければならない点がある以上、イマジネーションだけで作れる可能性は低いのだ。
「こんにちは、監督生さん!そんなに考え込んでどうしたの?なにか悩み事?」
顎に手を当ててうんうんと唸っていると、目の前にオルトが立っていた。
「あっ、気づかなくてごめん。実は……」