誰かに足を拭かれるなんて、この世界に生を受けて以降初めてのことだ。
「マイスター、もういいだろう。そんなことは君の仕事じゃない」
誰の仕事でもない。
自分ですべきことだ。
足を引き抜こうとすると、ワックスで艶を帯びた黒い両手が追い縋ってくる。
「お待ちを。もう少しだけ」
最初は膝を付いて布で拭いている程度だったが、今や完全に床に座り込み細々とした道具を並べて本格的に足を磨き始めている。
無数にある小さな傷に入り込んだ土を細い棒でサリサリと削り落とし、布で磨き上げ、ワックスがかけられていく。
「君はさっきも『もう少し』と言ったな」
「大丈夫ですよ。どうかお気になさらず」
大丈夫ではないし、どうしたって気になる。
「マイスター」
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