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    メノウユキ

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    メノウユキ

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    今日の分の続きです

    六話 鴉 複数人の男たちは配達員に向かって鉄パイプや警棒といった武器を振りかざして特攻する。
     夕方よりも人数が多く、大丈夫だろうかと不安になるが、配達員はあせった感じもなく落ち着いた様子でゆっくりと歩く。
    「この、調子に乗りやがって!」
     男の一人は配達員の脳天に向かって鉄パイプを振り下ろした。それと合わせるようにほかの男たちも各々の武器を配達員へ向けて攻撃する。
    「……」
     さすがにあの攻撃の量はさばけないだろうと内心思ったが、配達員は脳天に振り下ろされた鉄パイプを素手でつかんで強引に奪い、他の攻撃を奪った鉄パイプではじいた。
    「何!?」
     武器を奪われた男は目を見開いて数歩後ろに下がる。
    「武器はしっかり持ってないとだめだぞ。こんな風にな」
     配達員はそう言うと同時に地面を強く蹴る。そのあとは一瞬だった。一気に男たちとの間合いを詰め、彼らの腹部に鉄パイプで一撃叩き込んでいく。
     男たちは苦悶の表情を浮かべながらその場に倒れた。
    「さて、夕方は配達の仕事があったから見逃してやったが……今回は容赦しない」
     残りの男たちに向かって鉄パイプを向け、先ほどよりも低い声でそう言い放った。
     男たちはじりじりと距離をとるために後ろに下がるが、撤退の意思はなさそうだ。
     対して配達員は鉄パイプをやり投げの要領で男たちに投げ、攻撃を仕掛けた。
    「!?」
     ぎょっとした表情を浮かべ、男たちは寸でのところで避ける。男たちの包囲が乱れたすきに配達員はまた距離を詰めて、男の一人の腹部に拳を叩き込んだ。
    「そういえば、さっきの奴には聞けなかったんだが……お前らに指示を出している奴は誰か教えてくれないか? そうすれば、殴らずに済ませてもいい」
     配達員はそう言いながら周囲を見る。
     彼が殴った男が地面に倒れた瞬間、他の男たちは一斉に配達員に向かって武器を持って殴りかかる。
    「やっぱりだめか。地道に聞き込みをするのも面倒だから、誰かが話してくれた方が助かるんだがな」
     配達員は複数人の男の攻撃を避けながら後ろに下がり、地面に落ちていた小石を拾うと一人の男の手に投げつけた。
    「いっ!」
     男はひるんで手に持っている警棒を落とす。配達員は素早く警棒を拾ってほかの男の脇腹に向かって強く打った。
    「全く、数が多いな」
     配達員は私がいる石畳の階段のすぐそばまで下がってそうつぶやく。
     彼の表情は全く変わっていないが、配達員が劣勢なのは私でもわかる。だけど、この包囲を足手まといの私と一緒に突破するのは厳しい。
     でも、私にできることは……。
     刹那、首筋にヒヤッとした感覚がした。
    「おい! 武器を捨てろ門番!」
     直後背後から怒声が聞こえた。視線だけ恐る恐る目を向けると知らない男が一人私の首にナイフをあてていた。
     配達員はにらみつけるようにこちらを見た後
    「あぁ、そういう発想はできるんだな」
     と言いながら一歩動く。
    「動くな! コイツがどうなってもいいのか!?」
    「それはこちらのセリフだ。元々その女は商品なんだろ? 傷つけていいのか?」
    「多少の傷で値が下がったとしても、後で治せばいい。生きてさえいればどうとでもなる」
     そう言って背後にいる男は首にあてているナイフに力をこめた。
    「ひ……」
     男が少しでもその気になれば、首が掻っ切られそうだ。私は小刻みに震える体を両手で押さえながら配達員の方を見た。
     彼は終始表情が変わっておらず、何を考えているかわからない様子だった。
    「でかした! 今のうちに叩き込め!」
     今が好機とみてほかの男たちはまた武器を振りかざして配達員に向かって殴りかかる。
    「できれば穏便にいきたかったが……仕方ないか。アンタらもついてないな」
     しかし、配達員は感情のない声でそう言った。一瞬どういうことかわからず、一人で混乱していると首筋に感じていた冷たい感覚が唐突に消えた。直後、どさりという音が聞こえ、振り返ると男は意識を失って倒れていた。
     ――一体何が起きたの?
     さらに混乱していると神社の本堂、正確に言えば本堂の上空から一筋の黒い光が男たちに向かって放たれた。黒い光は男たちにまっすぐ飛んできた後、黒い火柱が立つ。あまりにも一瞬の出来事だった。
    「え……?」
     思考が固まる。一体何がどうなっているのだろう。
    「配……達員……さん。これってどうなって……」
     状況が混乱し、整理するために何とか振り絞ってそう声をかけると
    「あぁ、別に大したことない。この火は比較的人間に無害なものだ。当たり所がわるかったとかそういうのがなければ死にはしない」
     といった後に火柱に向かって左手を伸ばすと、火柱からまた黒い光が彼の左手に飛んできた。
     光は黒い炎をまとい、形を変化させながら配達員の左手に止まった。
    「三つ足の……鴉?」
     彼の左手に止まった黒い炎は、黒い鴉の姿に変わっていた。赤い目と三つある足で普通の鴉とは全く違う存在ということがわかる。
     その時、私は配達員に助けられる少し前に見たあの鴉を思い出した。
    「配達員さん、あの、その鴉って……」
     明らかに普通の鴉ではない。おまけに今まで出会ってきた異形の中でかなり圧迫感がある。ただただ怖がらせようとしていた異形よりはるかに強そうだ。
     そんな異形をこの配達員は仕えさせているのだろうか?
    「こいつはワタシの使い魔……といっても通じないか。少なくとも敵ではない。過去にアンタが見てきた人じゃない奴らと同じくくりではあるが、むやみに人間を襲うような存在じゃない」
     彼はそう言ってこちらに振りむき、鴉の乗っている左手を前に出した。
     鴉は赤い目をこちらに向けてじっとしている。本当に襲ってこないのだろうか?
    「見た感じ、大きなけがはしてなさそうですね」
     唐突に全く知らない女性の声が聞こえた。
     急いで周りを見渡してみるが、それらしい影は見えない。幻聴だろうか?
    「ここですよ。目の前にいる鴉です」
    「え?」
     困惑しながら私は視線を鴉に戻す。
    「この姿じゃ、流石にわかりませんか」
     鴉は配達員の左手から飛び立ち、一瞬で黒い炎に包まれる。
     ――攻撃される。
     私は直感的にそう思い、目をつむって頭を抱えるが想像していた衝撃が来ることはなかった。
    「今の姿なら、わかりますか?」
     同じ女性の声が響く。
     恐る恐る目を開けると、先ほどまでいた三つ足の鴉は姿を消し、代わりに長い髪を後ろにまとめた肌が浅黒い女性が立っていた。
    「貴女は……さっきぶつかった……?」
    「はい。ぶつかったとき、ひどく急いでいる様子だったので気になって後を追おうと思ったのですが、不審な人間に絡まれましてね。代わりにヒスイを呼んで向かわせたのですよ」
    「ヒスイ……? 配達員さんのことですか?」
    「えぇ。って、自己紹介してなかったのですか?」
     そう言い、彼女は振り返って配達員を見た。
    「あー……いわれてみれば、名乗ってなかったな。ゆっくり話す暇もなかったし、何なら今もいつここに奴らが集まってくるかわからないし」
     彼は相変わらず無表情でそう言った。
    「だからって、自分の名前を名乗りもしないのはさすがに失礼でしょう?」
    「まぁ、それもそうか」
     配達員は軽く頭をかきながらこちらを向いて
    「名乗り遅れてすまんな。ワタシは及川 翡翠(おいかわ ひすい)。オイカワでもヒスイでも自由に呼んでくれて構わない。それでこっちの鴉がココノ。本来の姿は鴉なんだが、今みたいに人型にもなれる」
     と軽く自己紹介をした。
    「よろしくお願いしますね」
     彼に続くようにココノと呼ばれた女性、もとい鴉が会釈しながら挨拶をした。
    「えっと……青山……青山 宇宙(あおやま そら)です。改めて、助けてくれてありがとうございました……」
     相手に倣って私も名乗り、頭を下げた。この人たちがいなければ、私はどうなっていたかわからない。ココノと呼ばれる鴉の異形がオイカワさんに報告しなければ、私はあのまま……。
    「いや、まだ何も終わってないぞ」
     オイカワさんはそういうとベルトから奇妙な形をした両刃のナイフを引き抜いて背後に投げた。ナイフはまっすぐ飛んで私の頭やや上を通過して何かに刺さった。
     背後を振り向くと、赤い肉塊のようなものが私の数歩先でうごめいていた。先ほどオイカワさんが投げたナイフは刺さっているが、ダメージを受けた様子はない。
    「ッ!」
     言葉を失ってその場に立ち尽くしていると後ろから腕を引っ張られる。
    「ちょっと失礼しますよ」
     すぐ横で人の姿をした鴉の異形が入れ替わりで前に出た。彼女は右手を前に出すと、黒い炎を圧縮して球になったものが放出される。
     肉塊は一瞬で真っ黒に染まり塵となって消えたが、今度は鳥居の方から男たちの怒声がだんだんと近づいてきた。
    「ココノ! 鴉で先行して道を作ってくれ」
    「わかりました」
     鴉の異形はそう言ってうなずくとまた黒い炎で包まれ、数秒もしないうちに鴉の姿に戻った。
     彼女はそのまま鳥居の方向へ一直線に飛んでいく。
    「アオヤマ……だったよな? あの集団を相手しているときりがない。本気で逃げる」
    「本気でって……でも、私……」
     確かにオイカワさんの言う通り、いちいち相手をしていれば彼の負担が大きくなってしまう。しかし、足を怪我している私は今速く走れるかどうかも怪しい。
    「口で言うより、実践でやった方が早いろう」
     そういうとオイカワさんはすぐそばまで近づいてからしゃがみ
    「乗れ」
     と言った。
     え、まさか……私を背負って逃げるの? 確かに私が一緒に走って逃げるよりはオイカワさんに運んでもらった方がはるかに速いだろう。
    だけど……やや不安が残る。
    「あ、あの……大丈夫……ですよね?」
    「あぁ、危険がないように善処はする」
    切迫している今、躊躇っている暇はない。
     私は一つ深呼吸をしたあとに、オイカワさんの肩を持ち、背負われる形になる。
     オイカワさんは立ち上がり、どこからか取り出した紐でずり落ちないように固定する。なんだろう、おんぶ紐のようでなんか恥ずかしい……。
    「じゃあ、結構スピード上げるから振り落とされないように掴まってろよ。割と強めに固定したが、人間を運ぶのは初めてだからな」
     初めて……? じゃあかなり危険なのでは……。
     さらに不安になり始める私には構わず、オイカワさんは走り始める。それと同時に
    「いたぞ!」
     という男たちの声が聞こえた。だが、オイカワさんはスピードを緩めず、むしろ上げてまっすぐ走る。
     男たちは地面に転がっている同胞の姿を見て一瞬固まっていた。オイカワさんはその隙に駆けだす。
     先ほどよりも体感速度が速い。本当に最初逃げた時は本気出していなかったんだ……。
    「この!」
     男たちは手に持っている鉄パイプをこちらに向かってまた一斉に投げる。
     数本の鉄パイプはこちらに飛んでくるが、オイカワさんは一切スピードを落とさなかった。
    「ココノ」
    「わかりました」
     短いやり取りのあと、鴉の異形は前に飛び出す。直後、黒い炎を一瞬放ち、鉄パイプを相殺した。その隙にオイカワさんは強く踏み込み
    「少し跳ぶぞ」
     と短い言葉のあと、ガクンと体に衝撃が走る。直後、内臓がふわっと浮いたような感覚がしたと思えば、またガクンと衝撃が走った。
     何が起きているのかわからず、思わず掴まっている手を強くしてしまう。周りの景色を見てみると、いつも見上げていた建物たちがなぜか見下ろす位置になっていた。そこで私はやっと、オイカワさんが跳躍で鳥居を足場にして建物の上近くまで跳んでいることに気づく。
     パルクールというものに似ていると思ったが、あれはあくまで人が町中を駆けることだ。少なくとも人ひとり背負った状態で使う逃走術ではない。
     言葉を失った。人間の身体能力って人を背負った状態で建物飛び越すくらい跳べるものだっただろうか……。
    「お、オイカワさん……ここ、これって大丈夫なんですか?」
     掴まる、というより必死にしがみつくように全身に力を込めて落ちないようにしながらそう言う。対してオイカワさんは至って冷静に
    「着地点さえ失敗しなければ大丈夫だ」
     といった。失敗しなければ……。
     私の不安はよそに彼は軽々と近場にあった建物の屋根に着地する。
    「さて、あいつらはどうするか」
     オイカワさんは下にいる男たちの様子を見る。私も自然と目に入った。
    「な、なんだ? あの高さを平然と飛び越えた?」
    「ば、化け物だ!」
     男たちの顔は恐怖で引きつっていた。あれでもう追ってこなければいいが……。
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