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    メノウユキ

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    メノウユキ

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    今日は朝と夕方に一話ずつ出します
    たぶん、今日で青藍の鍵は一区切りつきます

    十一話 瞳の色 私とオイカワさんの二人だけの足音だけが響く。道の両側に巨大な本棚が延々と連なっているので進んでいる気がしない。おまけに会話が全くない状態で歩いているので余計に疲れる。だけど、歩くと言った以上へばっていては申し訳ない。
     彼の歩行スピードは変わらず、気を抜けばすぐにおいて行かれそうだ。内心必死に追い付こうと歩いていると、唐突にオイカワさんが口を開く。
    「そういえばアンタ、どうして追われているかわからないって言ってたな」
    「は、はい」
    「あの追手の一部から聞いた話によると、一番の要因はアオヤマの目の色らしい」
    「え……」
     その内容は自分にとって最も触れてほしくないことだった。
     反射的に立ち止まり、目を手で隠す。
    「人身売買というのは、表立ってやるのはタブー。だが、人間社会にも闇商売というものが存在する。当然その中には人間を商品として売り買いするような奴らはいる。使い用途があるからな。あの男たちはそういった人身商売で扱う商品の仕入れを担当している奴らだろう」
     彼は振り返って話を続けた。
    「人身売買をする上で高く売れる条件は様々あるが、その中としての一つが瞳の色だ。特に青色は希少価値が高い。おそらく、数自体もそんなに多い訳じゃないからだろうな。どこでアンタの情報を手に入れたかは知らないが、あの男たちは生物兵器を用いてまでこの町に踏み込み、アンタを攫って売っ払うのが目的だったんだろ」
    「瞳の……色が、原因」
    彼の言葉が次第に遠くなっていく。
     いつも、いつもそうだ。この瞳の色が不幸を呼ぶ。
     異形を見ることができる瞳というだけなら、まだよかったかもしれない。この青色が全ての不幸の元凶だった。
     周囲と違うというだけで非難の対象となって石を投げられる。別に私は何も悪いことはしていない。ただ、そこにいたというだけで、全ての不幸の元凶は私になってしまう。
     うんざりだ。誰も私自身のことを見てくれないくせに、瞳の色だけで気持ち悪いと言われ続ける日常も、異形が見えるせいで変な行動をとってしまい奇異な目で見られることも。挙句のはてに人攫いに狙われて人身売買をされかけるなんて……。
    「なんで……いつもこうなるの?」
     ぽつりとつぶやいた言葉にオイカワさんは首を傾げた。
    「いつも? 以前もこういったことがあったのか?」
     彼は変わらず無表情でそう言った。
     その態度に苛立ちを感じ、つい言葉が漏れてしまった。
    「どうして……ですか? どうして……私を助けたんですか? この瞳が特別だったからですか? それとも、利用価値があったからですか?」
     私がそう言うと彼は少しだけ目を見開き、
    「仕事だからだが?」
     と不思議そうな表情で答えた。彼は続ける。
    「ワタシの仕事はあくまで町の守護。ペリから人を守って均衡を保つのが仕事だ。その一環でお前を助けたが、今回はほぼ偶然見つけたからよかったものの、今度からは自衛をしないとまた同じ事態に……」
    「そんなことわかってますよ!」
     気づけばオイカワさんの言葉を遮って声をあげていた。思わず大きな声を出してしまったことに後悔する。しかし、言葉は止まらなかった。
    「今まで誰にもばれないようにカラーコンタクトをして、異形を見ても怖いのを我慢して見えないふりをして! ずっと! ずっとそうしてきたのに! 悪口を言われても! 陰口を言われても耐えてきたのに! どうして私はこんな目に遭わなくちゃいけないんですか!? 私はどうして他と違うんですか!?」
     いつの間にか目から涙がこぼれていた。今日会ったばかりの人に投げかけていいことではない。ましてや、助けてくれた人に問いかけるなんて言語道断だろう。だけど、止まらなかった。異形に苦しめられ、人間関係に苦しめられ、振り回されてきた。
     今まで溜まってきたものがあふれ出るように涙が出る。
    「どうして普通じゃ……いられないんですか……?」
     私はその場にうずくまり、両手で目を覆って泣き続ける。
     ――うわっ、お前の目の色気持ちわるっ。こっち見るなよ!
     ――血まみれの男が追いかけてくる? 馬鹿言わないで頂戴!
     ――いい加減にしろ! 変なことばかり言ってると追い出すぞ!
     どこにも居場所がなかった。瞳を向けた先には見たくもない現実しか広がっていなかった。
     そんなやりようのない怒りを私は今日助けてくれた恩人に向けてしまった。どうしようもない怒りと悲しみ、後悔が入り混じる。
     そろそろ限界だったのかもしれない。このまま低空飛行のような人生を送ったとして、私は生きている意味も価値も見出せるのか疑問だった。
     現にオイカワさんが助けてくれなければ、私は自分自身で命を絶っていた。
     助けも呼べない、相談もできない環境で精神的にはもう限界に近いのだろう。
    「……」
     オイカワさんは何も言わず、ただ私が落ち着くのを無言で待っていた。
     彼は一体どんな表情でこちらを見ているだろう。呆れだろうか、嘲笑だろうか。どちらにしても仕方ないことだ。理不尽に言葉を投げかけられているのだから。
    「一つ言えることがあるとすれば、知ったことではない……と返すのが一番該当する言葉だな」
     私が落ち着き始めたタイミングを見計らって、オイカワさんは口を開いた。それは感情がほとんど入っていない、機械的な言葉だった。
     ――知るかよ。
     脳裏の男たちの言葉がよぎる。
     それは私が自身の不幸を嘆いた言葉への返答だった。
     でも、それは考えてみれば当然のことだ。他人の不幸なんてどうだっていい。自分自身が良ければいいのだから。人はそういうもの。
     だからオイカワさんがそう返すのも無理はない。
     でも、それでも……理解してくれるとどこか期待していた。異形を見ることができる彼なら、私の不幸を理解して共感してくれると。
    「正直、お前の言っていることに対して思う感情はない。そういう事実もあるのかと受け入れることしかワタシにはできない。だから、ワタシはお前の投げかけに対して答えることはできない。何より興味もない」
    「……」
     私はうつむいた状態で黙って彼の言葉に耳を傾けた。
     追い討ちをかけるような彼の無機質な言葉が私の心に突き刺さる。
    「それに、そこまで辛いというんだったら命を自分で絶てばよかったんじゃないか? 世間は自殺が悪いことだというが、要は自己判断なんだから自分の出した答えに責任を持てるんだったらそれも選択肢の一つだろう?」
    「それは……」
     私は思いがけず顔をあげて否定したかったが、言葉が詰まってその先は言えなかった。
     私が命を絶とうとしたとき、死ぬという選択肢に責任を持っていたわけじゃない。私はただ、楽になりたかっただけだ。全てを放り投げてしまえば、何も考えなくて済むと思考停止していたいだけ。
     でも、その選択を取ることはできなかった。死ぬという行為に対しての恐怖心が勝ってしまい、辛いのに、苦しいのに……死にたくないと思ってしまう。だから、今こうしてこの場にいる。低空飛行のような日常に耐えながら、ただ呼吸をしているだけの人生を過ごしている。
    「まぁ、どのみちワタシは助けてやれん。勝手に決めて、勝手に頑張れ。助けろと言われれば協力してやらんこともないが、基本は他を当たってくれるとこっちが助かる。ワタシは正義の味方でもなんでもなくて、ただ一人の人間でしかない。相談事なんて特に力にはなれん。人の話を聞くのは苦手だからな。だからあてにするなよ」
     すがすがしいまでにまっすぐな言葉。恐らく嘘偽りがない彼自身の言葉だ。
     ここまで直接力になれないと言われたことは初めてだった。いつもは表面上の人間関係で相談に乗ると言われたことはあるが、できないと正直に言われることはまずなかった。
     オイカワさん自身、できることとできないことの線引きがはっきりしているのだろう。
    「ごめんなさい。変なことを口走ってしまって……」
     切り替えよう。つい、カッとなってしまって言葉が荒れてしまった。ただでさえ、匿ってくれている人に対していうことじゃない。
     後悔しながら私は立ち上がり、流れる涙を拭う。
     その様子をみたオイカワさんは小さくため息をついた後、コートの内ポケットから透明の液体が入ったつまめるくらいの小瓶を取り出し、目薬を差すように液体のしずくを瞳に垂らした。すると、彼の目からは黒い涙が流れ、何度か瞬きしたときに彼の瞳の色は徐々に深緑色に変化していった。
    「え……?」
     驚きを隠せなかった。
     暗く、深淵のような黒が混じった緑色。それは彼の性格のように無機質で、底が読めない感じがする。
     過去に自分と同じ色は見たことがなかったが、彼の色も見たことがない。
    「驚いたか? 大した秘密でもないが、こっちがワタシの本来の色だ。翡翠なんて名前がついているのも、この目がきっかけなんだろうな。名付け親に名前の意味なんて聞いたことがないから、憶測ではあるが」
     オイカワさんは目薬をコートのポケットにしまい、瞳から流れる雫を拭いながらそういった。
    「ご両親も……その色だったんですか?」
    「さぁ? 親の顔は知らない。少なくとも、ワタシ以外でこの瞳の色を持った人間は見たことがないな。知らないだけの可能性もあるが」
    「色は、生まれつきなんですか?」
     確認をするように一つ一つ、ゆっくりとオイカワさんに質問する。
    「あぁ、そうだ」
     彼は淀みなく答えていったが
    「だが、ペリ……町中でアンタを襲ったような赤い戦車や首無しの少女の形をした奴らみたいな異形を見ることは元々できなかった」
     返ってきた言葉は意外なものだった。
    「見え……なかった……?」
     町中で戦っていた姿は明らかに戦闘慣れした動きだった。素人でもそれは一目瞭然だ。
     首無しの異形だって、ジェスチャーで異形自身の伝えたいことを推測して意思疎通を図っていた。
     元々見えなかった人間ができるようなことじゃない。見える人間でさえ、どうすればいいかわからないのに……。
    「はっきり見えるようになったのは、いまから数年前だ。それ以前は特殊な条件がなければ見えなかった」
    「じゃあ……もし、見えない状態の時に襲われてたら……」
    「場合にもよるが、死んでいたかもな。そもそも、触れることもできないから、反撃もできずに殺される可能性だってある」
    「!?」
     信じられなかった。見えない存在になす術なく力尽きる彼の姿が想像つかない。
    「ほら、この時点でアンタとワタシの立ち位置は違うだろ?」
    「え?」
    「周囲と色が違うという条件が一緒だったとしても、ワタシはアンタと違って見えない人間だった。そんなワタシが生まれつき見えるアオヤマの苦しみの共感は難しい。たとえその境遇を聞いたとしても、ワタシからしたらより危険がわかるから便利としか思えない」
     危険がわかる。
     彼のいう通り、確かに危険察知に関してはこの瞳は役に立った。本来、周りの人が見えないものが私には見える。普段見えないはずの危ない存在も含めてだ。だから、それを避けることは容易にできた。
     だけど、昔のオイカワさんはそれができなかった。だから、意図せず異形に襲われることもあったかもしれない。その苦労は私にはわからない。
     彼が私の瞳に対して「便利」と評価したように、私は見えない人に対して羨ましがっているだけにすぎない。
    「アオヤマの普通とワタシの普通は違う。それと同じで見える世界もアンタとは違う。アオヤマは逆に本来見えないものが見えるという特異性がある。持っている特異性をどうするかはアンタ次第だ。生かすも殺すも好きにすればいい。どう転ぼうとそれはアオヤマの人生だろ」
     過去に出会ってきた人たちは私の目を見たものはただただ不気味がって、陰口を言っていただけだった。だが彼は馬鹿にしたわけでもなく、ただ淡々と共感することはできないと告げた。その発言は突き放すような口調だったのに、今では腑に落ちたような感覚だった。
     自分の普通と他人の普通は違う。考えてみればそれは至極当然なことで、それは異形が見えようが見えまいが関係ないことだというのに今更ながら気づいた。だけど私は弱い人間だ。負の感情で固まった思考はそう簡単には切り替えることはできない。
     しばらく私は呆然として、頭にある情報を整理した。今までのこと、そして鴉の異形……いや、ココノさんが言った言葉やオリエントのマスター、オイカワさんが言ったことに対してどう向き合うか考えた。
     オイカワさんは待っていてくれた。彼の言葉を借りるのであれば、これも仕事だからと片づけられそうだが、何も言わず待っていてくれるだけでも、私はうれしかった。
     少し落ち着いた後、私は立ち上がり
    「迷惑をかけてすみませんでした」
     と頭を下げると
    「別に気にするな」
     とだけ言葉が返ってきた。
     それだけ言うと彼はまた目的地に向かって歩き始める。私も慌てて後を追った。

     ◇

     この不思議な図書館のような空間に入って体感で十五分すぎたころ。本棚の迷路を歩き続け、ようやく一番奥の空間らしき場所に出た。
     そこはすこし開けた場所で、ポツンと来客用のソファーが二つ対に置かれてあり、その間には低いテーブルが置かれていた。そのさらに奥にはいかにも書斎においてありそうな使い込まれた木製の机と背もたれ付きの黒いクッション性の高そうな椅子がある。
     ここがオイカワさんの言っていた目的地だろうか。
    「全く、こんなに広くても移動が面倒なだけで使い勝手悪いのに、なんで改めようとしないんだよ……」
     彼は小声でそう愚痴る。この場所の拠点を作った人物はやはり別にいるようだが、こんな広い空間を作るには少なくとも一日や二日では無理ということはこの場所について全く知らない私にもわかる。
     だが、何故ここまでの規模のものを作っているのだろう? オイカワさんの言うことを信じるのであれば彼の仲間は一人だけ。となると、ココノさんのような異形が住処にしているからここまで大きいのだろうか? しかし仮にそうだとすれば、ここまで来る道中で何かしらに出会っていなければおかしい。
     それにここまでの規模のものを作った人物というのも気になる。怖い人だったらどうしよう……。
     そんな私の考えとは他所に、オイカワさんは何かを探すように辺りを見回していた。
    「チッ、アイツどこほっつき歩いてるんだよ。いつもこの場所から滅多に動かないくせに……。悪いが、ここで待っててくれ。ちょっと探してくる」
     一方的にそう言った後、彼は今まで来た道とは違う方へと走り出す。
    「……」
     どうしよう。一人になってしまった。どうしようもないけれど、こんな広い空間でポツンと一人いるのは落ち着かない。
     でも、勝手にソファーに座るわけにもいかない。
     そう一人でおろおろしていると
    「あら? お客様?」
     と、女性らしい落ち着いた声が背後から聞こえた。振り向くと、そこは私と頭一つ分ぐらい背が低い小柄な少女がいた。桜色で肩近くまで長さがある髪と、瞳。白いブラウスに黒を基調とした短パンとベストを着ており、少しいいとこのお嬢様にも見えるが、袖を余らせているほどのぶかぶかな白衣が幼く感じ、大きめの丸眼鏡をかけているのもまた幼さを際立たせている。普段から外に出ないのか肌は色白く、華奢な印象を受けた。
     声の主は彼女だろうか? でも先ほどの声は少女らしいとはいいがたい。聞こえた声は大体二十代近い女性の声だったが、眼前の少女は大きく見積もっても中学生ぐらいにしか見えない。
    「でも今日は来客の予定はなかったはず……迷い込んだのかしら? ねぇ、貴女。どうやってここに来たか聞いてもいいかしら?」
     そんな予想もむなしく、先ほどから聞こえている声で少女は落ち着いた口調で話す。年齢が読めない人だ。いったいいくつだろうか?
    「えっと……その」
     言葉が見つからず、目を白黒させる。こういう時、どういえばいいんだろう……。友達の家というものにも行ったことがない自分にとって、こういうときどうすれば角が立たない言い方になるかわからない。
     今まであった経緯を言うべきか? でも、それだと話が長くなりそうだし、要点だけまとめて言っても信じてくれるかわからないし……。一体どうすれば?
    「なんだ、結局ここにいたのか。モモ」
     頭が真っ白になりかけた時、タイミングよくオイカワさんが戻ってきた。どうやら彼が探していた人物は彼女だったらしい。
    「あら、ヒスイ。そんな血だらけでどうしたの? この子は?」
    「これは返り血だ。で、コイツは今回の被害者。連絡したろ」
    「あぁ、彼女がそうなのね。この町で見える体質の子がいるなんて珍しいと思っていたけれど」
     少女はまじまじとこちらを見た。あまりにもまっすぐ見てくるので思わず目をそらしてしまう。
    「なるほど。だけど、見えるだけの体質……というわけでもなさそうね。どちらかというと、ついでのような感じかしら? だとしたら……」
     彼女はそう独り言を呟き始めると指を鳴らして何もないところからメモ帳と万年筆を出現させて何かを書き始めた。暗号のような難しい言葉をぶつぶつと呟きながらメモを取るその姿は研究者という雰囲気を醸し出している。
     オイカワさん曰く本業の仕事には二人しか人間がいないといっていた。この人がもう一人の人間というなら、オイカワさんが主に現場に当たって、あの白衣の少女がバックアップで支援するといったところだろうか?
    「……モモ」
     自分の世界に閉じこもりかけている少女に若干呆れながらオイカワさんは名を呼んだ。呼ばれた彼女ははっとしたような表情をした後
    「あら、ごめんなさい。気になることはすぐにメモしないと忘れてしまうから。話はある程度聞いているけれど、当事者に聞くのが一番でしょう。少しお話をしましょうか」
     と微笑み、ソファーへ座るように促す。私は無言でうなずき、促されるままソファーへ座った。
    「じゃ、ワタシはこれで。まだ町に残党が残っているかもしれないし」
    「あら、コーヒー飲んでいかないの? というかここのところ動いてばかりでしょう? 私の記憶が正しければ三日くらいずっと動いていないかしら?」
    「気のせいだ」
    「またココノさんに怒られるわよ? 体調管理くらいは自分でやりなさいって。この前だって電池切れになって倒れているところ見つかって後日こっぴどく怒られていたじゃない」
    「あー……そんなこともあったな」
     オイカワさんは気まずそうに少女から目線をそらす。電池切れで倒れた……? 体調不良で倒れたってことだろうか? しかし、彼は不調なそぶりなど一切しなかった。今もそうだ。健康までとは言わないが、体調不良という感じではない。
     クマが濃いので、寝不足なんだろうなというのはなんとなく伝わりはするが、それでも倒れそうなくらいフラフラしているという感じではない。
    「……もう行く。じゃ、あとは頼んだ」
    「えぇ。せいぜい電池切れになる前に早めに休むことね。仮眠は大事よ?」
    「……善処はする」
     彼は短く返事すると、早歩きでその場を去った。
    「はぁ……仕事をさぼらないのはいいけれど、倒れて長時間動けなくなるのは勘弁してほしいものね」
     完全に姿が見えなくなった後、少女はぽつりとそう呟いた。どうやら睡眠不足で倒れたというのは一回や二回ではないみたいだ。本業の仕事は人間が二人しかいないということは、一人かければ代わりがいないということだ。仮にオイカワさんが倒れた場合、彼の仕事はいったい誰がやるんだろうか……。
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