Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    野田佳介

    @muki_butu__

    完全自己責任閲覧
    胸糞しか書かないのでド注意
    パスワードは用途に合わせる

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    野田佳介

    ☆quiet follow

    本編3

    数日後。
    テーブルに置かれたカードを、ヘルメスが指先で弾く。

    「……久しぶりに、二人だけでやるな」

    薄く笑っているが、その表情はどこか乾いていた。
    アデクは黙ったままカードを引いた。

    「気分じゃねぇんだろ?」

    ヘルメスの言葉に、アデクは小さく息を吐く。

    「……お前もだろ」
    「はは、まぁな」

    ヘルメスは苦笑する。
    二人だけのゲームは、以前とは違って やけに静かだった。
    サイコロの転がる音が、乾いた空気の中に響く。
    ヘルメスがふと、カードを指でなぞりながらアデクを見た。
    それから、ふっと視線を落とす。
    アデクは、自分の手札を見つめながら低く言った。

    「私は正しいことをした、そうだよなヘルメス」

    ヘルメスは答えられなかった。
    自分にも分からなかったからだ。

    「エミエルは、俺たちを仲間だと思っていたんじゃないかと思う」
    「……」
    「ヒトツメだけじゃない、俺たちのことも」

    ヘルメスはカードを握る手に力を込めた。

    「だが私たちは悪魔だ」

    アデクはどこか迷いがありながらもキッパリ言った。
    静寂が落ちる。
    カードを指で弾く音、サイコロが転がる音だけが、静かな空間に響いていた。
    アデクは手札を見つめながら、ぽつりと呟くように言った。

    ヘルメスはカードを弄ぶ手を止め、アデクの顔をじっと見た。

    「……そんな甘い考えじゃ、戦場で真っ先に死ぬんじゃねぇか?」

    口元に笑みを浮かべる。

    「双剣のアデク様」

    いつもなら、皮肉げなこの言葉にアデクは冷ややかに返すはずだった。
    だが、今日は何も言わなかった。
    ヘルメスの笑顔の奥に、影が差しているのが見えたからかもしれない。
    それでも、ゲームは続いた。
    二人とも、もう心から楽しむことはできないと分かっていたのに。
    やがて、アデクの元に仕事の要請が入る。
    魔界の戦士としての務めだ。

    「仕事が終わったら、続きをしような」

    ヘルメスが軽い口調で言う。
    まるで、いつものように。

    「……」

    アデクはそれには答えず、無言のまま席を立つ。
    立ち上がり、背を向けたまま言った。

    「……私は、あの時 自分の正義を初めて疑ったのだ。」

    それが、ヘルメスがアデクを 最後に見た姿 だった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works