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    ししるい

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    ししるい

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    付き合ってるルシアダです。一緒に🏨に住んでます。情事を匂わす描写がちょっとあります。

    構ってルシファーめ、私というものがありながら、アヒル作りに夢中になって全く構ってこないとは。

     私はベッドに寝転がりながら、乾き切った赤い目が制作途中の変なアヒルに釘付けになっている様を眺めていた。時々笑い声をあげつつ、なにかブツブツ呟いている。

     私は眉をひそめ、小さな後ろ姿を睨みつけた。同じ部屋にこんな魅力的な私がいるというのに、まるでその黄色い小鳥以外見えてないというような態度、気に入らない。いい加減こっちを向け!

     しかしルシファーは私の視線に気づかず、奇妙な創作を続けている。私は溜息をついてベッドから起き上がった。愛する愚かな王に、今日だけ特別に大サービスだ。

     ルシファーの元までゆっくりと歩いて膝立ちになったあと、後ろから手を回して抱きつき、体を密着させた。細い体がピクリと揺れる。私はその反応に気を良くして、白い首元に擦り寄った。とくんとくんと脈拍が伝わってくる。トドメに耳元で甘く囁いてやれば、ルシファーは持っていた器具を机に置く。コンと音が響いた。

    「ルシファー……」

     さあどうだ。こんだけやってやったんだ。堪らないだろ?だから、アヒルじゃなくて私を見ろ。

     期待を込めた目で見つめていると、右手が私の頭に伸びて、ポンと置かれた。すらりと長い指が髪を撫でるが、すぐに離れてしまう。心地よさに目を細めていた私は首を傾げた。

    「すまん、今良いところなんだ。あとでな」

     ルシファーは私を一瞥することすらせず、道具を取ってまた作業に取り掛かり始めた。こんな行いをするだなんて信じられない。恋人よりアヒルだと?ふざけるな。

     私は怒りに任せてルシファーの頬を思い切り引っ張った。振り返って私に目をやるアヒル狂に中指を立てる。

    「ば〜か!お前なんてもう知らねえ!くたばれ!」

     ローブを翻し、ドアノブを回した。私を引き止める声がしたが、聞こえないふりをする。私を蔑ろにしたんだから少しは反省しろ!そう心の中で叫びながら扉を乱暴に閉め、ルシファーの部屋を去った。




    「それでもう3日話してないってわけ?」

     エンジェルは呆れたように笑い、度数の高い酒が注がれたグラスをぐいと飲み干す。彼に釣られて私も酒を煽る。空になったグラスをカウンターに置いた。

    「そ〜だ」

     体がぽかぽかと温まって、頭にぼんやりモヤがかかる。むつかしいことが考えられなくなって、自分の中にあった感情が表に顔を出す。

    「あいつがわるいんだから、ごめんなさいってあやまるべきだ。なのに、へやにこもって出てきやしない」

    「あんたを怒らせちゃった!って鬱になってんじゃないの」

    「……」

     部屋の隅で体を縮こませるルシファーを想像すると胸が締め付けられる。大丈夫だろうか。ご飯は食べてるかな。寂しい?私は寂しいけど、あいつはどうなんだろう。

    「あ〜、あいつにはアヒルがいっぱいいるし、チャーリ〜もいるし、へいきだな」

     ルシファーにはなんだってある。趣味も妻子も幸せも。私がいなくたって揺るぎない。そう理解してしまって、息が苦しくなる。私は必要ないんだ。
     
     体中を駆け巡る苦痛から逃れようと、机のグラスを持ち上げて口つけた。だが酒が喉を焼くことはなく、グラスが満たされていないことに気づいた。カウンター越しに立っているハスクにグラスを差し出す。

    「はやくいれろ」

    「断る。もう飲み過ぎだ」

    「いいんだ。こんやはたくさんのみりゃい」

     ぐいぐいとモフモフの手にグラスを押し付けると、エンジェルの手が私の腕を掴んで遮った。

    「止めときなよ。寂しさを酒で誤魔化すのは良くない」

     握っていたグラスを抜き取られ、ふらつく手で追いかけるが、距離感を掴めずに空中を舞う。舌を鳴らしてエンジェルにガンを飛ばした。

     彼は私の威嚇に構わずグラスをバーテンダーに投げた。私は取り返そうと立ち上がりかけ、床に転がる。痛みに唸る私の脇にエンジェルの腕が差し込まれ、上に持ち上げられた。

     ガキみたいに扱われることに不満を覚え暴れると、さっきまで腰掛けていた椅子に座らされ、頭を優しく撫でられる。ルシファーのとは全然違うな、と働いてない脳で分析する。

    「部屋まで行くの手伝うから今日はもう寝な」

    「やら、ねない!」

    「あ〜も〜」

     首を横に振って拒否し、エンジェルの手を払う。こんな手じゃなくて、もっと小さくて温かい、ルシファーの手が欲しい。今すぐ会いたい。なんで来ないんだ。

    「るしふぁ……」

     虚構に向かってルシファーを求めた。呼べばいつもすぐに飛んできてくれるのに。視界が滲んで手が震える。

    「おーさまのとこ行く?」

     突然上からエンジェルの声が降ってくる。

    「え……」

    「会いたいんでしょ。会えばいいじゃん」

    「でも、あいつあやまってない」

    「部屋でごめんなさいって言わせよーよ」

    「そっか……そ〜すればよかったのか」

     周りにかかっていた霧が晴れた。ならば早く行かなきゃ。ルシファーの部屋に。

    「ちょっと!危ないって。ほら肩支えるから!」



     
     私はエンジェルの肩に寄りかかりながら歩き、ルシファーの部屋の前まで辿り着いた。大きな扉は3日前と変わらない様子で閉まっている。

    「えんじぇる、ここまででいい。ありがと」

    「分かった、頑張ってね。お休みなさい」

    「おやすみ」

     エンジェルが部屋に戻る姿を見送ってから、扉の方を向いて息を深く吸う。鼓動が早くなっていくが、酒のせいか緊張のせいなのか分からなかった。両方かも知れない。

     手を軽く握って扉に伸ばし、そっとノックをする。その瞬間、中から大きな物が落ちるような音がした。びくりと体を揺らすと、バタバタと足音が響く。外開きの扉が僅かに開き、ルシファーの大きな目が覗く。乱れた髪が部屋の明かりに照らされ輝いていた。

     ルシファーの姿を眼前にすると体から力が急激に抜け、へにゃへにゃと蹲った。涙が目からどんどん溢れて、堰き止めようがない。頬を伝う水滴を拭おうとすると、彼の手が近づいて私の頬を撫でる。いつの間にか扉は開け放たれていた。

     おずおずと触れる手はとても冷たかった。温めるように自身の手を重ねて指を絡ませる。暫くの間そうしていると、ルシファーが掠れる声で呟く。

    「捨てたんじゃないのか」

    「は?」

    「だって、もう知らないって」

     彼の潤んだ目がぐらつく。それを見て罪悪感に押し潰されそうになった私は、ルシファーを抱きしめて叫ぶ。

    「ちがう!ただ、おまえがわたしをかまわなかったから、あやまらせたくて……」

     そんなどうでもいいことのために、私はルシファーを不安にさせてしまった。頬を擦り寄せて彼を見上げる。ごめんと口に出そうをしたが、唇に指を当てられ阻止された。

    「私がアダムに寂しい思いをさせてしまったのが悪いんだから、お前がそんな顔をする必要はないよ」

     ルシファーが私の手首を優しく掴み、手のひらにキスを落とす。

    「本当にすまなかった、アダム。許してくれるか?」

     キザなことをしながら不安げな表情を浮かべているルシファーの可愛らしさに、私は頬を染める。彼の言葉に答えるように、手首に顔を近づけて口づけした。
     
    「もちろん」

     ルシファーの顔がパッと明るくなった。にこにこ笑いながら、私の顔や首、腕に唇を押し付ける。声を漏らしつつも受け入れると、膝に腕を差し込まれ、姫抱きにされた。

     私を抱えてルシファーは部屋の中に入り、ベッドの方へ向かう。少し皺の寄ったシーツの上に寝かされ、彼が私に覆い被さる。紅の瞳を三日月のように歪ませ、体中を愛撫した。

     私は与えられる快楽に顔を蕩けさせつつ、腕を立てて上体を起こした。唇を重ねて、ルシファーの耳へ顔を寄せて甘噛をする。

     彼の息が荒くなるのが分かった。今夜は激しくなりそうだ。私は口角を上げながら彼の頭を両手で抱きしめた。

     
     
     

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