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    ししるい

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    ししるい

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    なんやかんやでくっつくルシアダです
    ハスエン要素があります チャヴァギっぽい描写もあるかも

    嘘発見器 夕飯後の騒がしいロビーに、私の可愛らしい娘がなにかの機械を抱えながらやってきた。手伝おうかと声をかけると、大丈夫よとウインクをしながら首を横に振る。チャーリーはテーブルに機械を置いた後、よく響く声で話し出した。

    「皆集まってるわね。では、今日の更生エクササイズを始めましょう!」

     コツコツとチャーリーのヒールが鳴る。

    「今日は皆に楽しくお喋りをして貰うわ。話題は自由、お菓子をつまみながらでもオッケー。ただし、ルールをひとつ設けるわ」

     チャーリーはその場でくるりと回って言い放つ。その瞳は一等星よりも光り輝いていた。

    「嘘をついちゃだめよ!」

     チャーリーのその言葉が響いたあと、あんなにうるさかったロビーはシーンと静まり返った。周りを見渡すと、ホテルのメンバー達は死んだ目で下を向いていたり、手をもじもじとイジったり、苦笑いをしたり、首を傾げたりしている。ただしヴァギーとベルボーイ……アラスターだけは狼狽えもせず、真っ直ぐとチャーリーの方を見ていた。 
     流石はヴァギー。素晴らしい女性だ。アラスターは変なニヤケ顔で非常に腹が立つ。どっか行って欲しい。

    「チャーリー、嘘をどうやって見抜くおつもりですか」

     ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながらアラスターが尋ねると、チャーリーはテーブルに置いていた機械を高く持ち上げながら答えた。

    「よくぞ聞いてくれたわ。この嘘発見器を使います!」

     皆の注目を浴びるその嘘発見器とやらからは細い管が何本も伸びていて、死にかけの虫みたいだった。チャーリーは垂れている管のうち1本を掴んで手繰り寄せる。管の先には酸素飽和度計のようなものがくっついている。

    「この測定機を指先に挟んだ状態で嘘をつくとブザーがなるのよ」

    「ハハア、なるほど…」

     アラスターは赤い目でそれを凝視して指を挟んだかと思えば、急に叫びだした。

    「私はテレビが大好きで〜す!」『ビーッ!』

     アラスターはブザーが鳴るのを聞いて聞いて耳を揺らし、黄色の歯を見せた。

    「それなりの精度はあるんですねえ」

     アラスターが杖を回して持ち直したとき、ロビーにエンジェルの声が反響した。動揺が隠しきれないといった様子で、目をしきりに動かし、4本の手を背中の後ろにやっている。

    「ね、ねえ、辞退していい?ほら、俺、仕事関係で話しちゃいけないこととかあるし。リリース前の奴とかさ」

    「あら……」

     チャーリーが眉を下げると、アラスターは黒い触手を出し、娘が持ち上げている嘘発見器をテーブルに置いた。

    「ならルールを追加して、貴方に仕事の話を振るのは禁止としましょう」

     アラスターは杖をクルクル回し床に突く。ダンッ!と音が鳴って床が僅かに沈んだ。

    「これで問題ありませんね」

    「あ、う……………う〜、うん」

     長い沈黙のあと、エンジェルは首を縦に振ったが、不満気に唇を尖らせ、髪をいじっている。すると彼のそばにハスクがやってきて、髪に触れる蜘蛛の男の手を取った。

    「ハスク?」

    「いいじゃねえか。またあの日のように語り合おう、素直になって」

     エンジェルは目を大きく開いて瞬きを数回した。そして目を細めハスクの手を握り返す。機嫌が直ったようで何よりだ。一連の流れをぼんやり眺めていた私は小さな欠伸をひとつした。

     それと同時に、私の隣にいるアダムがわざとらしく溜息を吐く。奴の顔は、お互いを見つめてワルツを踊るエンジェルとハスクを向いている。つまらなそうに眉を潜め、腕を組んでいた。この平和な光景に対してその表情とは随分と性格が悪い。

     咎めるようにアダムの腕をつつけば、大げさに肩を揺らしてこちらを凝視するので笑いかけてやった。

    「痛え、なにすんだ」

    「そんな顔をするな。笑っておけ。笑顔が一番ましだぞ」

    「……」

     アダムは舌打ちをして顔を背ける。生意気な態度を取る奴の頬を引っ張ってやりたがったが、チャーリーの前で粗暴に振る舞うのは良くないとすんでのところで耐えた。彼の笑う声が聞こえた気がした。




     ホテルの皆でテーブルの上の嘘発見器を囲み、それぞれ測定機を指につけた。自分の指先にほんの少しだけ重みを感じる。指を上げてじっと見つめていると、エンジェルが手を上げた。

    「じゃあ自分の秘密言いたい人挙手して!」

     先程のバーテンダーとの会話で吹っ切れたのか妙にテンションが高い。それでハイハイと名乗り上げるものがいるものか。

    「はい!私秘密ある!」

     いた。ニフティーが小さな手を目一杯伸ばしている。早く暴露したいと体を揺らしている。

    「なになに〜」

    「お部屋に殺した虫の写真いっぱい!」

     赤髪の少女は大きな一つ目を光らせ胸を張る。掃除係の発言にエンジェルはポカンとした。けれど直ぐに表情を緩め、彼女を抱き上げた。

    「まじかよ!なんでさ?」

    「でかい虫殺せたらアラスター褒めてくれるの!けど出かけてたりしてすぐに見せれないことがあるから!」

    「あーね」

     エンジェルとニフティは口角を上げてアラスターに目をやった。赤い鹿は溜息をつき、肩をすくめる。

    「仕事のモチベーションは必要ですからね。それに褒めると嬉しそうにするので」

    「へ〜!」

     3人がそうやって会話しているのを、チャーリーはうんうんと頷きながら見守っていた。声が小さくて聞こえないが、口の動きから「その調子よ」と言っているようだ。会話を妨げないようにと配慮しているのだろう。なんて優しい娘だ。

    「ねえ、チャーリーとヴァギーはなんかある?秘密」

    「私は勿論ないわ」

    「前に言っちゃったからもうないね」

    「堕天使であること以上の秘密なんてあってたまるもんか」

     3人が笑い声をあげる。そこにチェリーボムが近寄り、エンジェルの肩に手を置いた。彼の頬をプニプニしながら、目を三日月のように歪めている。

    「エンジェル、アンタはどうなのよ。あるんでしょ!個人的な秘密が!」

    「え〜?まあ、あるけどさ」

    「言っちゃえ言っちゃえ」

     エンジェルは恥ずかしそうに頬を染めながら、チェリーの耳元に顔を近づける。彼がこしょこしょと何かを囁くと、彼女はハッと息をのんでハスクの方を見た。

    「まじで?!こんなじじいを?!」

    「じじいとはなんだ。というかエンジェルはなんて?」

     ハスクが耳を伏せ、尻尾を床に叩きつけるように動かす。あからさまにご機嫌斜めで、風呂に入れられたキーキーを思い起こさせる。

    「そうよエンジェル!私にも教えてよ!」

     チャーリーが体を前のめりにしてエンジェルに近寄った。ヴァギーも娘について彼のもとへ行く。2人はエンジェルの囁やきに耳を澄ますと、チェリーと同じようにハスクを振り向く。恋バナをする少女のように微笑んでいた。

    「ああもうなんだよ。なあエンジェル、教えてくれよ!」

     バーテンダーは勘の良い男である。こんなに分かりやすい態度なら、直ぐに察するはずだ。にも関わらず、ハスクは取り乱しながらエンジェルに必死に問いただしている。エンジェルはそんな彼に甘い視線を注ぎ、名前を呼んだ。

    「俺の秘密はね、ハスクが大好きなこと。あの時からずっと想ってる。愛してる」

     エンジェルの4本の手がハスクの顔を包み、2人の唇が重なった。チャーリーがキャーと黄色い歓声を上げる。

    「俺もだエンジェル。愛してる」

     酒好きの猫がエンジェルを抱きしめた。尻尾が上にピンと伸び、嬉しそうに顔を綻ばせている。さらにゴロゴロと喉を鳴らして、ゆっくりと瞬きをする。

    「いちゃつくのはバーの営業に支障が出ない程度にしてくださいね」

     アラスターが水を差す発言をするのでエンジェルとハスクの顔が険しくなる。チャーリーも頬を膨らませてあの馬鹿を睨んだ。

    「もう、冷めるようなこと言わないで。せっかく2人が結ばれたというのに!ねえ、明日はバーをお休みしてデートでも行ったら?」

    「ああ、お言葉に甘えて」

     顔をモフモフ撫でられながらハスクは答える。その顔はまるで眠たそうな子猫のようだった。ところが直ぐに表情を強張らせ、ある一点に釘付けになる。そこには、妬ましそうな眼差しをエンジェルとハスクに送るアダムがいた。
      
    「おっさんってば俺らがそんなに羨ましいの〜?」

     その視線に気付いたエンジェルは黒猫をハグして得意気にアダムの方を振り返る。喧嘩っ早い堕天使は顔に青筋を立て、白い犬歯を晒した。

    「…………ッ!」

     しかしその口から汚いスラングが出てくることは無かった。奴はただ歯を食いしばってガンを飛ばしている。並の悪魔なら気絶するくらいに恐ろしい顔をしているアダムを、エンジェルは怖がることなく追い詰めていった。

    「前にアンタが酔ってた時、聞いちゃったよ〜。好きな人がいるって」

    「!」

    「ずっと昔から大好きで、でもこんなことアイツに言えない〜って」

    「おい!」

    「バーで飲んだくれてベラベラ喋って、俺とハスクに知られちゃってね。駄目だよそんなんじゃ」

    「うっ…!」

    「いや〜それにしても、信じられなかったよ!俺」

    「あ゙?!」

    「アンタがまさかおーさまを好きだなn」

    「黙れ!!!」

     ロビーにアダムの怒鳴り声が轟く。奴は子犬のように体を震わせ、冷や汗をかいている。エンジェルは奴の反応を見てやり過ぎたと思ったのか、俯いて顔を隠している。

     なにかの冗談だ。そうに違いない。私はそう考えてアダムに問いかける。

    「アダ厶、あ〜……私が好きって本当かな?」

    「ちが『ビーッ!』

     奴の返答はブザーにかき消された。それが意味するのは……。嘘だろ。機械の故障じゃないか?! 
     だがそうではないことはアダムの青い顔が証明していた。

     血の気の引いた顔の奴は、ハアハアと浅く呼吸しながらその場でへたり込んだ。意味になってない言葉を口から漏らしながら首を横に振っている。心配になって手を伸ばしたら、手を叩かれ弾かれてしまった。
     
     行き場を失った手をどうしようかと考えたとき、エンジェルとチャーリーがアダ厶の元へ近づいてしゃがみ、奴の背中を撫で始めた。震える大男は彼女らの手を受け入れ、少しずつ息を整える。私が何も出来ずただ様子を見守っていると、娘は優しい声でアダムに話しかけた。

    「アダム、好意を伝えることって素晴らしいことよ。何も恐れることないわ」

    「…ハハッ。相思相愛の恋人がいる奴に言われてもな」

     アダムは体をふらつかせながら立ち上がった。黄金の瞳は涙に覆われ、今にも溢れだしそうだった。奴に見下ろされるチャーリーは唖然として口を閉じる。

    「あのさ……俺はハスクに想いを伝えて恋人になったよ。アンタもワンチャンあるよ」
     
     アダムは目を見張ってエンジェルの方を向いた。目元をぴくぴく動かし、頬に水滴を伝わせる。

    「お前にそんなことほざく資格などない!来て間もない私にも分かるくらいお前らは想い合っていた。結ばれるのは時間の問題だったろ」

     エンジェルは戸惑いつつ、顔を赤くする。

    「だけど私と、ルシファーは違う。憎み合うことすらない。一方的に私が…恋い焦がれていた、だけだ」

     アダムの目から出る涙は照明の光を反射して光っていて、とても美しかった。けれど、やっぱり……。

    「アダム」

     アダムの方へ歩み寄ると、黄金の瞳が私の姿を捉えたが、すぐに逸らされる。それから中指を立て、後退りしようとした。私は奴が足を後ろに引く前に手首を掴んで阻止する。

    「アダム」

     顔を歪ませ抵抗する男の名を呼んだ。チャーリーがヴァギーに愛を伝えるときのような、優しい声色で。アダムは抗うのを止めて、狼狽えながら私に目を向ける。

     水面に映る満月はゆらゆらと波打っている。私は体を魔法で浮かせ間近で距離を縮める。するとアダムは顔を赤らめ、掴まれていない方の手で覆い隠してしまった。

    「なんなんだよ」

     か細く、今にも消えてしまいそうな声で呟く。

    「頼むから、見せておくれよ」

     そう懇願すると、アダムは渋々手を降ろしてくれた。知恵の実の色の顔を一粒の雨粒が流れ床にポトリと落ち、また涙が湧き出て零れる。
      
     私は目の前の男に泣き止んで欲しくて、湿った目元に口を近づけ、一つキスを落とした。私の願い通りアダ厶は涙を流すのをやめ、目を丸くする。

    「なにして」

    「お前は笑顔が一番可愛いのだから、笑ってくれ」

     焦げ茶の跳ねる髪に触れると、アダムは緊張を緩め、柔らかい表情を見せた。その顔に感情が揺さぶられ、衝動的に口づけをした。

    「ん、ちょ、お前やめろ!」

     アダムのゴツい手が私の頭を掴み、無理矢理引き離された。ムッとして奴と目を合わせる。

    「お前私に興味なさそうにしてたくせに」

    「あるよ。ちょこちょこ話しかけてただろう。けど、構うとお前はすぐそっぽ向いてたな」

     アダムの顔に影が落ち、私の頭を持つ手の力が弱まった。下にずり下がって私の頬を撫でる。

    「嫌なのかと思っていたが、素直になれないだけだったとはね」 

     私は奴の手に自分の手を重ね、指を絡ませた。赤く色づいた指先はとても温かくて心地良い。

    「なあ、アダム。私の恋人になってくれないか」

    「は」

    「お互いに愛し合おう」

     アダムは餌を求める魚のように口をパクパクさせたあと、目を蕩けさせて眉を八の字にした。

    「うん!」

     背中に手を回され、体をぎゅっとくっつけられた。息苦しさで私の喉から声が漏れ出る。

    「あ、ごめん」

    「いいや、気にするな」

     遠ざかるアダムを抱き寄せてその唇に触れた。恍惚とした表情で目配せをされ、袖を握られる。あまりの愛おしさに欲望がこみ上げて、このまま自分の部屋へ連れて行ってしまおうと考えがよぎった。しかし、チャーリーの泣き声がそれを打ち消した。

    「うわ〜ん!!!」

    「ど、どうしたチャーリー!」

    「ヒック…まさか、二組もぉカップルが、うぐっ出来るだなんて〜!!!なんて素敵な日なの〜!!!」

     上を向いて涙を流す娘をヴァギーが宥める。チャーリーに囁く彼女はえも言われぬ顔をしている。冷静になってみれば、あの子は嫌いな元上司と恋人の父がキスしてる様を見せられたのだ。複雑な思いを抱くのも無理はない。

    「じゃあ皆。私はプリンセスをあやしてくるから」

     ヴァギーはチャーリーを姫抱きにしてロビーを去っていった。
     



     二人がいなくなったことで自然と解散ムードになり、皆は自分の部屋へ帰った。私とアダムも自分達の部屋に戻ろうと、エレベーターに乗って上に昇っていた。窓からは沢山のネオンサインで輝く街が見える。夜が深まっていることを示していた。

     そこまで広くない空間で、アダムは私から距離を取って隅にいる。奴は縮こまって目を泳がせていた。それを横目に見て胸をときめかせた瞬間、ポーンと音が鳴ってエレベーターの扉が開いた。
     
     空気の読めない奴めと機械に内心八つ当たりをしつつ、扉を押さえてアダムを先に降ろした。

    「ルシファー、お前さ」

    「なんだ?」

     横に並んで廊下を歩くとアダムが口を開いたが、間もなく口籠る。モゴモゴと動く口を見つめながら言葉を待つ。

    「か、かっこ良かった。あの、エレベーターのときの、エスコートってやつ?が。そんだけ!」

     アダムは自分の部屋の前についたと同時にそう告げた。驚いて立ちすくんでいたら、奴はお休み!と言い放って扉を閉める。

    「ああ、お休み……」

     私は扉の前で崩れ落ち、思考をめぐらした。これからはアダ厶のあんな可愛らしい姿を毎日見られるのだ。きっと笑顔だって見放題。今になって、奴と恋人になったのだという実感が湧いてくる。急激に顔が熱くなった。冷まそうと廊下に寝転がる。
     
     ヒンヤリとする大理石の床が顔の熱を完全に奪うのに朝までかかることになるとは、このときの私は知る由もなかった。


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