私の彼女、最高に可愛い「…では報告会は以上とする」
長い会議がようやく終わった。私は即座に立ち上がり部屋を後にする、はずだった。
「ジーニストさーん!一緒にご飯行きま「行かない。エンデヴァーと行け。じゃあな」いつにもまして対応が塩!!ちょちょちょ、何なんですか、何かあるんですか!?」
「あるから急いでるんだろう。見てわからないのかこの鳥が」
「俺!!人間!!」
私の腕を取り、ピーピーと喧しい鳥…もといホークスを睨みつけるが、奴はものともしない。クソ、一番面倒な奴に絡まれてしまった。一刻も早くここを出たいんだが。
「本当に急いでいるんだ。腕を離してくれ」
「ジーニストさんがそんなに急ぐなんて…何事ですか?仕事?」
「………………そうだ」
「今の間は絶対嘘やん」
奴は私の腕を掴んでいる手に力を入れて逃すまいとする。いっそ、個性を使ってしまおうか…。そう思った矢先、救世主になりそうな奴を見つけた。
「エンデヴァー。エンデヴァー助けてくれ。ホークスに不当な拘束をされている」
「…何をやっているお前は」
「ちょ、エンデヴァーさん違うんですよ!急いでるジーニストさんに何があるんですかー?って聞いてるだけですよ!」
「説明する時間も惜しいほど急いでいるとは思わないのか?」
「……ホークス、離してやれ」
ため息をつきながら呆れたようにホークスを宥めるエンデヴァーに後光が差しているように見えた。ありがたい…!
「エンデヴァー、この恩はいずれ。では失礼」
「ちょ、ジーニストさん!………はっや…」
「余程大事なことがあるのだろう。仕事か?」
「いや仕事じゃないと思います。うーん…ジーニストさんが何よりも大事にすること…………お姉ちゃん?」
「…今日、朧は休みだそうだぞ。先日、家に遊びに来た時に言っていた」
「お姉ちゃんエンデヴァーさんちに遊びにくるんですか!?初耳なんですけど!?それ詳しく教えてください!!!!」
「はぁ……くそ、少し遅れた…」
オフィスに戻って着替えたというのもあるが…やはりホークスに捕まったのが一番の痛手だな。今度会ったら締めよう。絶対に。
待ち合わせ場所に着き周囲を見渡すが、彼女らしき人影が見えない。…まだ来ていない?スマホを確認するが、連絡は来ていなかった。……彼女が無断で時間に遅れるなど考えられない、何かあったのか?こんなことなら家で待ってもらうべきだったか…。
不意に肩を、トントン、と叩かれた。
「朧っ…!」
「やっぱりお姉ちゃんとデートですかジーニストさん!」
「…」
「いやージーニストさんが何を優先するのか気になって気になって!後追いかけちゃいました!」
「……」
「エンデヴァーさんは『デートだからやめとけ』って言ってたんですけど…やっぱり自分の目で確認したいじゃないですか!」
「…………」
「デートの時のお姉ちゃんでどんな格好してるんですか?俺と遊びに行くときはカジュアルな感じなんですけど、ってジーニストさん?さっきからどうしました?」
「……………ホークス」
「はい」
「………………最期に言い残したことはあるか?」
「は?最期って何、ちょ待って待って待って待ってジーニストさん!!俺の翼拘束せんで!!もごうとせんで!!あと首!!首締まっとる!!!!」
繊維でぎちぎちに拘束し、奴を締め上げた。この野郎…一度ならず二度までも邪魔を…!許さん…!!絶対に矯正してくれる…!!
「……二人とも、ほかの皆さんに迷惑ですよ?」
呆れたような声の方を向くと、デニムのワンピースを着て日傘を差した朧が立っていた。腰に手を当ててやれやれと言わんばかりの表情で我々を見る彼女は……うん、可愛いのひと言に尽きる。可愛い。朧可愛い。
「朧…!…遅れて済まない」
「会議お疲れさまでした、維さん。長引いたんですか?」
「いや…終わってオフィスに戻ろうとしたらホークスに捕まって時間を取られてな…。今も邪魔をされたので矯正しようとしているところだ」
「あらら…それはそれは…。………時間がもったいないから離してあげて?」
「君がそう言うなら」
ホークスを拘束していた繊維を外して解放してやる。
「ゲホ……し、死ぬかと思った…」
「啓悟も会議お疲れ。大丈夫?」
「だ、だいじょぶ…」
「大丈夫ならいいか。僕今からデートだからもう行くね?」
「俺の扱い雑やない…?」
「だってどーせ啓悟の自業自得でしょ?」
「ひ、否定できん…」
ホークスの背中を摩っている朧……聖母かな?本当に可愛いな…いつにも増して可愛い。腰のベルトで朧のスタイルの良さが強調されているし、チラッと見えるデコルテが最高にセクシーだ。袖を捲って五分袖になってるのもまたいい。………うん、
「私の彼女、最高に可愛い」
「いきなりどうしました?」
「いや…感極まってつい…。ところでどこにいたんだ?探したんだぞ?」
「日差しが凄かったので日傘を買いに…。ごめんなさい…連絡してから行くべきでしたね」
「そうだったのか…。いや、私が遅れてしまったのが悪い。こんな暑い中待たせてしまって済まなかったね。…その日傘、君に似合っているよ」
「でも僕があちこち探し歩いちゃったから…。見てください、この日傘もデニムなんですよ」
頑張って探した甲斐がありました、と、はにかみながら日傘をクルクル回している朧が本当に可愛らしくて、胸が苦しくなる。私の彼女、本当に可愛いんだがどうしたらいい?とりあえず抱きしめていいか?いいよな私の彼女なんだから。
「はぁ……可愛い…私の彼女世界一可愛い…どうにかなりそうだ…」
「んぐぇ、維さ、締まってる締まってる…!」
「人のこと放ってイチャイチャするの酷かない!?あとジーニストさんちょっと腕緩めてあげて!?鯖折りみたいになっとる!!」
「む…済まない朧…」
「ケホ…いえいえ……。…………ちょっと気持ちよかったから…大丈夫…」
小さく呟いた彼女をまた抱きしめたくなったがグッ…と堪えた。…次こそ折りかねん…。
「…さて、そろそろ行きましょうか」
「そうだな。昼食は何がいい?この間、君が言ってたカフェにでも行くか?」
「ぜひ!!あそこのパンケーキ食べたかったんです…!」
「ふふ、じゃあ決まりだな。行こ「俺も着いてって良かですか?」良い訳あるか。早く帰れ」
「えーだって俺も可愛いお姉ちゃんとご飯食べたかー!ジーニストさんだけズルいー!」
「何がズルいんだ。可愛い彼女と食事を取るのは彼氏の特権だろう?駄々を捏ねるな」
「駄々を捏ねるのは弟の特権なんで!!ねーお姉ちゃんダメー?」
「啓悟はまた今度ね。今日は維さんの日だから」
「むー………今度絶対俺ともデートしてよ?」
「はいはい買い物ならいつでも付き合うから。…ほら早く仕事に戻りなさい。頑張ってね」
朧はホークスの頭にポンポンと触れ、奴に言い聞かせた。奴はあざとく頬を膨らませ、「絶対デートしてねー!」と言いながらようやく去った。
「……私以外とデートしなくていいのに」
「?僕、啓悟に『デートする』とは言ってませんよ?『買い物に付き合う』とは言いましたけど」
「それでも……なんか嫌だ。朧は私のなのに…」
「〜っ、やきもち妬いてる維さん可愛かぁ…」
彼女は背伸びをしながら手を伸ばし、「可愛い可愛い」と言いながら私の頭を撫でた。そのまま撫でていた手を首に回して私を引き寄せ、触れるだけのキスをしてくれた。
「…こんなことするのは、恋人の維さんだけですよ?」
「当然だ。……もう一回して、朧」
「ふふ、今日の維さんは甘えん坊ですねぇ…。じゃあ、はい。日傘持って?」
言われた通り日傘を持つと、朧は両腕を首に回してまた私を引き寄せる。
あと数センチで唇が触れる瞬間、ぐー、と気の抜ける音がした。
「……………ごめんなさい。お腹空いちゃって」
「…っぷ、ふふ……。私こそ済まなかった。…カフェ、行こうか」
「うん…行く…」
お腹が鳴ったのが恥ずかしかったのか、朧は手で顔を覆い隠して先に行こうとした。
「朧」
「……なに?」
日傘を持ってない腕を差し出すと、朧はあー、うー、と唸った後、おずおずと腕を絡めてきた。ジッ…と彼女を見ると、私の腕に顔を押しつけ隠した。
「……首まで真っ赤だぞ?」
「い、言わなくていいよぉ…///」
「可愛い…朧は本当に可愛い…」
「うー…///」
照れ隠しか、腕をぎゅっと抱きしめる彼女が本当に、本っ当に可愛くて、このまま押し倒したくなる。…ここが外でよかった。
日傘を彼女の方に傾けて、目的のカフェへ向かった。…ホークスのせいで出鼻を挫きかけたが、デートを楽しもう。
…と、思ってたんだが。
「今日の朧ちゃんホントに可愛いわぁ〜!お人形さんみたい!!写真撮りましょ写真!!」
「ありがと。万純も可愛いよ」
「どうしてこうなった…」
「カフェが混んどって相席になったからやな。まぁ知らん奴と相席よりはマシやろ?」
「それは、そうなんだが…!」
同僚の万純と向かいの席で写真を撮っている朧をチラッと見る。ニコニコ楽しそうな彼女を見るのは良いんだが…せっかくなら2人っきりになりたかった…。
「ジーニストはんも報告会の後、休み取ったん?」
「ああ、まぁ、取ったというか…SKから『休んでください』と言われてな…」
「ファー!どんだけ働き詰めなんや!!ちゃんと休まなアカンで!?」
「ファットガムもっと言ってやってください」
「朧ちゃんも人のこと言えないわよ?ちゃんと休んでないでしょ。今日の休みだって目良さんから『休みなさい』って言われて取ったんでしょ?」
「あ、万純パンケーキ来たぞ?」
「誤魔化したわね…」
店員がワゴンを引いてきた。…ファットの注文量が多かったから、とんでもない量のパンケーキになってるな。机に乗るのか?
朧は目当ての蜂蜜とチーズのパンケーキを前に、キラキラとした目をしている。可愛い。
「いただきます」
「いただきまーす!…んーおいしー!……朧ちゃん、ひと口食べる?」
「食べる。ちょうだい」
万純に向かって『あー』と口を開けているが…距離が近くないか?同僚とはいえその近さはいいのか?
チラッとファットを見ると、奴は苦笑いをしていた。
(あー…済まんなぁ。万純、朧のことめっちゃ好きやねん…。俺といる時もよぉ話しとってなぁ)
(お前は妬かないのか?」
(妬く?何で?)
(付き合ってないのか?)
(ファ!?万純は従兄弟やぞ!?)
(従兄弟婚は可能だが?それに、)
万純はお前のことが、と言おうとした瞬間、足にトントンと叩かれる感覚がした。正面の朧を見ると、『それ以上はダメ』とアイコンタクトを取ってくる。…そうだな。私が言うべきではない。
(それに…何や?)
「…いや、何でもない。朧、口に蜂蜜ついてる」
「ん…。……さっきからお恥ずかしい…」
「さっき?何があったの?」
「…盛大にお腹鳴った」
「可愛いっ…!朧ちゃん可愛い…!!」
可愛い可愛いと朧を撫でる万純を、ファットは愛おしそうに見ている。……この2人、両思いなんじゃないか?
「万純、食べなアイス溶けるで?」
「あらホント。たいちゃんありがと」
「そういえばファットガム。何で今日はコミットさんなんですか?」
「万純と食べ歩きする約束しとったでな。こっちの方が店入りやすいんや」
「…あの巨体が入る店はなかなかないからな」
「大阪なら結構あるんだけどねぇ…。2人はデート?次どこ行くの?」
「水族館に行こうかと思ってる。前から行きたかったんだ」
「いいわねぇ…!楽しんでね?」
「万純も食べ歩き楽しんでな」
「二度あることは三度あるというが…まさか本当に三度もあるとはな」
「これで何か事件が起こったら完璧ですね」
「強盗とかか?」
「そんな、新喜劇じゃないんだから…こんなところで強盗なんて起きないでしょ。………起きませんよね塚内さん」
「俺に聞かれても…」
万純たちと別れ水族館に来た私たちは、チケット売り場で塚内と朧の先輩の羽望に会った。…本当、今日は何なんだ…。知り合いに会いすぎだろ…。
「クィーンもデートですか?」
「デッ、デート、じゃ、なくて…その……ワタシが来たかったから直正を連れてきただけで…!!」
「そうなの?俺はデートだと思ってたんだけどなぁ」
「ふぁっ!?」
「見てください維さん、クィーン顔真っ赤です」
朧はクスクスと笑いながら羽望を見ている。…意地悪そうな顔をして…可愛いな…。
「お、朧ちゃん達は?デート?」
「デートです」
「胸張って言うわねぇ…。…そのワンピース可愛いわぁ、朧ちゃんに似合ってる」
「ふふん、今日のために買いました。このミュールも。やっぱり維さんの隣に立つので可愛い僕でないと」
フンス、と堂々としている朧の可愛さに眩暈がしそうだ。…私の彼女、可愛すぎないか?こんなに可愛くて大丈夫なのか?誘拐されないか?……まぁ誘拐されそうなら絶対私が守るが。
ふと塚内を見ると、朧をジッ…と見ていた。見過ぎだ、締めるぞ。
「……羽望もこれくらい堂々としてくれてもいいんだけどなぁ…。……いや、その前に告白が先か…」
「………」
聞かなかったことにしておこう。頑張れ塚内。
「維さん、中入りましょ?」
「ん?…ああ、そうだな」
「せっかくならダブルデートする?ここで会ったのも何かの縁だし」
「デ、デートじゃないわよ…!」
「んー…せっかくですけど『ドカーーーーン』
朧の声を遮って爆発音が聞こえた。…ああ、またこのパターンか…。
「……本当に今日は何なんだ…!」
「本当に新喜劇的展開になりましたねぇ…」
「…今日非番なのになぁ…」
「物騒な世の中よねぇ…」
さっさと制圧してくれる…!…ああ、ついでに2人っきりになれてないイライラをぶつけさせてもらうか。
「…まさかオルカへの復讐目的だとはな」
「よくよく考えたらこの水族館、ギャングオルカが館長でしたね」
「1人の復讐のために20人も来るなんて…ヴィランって暇なのかしら…」
水族館のエントランスでひと息ついた。はぁ…災難な1日だった。せっかくのデートが…。
奥からオルカと塚内がやってきた。事後処理は終わったのか?
「お疲れ様です、ギャングオルカ」
「お疲れ。ヴィランの制圧、感謝する。せっかくの休日に済まなかったな」
「全くだ。せっかくのデートが…」
「まぁまぁ維さん」
「…今日はもう閉館するんだが、お詫びに閉館後の館内を見ていくか?」
…貸切か。それも悪くはないが…朧と2人っきりにはなれないな。塚内達がいるし。……朧は水族館を楽しみにしていたから、4人で回るか。
「んー…クィーンと塚内さん、見ていかれます?」
「オルカの計らいに甘えようかと思ってるけど…君たちは?最初言ってたみたいにダブルデートする?」
「あー……維さん…」
「朧に任せるよ。どうしたい?」
「……僕、今日疲れちゃったので、後日来直したいなーって………いいですか?」
「…もちろんだ。オルカ、せっかくだが我々はここで失礼する」
「構わん。来る時は連絡してくれ。貸切にする」
「ありがとうございますギャングオルカ。…では塚内さん、クィーン、僕らはここで」
「またね、朧ちゃん」
「はい、また。……頑張ってくださいねクィーン」
「茶化さないでよぉ…」
「朧、よかったのか?水族館楽しみにしてただろう」
「楽しみにしてましたけど…我慢できなくなって…」
「我慢?…そんなに疲れたのか?」
家に帰る道すがら、朧に聞いた。…そんなに疲れさせてしまったのか、私は…。……まぁ確かに炎天下の中、朧を待たせてしまったし、カフェも人が多くて相席になったし、水族館も……。
「……済まない」
「ん?違いますよ?疲れが我慢できなかったとかじゃないですし、今日のデートもあれはあれで楽しかったですよ?」
「…では何が…」
「………………………つ、」
「?」
「…………………………維さんと、2人っきりでイチャイチャしたいの、我慢できなくって………だから、その………おうちデート、しませんか?」
顔を赤らめて笑いかける朧を、私は思いっきり抱きしめた。……ああ、本当に
「私の彼女、最高に可愛い…!」