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    1nu1nu3iko

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    1nu1nu3iko

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    不穏☔️🐬、やはり解釈違いすぎてありえないんだ㌔⁉️となりポイピクに置く(供養する)ことにしました。すみません。ブクマ、コメント本当にありがとうございました!反応くださった方、本当に申し訳ありません。

    サ/ニ/タ/テ/ム/ズの使いすぎで魔力回路(造語)が壊れてしまった弟の話。二人とも卒業後、ナチュラルに同棲している設定です。死ネタやグロ等はありませんが、非常に人を選ぶ内容なので本当に何でも大丈夫な方のみ閲覧してください。全体的に暗いです。


    以下注意書きの方確認お願いします。↓
    解釈違い、地雷・捏造だらけ(特に魔法関連)、ガバガバ設定、死をほのめかす描写













    真っ赤に燃えた夕日が建物の影の向こうに消えていく。夜の青とのグラデーションがとても綺麗で、思わず見とれていると目的のバスがやって来た。そのまま乗り込むと、床の木材が少し古くなっているのか、歩く度にギイギイと音がする。車内を見渡せば、最終便にも関わらず乗客は少なく、幸運にも比較的空いていた。いい席が無いか、バスの中をきょろきょろと見回してみる。
    なるべく一人になれる席がいいな、と思っていたら、窓際にちょうど二席分空いている所があった。
    終着点まで、誰も隣に来ませんように。今はできるだけ、誰にも自分を見られたくなかった。顔を隠すように、フィンは着ていたローブを目深に被る。

    窓の外を見ると、帰路につく人々で溢れかえっていた。あそこで仲良く手を繋いでいる2人は兄弟だろうか。小さい弟の歩幅に合わせて、兄の方はゆっくりと歩いている。
    その光景に、昔の自分たちを思い出して思わず口角が上がった。


    …兄さまは今頃、どうしているんだろう。今日は仕事が長引くから、帰りが遅くなると言っていた気がする。一応、当分のご飯は作り置きをしておいたから、食べるものがないなんてことは無いと思うけれど。
    兄はフィンとうさぎ以外には本当にお金をかけない人で、自分のことにはてんで無頓着だった。特に酷かったのが食事で、忙しい時は一食くらいなら平気で抜く時もあった。それで何度、本気の兄弟喧嘩をしたか分からない。まぁ、最終的には向こうが折れてちゃんと食べるようになってくれたんだけど。

    食事以外も、兄さまは割かし自分のことに関しては適当だった。
    …僕には何も言わなかったけど、本当は、多分、忙しかったのもあったんだと思う。
    だから、兄さまが卒業して一人暮らしを始めてからは、時間を見つけては訪ねるようにした。それこそ週に一回くらいのペースで通っていた気がする。
    兄さまはそんなことしなくていいって言ってたけれど、兄さまの家を掃除したり、服を洗濯したりするのは好きでよくやってた。もし一緒に住めたらこんな感じなのかな、そう想像するのが楽しかったんだよね。


    ...僕と兄さまが付き合い始めたのも、確かちょうどその頃だった。
    家に行くようになってから、ついでに泊まっていけと言われることが増えた。迷惑じゃないかなって言ったんだけど、オレがお前と居たい、なんて言われたらお言葉に甘えるしか無かった。正直言って、あの顔でそのセリフは反則じゃないだろうか。僕が女の子だったら確実に恋に落ちてたと思う。…いや、女の子じゃなくても落ちちゃってたんだけどさ。

    もともと親愛だったはずのフィンの兄に対する感情は、気づけば欲を孕んだものに変わってしまっていた。いつからかなんて覚えていないほど前から、ずっと。
    それが世間的にはあまり良くない感情だということをフィンは理解していた。だから、隠し通して墓場まで持っていくつもりだった。

    …そのつもり、だったんだけどな。
    あれは確か、いつものように家に泊まりにいった時のこと。先にお風呂を譲ってもらったから、次どうぞって言いに兄さまの部屋に入ると、兄さまはソファの上で眠っていた。ずっと朝から部屋でお仕事してたんだから、そりゃ疲れてるよね...そう思ってそっとブランケットをかけようとした時、ふとその寝顔が目についた。
    脱力しきって、いつもより数段と幼く見える、その顔。
    怖い印象を持たれやすい兄だが、こうしてみると寝ている時の表情はいつもより幼く、あどけない印象を与える。
    その顔を見つめるうちに、兄への純粋な労りの気持ちの中に、もっと異質な、別の感情-ドロドロとした、卑しく不純な欲が混ざり始めたのをフィンは感じていた。

    今思うと自分でもバカだったと思う。気づけば起こさないようにそっと兄さまの寝顔に近づいて、その唇と自分の唇を重ねていた。あの時の感触は今でも鮮明に覚えている。普段リップクリームを塗らないから、少しカサついてる表面に、思ってたよりも柔らかい唇の感触。触れた面から微かに伝わる体温と、唇の隙間から漏れ出る小さな吐息。

    ほんの一瞬、軽く触れるだけのキスだったけど、それだけで満たされた気がした。寝込みを狙うなんて、よくないって分かってたけど、止められなかった。最初で最後の、せめてもの思い出が欲しかった。

    ごめんなさい、兄さま。
    小さくそう呟いて、離れようとしたその瞬間、閉じていたはずのその目が開かれた。いつから起きてたの、なんて驚く間もなかった。気づけば腕を引っ張られて、兄さまの唇が僕の唇にくっついていた。
    兄さまからのキスは、甘く蕩ける、っていうより、どちらかと言えば貪るようなキスだった。ようやく唇が離れた頃には僕はすっかり息が上がってしまっていて、兄さまの方を見ると、その目には確かに熱が籠っていた。それから、僕の両頬に手が添えられて、兄さまは僕の目をまっすぐ見てこう言った。

    -オレはお前を、心の底から愛している。
    ずっと、ずっと焦がれていた人に、そんな熱い目で見つめられて、そんなことを言われたら、もうダメだった。世間体なんてちっぽけなものは頭の中から消え失せてしまって、気づけば僕も、と口から漏れていた。
    -僕だって、兄さまのこと、愛してる。
    そう続けて、今度はフィンの方からまたキスを返した。

    ...思い出していると何だか頬が熱くなってきた。
    キスどころか、フィンがイーストンを卒業してからはそれ以上のことだって何度もしたのに。あの夜のキスはフィンの中で、特別だった。ずっと飢えていた、諦めて見ないふりをしていた渇きが満たされたあの感覚は、今もはっきりとした輪郭を持ってフィンの中に残っている。


    『〜次は、終点…』

    長旅の終わりを告げるアナウンスが耳に届いて、フィンはハッと我に返った。いつの間にかもう目的地についていたらしい。全く気づかなかった。フィンは慌てて荷物をまとめ始める。といっても、片道分のバス代以外には何も持ってきていなかったから、そんなに時間はかからなかった。
    終点のバス停が近づくと、軽い振動がきて、カクン、と体が揺れてバスが止まった。席を立ち、運転席の隣の箱に切符とお金を入れる。そのまま降りようとすると、不意に運転手に声をかけられた。
    「お兄さん、この先何も無いけど、大丈夫?」
    話しかけられるとは露程も思ってなかったフィンは少し驚いてしまった。ぎこちない作り笑いを浮かべながら、不審にならないようなんとか言葉を探す。
    「...あ、えっと、大丈夫です。宿をとってるので…」
    「そう?...ならいいけど…気をつけて行くんだよ」
    「あ...はい...ありがとう、ございます…。」

    苦笑いのまま、運転手に軽く手を振り返してフィンはバスを降りる。

    宿を取っている、なんて真っ赤な嘘だった。
    どうせ眠れないのだから。宿なんて、とったって仕方がなかった。


    フィンはバスを降りて、すっかり暗くなった辺りを見回す。頭上にはぼんやりと光る一番星が、薄暗い空にその存在を主張していた。
    バス停から遠ざかるように、一歩右足を前に踏み出す。そのまま道なりに歩いていくと、遠くの方に砂浜が見えてきた。
    歩みを進めるにつれ、潮の香りがだんだんと濃くなってくる。海に近づいているのを感じて、フィンの身体は強ばりだした。

    やっぱり、もう、諦めて帰ってしまおうか。そんな甘い考えに、心が揺らいでしまいそうになる。

    ……いや、ダメだ。ちゃんと、決めたんだから。
    フィンにはもう、逃げるという選択肢は残されていなかった。あの暖かな存在を、なんとしてでも守りたかった。

    再び前を向いて一歩を踏み出す。結局、誰にも何も言わずに出てきてしまったことだけが心残りだった。卒業してから兄と一緒に過ごした家には書き置きすら残していない。友人達にも、別れの挨拶はとうとう言えずじまいだった。
    あんなに沢山の思い出を貰ってきたのに。当時は幸せすぎて死ぬんじゃないかって、本気で思ってたくらい、幸せだった。大好きな友人達と、それから、…世界でたった一人の家族で、愛しい人がいた。

    ……せめて。
    せめて、もう少し時間があれば。
    気づいた時には、もう遅かった。フィンは自身の両手を見やる。
    この手が杖を握ることは、きっと、もう、二度とないんだろう。




    ーある日突然、魔法が使えなくなった。

    あれは確か、魔法局の医務室で負傷した局員の手当をしていた時だったと思う。いつものように、サニタテムズと唱えようとした瞬間、強烈な違和感がフィンを襲った。
    普通、魔法を使用する際には魔力が全身を巡る感覚がある。その感覚が、突然糸が切れたようにプツリと消えたのだ。
    どれだけ必死に呪文を唱え続けても、杖は全く反応しなかった。今思えば、あの時の自分は相当酷い顔をしていたんだろう。隣で見ていた同僚にすごい剣幕でもう休めと言われて、その日はすぐに病院に向かった。


    …結論から言うと、フィンの魔力回路は完全に壊れてしまっていた。サニタテムズという強大な魔法の過剰使用によって。

    診察室で告げられた内容を、一つ一つ、思い返してみれば心当たりしかなかった。
    自分でもずっと無理をしていた自覚はある。魔法局の医務室で働くようになってからは、毎日のように任務で傷ついた多くの局員達を治療していた。治療が長引いて、日付が変わる寸前まで居残ったこともある。それを兄に咎められて、口論になったことも一度や二度じゃなかった。

    『一度狂った魔力回路は二度と元には戻らない。行き場を失った魔力は暴走する。遅かれ早かれ、フィンもいずれはそうなるだろう。』
    診察室から出る時に、医者から告げられた言葉を思い出す。その時のフィンには暴走という言葉の意味が、あまりよく分かってはいなかった。もう二度と魔法は使えないのだろうか、そのくらいのイメージしかついていなかった。

    その答えは、しばらく後になって最悪の形でフィンの前に現れた。




    「わ...」
    長かった防風林を抜けると、視界が一気に開けた。砂浜の先に、薄暗い空と濃い青が、あたり一面に広がっている。
    海なんて、いつぶりだろう。去年みんなで行った時以来かもしれない。懐かしい海の香りがフィンの鼻腔をくすぐった。

    あの時は、楽しかったなぁ...。
    仲直りしてから、兄さまとも、いつか一緒に行きたいなって話をしたっけ。それも結局、できなかったけど。
    砂浜に足を1歩踏み入れると、じゃり、と心地いい音がする。一歩進める毎に、足が軽く沈む感覚があった。
    ふと、前の方を見ればキラキラと光る何かがある。少し小走りで近づいてみれば、ガラスの小瓶の破片だった。
    「…あ、」
    その破片一つ一つの輝きに、意識が引き摺り込まれるような感覚がする。自然とあの夜の記憶がありありとフィンの中に蘇ってきた。





    -今でも思い出すたびに、背筋がヒヤリとする。鮮明に瞳の奥に焼き付いている、あの光景。

    あの晩、フィンは奇妙な倦怠感に襲われて、目が覚めた。例えるならば、それは魔法を使い切った後に感じる疲労感に近い。徐々に覚醒し、鮮明になっていく視界には、杖を握った両手が見える。
    杖なんて、あの日病院に行って以来、ずっと戸棚に仕舞っていたはずなのに。それがどうして今目の前にあるのか。寝起きの働かない頭で考えていると、フィンの視界の隅で何かが光っていることに気づいた。
    そちらの方に目をやると、床に散らばったガラスの破片が、月明かりに照らされて輝きを放っていた。
    おそらく窓ガラスか何かだったのだろう、それらは跡形もなくほとんどが粉々になっている。
    これは一体何なのか。一体、何が起こったのか。嫌な予感がして、おそるおそる、ゆっくりと視線を全体に向ける。そこに広がっていた光景に、フィンは思わず硬直した。
    『ひっ…』
    窓はほぼ全壊状態で、ガラスは跡形もなく砕け散っていた。かろうじてレールにぶら下がっている布切れはどうやらカーテンの残骸に見える。家具はどれも変形して原型を留めておらず、落ちて割れた小瓶から漏れたインクが、床に散乱した紙を黒く染めていた。
    室内の酷い有様を、漏れた月光がぼんやりと照らしている。その光景が酷くアンバランスでめまいがした。

    もしかして、魔力の暴走とは、このことを言っていたのだろうか。

    額に嫌な汗が滲む。フィンの中に最悪の仮説が浮かび上がった。それだけは信じたくなくて、必死になんども頭を振る。しかし、どんなに否定しようとしても、お前がやったのだと、目の前の光景はフィンに訴えかけてくる。


    うそ、嘘。だって、まさか。これ、全部、僕が…?
    思わず後ずさると、とん、と背中が何かにぶつかった。
    『フィン』
    後ろからそっと抱きしめられて、杖を握っている両手が、フィンよりも少し大きい、骨ばった手に優しく包み込まれる。顔を見なくても分かる、聞き間違えるはずのない、その声は。
    『兄、さま…』
    どうして、ここに。
    その言葉が口から発されることはなかった。代わりに喉の奥からヒュ、という嫌な音が出る。
    フィンの両手を包む兄の手は傷だらけで、ぽたりと鮮血が滴り落ちていた。それが誰につけられたかなんて、聞かなくてもフィン以外に考えられなかった。
    『…明日も早ぇんだろ。もう寝ろ』
    震えるフィンの指と杖の隙間に入り込むように、レインの指がするりと差し込まれた。そのまま丁寧にゆっくりと、一本ずつ、指が杖から剥がされていく。最後の指が離された時、レインの手によって杖が回収された。


    …あの晩からだったと思う。夜に眠れなくなったのは。目を閉じると、あの時の血がフラッシュバックして、動悸がして飛び起きるようになった。
    もし、もし次、また眠ってしまったら。今度こそ、自分は兄さまを殺すんじゃないだろうか。親しい友人を、この手にかけてしまうんじゃないか。それがフィンにはとても恐ろしかった。それだけは、どうしても避けたかった。


    だからフィンは、全て手放すことにした。完全に壊れてしまう前に。




    「わっ、冷た」
    いつの間にかもう海の中に入っていたらしい。股下まで海面が迫ってきていて、気づけばズボンは海水でほとんど濡れていた。だんだんと、海水に浸されて体が芯の方まで冷えていくのを感じる。
    しかし、フィンは歩みを止めなかった。

    昔、なにかの本で読んだっけ。
    人間の体は海の水からできているらしい。蒸発して、雨になって、川になって、最終的にそれが人間の体に入る。
    もしそれが本当なら、このまま海に沈めば、水に溶けて、巡り巡って兄さまの体の一部になれるんだろうか。それも悪くないかもしれない。
    「…なんて、さすがにロマンチストすぎるかなぁ」
    フィンが思わず苦笑した、その瞬間、

    「…ッフィン!!」

    時が止まった。
    まさか、なんで、どうして。
    真後ろから聞こえてきたのは、確かに、ここにいるはずのない、その人の声だった。

    「っ、にいさっ…?!」
    言い切る前に、前方から横向きに飛んできた大剣の風圧に襲われる。バランスが崩れて後ろに倒れかけた瞬間、自分より一回り大きな肩に受け止められた。そのまま後ろから強い力で抱きしめられる。

    「...間に合った」
    安堵から、兄が胸を撫で下ろしたのが肩越しに伝わってきた。よほど急いで来たのか、フィンを抱くその手は汗ばんでいて、息もところどころで切れかけていた。
    兄の顔を見るのが怖くて、俯いたまま、フィンは振り絞るように声を出す。
    「兄さま...なんで、ここに...」
    「っ...帰ったら...お前が、いないから...」
    その声は、心なしかいつもより震えていた。フィンを抱きしめる腕にいっそう力がこもる。

    「お前、何故…いや、いい。話は後で聞く。…帰るぞ、フィン」
    そう言って、兄は肩を抱いていたその手を下ろしてフィンの片腕を掴む。がっしりと骨ばったその手は、フィンを逃さないよう、強く力を込めてその細い腕を引っ張ったしかし、フィンは兄の手から逃れるように腕をよじって抵抗した。
    「...ごめんなさい、兄さま...離して」
    それは、小さく振り絞るような声だったが、確かに強い意思が込められていた。
    その言葉に、腕に込められた力が一瞬弱められる。今のうちに、と動き出そうとしたのも束の間、次の瞬間、さっきよりも強い力で後ろに引っ張られた。そのまま体制を崩しそうになったところを、今度は真正面から、すっぽりと包み込まれるように抱きしめられる。

    「兄さま、」
    「...嫌だ。離さねぇ」
    大好きな、兄の匂いがフィンの鼻腔をくすぐって肺の中を満たしていく。
    ああ、本当に、叶わないな。離れなきゃって、思ってたのに。顔を見たら、声を聞いたら...こんな風に抱きしめられたら、帰りたくなるって、分かってたのに。だから、わざわざ帰りが遅くなる日を選んだのに。
    「...ダメだよ、兄さま。だって、僕、兄さまのこと...っ」
    「お前は何も気にするな、フィン...全部、オレに任せりゃあいい。」
    レインの手が、優しくフィンの頬に触れた。そのままそっと手を添えられて、表面をそっと撫でられる。

    「フィン...オレは、お前のためなら何だってする。だから...オレを、一人にしないでくれ」

    頬に添えられた手の動きが止まり、兄の双眼がフィンの大きな丸い瞳をじっと見つめた。いつもは鋭いその目が、暖かな色を宿して、心底愛おしいものを見つめるように細められる。
    ... ああ、ダメだ。そんな目で、見つめないで欲しい。自分が愛されていると、兄さまにとっての一番なのだと自覚してしまうから。死にたくないと、思ってしまうから。

    まるで見えない何かに締め付けられているかのように、フィンの喉元がきゅう、と苦しくなる。それでも、と、上手く鳴らない声帯を叱咤し無理やり声を出した。

    「...兄さま、ありがとう...ごめんね、離して...」
    フィンの言葉に、兄の目が大きく見開かれる。その瞳にだんだんと絶望の色が混じっていった。

    自分でも、残酷なことを言っている自覚はあった。頬に添えられた兄の手を取って、両手でそっと包みこむ。
    「兄さま、ね...これが、最後のお願い」
    兄の骨ばった手をそっと撫でる。指の一本一本が太くて力強い、この手にフィンはずっと守られてきた。

    「...それ以外に、ねぇのか」
    絞り出すように、苦々しい顔で語りかけるレインの目をじっと見て、フィンはゆっくりと首を横に振った。

    死なない、という選択肢だけは絶対に無かった。日に日に大きくなる魔力回路の違和感から、もう時間が残されていないことは自分が一番よくわかっていた。もうこれ以外、考えられなかった。

    「...分かった。」
    フィンの答えに、諦めたように、レインが小さくため息を吐く。それからフィンの目を片手で覆って、呪文のような何かを呟いた。途端にフィンの四肢から力が抜けて、強い睡魔に襲われる。
    ああ、これでようやく終われるのだ。もう、大切な人を、兄を、傷つけることはないのだ。
    そう思うとフィンはひどく安心して、その瞼をゆっくりと閉じた。










    追跡魔法をかけておいてよかったと、レインは心の底から安堵した。あと少しで、手遅れになっていたかと思うとゾッとする。
    フィンに何が起こっていたかは理解していた。回路の故障による魔力の暴走ーレインにはそれを全て受け止められる自信があった。そのためにあえて、その話には触れてこなかった。
    だから、弟の考えていたことにも気づかなかった。その不覚に無意識に歯を食いしばる力が強くなる。

    おそらく、フィンは、魔力の暴走を恐れていたのだろう。それならば、魔力を遮断する空間を作って、そこに一生閉じ込めておけばいい。そうして、二度と自死なんてできないように鎖で縛りつけておけば、もうなにも心配する事はない。

    レインは力の抜けた弟の体をそっと抱きかかえ、そのまま岸へと歩き出す。

    ーお前が手放すつもりなら、お前の命も、人生も、全部オレのものにさせてもらう。
    眠る弟の唇に軽く口をつけ、レインは一人、弟と共に、静まり返った暗い海の中を岸に向かってひたすら歩き続けていった。
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