後天性女体化百合　花城と結婚してから幾度も夜を越えたある日、裴将軍に「夜には新鮮味も必要ですよ」と教わった。なるほど、そうすればいつも自分を気遣ってばかりの花城とも上手くやれるのでは。一日中ずっとそわそわしていたことに私の優秀な夫は目敏く気付いたらしく、日の落ちる頃、こんな提案をしてきた。

「今日は趣向を変えてみませんか」

✤

「趣向？」
「うん。例えば、こんなふうに……」

　と言う花城の声が段々と高くなっていく。加えて、緩めていたはずの着物の胸部分がぴんと張りだした。腰周りのほうはこの逆で、いつもぴったり巻き付いていた腰帯が斜めになっていく。
つまり、恐らく……花城は女性の姿になっていた。

「変化の術？ 急にどうして……え！？」

　自分の驚きの声も高くなっていて、さらに驚く。思わず下を向けば、そこには太ももを遮るように柔らかそうな二つの玉があった。
　それを意識した途端、なんとなく肩が重く、そして下半身が“足りない”ような気がしてきた。これまでに謝憐は自分のモノを「使えない」と評してきたし、今になってもほとんど使っていないのだが、だからって完全に無くなってしまうとは思っていなかった。さすがに喉の奥の方から不安がせり上がってきて、目の前で微笑む花城に助けを求める。

「三郎？ これは……大丈夫なの？」

　花城が自分にすることで「大丈夫」でないことなんて一つも無いことはわかっているが、どうしてもこの不安を上手く言い表せなくて間違った表現になってしまった。それを花城は分かってくれているようで、一言「怖がらないで」と言うと、こちらの背中を撫で、そして口付けた。

（あ、柔らかい）

　普段はすぐに唇を割り開こうとしてくるいたずらっ子も、ふわふわとした、綿飴のような感触を楽しむように、触れるだけの口付けを繰り返す。暖かい毛布にくるまっているような気分だった。
　夢見心地のまま目を開けると、先程は気が付かなかったが、彼のまつ毛はいつもより長く先の方でくるんと上を向いている。謝憐は女人の体というものを全く知らないから、この長さが女性として一般的なものかは分からなかった。でも、常人より遥かに美しい花城の女体なのだから、きっとこれは特別なのだろうと思う。
　次第に自分から触れたくなってきて、花城の頬を両手で挟んだ。なるほどここも柔らかい。栄養失調だったらしいのに、ふくふくと可愛らしかった800年前の童のことを思い出して心の奥の何かが刺激される。
　もっと、もっとと思って彼に体を近付けるのに、何故か途中で進めなくなった。いつもはもっと近付けるのに、なんで。そう頭の片隅で考えつつ、甘えん坊の性質が彼に擦り寄るのを止めない。

「……姐姐、ちょっと止まって」

　上擦った彼の声が聞こえる。閨でこんなに早くから彼の声がこうなるのは珍しくて、びっくりして顔を上げた。ついでに明瞭になっていく頭脳が先程の疑問の回答を出してくれる。
　胸が、邪魔だ。

「ごめんなさい姐姐。少し……大きく作りすぎました」
「い、いや……気にしないで」

　先程まで自分が花城に胸を押し付けていたという事実に謝憐は穴にでも埋まりたくなった。花城が生真面目にも謝るので尚更淫らな自分に恥ずかしくなる。
　恥ずかしさに腕を組むと、あの強大なメロンを自ずと寄せ集める形になった。なぜか花城はそこばかりみて黙っている。少しの間気まずい沈黙が流れ、謝憐はさらに焦ってしまった。

「三郎は、その……大きい方が好きなの？」
「姐姐、誤解しないで。せっかく女になるなら無いよりあるほうが良いと思ったのと、……私がいつも揉んでしまうから、きっと大きいだろうと思ったんだ」
「は……っ！？」

　あまりに直接的な言い方に謝憐は真っ赤になる。