寝待月が天頂に差しかかる頃、外から声がかかった。
「沢蕪君、申し訳ございません」
江澄の代わりに政務に従事している師兄の声だった。
藍曦臣は牀榻から下りると、深衣を羽織って外廊に出た。
「なにか急事ですか」
「お休みのところ失礼いたしました。宗主は……」
「お休み中です」
「実は、宗主の異変について手がかりを得まして」
「まことですか」
「門弟をふたり、次の間に連れてまいります」
藍曦臣は急いで室内に戻った。
牀榻の内で、江澄は静かに眠っている。藍曦臣はその頬をそっとなでた。青白い顔だ。早くどうにかしなければならない。
藍曦臣は身なりを整えると、房室を移った。家僕もすでに休んでいる時間である。手ずから明かりをともす。
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