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    tsuyuirium

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    tsuyuirium

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    一緒にお風呂に入って会話してる狂聡
    きょうじさんがセンチメンタルでリリカル気味です。
    ずばりな表現はなくてフレーバー程度だと思われますが、性的な接触を匂わせる意図はありますのでご注意ください。

    内側にあるという豊饒 ぴかぴか、ちかちか。きらきら、つやつや。
     開かれた冷蔵庫の扉から漏れ出す煌々とした光が、全ての電気が落とされた部屋に広がる。それは逆光となり仄暗い空間の中で、たちまちそこに立つ聡実くんのなだらかな背中の線を模るものになった。
     まるで宇宙空間で見る星の誕生のようであり、もしくはともすると、最期のときの超新星爆発のようでもあった。
     暗闇に馴染んでしまって光に慣れないままに細めた目が、内側からじんわりと熱をもつ。起き抜けでまだ少しぼんやりとする頭では、それが生理的な反応からくるものなのか、それとも目に見えたものが心に働きかけた結果のものなのかは判別がつかない。
     美しいかたちをしている。
     容姿や外見的特徴をたとえ好意的な意味であったとしても論うのは昨今ハラスメントにもなりかねないので気をつけなければいけないところではあるが。その状況を差し置いても、誉めそやされて然るべきだと思った。
     終わりを迎えるそのときまで、燃え続けるいのちの光が、きっと人のかたちをしていたならばこうであろうという理想のように思えた。
     冷蔵庫を物色する聡実くんが、漂う冷気にふるりと肩を揺らした。それは汗が冷えたか何も纏わぬ故か。あるいはそのどちらもか。庫内から取り出したミネラルウォーターのペットボトルの蓋を開けて、その中身を勢いよく流し込む。失っただけの分を取り戻すように飲むその水は、そのへんのコンビニに売っているよくある銘柄だった。にも関わらず、この子はなんと豊かに飲み込んでいくのだろう。
     ボトルの中身を三分の一ほど減らしたところで満足したのか、ふっと息を吐いて口を離したその時、こちらを向いた聡実くんと目が合った。悪いことではないと思うが、黙って観察していたことが明るみになってしまった。
     うわ、と漏れた悲鳴に、聡実くんからは自分がどんな風に見えたのだろうかと気になる。表情から察するに良いものではなさそうだった。
    「見えたらいかんやつかと思った」
    「なんでよ。何も着んと、風邪ひくで」
     上着を差し出すとやんわりとした仕草でそれを断られる。かわりに聡実くんからは先ほどまで彼が飲んでいた水を差し出され、何も考えずに受け取ると両手がいっぱいになってしまった。
    「風呂入るわ」
    「うん。行っといで」
     風呂に行くのであればやはり必要になるのではないかと思い、先ほどは拒まれた上着をもう一度差し出すと今度はすんなりと受け取ってくれた。そしてそのまま移動していくと思われた足は何故か己の目の前で立ち止まり、沈黙のままこちらをじっと見つめる聡実くんと向き合う形になる。
    「どしたん」
    「入りませんか? 風呂」

    **

     予想はしていなかったが願ってもみない展開だった。自分が寝落ちていたいつのまに湯を張っていたのか、準備万端と言わんばかりに出来上がった浴室にあれよあれよ手を引かれ、服を剥がされ湯船に押し込められるこの間わずか数分である。向かい側で肩まで湯につかり、力の抜けるような声とともに深く息を吐く聡実くんの呼吸音までもが、狭い浴室内に充満していくようだった。
     一緒に風呂に入るというのもさることながら、湯につかるのも随分と久しい気がした。聡実くんはというと存外長風呂が好きなようで、常日頃から楽しんでいるようなのは知っていた。
     身動きがとれないほどではないにしろ、大人が二人で使うことは想定されていないバスタブはどうにも逃げ場がない。そのことに今になって気がついて、もしかして、とぎくりとした。
     後ろ暗い隠し事は今のところ何もない。問いただされるようなことも、ないはずで。ここできっぱりとない、と断言できないことがすでにもう、そういうことかもしれないが。
     一人想像を膨らませて右往左往している自分をよそに、聡実くんはいつのまにか瞼をおろしてこの心地よい温度を全身で享受し浸っているようだった。からだの中で一番皮膚の薄いところ。人間としての造りは同じであってもあまりにも自分のものとは違う。皺ひとつない瞼のその下を這う血潮が沸き立って、肌を赤く上気させている。頬を伝うのはただの水滴か汗か、どちらにしても、ぽたりと落ちて聡実くんのからだから離れてしまったものは、美しくて物悲しい。
    「こわい夢でも見ましたか」
     普段よりも反響を繰り返した後に耳に届いた言葉は、すぐに意味まで悟ることができなかった。
     いつのまにか開かれていた目が、じっとこちらを見つめている。何も品定めをしようとしない、ただ見ているだけの視線に反省を促されているような気がしてしまう。目尻にかけてゆるやかに転がるように下がる瞼の線は、その印象よりもずっとしなやかで強いことをもうすっかり理解していた。
    「なんか心細そうな顔してたから。今みたいな」
     今みたいな、と言われても自分の顔が見えない今、せいぜい頬に手を当ててその形を確認するしかできなかった。けれど心細い、そう言われて、きっと聡実くんに見えていたものは正しいのだろうと納得する。
     大丈夫ならいいんですけど。と続く言葉に、設定されたこの場が、聡実くんに心配させてしまった故のものだと理解してしまった。
    「こわい夢とはまたちょっとちゃうけど」
     口を開いてしまえば、すっかり聡実くんの作戦勝ちである。きっとこの子はそこまでの意識はしていない。それでも、そもそも何も身につけていない状態で向かい合って、隠すことのほうが難しいと思わせてくれたその手腕に敬意を表したかった。
    「聡実くんが光って見えたから」
     きっとすぐには伝わらない。聡実くんがいつも通りの静かさで、少しだけ小首を傾げてみせるその動作は広がって波となり、やがて対岸にあるこちらに打ち寄せる。
    「生きてるからだって綺麗やねんなあって、眩しくてたまらんくなる」
     うっとりするのは、何故だろう。
     飾り立てた外側。値札がついていて、その枚数分の紙切れだけで手に入れてしまえるようなものには決して持ち得ない感情を、彼のからだに抱いている。
     いつも見るたびに新しく生まれていて、そして生きている。身悶えながら内側で、底なしに溢れるいのちのエネルギーがぶつかり合い、無限にも思えるかがやきが眩しい。そして時折、どこまでも広がる豊かさに包まれて飲み込まれるとき、どうしようもない不安に苛まれてしまう。
     これまでにももう何度も繰り返してきたことで、聡実くんもとっくに気がついている。またその話、と呆れられても仕方ない。分かりやすく不安なんて口にすることができなかったところから、それでも気付かれるほどにはなってしまった。
     後悔ともまた少し性質の違う感情。触れているところから広がる、漠然とした不安。聡実くんの中でうまれる燃えるようなエネルギーを、自分が触れることによって、冷え固めてしまってはいないだろうか。そうして自分と同じ、なんの熱もない冷たいからだに、いつかしてしまうのではないだろうかと思うと、恐ろしくてたまらなくなる。
    「狂児さんて意外と汗かきですよね」
    「え、そうかぁ?」
     想定していた返答のパターンから大きく外れた言葉が飛び出してきたものだから、こちらの声も必要以上に大きくなってしまった。
     水飲み、と浴室内に持ち込まれた先ほどのミネラルウォーターを寄越されて、逆らえずそのまま流れるように給水してしまった。冷えた水が喉を通り、胸の詰まりさえも押し流してくれるようだった。
    「汗かいて一生懸命な狂児さん、好きやねん」
    「……ありがとう?」
     ゆるやかに美しく弧を描く口元と、話が中々見えないその口ぶりに、揶揄いのような含みも感じるけれど嫌なものではなかった。
    「可愛いなあってなんか分かるようになって、最近やっと狂児さんがずっと言ってる、心臓がぎゅっとなる感じとか、眩しくて泣きそうになる感じもちょっと分かる」
     波を最小限に抑えるようにゆっくりと身を乗り出した聡実くんが、浴槽から放り出していたこちらの片腕を絡めとる。手のひらを開かされて、水分を含んですっかりふやけてしまった皮膚の皺を一つ一つ指先で、確認するようになぞっていく。
    「当たり前やけど、僕と狂児さんとやったら全然ちゃうけど、おんなじに思えることもあるんですね」
     ふふ、と小さく漏れた聡実くんの笑い声は水音とともに浴室の中で反響して、こちらの耳に届くころにはすでに大きな幸福のかたちをしていた。
     聡実くんは、本当にすごい。自分よりも薄くて小さなからだの中には、やはり果てのない豊かさが広がっている。その豊かさは分け与えられることこそあれど、それによって尽きることはないらしい。
     ぴかぴか、ちかちか。きらきら、つやつや。形容できる言葉が尽きてしまうくらいに、全て言い表すことができないのが、悔しくて幸せだった。
    「愛やなぁ」
    「そうですよ。愛やで」
     繋がれていた手を引き寄せると、水だけが僅かな抵抗を示すように波を立てた。波をかき分けたその中をすい、と泳ぐようにして聡実くんが腕の中で身を寄せる。自分と同じくらいに茹であがった肌の温度が、重ね合わせた箇所からじわりと広がって飲み込まれていくけれど、そこにはもはや不安は見つからなかった。
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    tsuyuirium

    DONE一緒にお風呂に入って会話してる狂聡
    きょうじさんがセンチメンタルでリリカル気味です。
    ずばりな表現はなくてフレーバー程度だと思われますが、性的な接触を匂わせる意図はありますのでご注意ください。
    内側にあるという豊饒 ぴかぴか、ちかちか。きらきら、つやつや。
     開かれた冷蔵庫の扉から漏れ出す煌々とした光が、全ての電気が落とされた部屋に広がる。それは逆光となり仄暗い空間の中で、たちまちそこに立つ聡実くんのなだらかな背中の線を模るものになった。
     まるで宇宙空間で見る星の誕生のようであり、もしくはともすると、最期のときの超新星爆発のようでもあった。
     暗闇に馴染んでしまって光に慣れないままに細めた目が、内側からじんわりと熱をもつ。起き抜けでまだ少しぼんやりとする頭では、それが生理的な反応からくるものなのか、それとも目に見えたものが心に働きかけた結果のものなのかは判別がつかない。
     美しいかたちをしている。
     容姿や外見的特徴をたとえ好意的な意味であったとしても論うのは昨今ハラスメントにもなりかねないので気をつけなければいけないところではあるが。その状況を差し置いても、誉めそやされて然るべきだと思った。
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    tsuyuirium

    PAST狂児さんの賭けとそんなことはつゆ知らずの聡実くん。
    映画の演出を踏まえた描写がございます。
    大穴ばかり外すギャンブラーに明日はない 今日は振り返るやろうか。慣れた帰り道を少し俯きながら歩く背中に変わったところはなさそうだ。ベッティングまでに残された時間はあと少し。何か見落としていることはないか。可能な限りの情報を集めるために、対象の観察をしばし続ける。
     屋内での部活だからか、日に焼けていない頸がヘッドライトに照らされると幽霊みたいに白いこと。助手席で寝てしまってシートに押し付けられた後ろ髪が癖になってたまにはねていることも、後ろから見送るようになって初めて知った。
     初めて送り届けた日。家を教えられないと健気にも突っぱねながらも可哀想に、車に乗っている時点で無理だと告げたあの日から始まったことだ。
     家を知られたくないなんて面と向かって言った相手にすらも礼を尽くせるこの子の心根が、心配になるほど清らかで美しいのを目の当たりにして、そこにつけ込んだと言う自覚は正直、あった。着いたらラインして。心配やもん。そう言うとあの時の聡実くんはぎょっとした表情で目を丸くしてこちらを見ていた。あの顔を思い出すと今でも愉快な気持ちになれる。
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