Dead Biblion Society「ないやん」
整然と並ぶ本の背表紙を撫でていた指が、目当ての文字を見つけられずに途中で止まる。正確に言うなれば、欲していた巻の次巻が目に入ったところで止まった。念のためもう一度、棚の左端まで視線を戻して確認を繰り返してみたけれど、結果は同じでそこにないものはないということを再認識しただけだった。
ないのであればしょうがない。一冊を読み終えてキリの良いところではあったし、コーヒーでも淹れて一息つくことにする。カプセル式のコーヒーメーカーであれば、聡実くんでもボタンを押すだけでコーヒーが飲めるからと、買ってきた当初に狂児のほうが嬉しそうにしていたことを思い出した。僕でもってなんやねん。腹立つな。
家主よりも客人である僕のほうが訪れることが多い不思議な部屋。とあるマンションの一室を、僕は本を読むために訪れる。壁一面が本棚と化した部屋は、狂児が作り上げたものだ。
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